忘却本丸
「ああ、大将がどんなやつか、だったな。この戦争における政府の右腕である人物。各国に配置された歴史保全特別大臣の一人。山城国審神者だ」
さにわ。心のなかで繰り返した。
聞き馴染みのない単語だった。たとえば社長だとか知事とかなら知っていようものだが、知識として私のなかに備わっていないのを感じる。
ひょっとして人名なのだろうか?一期一振のように、物の名前であるとか?
「さ、大将に会う前にまず着替えだな。寝巻きの浴衣じゃ大将に会わせるわけにゃいかんからな。寝巻きはここに、ああ、あったあった」
藤四郎が私の様子など露知らず、勝手知ったるという風にどこからか着替えを引きずり出した。
全体的に暗い色に、ところどころ鮮烈な色が差してある軍服であった。
そして一点、無視できない布の塊に気がついた。
「藤四郎くん、私、ネクタイの結び方を知らないような気がします」
藤四郎はぽかんとこちらを見た。
そして、豪快に笑った。
「藤四郎くんだと!その呼び方じゃ後々困るぞ!薬研でいい、いや、悪いこと言わねぇから薬研って呼んどけ」
いまいち言葉の意味が図りかねる。さにわの前ではそう気安く呼べないような雰囲気なのだろうか。
言い終わってもなお笑っている薬研に戸惑いながら、わかったと返した。
薬研にネクタイを結んでもらい、マントをとりつけ、なんとか着替え終わり廊下を歩く。
庭を面した廊下から室内へ。
和風で親しみやすいような雰囲気の、しかし結構な広さの家屋であるようだった。
「かなり広いですね」
「俺たちの任務も長引けば人手はどんどん増えるだろうからな」
人手。先程から何人も男の子を見かけたりすれ違ったりした。あれらはすべて刀剣であり、薬研も刀剣なのだそうだ。
人の姿をとった刀剣のからだの事を、刀剣男士と呼ぶのだそうだ。
ふと、廊下の遠くの方にたすき掛けをした着物の女性が歩いているのが見えた。男子ばかりがすれ違ったので、なんだか珍しいように見えた。
「彼女は?」
「ああ、あれは前線に赴く刀剣じゃない。式神の女中さ。あれと同じ姿の女中が多くて五人くらいに増えて働いているのさ」
確かに、彼女は中身の詰まったかごのようなものを抱えられるだけといった個数を抱えていた。
今は仕事中という訳か。
「しかし、あれは抱えている量が多すぎやしませんか?手伝って差し上げたほうが」
「ああ、あれは見た目より数倍力持ちなんだ。自我ももってないから、例え重くても特別苦痛は感じない。まあ傷を負うと煙になって溶けるから、すれ違う時とかに気を付けてくれりゃいい」
「そ、そうですか」
「ただ見た目で手伝いたくなっちまう。ここのやつらもなかなか慣れない」
遠目の後ろ姿だからわからないが、美しい黒髪を結んでいるので、若い女性の姿なのだろう。
やがて廊下の突き当たりにふすまが現れた。
やけに豪華で、ここにさにわがいるのだとすぐにわかった。
「大将、俺だ。いち兄を連れてきたぜ」
薬研が威勢よくふすまのなかに声をかけた。
あんなに大仰な肩書きと大変な運命を語っておいて、そんなにフランクでいいのかとぎょっとした。
そして返事を待たずに薬研はふすまをすらっと開いた。
「邪魔するぜ」
ずかずかと中に歩を進める薬研に続いて、失礼しますと声をかけ部屋に入りふすまを閉めた。
そこは板張りに絨毯が敷かれていた。和風な家屋とは一線を画し、アンティークな様相をした来賓用を思わせるソファやテーブルがおいてあり、ほんのりコーヒーのにおいをさせ、端のデスクに書類の束をのせていなければ、設置されている蓄音機から今にもジャズが流れてきそうだった。
そしてそのデスクに、その青年はいた。
とても美しい、茶色がかった黒髪の男の子。黒いベスト姿がこのレトロな空間にとてもあっていると思った。
彼は書類から目を離さず、応接スペースを万年筆の反対の先で指した。
