曼珠沙華の花束を貴方に
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ひとりの女に執着したことがねぇ俺が、なぜこんなにも夢中になっちまったんだか。
……こんな、弱っちくて我儘な女に。
「そうそう。おまんじゅうありがとね、美味しかったよ」
呑気に笑いながら、リコリスは俺の後をついてくる。
「そりゃよーござんしたな。
……ってお前ひとりで食ったのかよ。やっぱ腹減ってたんじゃねーか」
「あ、はは……そーみたい!」
振り返ると、ひくりとリコリスの顔が引きつるのが見えた。
……こいつのことだ、大方 他の奴にも食わしたんだろ。
あと五個あるから特戦隊のみんなに食べてもらおう!……ってな。
正直に言やいいじゃねーかよ、気ィ遣いやがって……
「で、でもさぁ、なんでラディちゃんにデリバリーさせたの?
ターレスさんが持ってきてくれたらよかったのに」
……お前がバーダックと楽しそーにくっちゃべってんのを見たくなかった、なんて言えるか。ガキじゃあるまいし。
「……バーカ、俺様はリコリスに構ってやるほど暇じゃねーんだよ」
「でも助けに来てくれたじゃん」
「……」
めんどくせー奴だなオイ。
そーだね、で片付けとけよ。
「七号がうるせーから仕方なく、だよ!
ったく、どいつもこいつも手間かけさせやがって」
「うんうん、確かにターレスさんってば本当は優しいもんね」
「テメーやっぱ話聞いてねーだろ!」
リコリスはけらけらと楽しそうに笑う。
ちくしょう、こっちは本気じゃねーにしても怒ってるっつーのに……
他の女みてーに機嫌取れよ、マジで調子狂うっての。
「ツンデレだツンデレ、やーいツンデレ王子~」
「うるせーな……そりゃベジータに言ってやれよ」
「べ、ベジータって誰よ!!」
散々聞かされた台詞が漸くリコリスの口から飛び出した。
が、
「……俺にゃ男色の趣味はねーぞ」
「? だからベジータって誰?」
……そうか、こいつはベジータを知らねーのか。
そういやここじゃ見ねーしな。
奴が天国なんざ行かねーだろーし、どーせどっかの星破壊しながらお得意の高笑いカマしてんだろーが……
「ハゲの王子様だよ。
やたらプライド高くてお前みてーにめんどくせー奴だ」
「私みたいに、は余計だから!」
食ってかかるリコリスを片手で制して ふいっとそっぽを向く。
この調子じゃ記憶なんか戻っても戻らなくても関係なさそーだ。
……そうだ、記憶。
「リコリス、記憶は少しは戻ったのか」
「フン、意地悪タレちゃんには教えてあげませーん」
「あんだよ、人がせっかく心配してやってるっつーのによ」
ツンデレとやらはお前もじゃねーのか?
定義はよく知らねーが。
「……ねぇ、ターレスさん。
思い出さない方がいい記憶もあるのかな?」
「おお……どうしたよ、突然」
驚いて思わずのけ反っちまった。
リコリスらしくねーな、急にしおらしくなりやがって。
「私、過去になにがあっても昔のことだって言えるつもりだよ。
でも、たぶん『それ』を知ってる人たちは知らない方がいいって……
だから……」
「だから?」
「……思い出さない方がいひぶっ!?」
無理やり抱き寄せたリコリスは怪音を発した。
けど、そんなことどうでもいい。
「た、ターレスさん……?」
「大切なのは『誰がなにを言ったか』じゃねー、『お前がどうしたいか』だ。
お前が本気で思い出してぇなら、俺も手伝ってやる。
だが……高くつくぜ?」
見上げたリコリスに、にやりと笑って言ってやる。
……ラディッツから、『記憶が戻らんようにセルには近づけるな』。
そう言われたが、そんなこともどうでもいい。
リコリスが本気なら、奴だって利用してやる。
この俺様がそう言ってやってんだ、リコリスの返答はもちろん……
「遠慮します」
「ブッ殺すぞテメー!!」
「もう死んでるもーん!
