進級と後輩
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「どれにしようかな」
某有名テーマパークへと遊びに来ている私たち4人は人でごった返すショップ内でキャラクターの耳をモチーフにしたカチューシャを吟味していた。
「これ、朔耶に似合うんじゃない?」
「え、ちょっと可愛過ぎる気が」
「いいから着けてみて」
硝子が手にするリボン付きネコ耳を渋々と付けて見せれば3人が揃って親指を立てるので断れなくなってしまった。
硝子は茶色のクマ耳、悟は白いネズミ耳、傑は悟と色違いの黒いネズミ耳に決定。購入したカチューシャを付けた私たちはお城をバックに記念撮影をした。
「朔耶、朔耶」
「なに?」
「ネコの鳴き真似して」
悟の急な要望に私は一瞬考えたのち、愛猫の鳴き声を思い出しながら真似た。
「なぅ」
(((リアルなやつ!!!)))
3人が目を丸くしているので私は首を傾げる。
結構、似てると思ったんだけど。
「変だった?」
「ううん、凄く上手」
「((可愛いのが聞きたかった・・・))」
その後は、パーク内のアトラクションやフォトスポット、昼のパレードを存分に満喫した。しかし、夢と魔法の王国、と言うだけあって時間はあっという間に過ぎてしまい、もう夕方。お土産の並ぶショップ内は人で混み合っている。
「夜のパレード見たかった」
「アニバーサリーの年だから花火も上がるらしいよ」
「それ、最後まで見てたら帰り何時になんの??」
悟の素朴な疑問に私、硝子、傑は揃って苦笑いするしかなかった。だって、最後まで見ていたら間違いなく夜中になってしまうから。各々欲しいものを購入し、パークを後にした。混み合う駅を見るなり現実に引き戻された私たちは乗車率100%超えの車両に揺られてげっそり。しかし、都心から離れて行く度、人は減り、座席に余裕が生まれるようになった。
「悟、寝てるの?」
「そうみたい」
横に座る傑の隣で腕を組んで目を閉じている悟は先程から微動だにしない。私の隣では私の肩に頭を預ける形で硝子がぐっすりと眠っている。
「1番乗り気じゃなかった人が1番楽しんでたね」
「予想通りだよ」
テーマパークへ行く計画を立てた際、悟は乗り気ではなかった。女子向けの施設だろうと思い込んでいたらしく、いざ行ってみると凄く楽しそうにしていて悟の経験値がまた一つ上がった。因みに私は昨年、母と硝子と3人で遊びに来ているし、それ以前にも訪れたことがある。
「はい。朔耶」
傑はショップ袋から取り出した物を私に差し出してきた。私が好きなキャラクターをモチーフにしたストラップだ。
「昇級祝い」
「いいの?ありがとう」
今日のお出掛けは進級と私の昇級祝いを兼ねたものだった。まさか、プレゼントをくれるとは思っていなくて吃驚してしまう。異性に対してこういうサプライズを自然とやってのけてしまうから傑はモテるんだろう。バレンタインも沢山貰っていたし。これでいて、彼女がいないというから本当に不思議。
袋から取り出して早速、携帯に取り付けて見せると傑は満足そうに笑っていた。でも、このキャラクターが好きだなんて言っただろうか。偶然かな。
*
*
*
「昨年に続き担任をすることになった。宜しく」
新学期初のHRでやって来た夜蛾先生に驚きも何もなかった。新1年生は明日が初登校となるそうだ。
「で、何で俺らが1年教室の掃除すんの?」
「いいから手動かしな」
手を止めてボヤく悟の横で傑はせっせと窓拭きをしている。私と硝子は箒で掃き掃除をし、二つの机を並べた。
「1年生は2人かー」
「ちょっと寂しいね」
とは言いつつも、呪術界自体が特殊なので新入生がいるだけでも良い方なのかもしれない。
「なぁ、俺良いこと考えた!」
ニヤッと笑う悟は何やら閃いたと言うが、私たちは揃って嫌な予感を察知していた。
新1年生の初登校日。テンション高めの悟が在校生代表かの様に入学を祝う挨拶をしているのを後ろの方で私、硝子、傑そして夜蛾先生とで見物していた。黒板の前に立たされた新入生2人は何故かパーティーグッズのとんがり帽子を被せられている。
「悟、気合い入ってるね」
「ああ見えて後輩が出来たことが嬉しいんだよ」
「でもさぁ、温度差が何とも言えないんだけど」
新入生2人の表情が固い。黒髪の灰原くんはまだマシに見えるが、金髪で背の高い七海くんの表情は完全に“無”だ。
悟が満足そうに挨拶を終えると私たちの方へ歩いて来て勝手に私たちの紹介を始めた。今日の悟はとにかく喋る。
「こいつら怠そうで無愛想でガラ悪いけどメッチャ良い奴らだから!」
(怠そう?)