まあ、応接スペースといっても、それは部屋のど真ん中なのだが。
「はいはい、そこのソファ座っといて。ちょっと待ってて」
「はいよ。いち兄、座ってくれ」
奥の席を勧められた。
薬研は弟だというし、良いのか。この謎だらけの家屋における自分と薬研の階級は全くもって謎である。
「細かいことはいいからさっさと座ってくれ。俺がつかえてるじゃねぇか」
笑いながらばしばし叩かれ、ぐいぐいと押された。薬研藤四郎、力がえげつないほど強い。
意を決して座る。
そして少ししたあと、デスクの青年のほうは仕事がきりの良いところまでいったのか、ふうと一息ついて、傍らのまったく湯気の気配のないコーヒーカップに口をつけた。カップをソーサーに置くとデスクの上のバインダーと壁に立て掛けてあった赤い鞘の日本刀を手に取り、我々とテーブルを挟んだ向かいのソファの真ん中に腰かける。そして刀を自分の膝のすぐ横に立て掛けた。
日本刀という明らかに殺傷能力が高い武器と、この青年が持つだろう高い地位の放つ威圧感とは裏腹に、青年は緊張感に欠けた口調で私に話しかけた。
「えーっと、一期一振。俺があんたを呼んだ審神者です。新しく俺たちに力を貸してくれるんだよね。呼び掛けに応じてくれた時点で協力してくれるんだなっていうのはわかるんだけど、一応この紙に血判して契約だから」
さにわはテーブルに横向きにバインダーを置き、ずい、とこちらに滑らせた。
バインダーに挟まれた紙には何やら縦書きの筆文字が見える。
しかしあまりに性急な展開に困惑してしまい、それどころじゃなかった。
薬研が、あー、となんとも言えない声をあげた。
「あー、それなんだけどな、大将。ちょっと待ってくれ。この人にはもうちょっと説明が必要なんだ」
「えっ?どういうこと?」
「人間の呼び掛けに答えた記憶はおろか、刀の時分の記憶もまるっと無いんだよ。燃えたりして記憶が抜けてるとかじゃなく、そもそも自分が刀だってのも半信半疑なんだ」
「えー?なにそれ?」
こんどはさにわが困惑する番だった。
うーん、と眉根を寄せたり、どうしようかな、と呟いたりせわしなかった。
しかし私の方も、微妙な疑問があった。
「え?記憶がないから、私の処遇を決めるためにここにつれてこられたのでは?」
「え?」
「え?彼は私の弟で、私はここに住んでいるのでは?」
ぽかんと薬研が私を見る。
彼が私の弟で、この家屋がすみかならば、私にその記憶がなくてもここに住んでいなくてはおかしいのだ。
「あ、いや、いち兄はここへは初めて来たんだ。俺たちの仲間が、人の肉体を得たあんたをここにつれてきたんだよ」
「どういうことですか?」
「あんたの肉体は審神者の呼び掛けによって現世に召喚されたんだ、それを迎えに行ったのが昨日だな」
なんとなく納得のいかない顔をしていると、さにわがなるほどね、と呟いた。
「まあとりあえず、契約してもらわない事にはなんともできないよ。血判してもらって、はじめて安全な存在なわけだから。あちゃー、どっちがやらかしたんだろ」
「あの、判をしたら、私は戦争に参加することになるんでしょうか」
「まあ、なるよ。なるけど、うーん。記憶ないってどんな感じ?戦える?」
押し黙った。戦える、なんて漠然とした質問に答えられない。
どのように戦うのかにもよるが、先程薬研は戦争だと言った。それに自分が参加するのだ。できることなら参加したくないと思った。
しかし何となくそれを直接的に言いづらくて、返答になってない事を言う。
「人を殺すのですか」
さにわが私の目を見た。
睨むでもなく探るでもなく、彼の目線の先に私の目があるだけ。
「殺さない。壊すんだよ。敵の刀を破壊するだけ」
物を壊すだけ。ゴミ処理場が頭をよぎった。
だが、戦える?とさにわは最初に訊いた。戦うのだ。そして、壊す。
「相手も刀なのですね」
「直接戦う相手は刀に由来する化け物。人を殺したりとかはないよ」
