恵まれている
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※未成年の飲酒表現有り。推奨しておりません。
白を基調とした和柄ちりめんの表紙には光沢のある藍色の糸で『如月家』とある。表紙を捲って現れる赤い着物を纏って粧し込んでいる写真の娘は紛れも無く自分自身で、チータラを食べつつ憂鬱な気分になった。
「可愛いが過ぎる。どっかの事務所に送っちゃう?」
「すごく可愛いね。美少女コンテスト用の写真かな?グランプリ狙えるよ」
にこにこ、にこにこと笑顔の硝子と傑が見合い写真を開きながら私の方を見てくる。事務所にもコンテストにも出せないよ、そんなもの。
「ゴメン。その写真の子、数ヶ月後にはお酒と煙草を覚えるよ」
「「ぶはっ!!」」
噴き出す様に笑う二人を尻目に私は日本酒を呷る。私だって自ら進んで酒や煙草に手を出した訳ではない。興味本位というか衝動的というかストレスで頭が可笑しくなっていたんだと思われる。そうでもしないとやってられなかった。
「それで、五条とお見合いしたの?」
「するわけ無いじゃない。御三家で次期当主だよ。相手にされる訳ないよ」
「じゃあ、五条以外の男とはお見合いした?」
「まぁ・・・」
「え、朔耶、もしかして婚約者がいるの?」
傑の問いに私はノーと答えた。確かに縁談の話はいくつもあったし、実際に顔を合わせたことだってある。しかし、その人たちは如月家との繋がりが欲しい人や写真で見た私の見てくれに興味を持った人がほとんど。稀に邪なクズもいたけれども。
「嫌なら断って良い、て祖父様が言ってくれたから今のところ全てお断りさせて頂いてる」
「お見合い、て現実にあるのね」
「ドラマや漫画の世界みたいだ」
「呪術界は特殊だからね。時代が平成だろうが何だろうが家の繁栄の為に政略結婚はよくある話だよ」
日本酒を呷り、また次を注ぐ。
「今は学生の身分を利用して縁談を断ってるんだけど、卒業後は『自分のことは自分で決めなさい』て言われてるんだ」
「えっ、お祖父さん助けてくれないの!?」
「急に冷たくない?」
「あー、うちの祖父様は多くを語らない人だから、よく勘違いをしてしまうんだけど」
「「??」」
「卒業後の進路は自分で決めて良い、て私は解釈してる」
硝子と傑が急に此処に居ない祖父に謝罪を始めた。二人共、天井に向かって喋っているが祖父は健在なのでやめて欲しい。
「朔耶のお祖父様めっちゃ良い人」
「うん。でも、小さい時はずっと近寄りがたかったんだよね。寡黙で凄く威厳があったから」
笑ってる顔もあんまり見たことがなかったし、当主という肩書もあってか幼かった私は祖父のことを恐い人と認識してしまっていた。
「でも、お父さんの三回忌の時、お母さんに陰口を叩いた口煩い親戚を黙らせてくれたの。たぶんあの日から祖父様への印象がガラリと変わったよ」
「お祖父様、神ね」
「うん、正にそれ」
硝子が笑顔で『神』と称えるものだから私もつられて笑ってしまったが、この場で傑だけは戸惑った表情をしていた。日本酒を口にしながら思い返してみると、硝子にはアレコレと話した記憶があるが彼に私の家族の話をした覚えがない。既に“三回忌”と口にしているので理解出来ている筈だけど、中途半端に知るよりもきちんと話しておいた方が良い気がした。
だから、私が10歳の時に父が病気で亡くなったこと。その後、母と離れて本家で暮らすことになったことをなるべく簡潔に伝えた。案の定、暗い雰囲気になってしまったので傑と硝子に詫びたが二人に詫びる必要は無いときっぱりと言われてから逆に話したことに感謝されて気恥ずかしくなった。
「呑み過ぎたかな・・・」
「朔耶、もっと呑んで喋りな」
「新しいの出そうか?」
「いや、出さんでいい」
「「(はっ!方言っ!!)」」
ふとした会話に方言が出て、二人がほっこりした顔で見て来るのが嫌でそっぽを向く。饒舌を通り越して普段出さない方言まで出て来てしまうくらい口が緩くなってしまっている。硝子がニヤニヤしながらもっと方言で喋れと強請って来るが無視しようと思う。
「そう言えば、朔耶は西だったね」
「うん」
「西なら京都校の方が近いだろう?どうして東京校を選んだんだい?」
「お母さんが此方に住んでるから」
間髪を入れずに答えれば、傑は目を丸くして驚いていた。
「お母さん、此方の人?」