……いだいいだい! 本当すみませんごめんなさい離してすみません」
まったく力を入れていないヘッドロックを解除してやるとリコリスは、5mほど離れた。
「こっ、このDV男!!」
「家庭内じゃねーからセーフだな。
……そんな離れんなよ、こっち来い」
「……もうしない?」
「しねーから、ほれ」
おいでおいでと手を振ってやると警戒しながらゆっくり近づいてくる。
お前はネコかなにかか。
「お前の過去になにがあったか知らねーが、リコリスがそうやってヘラヘラ笑ってられるなら思い出してもいいんじゃねーか、と俺は思うぜ」
「ヘラヘラってねぇ、」
「まぁ聞けよ。お前の記憶の鍵はセルにある、らしい。
それはリコリスも知ってんだろ?」
「そうそう、だからさっきセルさんに……」
と言いかけたところでハッとしてリコリスは黙り込んだ。
「……なんかされたのか?」
「ちが、違うの! そーじゃなくって、その、なんと言いますか……」
顔を赤らめて慌てふためくリコリス。
その様子……絶対なにかあったんじゃねーかよ。
「言え、何された」
睨みつけると、観念したようにリコリスは俯いた。
「……本当に、なにもされてないよ。
ただ私が、セルさんの目を見て……懐かしいなって……たぶん私は昔、この人を本当に好きだったんだろうなって……思っただけ」
『本当に好きだったんだろうな』と、リコリスは はっきりと口に出した。
その言葉に俺の動いてんのかわかんねー心臓が、どきりと鳴った気がした。
……落ち着け、違うだろ。
リコリスは『昔、好きだったんだろう』そう言ったんだ。
『昔は昔、今は今』だ。
「いいか、リコリス。気持ちを綯交ぜにすんな、昔は昔だ」
「わかってるけど……」
やっぱリコリスをあいつに近づかせる訳にはいかねーな……
その『気持ち』は、思い出されると……俺が、困る。
「……奴なしでも俺が、お前の記憶を取り戻してやる。
だから、」
『好きだった』。それはどうか、そのままでいてくれ。
『だった』、のままで。
「……だから、安心しろ」
……俺様ともあろう者が、そんなこと思っちまうとはな。
しかも口にも出せやしねえ。
本気になった女の前じゃこのザマか。
「ありがと、ターレスさん」
そうだ、お前はそうやってテキトーに笑ってりゃいいんだよ。
「リコリスーーーッ!!!」
「お、来やがったか……」
慌てた様子でガキどもが飛んできた。
七人……全員揃って一体どーしたんだ?
「あれ、みんなどうしたの?」
地面に降り立ったジュニアたちの前にしゃがんでリコリスが声をかける。
全速力で飛んできたのか、全員 息を切らしてご苦労なこった。
「あ、あんまりおそいから……しんぱいで……」
「俺じゃ力不足だってのか?」
「さすがにターレスだって……クウラには、かてないじゃん……」
助け求めにきたくせに失礼な奴だな。
「パパのせめく、おわったから……リコリス、むかえにきたんだ」
「本当? ありがとー!」
そうだった、こいつらはセルのガキどもだったんだ。
なにを今更って感じだが、あいつと違ってまだ可愛げがあるからすっかり忘れてたぜ。
「行こ、リコリス!」
「あー、待て待て」
「?」
奴に会わせる訳にはいかねぇ。
『昔』から『今』に変わっちまったらどうすんだ。
例えこいつらを倒してでも……それだけは阻止しねーと。
……リコリスのためじゃなく、俺のために。
「ターレスさん?」
「お前を行かせる訳にはいかねーな」
「なんで? セルさんに話 聞いてくるだけだよ?」
お前にゃそれ『だけ』なんだろーが、俺にとっちゃ重要なことなんだよ。
「わかった! ターレス、オレたちがリコリスつれてくからさみしいんだっ!」
「しょうがねーなー! オレがあそんでやるよ!」
なんだと、このクソガキども。
「ちげーよ! なんでそうなる!!」
話が変な方向に拗れてきたぜ……!
どーすりゃいいんだ!!
「ふふーん。すなおによろこべよ、ツンデレおーじ」
「だからツンデレ王子はベジータだっての!」
それを聞いて、二号が首を傾げる。
「ベジータって……ソンゴクウのなかまの?」
「なに?」
カカロットの『仲間』、だと?
「あいつ地球にいんのか?」
「? おでこがこーんなにひろーいヤツだよね、ターレス知ってるの?」
こーんなに、と二号は腕を広げる。
そこまでハゲちまったのか、あいつ……
「知ってるもなにも、ベジータは俺の出身惑星の王子だったんだよ。
まさかベジータの奴が……」
昔のあいつしか知らねーが、今思えば戦闘力とプライドだけは大人以上で生え際が危うい……生意気なガキだった、と記憶してる。
エリートだったあのプライドの塊が、下級戦士のカカロットの仲間になっていようとは。
しみじみと昔を思い出していると、ふと気がついた。
リコリスがいねぇ、他のジュニアどももだ!
しまった……!
「ふーん、おもしろいはなしが聞けたなー! ありがと、ターレス!」
「待て、あいつらリコリスをどこに連れてった!?」
「バイバーイ!」
連続弾を撃って二号は行っちまった。
砂煙で姿は見えねーがな……!
「待てコラーーー!!」
ちくしょう、いつかのバーダックみてーに卑怯な真似しやがって!
「……ゲホッ……くそったれ……」
チッ……あんなガキに惑わされるとは俺も落ちたもんだぜ……
いつもみてーな余裕がなくなっちまうのも、周りが見えなくなっちまうのも……なにもかもあいつが悪ィんだ。
……満月みてーな、あのリコリスが。
続く
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