「化け物ですか」
ははは、と乾いた笑いをした。そんなものが本当に存在したなら恐ろしいと思った。そんなものを討伐しなくてはならない仕事なんてやりたくない。
「んー、先にいち兄にはどうしてこのせん、えー、歴史保全活動をしてるか説明しなくちゃいけねぇな。訳もわからず契約とはいかん、後でも先でも説明しなくちゃならんなら、先がいいだろうし」
「そうねー」
軽い調子で二人がいう。一般企業の仕事の引き継ぎでももう少ししまっているのではないだろうか。
「俺たちが戦ってるのは、日本の歴史のため。時間をさかのぼる術の存在する世では、それを悪用する者達が日本の歴史をめちゃめちゃにしようと日夜テロ活動にいそしんでるんだよね」
「まあ、時間をさかのぼる術ってのは本来そのテロリストである歴史修正主義者の教祖的人物がテロ目的で開発したもんだから、厳密に言うと悪用ではないんだがな。悪い方に使ってるってのは確かだが。むしろ、考え方によっては、悪用しているのは俺らの」
「薬研うるさい」
「すまん」
「そんな訳で、そのテロリストの主犯格である歴史修正主義者達が持ってる刀の軍隊が日本の歴史上の出来事へと送り込まれていくわけ。この軍隊が時間遡行軍って言うの。こいつらと過去でバッティングして、現地で破壊する。これが俺たちの仕事」
「歴史修正主義者達は主義や理念がバラバラの個人及び団体だ。だがみな一様に時間遡行軍という刀の軍隊を持っている。これも時間をさかのぼる術のように奴らが編み出した術という訳だな。俺たちの軍隊も似たようなものだ。ただ敵と違うのは、審神者は名刀や神格の高い刀を目覚めさせ、敵よりも数段高い戦力を得ているってところか。なぁ一期一振よ」
親しみを込めない名称で、薬研は呼んだ。
視線を向けてはいないが、いや、なんとなく向けることができなかった。隣にいる気配がざわめき恐ろしくなる。
「あんたは昨晩、見たはずだ。どこから連れてこられたのかわからないあわれな刀の化け物を」
さにわ。心のなかで繰り返した。
聞き馴染みのない単語だった。たとえば社長だとか知事とかなら知っていようものだが、知識として私のなかに備わっていないのを感じる。
ひょっとして人名なのだろうか?一期一振のように、物の名前であるとか?
「さ、大将に会う前にまず着替えだな。寝巻きの浴衣じゃ大将に会わせるわけにゃいかんからな。寝巻きはここに、ああ、あったあった」
藤四郎が私の様子など露知らず、勝手知ったるという風にどこからか着替えを引きずり出した。
全体的に暗い色に、ところどころ鮮烈な色が差してある軍服であった。
そして一点、無視できない布の塊に気がついた。
「藤四郎くん、私、ネクタイの結び方を知らないような気がします」
藤四郎はぽかんとこちらを見た。
そして、豪快に笑った。
「藤四郎くんだと!その呼び方じゃ後々困るぞ!薬研でいい、いや、悪いこと言わねぇから薬研って呼んどけ」
いまいち言葉の意味が図りかねる。さにわの前ではそう気安く呼べないような雰囲気なのだろうか。
言い終わってもなお笑っている薬研に戸惑いながら、わかったと返した。
薬研にネクタイを結んでもらい、マントをとりつけ、なんとか着替え終わり廊下を歩く。
庭を面した廊下から室内へ。
和風で親しみやすいような雰囲気の、しかし結構な広さの家屋であるようだった。
「かなり広いですね」
「俺たちの任務も長引けば人手はどんどん増えるだろうからな」
人手。先程から何人も男の子を見かけたりすれ違ったりした。あれらはすべて刀剣であり、薬研も刀剣なのだそうだ。
人の姿をとった刀剣のからだの事を、刀剣男士と呼ぶのだそうだ。
ふと、廊下の遠くの方にたすき掛けをした着物の女性が歩いているのが見えた。男子ばかりがすれ違ったので、なんだか珍しいように見えた。
「彼女は?」