「そうそう。最初は京都校と悩んだけど、此方に来れば会う機会が増えるかと思って」
「お母さんも術師?」
「ううん。一般人だよ」
「そうなの?てっきり、術師なのかと」
「極普通の一般家庭の人だよ」
血筋を重んじる親戚の老人たちは、両親の結婚を猛反対したそうだ。そのことがあってか親戚たちは母と私を見る時、いつも冷たい眼差しを向けてくる。けれど、今の私にはそれを止めさせる術も力もなく、ただ耐えるしかなかった。
「まだ本人には伝えてないけど。卒業したら、お母さんと一緒に暮らしたいと思ってるの。もし、それが出来なくても、お父さんや祖父様みたいに親戚たちから守ってあげれたら、と思っててさ」
この事はまだ誰にも話したことがなかった。具体的にどうしたいかまでは漠然としていたけれど、母と過ごせなかったこの数年を埋められたらいいなと我ながら子供じみたことを考えていた。
「朔耶が、良い子過ぎる」
「そんなの聞いたらお母さん絶対泣くわ。てか、涙腺やばい」
二人してティッシュを目元に当てているのを見て、また気恥ずかしくなった。語ってしまった辺り、酒を呑み過ぎていると思われる。
「ごめんよ、朔耶。私はてっきり、君のこと恵まれてる子なんだとばかり思ってた」
「謝らないでよ」
「でも、」
「私は『恵まれてる』よ」
眼尻を下げてしゅんとしていた傑に笑って見せれば、きょとんとした顔となった。空になったお猪口の滑らかな側面を親指で撫でながらフッとまた笑ってしまう。
「何だかんだ言いながら、本家でやっていけてたのはお父さんが祖父様や伯父さんたちに私のことをお願いしてくれていたお蔭だから。術式や体術の稽古とか礼儀作法の勉強は本当にしんどかったけど、生活面では不自由なこと何もなくてさ」
「夏油。今度はお父さんが泣かせにきた」
「お父様も神なのか」
「神じゃなくて、仏だね」
「「っ!!」」
感動して泣きかけていた二人が私の一言で噴き出して笑い出だした。事実、天に召されているのだから仏には違いない。
それから、三人で私のとっておきを飲みながら今度はお祖母様の話になり、その後は愛猫の話を始めてしまった。私の口どんだけ緩々になってんの?と呆れつつも「うちの子たちが可愛い」と顔も緩々で話したと思う。正直、何処まで話したのかなんて覚えておらず、硝子が寝てしまってから程無くして私は寝たんだと思われる。
目覚めて最初に飛び込んできたのは瞼をしっかりと閉じて眠っている硝子だった。覚醒していく意識の中で此処が傑の部屋であることを頭の片隅で思い出す。身動ぎしたところ背中に何かが触れ、咄嗟に振り向けば白くてフサフサしたものがある。悟の頭だ。部屋主の傑は悟の向こう側に居て、私たち四人はかなり密集して雑魚寝している状態ひあることに気づく。その時、傑の黒い頭がむくっと起き上がったかと思えば、「は?」と声を漏らしてそれはそれは驚いた表情で自身の隣を凝視。それから、すぐにムッとした顔で悟の背をバシッと叩いた。そうなると、流石に悟も青い目をカッと開いて目覚め、状況を把握すると男同士の睨み合いが始まる。
「痛ぇな、何すんだ?」
「何じゃない。寝ていたとは言え、朔耶に密着するなんてセクハラだ」
「はあ?セクハラはお前だろ。俺が此処来た時お前、朔耶の背中にぴったりくっついてたからな!」
「「・・・」」
視線を傑に向けると彼は私に首を横に振っており、どうやら記憶にないらしい。かくいう私も目覚めるまで熟睡していたので全く分からないし悟が何時来たのかさえ知らないのだ。
「そもそも、何で悟ここに居るの?」
「だって起きたら誰も居ねーんだもん。で、傑の部屋覗いたら電気点けっぱなしで三人並んで寝てて」
「で、混ざったと?」
「そりゃあ、そうだろ。俺だけ仲間外れにすんなよ」
((寂しんぼだ))
「朝っぱらからどーしたの?」
目覚めた硝子がまだ眠たそうな表情で私たちを見回している。
「あら?お酒に激弱の五条じゃん。大丈夫?二日酔いなってない?」
「うっせー。てかアレやっぱ酒かよ!誰だよ買って来た奴」
「はーい」
「硝子。俺に何か言うことない?」
「勝手に飲んだアンタが悪い」
その後、私と傑が飲む事を止めなかったことも知られてしまい悟はご立腹だった。なので、何時の日だったか約束していたクレープを食べに行こうと誘えば機嫌をすぐに取り戻していた。
「この前パフェ奢ってくれたから今度は私が奢ってあげるよ」
