断章にて語る



忘却






帰りたい、帰りたい。

「助けて……カイアス。」

誰も知らない、見たこともない世界に私はいたくない。私はただカイアスと何度生まれ変わってもずっと一緒にいたかっただけなのに……
どうして、女神は私をあの世界から弾いてしまったの？
どうして、私なの？

ユールとして、この身体に目覚めた私は絶望した。生まれてしまったことに、あの時私は再び闇の中へ溶け込み、いつ来るともわからないけれどいつか、彼に会えると信じていたのに。女神は残酷だ

彼のいない世界に何の意味があるというのか？一体、何の使命があるというのか？

まだ、幼い身体で泣き疲れてしまうまで毎日泣いた。誰かが持ってくる食事に手をつけなくなった、誰かが心配しているのも煩わしかった。このまま、死んでしまいたかった。

ある日弱りきった身体でこの世界の未来を見た。
それは、酷い未来だった。人と同じように意思のある動物を魔法で操り、人の憂さ晴らしをするかの様に扱われる光景。
まるでそれは、私達のいる世界のファルシと人の様ー

「何を視ているんだ？神子よ」

「……？」

「最近、女中達が神子の様子が変だというから見に来たのだが……なるほど、辛うじて魔力が身体を支えているか」

また、誰かがきた。のっそりと顔をあげると男がいた、不気味な笑みを浮かべる男。何を言っているのか理解できず、意識が混濁する。

「死に、たい……」

「精神状態も芳しくない、か。」

「こんな未来は、嫌。」

「……神子よ。眠るがいい魔法をかけよう、忘却の魔法を」

「い、や……私は」

私、帰りたい。いや、帰るの彼のいる世界に私の別れた魂達が集まる場所へ………

意識は、途切れた。