「ああ、あれは前線に赴く刀剣じゃない。式神の女中さ。あれと同じ姿の女中が多くて五人くらいに増えて働いているのさ」
確かに、彼女は中身の詰まったかごのようなものを抱えられるだけといった個数を抱えていた。
今は仕事中という訳か。
「しかし、あれは抱えている量が多すぎやしませんか?手伝って差し上げたほうが」
「ああ、あれは見た目より数倍力持ちなんだ。自我ももってないから、例え重くても特別苦痛は感じない。まあ傷を負うと煙になって溶けるから、すれ違う時とかに気を付けてくれりゃいい」
「そ、そうですか」
「ただ見た目で手伝いたくなっちまう。ここのやつらもなかなか慣れない」
遠目の後ろ姿だからわからないが、美しい黒髪を結んでいるので、若い女性の姿なのだろう。
やがて廊下の突き当たりにふすまが現れた。
やけに豪華で、ここにさにわがいるのだとすぐにわかった。
「大将、俺だ。いち兄を連れてきたぜ」
薬研が威勢よくふすまのなかに声をかけた。
あんなに大仰な肩書きと大変な運命を語っておいて、そんなにフランクでいいのかとぎょっとした。
そして返事を待たずに薬研はふすまをすらっと開いた。
「邪魔するぜ」
ずかずかと中に歩を進める薬研に続いて、失礼しますと声をかけ部屋に入りふすまを閉めた。
そこは板張りに絨毯が敷かれていた。和風な家屋とは一線を画し、アンティークな様相をした来賓用を思わせるソファやテーブルがおいてあり、ほんのりコーヒーのにおいをさせ、端のデスクに書類の束をのせていなければ、設置されている蓄音機から今にもジャズが流れてきそうだった。
そしてそのデスクに、その青年はいた。
とても美しい、茶色がかった黒髪の男の子。黒いベスト姿がこのレトロな空間にとてもあっていると思った。
彼は書類から目を離さず、応接スペースを万年筆の反対の先で指した。
まあ、応接スペースといっても、それは部屋のど真ん中なのだが。
「はいはい、そこのソファ座っといて。ちょっと待ってて」
「はいよ。いち兄、座ってくれ」
奥の席を勧められた。
薬研は弟だというし、良いのか。この謎だらけの家屋における自分と薬研の階級は全くもって謎である。
「細かいことはいいからさっさと座ってくれ。俺がつかえてるじゃねぇか」
笑いながらばしばし叩かれ、ぐいぐいと押された。薬研藤四郎、力がえげつないほど強い。
意を決して座る。
そして少ししたあと、デスクの青年のほうは仕事がきりの良いところまでいったのか、ふうと一息ついて、傍らのまったく湯気の気配のないコーヒーカップに口をつけた。カップをソーサーに置くとデスクの上のバインダーと壁に立て掛けてあった赤い鞘の日本刀を手に取り、我々とテーブルを挟んだ向かいのソファの真ん中に腰かける。そして刀を自分の膝のすぐ横に立て掛けた。
日本刀という明らかに殺傷能力が高い武器と、この青年が持つだろう高い地位の放つ威圧感とは裏腹に、青年は緊張感に欠けた口調で私に話しかけた。
「えーっと、一期一振。俺があんたを呼んだ審神者です。新しく俺たちに力を貸してくれるんだよね。呼び掛けに応じてくれた時点で協力してくれるんだなっていうのはわかるんだけど、一応この紙に血判して契約だから」
さにわはテーブルに横向きにバインダーを置き、ずい、とこちらに滑らせた。
バインダーに挟まれた紙には何やら縦書きの筆文字が見える。
しかしあまりに性急な展開に困惑してしまい、それどころじゃなかった。
薬研が、あー、となんとも言えない声をあげた。
「あー、それなんだけどな、大将。ちょっと待ってくれ。この人にはもうちょっと説明が必要なんだ」
「えっ?どういうこと?」
「人間の呼び掛けに答えた記憶はおろか、刀の時分の記憶もまるっと無いんだよ。燃えたりして記憶が抜けてるとかじゃなく、そもそも自分が刀だってのも半信半疑なんだ」
「えー?なにそれ?」
こんどはさにわが困惑する番だった。