「まじ?やったー。なに食べよっかなー」
(((チョロいな)))
(2024.1.4)
白を基調とした和柄ちりめんの表紙には光沢のある藍色の糸で『如月家』とある。表紙を捲って現れる赤い着物を纏って粧し込んでいる写真の娘は紛れも無く自分自身で、チータラを食べつつ憂鬱な気分になった。
「可愛いが過ぎる。どっかの事務所に送っちゃう?」
「すごく可愛いね。美少女コンテスト用の写真かな?グランプリ狙えるよ」
にこにこ、にこにこと笑顔の硝子と傑が見合い写真を開きながら私の方を見てくる。事務所にもコンテストにも出せないよ、そんなもの。
「ゴメン。その写真の子、数ヶ月後にはお酒と煙草を覚えるよ」
「「ぶはっ!!」」
噴き出す様に笑う二人を尻目に私は日本酒を呷る。私だって自ら進んで酒や煙草に手を出した訳ではない。興味本位というか衝動的というかストレスで頭が可笑しくなっていたんだと思われる。そうでもしないとやってられなかった。
「それで、五条とお見合いしたの?」
「するわけ無いじゃない。御三家で次期当主だよ。相手にされる訳ないよ」
「じゃあ、五条以外の男とはお見合いした?」
「まぁ・・・」
「え、朔耶、もしかして婚約者がいるの?」
傑の問いに私はノーと答えた。確かに縁談の話はいくつもあったし、実際に顔を合わせたことだってある。しかし、その人たちは如月家との繋がりが欲しい人や写真で見た私の見てくれに興味を持った人がほとんど。稀に邪なクズもいたけれども。
「嫌なら断って良い、て祖父様が言ってくれたから今のところ全てお断りさせて頂いてる」
「お見合い、て現実にあるのね」
「ドラマや漫画の世界みたいだ」
「呪術界は特殊だからね。時代が平成だろうが何だろうが家の繁栄の為に政略結婚はよくある話だよ」
日本酒を呷り、また次を注ぐ。
「今は学生の身分を利用して縁談を断ってるんだけど、卒業後は『自分のことは自分で決めなさい』て言われてるんだ」
「えっ、お祖父さん助けてくれないの!?」
「急に冷たくない?」
「あー、うちの祖父様は多くを語らない人だから、よく勘違いをしてしまうんだけど」
「「??」」
「卒業後の進路は自分で決めて良い、て私は解釈してる」
硝子と傑が急に此処に居ない祖父に謝罪を始めた。二人共、天井に向かって喋っているが祖父は健在なのでやめて欲しい。
「朔耶のお祖父様めっちゃ良い人」
「うん。でも、小さい時はずっと近寄りがたかったんだよね。寡黙で凄く威厳があったから」
笑ってる顔もあんまり見たことがなかったし、当主という肩書もあってか幼かった私は祖父のことを恐い人と認識してしまっていた。
「でも、お父さんの三回忌の時、お母さんに陰口を叩いた口煩い親戚を黙らせてくれたの。たぶんあの日から祖父様への印象がガラリと変わったよ」
「お祖父様、神ね」
「うん、正にそれ」
硝子が笑顔で『神』と称えるものだから私もつられて笑ってしまったが、この場で傑だけは戸惑った表情をしていた。日本酒を口にしながら思い返してみると、硝子にはアレコレと話した記憶があるが彼に私の家族の話をした覚えがない。既に“三回忌”と口にしているので理解出来ている筈だけど、中途半端に知るよりもきちんと話しておいた方が良い気がした。
だから、私が10歳の時に父が病気で亡くなったこと。その後、母と離れて本家で暮らすことになったことをなるべく簡潔に伝えた。案の定、暗い雰囲気になってしまったので傑と硝子に詫びたが二人に詫びる必要は無いときっぱりと言われてから逆に話したことに感謝されて気恥ずかしくなった。
「呑み過ぎたかな・・・」
「朔耶、もっと呑んで喋りな」
「新しいの出そうか?」
「いや、出さんでいい」
「「(はっ!方言っ!!)」」
ふとした会話に方言が出て、二人がほっこりした顔で見て来るのが嫌でそっぽを向く。饒舌を通り越して普段出さない方言まで出て来てしまうくらい口が緩くなってしまっている。硝子がニヤニヤしながらもっと方言で喋れと強請って来るが無視しようと思う。
「そう言えば、朔耶は西だったね」
「うん」
「西なら京都校の方が近いだろう?どうして東京校を選んだんだい?」
「お母さんが此方に住んでるから」
間髪を入れずに答えれば、傑は目を丸くして驚いていた。
「お母さん、此方の人?」
「そうそう。最初は京都校と悩んだけど、此方に来れば会う機会が増えるかと思って」
