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太平洋を望める廃ホテルでの任務にあたっていた俺と傑。
肝試しスポットと化していたそこには1級クラスの呪霊が巣食っていると推定されていた。しかし、実際に足を踏み入れてみれば過去に遭遇したどの呪霊よりも厄介で、たぶん特級相当だったと思う。
「さっきのアレ、取り込んだのか?」
「ああ。悟と一緒だと上級呪霊が手に入りやすくて助かる」
「俺の無下限とお前の呪霊操術にかかれば、どんな呪霊が現れても大したことねーよ。俺たち、最強だから」
俺がニィッと口角を上げれば傑も同じ様に口角を上げて笑った。
生まれて初めての親友で、俺の背を唯一預けて戦える信頼出来る存在。階級が上がってからはあまり任務で組ませてはもらえないけど傑と一緒なら向かうところ敵なしだ。
*
「おかえりー」
任務後、グラウンド近くを通り掛かると珍しく運動着を着た硝子が俺たちにヒラヒラと手を振った。
「お疲れ様です!」
硝子の隣に座っていた灰原は快活に労いの言葉を掛けてくれたが、装いは芝生と土で汚れまくっている。原因は紛う事なく、七海と組手をしている朔耶の所為だ。最初の頃より動きが良くなってはいるが七海の攻撃は朔耶によって全て受け流されている。
朔耶は強くなった。入学した時からセンスはあったけれど、ここ最近は呪力のコントロールがより一層向上している。昇級のきっかけとなったあの誘拐事件から式神の強化法を取得し、遠距離での操作も可能になっていた。ただ、刀を一本ダメにしたと物凄くしょげていて、それからというもの高専内にある武道場を模した建物に籠もることが圧倒的に増えた。ストイック過ぎやしないかと思うくらい稽古に励んでいてもはや武人の域だ。
そんな朔耶の稽古場によく顔を出しているのが、傑だ。朔耶と同様に近接が得意なだけあって二人で組手をしているのをよく見る。圧倒的な手数が武器の呪霊操術を使うのだから近接に力を入れなくても、とは思う。使役呪霊を何体でも遠隔で操作出来て術式範囲も広い。取り入れた低級の呪霊であっても傑の呪力で強化が出来てしまうし、俺の背を預けられるだけあって、やっぱ傑も強いな。
「今日も朔耶、キレッキレな」
「あんなに華奢なのに本当に凄いよ」
「俺と傑、二人で最強だけど、朔耶を入れたらもっと強いな。・・・待てよ。硝子を入れたら更に強いな」
硝子の反転術式は日に日に精度が上がっていて、傷を治すスピードも速くなっていた。医療に関する知識も勉強してて、いつも気怠げそうにしているが意外と勤勉なところがある。
「最強の上・・・無敵?」
「いいね、俺たち四人は無敵!」
俺は「無敵、無敵」と傑とガキみたいに笑い合っていると硝子が呆れた様な顔をして見てきた。
「なーに盛り上がってんの?」
「私たち2年は“無敵”だ、て話」
「は?私もそのメンバーに入ってる?」
「当然。硝子の反転術式は欠かせないじゃん!」
「ははっ!“無敵”て言い方はガキっぽいけど、結構面白いかもねー」
ケラケラと馬鹿にしたように硝子は笑っているけど、何だか楽しそうだ。
「そう言えば、硝子は何してたんだい?」
「わたし?朔耶とランニングしてた。そしたら途中からこの子らが来てさ」
「僕ら自習になったんで合流させて頂きました」
「えー、いっつも医務室か研究室に籠もってる硝子がランニングなんて珍しー」
「別にいいじゃん。私だって籠もってばかりじゃなくて体動かしたいの」
(太った?)
(ダイエットかな?)