うーん、と眉根を寄せたり、どうしようかな、と呟いたりせわしなかった。
しかし私の方も、微妙な疑問があった。
「え?記憶がないから、私の処遇を決めるためにここにつれてこられたのでは?」
「え?」
「え?彼は私の弟で、私はここに住んでいるのでは?」
ぽかんと薬研が私を見る。
彼が私の弟で、この家屋がすみかならば、私にその記憶がなくてもここに住んでいなくてはおかしいのだ。
「あ、いや、いち兄はここへは初めて来たんだ。俺たちの仲間が、人の肉体を得たあんたをここにつれてきたんだよ」
「どういうことですか?」
「あんたの肉体は審神者の呼び掛けによって現世に召喚されたんだ、それを迎えに行ったのが昨日だな」
なんとなく納得のいかない顔をしていると、さにわがなるほどね、と呟いた。
「まあとりあえず、契約してもらわない事にはなんともできないよ。血判してもらって、はじめて安全な存在なわけだから。あちゃー、どっちがやらかしたんだろ」
「あの、判をしたら、私は戦争に参加することになるんでしょうか」
「まあ、なるよ。なるけど、うーん。記憶ないってどんな感じ?戦える?」
押し黙った。戦える、なんて漠然とした質問に答えられない。
どのように戦うのかにもよるが、先程薬研は戦争だと言った。それに自分が参加するのだ。できることなら参加したくないと思った。
しかし何となくそれを直接的に言いづらくて、返答になってない事を言う。
「人を殺すのですか」
さにわが私の目を見た。
睨むでもなく探るでもなく、彼の目線の先に私の目があるだけ。
「殺さない。壊すんだよ。敵の刀を破壊するだけ」
物を壊すだけ。ゴミ処理場が頭をよぎった。
だが、戦える?とさにわは最初に訊いた。戦うのだ。そして、壊す。
「相手も刀なのですね」
「直接戦う相手は刀に由来する化け物。人を殺したりとかはないよ」
「化け物ですか」
ははは、と乾いた笑いをした。そんなものが本当に存在したなら恐ろしいと思った。そんなものを討伐しなくてはならない仕事なんてやりたくない。
「んー、先にいち兄にはどうしてこのせん、えー、歴史保全活動をしてるか説明しなくちゃいけねぇな。訳もわからず契約とはいかん、後でも先でも説明しなくちゃならんなら、先がいいだろうし」
「そうねー」
軽い調子で二人がいう。一般企業の仕事の引き継ぎでももう少ししまっているのではないだろうか。
「俺たちが戦ってるのは、日本の歴史のため。時間をさかのぼる術の存在する世では、それを悪用する者達が日本の歴史をめちゃめちゃにしようと日夜テロ活動にいそしんでるんだよね」
「まあ、時間をさかのぼる術ってのは本来そのテロリストである歴史修正主義者の教祖的人物がテロ目的で開発したもんだから、厳密に言うと悪用ではないんだがな。悪い方に使ってるってのは確かだが。むしろ、考え方によっては、悪用しているのは俺らの」
「薬研うるさい」
「すまん」
「そんな訳で、そのテロリストの主犯格である歴史修正主義者達が持ってる刀の軍隊が日本の歴史上の出来事へと送り込まれていくわけ。この軍隊が時間遡行軍って言うの。こいつらと過去でバッティングして、現地で破壊する。これが俺たちの仕事」
「歴史修正主義者達は主義や理念がバラバラの個人及び団体だ。だがみな一様に時間遡行軍という刀の軍隊を持っている。これも時間をさかのぼる術のように奴らが編み出した術という訳だな。俺たちの軍隊も似たようなものだ。ただ敵と違うのは、審神者は名刀や神格の高い刀を目覚めさせ、敵よりも数段高い戦力を得ているってところか。なぁ一期一振よ」
親しみを込めない名称で、薬研は呼んだ。
視線を向けてはいないが、いや、なんとなく向けることができなかった。隣にいる気配がざわめき恐ろしくなる。
「あんたは昨晩、見たはずだ。どこから連れてこられたのかわからないあわれな刀の化け物を」