「お母さんも術師?」
「ううん。一般人だよ」
「そうなの?てっきり、術師なのかと」
「極普通の一般家庭の人だよ」
血筋を重んじる親戚の老人たちは、両親の結婚を猛反対したそうだ。そのことがあってか親戚たちは母と私を見る時、いつも冷たい眼差しを向けてくる。けれど、今の私にはそれを止めさせる術も力もなく、ただ耐えるしかなかった。
「まだ本人には伝えてないけど。卒業したら、お母さんと一緒に暮らしたいと思ってるの。もし、それが出来なくても、お父さんや祖父様みたいに親戚たちから守ってあげれたら、と思っててさ」
この事はまだ誰にも話したことがなかった。具体的にどうしたいかまでは漠然としていたけれど、母と過ごせなかったこの数年を埋められたらいいなと我ながら子供じみたことを考えていた。
「朔耶が、良い子過ぎる」
「そんなの聞いたらお母さん絶対泣くわ。てか、涙腺やばい」
二人してティッシュを目元に当てているのを見て、また気恥ずかしくなった。語ってしまった辺り、酒を呑み過ぎていると思われる。
「ごめんよ、朔耶。私はてっきり、君のこと恵まれてる子なんだとばかり思ってた」
「謝らないでよ」
「でも、」
「私は『恵まれてる』よ」
眼尻を下げてしゅんとしていた傑に笑って見せれば、きょとんとした顔となった。空になったお猪口の滑らかな側面を親指で撫でながらフッとまた笑ってしまう。
「何だかんだ言いながら、本家でやっていけてたのはお父さんが祖父様や伯父さんたちに私のことをお願いしてくれていたお蔭だから。術式や体術の稽古とか礼儀作法の勉強は本当にしんどかったけど、生活面では不自由なこと何もなくてさ」
「夏油。今度はお父さんが泣かせにきた」
「お父様も神なのか」
「神じゃなくて、仏だね」
「「っ!!」」
感動して泣きかけていた二人が私の一言で噴き出して笑い出だした。事実、天に召されているのだから仏には違いない。
それから、三人で私のとっておきを飲みながら今度はお祖母様の話になり、その後は愛猫の話を始めてしまった。私の口どんだけ緩々になってんの?と呆れつつも「うちの子たちが可愛い」と顔も緩々で話したと思う。正直、何処まで話したのかなんて覚えておらず、硝子が寝てしまってから程無くして私は寝たんだと思われる。
目覚めて最初に飛び込んできたのは瞼をしっかりと閉じて眠っている硝子だった。覚醒していく意識の中で此処が傑の部屋であることを頭の片隅で思い出す。身動ぎしたところ背中に何かが触れ、咄嗟に振り向けば白くてフサフサしたものがある。悟の頭だ。部屋主の傑は悟の向こう側に居て、私たち四人はかなり密集して雑魚寝している状態ひあることに気づく。その時、傑の黒い頭がむくっと起き上がったかと思えば、「は?」と声を漏らしてそれはそれは驚いた表情で自身の隣を凝視。それから、すぐにムッとした顔で悟の背をバシッと叩いた。そうなると、流石に悟も青い目をカッと開いて目覚め、状況を把握すると男同士の睨み合いが始まる。
「痛ぇな、何すんだ?」
「何じゃない。寝ていたとは言え、朔耶に密着するなんてセクハラだ」
「はあ?セクハラはお前だろ。俺が此処来た時お前、朔耶の背中にぴったりくっついてたからな!」
「「・・・」」
視線を傑に向けると彼は私に首を横に振っており、どうやら記憶にないらしい。かくいう私も目覚めるまで熟睡していたので全く分からないし悟が何時来たのかさえ知らないのだ。
「そもそも、何で悟ここに居るの?」
「だって起きたら誰も居ねーんだもん。で、傑の部屋覗いたら電気点けっぱなしで三人並んで寝てて」
「で、混ざったと?」
「そりゃあ、そうだろ。俺だけ仲間外れにすんなよ」
((寂しんぼだ))
「朝っぱらからどーしたの?」
目覚めた硝子がまだ眠たそうな表情で私たちを見回している。
「あら?お酒に激弱の五条じゃん。大丈夫?二日酔いなってない?」
「うっせー。てかアレやっぱ酒かよ!誰だよ買って来た奴」
「はーい」
「硝子。俺に何か言うことない?」
「勝手に飲んだアンタが悪い」
その後、私と傑が飲む事を止めなかったことも知られてしまい悟はご立腹だった。なので、何時の日だったか約束していたクレープを食べに行こうと誘えば機嫌をすぐに取り戻していた。
「この前パフェ奢ってくれたから今度は私が奢ってあげるよ」
「まじ?やったー。なに食べよっかなー」
(((チョロいな)))
(2024.1.4)