休日こそ外へ
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ぺらっ、と雑誌を捲ると推しのグラドルが白い砂浜で水色ミニワンピ姿で微笑んでいた。可愛い過ぎて天使かと思ったわ。
「人のベッドで何ニヤニヤしてるんだ?」
声のする方を見れば少し顔を顰めた傑が首にタオルを掛けて現れた。同時に風呂から出たのに髪を乾かすのに何分ドライヤー使ってんだ?てか、下ろした髪が暑苦しく見える。
「なんだ、グラビアか」
「最新号出ててさー、みんなレベル高ぇの」
「へー」
興味無さそうに冷蔵庫から銀色の缶を取り出した傑はプシュッと良い音を立ててからそれを口にし始める。それは俺等みたいな学生が飲んで良い物ではない事は俺でも知っていた。不良め。
「うちの女子もこんくらいのレベルだったらなぁ」
「それは二人に失礼だろ」
「硝子は結構胸あるけどさ、朔耶は貧しいよな」
ランニングや組手の時なんて揺れもしない、と付け加えれば傑は顔を引き攣らせていた。ひくなよ。健全な男子高校生なんだから仕方なくね。
それから、何日か経った日の朝。
「傑!出かけよー」
ベッドで俯せ寝する傑に向けて声を掛けるが物凄く嫌そうな顔をされた。なんでそんな顔すんの?
「悟。私が任務から帰って来た時間知ってるかい?」
「知らなーい」
高速で事故による大渋滞に巻き込まれた挙げ句、下道でも渋滞に嵌って帰って来たのが夜中だったなんて知らなーい。兎に角、今日はテレビで紹介されていたパフェを食べに行きたい。糖分を摂取したい。
「出かけよーぜ!」
「1人で行ってきな。私は寝るから」
「は?なんでなんで?今日休みなのに!?」
「休みだからだろ!」
寝させてくれ!と、珍しく声を張るもんだから吃驚した。
オールでゲームはするくせに寝るのに忙しい、てなんだよ。でも、傑は甘いもんあんまり食べないからパフェ誘ってもつまんないか。でも、1人で行っても・・・と、色々と考えながら支度を済ませて男子寮の玄関を出て道路に向かって歩いていたところで「悟?」と後ろから声を掛けられた。
「おっ!朔耶じゃん。何処行くんだ?」
「買い物」
細身のデニムに白Tというシンプルな装いが朔耶らしい。休日ということもあってか髪型はポニーテールではなくハーフアップで耳には銀色のフックタイプのピアスが歩く度にゆらゆらと揺れている。けれども、胸元はやはり揺れもしない。
「硝子は一緒じゃねーの?」
「硝子は先輩の任務に同行。悟こそ今日は傑と一緒じゃないんだね」
「あいつ、昨日帰って来たの遅くて今日は寝るのに忙しいんだと」
「そうなんだ。悟も買い物?」
「まぁ・・・」
此処で俺はあることを思い出す。
「なあ?」
「ん?」
「お前、甘いもん好きだよな」
***
「お待たせ致しました。季節のフルーツパフェです」
テーブルに運ばれて来た旬のメロンをふんだんに使用したパフェが俺と朔耶の前に置かれる。天井の照明に照らされ果肉が瑞々しく光っていてテレビで見た以上に美味そうだった。正面に座る朔耶がカシャッとパフェの写真を撮ったので俺も撮っておく。けど、パフェだけ撮ってもつまらないから、朔耶に何枚か写真を撮ってもらった。そう言えば、任務以外で朔耶と二人きりで出かけるのは始めてだ。
「一緒に撮ろ」
「うん」
朔耶側が丁度壁だったのでそちらへと移動して二人でピースして撮る。出来を確かめた後、朔耶に写メして送っておき、ついでに傑に俺のキメ顔のを送っておいた。
「うめぇー。今まで食ったパフェん中で1番美味い」
「凄く美味しいね。メロンいっぱいで贅沢」
果肉入れ過ぎじゃね?と思うくらいメロンが盛られていて、この店の経営状況が気になった。
隣の席の若い女4人組も同じパフェを頼み、ぺらぺら喋りながら食べていて時折、此方に視線を向けて来るので視界に入れないようにする。こういった視線には慣れているからどうってことはない。ただ、気になるのはクリームやアイスを掬う度にガラス容器をカチャカチャと鳴らして食べていることが不快だった。
「食べ方綺麗だな」
「そう?」
女4人と対象的に目の前の朔耶は咀嚼しながら喋らないし、スプーンに掬う量だって口に合った適量で、雑音も立てずに静かに食べている。早々に食べ終わってしまった俺はテーブルに頬杖をついて朔耶が食べ終わるのを待つ。
「やっぱそういうの習うの?」
「うん。食事のマナーも礼儀作法もみっちり教えられた」
朔耶は丸くカットされた果肉をクリームの中から掬い出し、口へとそれを運ぶ。
「縁談もあったりする?」
「あるよ」
表情を崩すことなく朔耶は静かに答えた。その答えに驚くことはなかったし、術師家系の人間であれば不思議な話しでもない。
「じゃあ、婚約者いるのか?」
「今のところはいない。悟は婚約者いる?」
「いない。この歳で結婚なんて考えられねぇし。今時、見合いや政略結婚だとか時代に合ってねーよな」
「本当にね。今は平成なのに何時代か分かってないんじゃない?」
「だよなー」