「クズ共。今、失礼なこと思ったろ?」
「「いいえ。滅相もない」」
硝子の目が恐いから傑と一緒に目を逸しておく。丁度、七海との組手が済んだ朔耶が全く疲労を感じさせない顔をしてコッチに歩いて来るのが見えた。相変わらず息さえ乱していない。一方、七海は膝に手を着いてヘバっている。
「おかえり」
「「ただいま」」
「帰って来るの早いね」
硝子から手渡された水を一口飲んだ朔耶はその場でストレッチを始める。
「悟と一緒だったからね」
「楽勝だった」
朔耶と硝子にピースすると笑われた。あっという間で楽勝だったのは事実なのに。お疲れ様です、と漸くやって来た七海は俺と傑に会釈し、灰原の横へ腰を下ろし息をつく。
「七海もお疲れ。前よりも随分動きが良くなったじゃないか。ただ、少し体の軸がブレやすいから体幹を鍛えると更に良くなると思うよ。それから、」
突然、傑が七海を労い褒め始めたかと思えばアドバイスまで始めた。七海は傑の方を見てしっかりと耳を傾けて時折、頷いて見せる。傑を普段から慕っている灰原までも傑の方を真剣に見ていて溜息を吐きたくなった。
「灰原はもっと思いっきり打ってきていいんだよ。勢いを途中で殺してしまってるから勿体ない」
「いや、でも・・・」
「大丈夫だよ、灰原。朔耶は私や悟が相手でも上手に躱すから」
「次の機会があれば遠慮しないで」
「わかりました」
頑張ります、と灰原は清々しいくらいの返事をするが、此処でもまた溜息を吐きたくなる。傑も朔耶も、何故こうも後輩に手を焼くのか俺には謎だ。
「お前ら1年のこと構い過ぎじゃない?」
教室に戻ってから傑と朔耶に疑問を投げ掛けると二人してきょとんとした顔で俺を見てきた。傑に、後進の育成をすることは大事だ、と諭されたがピンとこない。後輩を育てるよりもまずは自分たちがより強くなることの方が先決だと思うからだ。
「俺たちが強ければいいじゃん」
「私たちだけが強くてもダメだろ」
「ダメなのか?」
聞き返した途端、傑は苦い表情を浮かべた。
「悟は、七海と灰原に強くなって欲しくない?」
「そりゃあ、強いに越したことはないけど。俺らがあれこれ言わなくてもいいんじゃない?」
「あの二人、頑張ってるから。つい。ね、傑」
「そうだね。よく話し掛けてくれるし。頼ってくれるからね」
確かに傑は1年の二人によく声を掛けられるし、色々と質問されることも多い。組手の相手をして欲しいと頼まれることもしばしばあった。
「朔耶は1年と任務組まされること多いよねー」
「うん。明日も朝一から二人と□□市まで任務に行くことになってる」
「へぇ、そうなんだ」
「またぁ??」
俺、あの二人が入学したての頃に一回だけ任務同行して以来、全くなんですけど。
「朔耶は教えるの上手いから」
「そんなことないよ。傑の方が上手だと思う」
「そうかな?」
「なぁ、俺は??」
急に静かになるなよ。
「俺、教えるの下手なの?だから1年と組むことねーの?」
「下手では無いと思う」
「ただ、厳し過ぎるんじゃないか?悟の教え方が」
「は?厳しくないって」
こうなったら本人たちに聞いてやろう!
「明日の任務、朔耶と俺、どっちと行きたい??」
「「如月さんです」」
そ、即答だと!?
下校しようとしていた1年ズを呼び止めて問うものの、なにこの結果。
「朔耶が無愛想で恐いから、そう答えてんの??」
「恐くなんてないですよ!クールでカッコいいです!」
「如月さんは厳しい指導をされることもありますが真面目に教えてくれます。...誰かと違って」
え?七海、最後の方なんて言ったの?
「 如月さん、明日の同行よろしくお願いします!」
「宜しくお願いします」
失礼します、と丁寧に言って帰って行く二人の背を眺めた。傑が肩にぽんと手を乗せたからそっちを見れば、明らかな憐れみの目で俺を見てくる。やめろや。
「あの二人が悟を選んだら立ち直れないよ。心折れる」
「それはないない。天地がひっくり返ってもないからね、それ」
「朔耶と張り合うなんて無謀過ぎる」
お前らの方が厳しくない?
(2024.2.13)