曼珠沙華の花束を貴方に
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その声の主は私たちのすぐ目の前にゆっくりと降下してきた。
……やっぱり、クウラさんだ……!
今日はあの三人はいないみたいだけど……
それでもクウラさんの覇気のせいか、いつになく緊張してる様子の七号。
けれど私の身体が固まるのを見て七号は一歩前へ出た。
さすが『セル』ジュニア、なんて勇敢な子どもなんだろう。
「リコリスをこわがらせるヤツは、ゆるさないもん……!」
……なんて思ってる場合じゃない。
いくら強いといっても、こんな子どもに自分を守らせるわけにはいかない。
「ガキに用はない。消えろ、今回は見逃してやる」
用があるのは、やっぱり私だ。
無関係な七号は巻き込めない。
「七号……えっと、クウラさんは私にお話があるんだって。
ちょっとだけ、またラディちゃんで遊んでてくれる?」
「でもリコリス……」
「いいの、大丈夫だから行って」
少し強い口調で言うと、七号はどこかに飛んで行った。
それでいい。
きっとセルジュニアじゃ束になってもクウラさんには歯が立たない。
「今は貴様の『用心棒』はいないようだ、都合がいい」
冷や汗が出る。
逃げたい。でもすぐ捕まるんだろう。
それに、何をしでかすかわからないこの人こそどうにかしないと、私がここへ来た意味がない。
「……今度こそ、私を殺しにきたの?」
「さあな」
睨みつけてるというのにやっぱり彼は目を合わせない。
一体なにを考えてるんだろう。
まったくわからないから、余計に恐い。
「しかしその様子だと未だ記憶は戻らんようだな。
その、閻魔に消されたという記憶は?」
……え? 『閻魔に消された』?
『稀にある一時的な記憶喪失だろう』
そう言っていた閻魔様が、私の記憶を……?
まさか。
「なんで閻魔様がそんなこと……」
「その方が都合がいいからだ……奴の記憶など、必要ない」
『奴』というのは、セルさんのことだろうか。
必要ない、なんて言われると少しカチンとくる。
「……必要ない記憶なんてないです。
どうしてクウラさんにそんなこと言われなきゃいけないの?」
しっかりと、確かに。
クウラさんは私の目を見つめた。
初めて会ったときから私の能力を見抜いていて……あの、私の目『だけ』には警戒していたクウラさんが。
驚いて私の方が俯いて、目を逸らしてしまう。
「ここ数日……お前の行動はすべて監視していた」
「……」
「お前は能力だけではない魅力を持っている……芯の強さと情の深さだ。
そんな女は今どき珍しい……フリーザがお前に惹かれたのもわかる気がするな」
なにを言われるかと思ったら、まさかの褒め言葉……
クウラさんにしてはちょっと褒めすぎなんじゃない? 調子乗りそう。
……なんて言ったら殺されるかな。
「リコリス、」
初めて彼の口から私の名前を聞いた。
その声にはっと顔を上げる。雪解け水ような、優しい声。
「記憶と引き換えに、『お前らしさ』は失うな。
俺にとってそれは『毒』ではあるが……
……どうやらいつの間にか、俺もその毒にかかっていたようだ」
「……!」
クウラさんが笑った……!
と思ったけど、すぐにいつもの無表情に戻っていた。
……見間違いだったのかな。
「少し喋りすぎたか……まぁいい。
いるのはわかっている、姿を見せろ」
「はっ!!」
「ひえっ!?」
岩陰からあの三人が飛び出してきた。
い、いつからそこに……
「リコリスを連れて行け。
じきにサイヤ人どもか誰かが見つけるだろう」
そう言ってクウラさんは飛んで行ってしまった。
彼は……冷血な人だと思ってたけど意外と人情もある人なのかもしれない。
『記憶と引き換えに、お前らしさは失うな』
……けど、私の失ってしまった記憶はどんなものだったんだろう。
そんな性格まで変わっちゃうくらいの過去だったのかな?
知ってるなら教えてくれたらいいのに。
ぼんやり考え込んでいると、残された三人の『誰が私を運ぶ』か話し合っている声が聞こえてきた。
「マジかよ~……クウラ様の命令でも俺はヤだぜ!」
「俺も嫌だ」
「仕方ねぇな、ジャンケンでもするか」
掛け声のもと激しいジャンケンを繰り広げる三人組。
押し付け合われるのって切ないなぁ……
結局私を運んでくれる人は茶色のヒトになった。
彼は私を小脇に抱えて他の二人の後ろをついていく。
せっかくならイケメンがよかった。なんて。
「まさかクウラ様があんな真似するとは思わなかったぜ、こいつの過去なんか言っちまえばいいのに」
「クウラ様が言うなと仰ったんだ……少し黙ってろ、ネイズ。
お前はお喋りすぎんだからよ」
「ドーレだってお喋りじゃねーかよ。
なぁサウザー、どう思う?」
「どっちも同じだろう」
クウラさんの印象のせいでもっと殺伐とした感じを想像してたけど……
この人たち案外ほのぼのしてるなぁ。
……でも、やっぱりこの人たちも私の記憶の一部を知ってるんだ。
そんなとき、前から猛スピードでターレスさんが近づいてきた。
それに気づいた三人はぴたりと止まる。
彼もまた私たちの目の前でスピードを緩めた。
「おやおや、機甲戦隊の皆様がお揃いで……リコリスをどうするつもりだ?」
飄々とした口調で、珍しく威嚇してみせるターレスさん。
そんな彼に臆することもなく私を抱えていたネイズとやらはため息をついた。
「どうするもこうするもねぇよ、俺らにとってこいつはただの『お荷物』だ。欲しけりゃくれてやる」
そう言ってネイズは私を掴んでた手を離した。
「はい?」
「きっ……貴様ッ!!」
「やだ落ちる!!ターレスさあああああああん!!!」
地獄で丸腰スカイダイビングなんてやだああああ!!!
痛くなくても嫌だ!! 死因も知らないのに!! ジュニアたちの天使の笑顔ももっと見てたいのに!! 地獄の遊園地で遊んでみたかったのに!!
「チョコレートパフェだってまだ食べてないのに!!」
……けど、地面に激突する前にターレスさんが受け止めてくれた。
「鬼! 悪魔!! 極悪人!!!」
「だから地獄にいんだっての」
三人に向かって吠えたのに、私の悲痛な叫びも冷ややかに笑いながら彼らはクウラさんの元へと帰って行った。
「鬼はお前だろーが、しっかり働け」
「いてっ」
私を下ろして頭を小突くターレスさん。
ちょっとだけ痛かったけど、それ以上にターレスさんの優しさが嬉しかった。
「へへ……ありがと、ターレスさん」
「なんだ気持ち悪ィなおい。
礼は七号に言えよ、『リコリスがクウラをいじめる』っつって半ベソで俺んとこ来たんだぜ?」
「えぇ……七号ってば焦りすぎ……」
あのとき七号はターレスさんを呼びに行ったんだ。
てっきりラディちゃんのとこにでも行くもんだと……
「さすがに俺も焦ったぜ……
……あーいや、普段のあいつからは……なんだその、想像できねーから、な!」
「ターレスさんも焦ることあるんだ」
「お前、俺をなんだと思ってんだよ」
せっかく助けてやったのに、とターレスさんは不満そうに腕を組む。
その腕をぽんっと叩いて。
「まぁいいじゃん、行こ!」
「はぁ……まったくマイペースな奴だ」
へらりと笑った私に苦笑して、ターレスさんは歩き出した。
続く