(無愛想?)
(・・・)
最後に少々気になることを言われたが、新しい仲間が加わったことに拍手を送っておこう。
「なあ、なあ!俺の挨拶良かった??」
「うん」
「良かったよ」
「だけど」
「「「最後のは要らなかった」」」
何で?という顔をする悟を放置して教室を後にした私たちは一服しに外へ出た。
*
それから、1週間が経った頃。その日は悟も傑も朝から個々に任務で居なかった。
「私がですか?」
廊下で先生に呼び止められたかと思えば、1年生の体術の授業を見てやって欲しいと頼まれた。急用が入ったという先生は終わり次第戻ると言って立ち去ってしまう。運動着に着替え、グラウンドに出れば1年生は既に居て先生に頼まれた旨を伝える。
「役不足かもしれないけど、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
明るく元気な挨拶をする灰原くんに対し、大人びた印象の七海くんは静かに挨拶を返す。
「体術の授業、何回目?」
「初です!」
大事な初回を私に託して良いのだろうか?
一先ず、私たち2年生が普段しているように軽くランニングをした後、ストレッチや柔軟をしっかりと施す。
「柔道や空手、なにか格闘技の経験ある?」
「無いです」
「ありません」
先生、早く帰って来てよ。
私も悟も家で稽古を受けていたし、傑も格闘技の経験者だったのでいきなり組手等をしていたけれど、未経験者2名にそんなことさせられない。仕方がないので如月家で伯父や従兄弟の兄たちに教わったやり方でやってみよう。
「おーい、何やってんの??」
授業が残り10分という所で任務帰りの悟が鞄を背負ったままグラウンドへ下りて来た。結局、この時間になっても先生は現れず自己流で1年生を指導していたことを伝えるとケラケラ笑われた。
「で、2人共上達したの?」
「初回で初心者がいきなり急成長するわけないよ。まだ、基礎的なことだけ」
「ふーん。でもさ、こういうのは“見る”ことも大事じゃね?」
「何で上着脱ぐの?」
「今から朔耶と組手して見せようと思って」
上着を脱ぎ、シャツの袖を捲って準備運動を始めた悟に呆れながらも私も実のところ体を動かしたいと思っていた。だから私も運動着の上着を脱いで手首足首を軽く回しておく。
「2人共、座ってていいから」
「お前らよく見ておけよ」
共に一礼して構え、悟との組手は始まった。しかし、そのあとチャイムが鳴るまで組手に没頭し1年生をほったらかしてしまうことになる。放置してしまったことを謝罪すれば2人共気になどしていなくて、拙い指導だったにも関わらず私にお礼を述べてくれた。なんて良い子たちだ。
「また機会があればご指導よろしくお願いします!」
「今日はありがとうございました」
灰原くんの気持ちの良い笑顔にほわほわしていると、七海くんに再度丁寧にお礼を言われニヤけてしまいそうになったので必死に堪える。
本家で過ごすようになった小学5年から学校には通わず、中学も入学はしたものの稽古事に時間を割いていたので定期試験を受けにだけ行っていた私。勿論、部活動にも所属していなかったので今まで身近に後輩という存在が居なかった。けれど、悟と同様に1年生2人が私にとっての初めての後輩で・・・。
「悟」
「ん?」
「後輩、て良いもんだね」
私もちょっとだけ、嬉しいのかもしれない。
(2024.2.4)