曼珠沙華の花束を貴方に
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『リコリスは誰にも渡さねぇ!!』
確かに奴はそう言った。
今までどんな女にも執着したことがなかったあのターレスが、だ。
リコリスをつかまえたとき、あいつは俺への攻撃を躊躇した。普段なら構わずぶつけてきてやがる。
ためらうなんてこと絶対にありえねぇ。
……それだけこいつに本気なんだろう。
「ねぇ、バーダックさん」
「なんだ」
「……えと、好きな食べ物は?」
人が珍しく思い悩んでるっつーときに、お気楽な質問ぶつけてきやがって……
「酒」
言って気がついたが、酒は食いモンじゃねぇな。
再びリコリス黙り込んだ。
……素っ気なさすぎたか?
「あんだよ、突然」
「いやぁ、その……なんか話さなきゃって思って」
なにか言いたそうに俺を見上げるリコリスの視線には気づいてた。
しかし、俺は気づかないフリを決め込んでいた。
「気ィ遣う必要ねーよ、俺なんかに。
それに、ちっと考えごとしてたんだよ……ターレスについてな」
リコリスの目には不思議な力がある。そしてそれは、なにかに似てると。
ずっとそう思っていた。
「ターレスさんのこと?」
「あぁ。いい奴だろ、あいつ」
ちらりとリコリスの目を見る。
俺らにとって身近で……必要ではあるができる限り避けたい存在。
ターレスといいあの鈍感そうなカカロットといい……惹きつけられてどうしようもねぇようだ。
「さっきのやり取り見てたら嫌味にしか聞こえないんだけど」
「そうか、いつもあんな感じだぜ?」
遠くの方から俺らに近づいてくるラディッツに目を向ける。
「……あいつもな」
「あ、ラディちゃん!」
「はぁ……やっと見つけた……」
大袈裟にため息をついたラディッツは、手に持っていた箱をリコリスに投げて寄越した。
「リコリスに、ターレスからだ」
「わぁ、おまんじゅう……
……そうだ、ターレスさんに食べたいって言ったから!」
おいおい、冗談半分だったんだが……マジでいい奴じゃねぇか、ターレスの奴。
「いい人だねぇ、ターレスさん」
「いい奴が人に使いっ走りさせるか?
ったく、なんで俺がパシられんだよ」
そりゃもちろん、
「ヘタレだからな」
「ラディちゃんだからでしょ」
「親父はともかくリコリスまでなんなんだよ!
せっかく持ってきてやったのに!!」
そういやラディッツもなにかとリコリスを気にかけてたな……
腑抜けだ腰抜けだと思ってたが、案外こいつのこととなったら根性出しやがる。
「あはは、ごめんごめん。
……ありがとね、ラディちゃん!」
「べ、別に……リコリスのためとかじゃねーから!
頼まれたから持ってきてやっただけなんだからな!!」
顔を耳まで真っ赤にしてラディッツは飛んでっちまった。
なにツンデレぶってんだよ、あのチェリーボーイは……
だからヘタレって言われんだよ。
「みんな地獄行きとは思えないほどいい人ばっかだね」
「そうか?そうでもねぇぞ」
リコリスがここに来てからというもの、みんな随分変わっちまったもんだ。
ターレスはもちろんラディッツもそうだ。
それに、ヘドが出るほど忌々しかった……あの野郎まで。
奴が地獄へ送られてきたと聞いたとき、どれほどもう一度殺してやろうと思ったか。
牢獄行きなんざ構わねぇ、地獄に月さえ出てりゃ大猿にでもなって本能に任せて踏み潰してやりてぇと、何度思ったことか。
今のあいつを見てると、とんだ臆病者になっちまってそんな気すら起きねぇ。
良くも悪くもリコリスがあのフリーザの野郎でさえも変えちまったみてぇだ。
……待てよ、大猿だと?
もう一度、リコリスの目を一瞥する。
やっぱり。こいつの瞳は……
「……満月みてぇだ」
「え?」
「だから、あんまり見つめんな」
なんのことかと首を傾げるリコリス。
……わからねぇなら、それでいい。
知らねぇ方がいいことだってあるのさ。
続く