朔耶はクリームの中から掬い出された最後のメロンを頬張った。呪術界の愚痴を言える相手がいることが俺の中ではとても貴重に思えた。
パフェを完食し紙ナプキンを口元へ当てた後、朔耶は席を立って化粧室へと入っていった。徐ろに携帯を開くと傑からメールの返信がきていて開くと写メに対して「誰かと一緒?」と尋ねられた。朔耶と一緒にいることを伝えても構わないけれど、此処は敢えて「ナ・イ・ショ♡」にしておく。
化粧室から朔耶が戻った後、カードで支払いを済ませ店を出た。パフェと店内の冷房のお陰で涼めたが、30度を超える気温の中はやはり暑い。
「お前、買い物するて言ってたけど何買うの?」
「日焼け止めとヘアオイル。帰りにドラッグストア寄るつもり」
「この辺でも売ってんだろう?暑いから店入ろ」
まだ歩き出したばかり、と朔耶は言うが暑いものは暑い。だから、真夏の陽射しから逃れるように駅ビル内にある日用雑貨店へと入った。目的の日焼け止めはシーズン品ということもあってか種類豊富に陳列されていたが、朔耶は迷うことなく一つの商品を手にする。どうやら今使っているものと同じものらしい。しかし、ヘアオイルのコーナーでは朔耶は足を止めて吟味を始めた。沢山の種類の中からテスターと記載されたオレンジ色のボトルを取ると少量を右側の毛先に付けているのをながめていたら途轍もなく良い香りがしてくる。朔耶はその商品を気に入ったらしく、テスターの後ろにある箱を手に取った。
「コレ、男にも使える?」
「使えると思うけど、悟もいるの?」
「俺じゃなくて傑に必要だな。あいつの髪パサパサだからさ、コレ付けたら艶々になりそう」
棚から朔耶が選んだものと同じ箱を手にし、二人でレジへと向かう。
「どうして同じやつなの?」
「傑が要らね、て言ったら朔耶にあげれるじゃん」
「貰っていいの?」
「俺、使わねーし」
傑に土産てことで購入し朔耶が会計を済ませるのを待つ。店に入って来た時から思ったが、化粧品コーナーには同年代と思しき女たちが試供品を手の甲に付けたり、ワイワイと友人同士で吟味する姿が沢山あった。
「どうかした?」
「化粧品コーナーに女共が群がってんなーと思ってさ。朔耶は化粧とか興味ない?」
普段から硝子とは違い朔耶は化粧をしていない。まぁ、素顔のままでも充分なクオリティだけど。もう少し華やかさがあっても良いのではないかと感じていたし、女は化粧をするものだと言う認識が自分の中では強かった。横に立つ朔耶が少し眉尻を下げたのを見て、俺は少し戸惑った。
「ひょっとして化粧に良い思い出ない?」
「うん。縁談の度、否応なしにされてたから。暫くは化粧も上等な着物も勘弁、て感じ」
そういうことか。
各家にもよるが、術師家系に生まれた女の将来はほぼほぼ決まっている。家の為に嫁いで跡継ぎとなる子を成せ、とか本当に何時代の話だ。おそらく、朔耶だって家の連中に将来を口出しされている筈だ。それでも、高専に通えているということは如月家はまともな方なのかもしれない。こいつも苦労してんだな。
「なあ、昼飯なに食う?朔耶の好きなものにしよ」
「え、さっきパフェ食べたのに、もうお昼?」
「甘いもんは別腹だろ」
「・・・使い方が違う気がする」
え、何?その変な物見るような目は。
店を出てから二人で街中をぶらぶらし、雑貨屋、服屋、ファミレス、ゲーセンに寄っていたら何時の間にか夕方になっていた。その殆どの時間をゲーセンに費やしていたけど。初心者な朔耶にゲームさせたら雑魚過ぎて笑いまくった。そしたら見たことないくらい不機嫌になったから、クレーンゲームで◯カチュウの人形を取ってやった。◯ケモンは知ってんのな。
今度、原宿のクレープ食べに行こうと約束をして寮の前で別れた。男子寮の傑の部屋へと直行し、ノックしてすぐにドアを開ける。「ただいま」と挨拶したのに傑は不快な顔をして此方を見ていて、机には開封されたアイスがあった。チッ。空か。
「返事してないのに開けるなよ悟」
「いいなー、アイス」
「メロンのパフェ食べて来たんだろ」
仰る通り、俺はそんなコンビニアイスよりも遥かに美味いパフェを食べて来たよ。
「しっかり寝れたのかよ」
「たっぷり寝たさ」
「ふーん。これ、傑に土産買ってきた」
「何?洗い流さないトリートメント?」
「お前の髪パッサパサだからコレ使えばツヤッ艶になるぜ」
俺て友達思いだな、なんて自画自賛していたが傑は下ろしっぱなしの自身の髪を摘んで見ながら顔を歪めていた。
「・・・私の髪はパサついてる様に見えるのか」
「いいから使ってみろよ。匂いも良いし、人気モデルも使ってるらしいから!」
「悟、詳しいな」
「朔耶が言ってた」
ぴたりと動きを止めた傑が俺を見つめてくる。しまった。内緒にしようと思ってたのに朔耶の名前出しちった。結局、朔耶と一緒に居たことがバレて何故か今日1日の動向を根掘り葉掘り言わされた。
翌日、教室で硝子が傑の髪に艶があることに驚いていたけれど、俺が朔耶と同じヘアオイルをあげたことを伝えたら何でか睨まれた。
なんで?
(2023.12.10)