最強で最弱
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※未成年の飲酒表現があります。推奨してはおりません。
夏期休暇と繁忙期が過ぎ去った9月。
私、傑、悟は登校するなり校内放送で夜蛾先生に呼び出された。木造校舎の廊下をポケットに手を突っ込んで姿勢悪く歩く二人の後をついて行く私は呼び出された理由に皆目見当もつかなかった。
「朔耶が呼び出されるなんて珍しいね」
「お前もとうとう指導と言う名の洗礼を受けるのか」
「思い当たることがないんだけど」
辿り着いてしまった職員室の扉を雑に開けた悟の後に続いて入る。「失礼しまーす」と悟の間の抜けた様な挨拶に先生は呆れ顔を浮かべてから椅子から立ち上がり何故か新しい学生証を配られた。
「3人共、昇級だ」
先生に言われるまで私たちは揃って昇格の話があったことを忘れていた。説教でなくて良かった、とホッとしつつ真新しい学生証に目を通していると何故か一緒になって悟と傑がジーッと見つめてくるので私は首を傾げた。
***
「昇級おめでとー。凄いじゃん」
ぱちぱちと拍手を送ってくれる硝子に私はお礼を伝えるのだけれど、悟と傑は腑に落ちないと言わんばかりの表情で此方を見てくる。
「朔耶も1級で良くね?」
「同感。評価基準が間違っている」
1級に昇格した2人は私が準1級と評されたことに納得がいかないらしい。私の呪力量や式神の質の高さなどを高く評価してくれているのは光栄ではある。
「でも、今後の任務の出来次第で昇格する、て先生言ってたから」
今日からまたコツコツ鍛錬を積めばいい。
「まあ、朔耶ならすぐに1級になれるよ」
「だな」
頑張れ、と応援してくれる傑と悟に笑って応える。すると、後ろから硝子が私の腕に自身の腕を絡ませ満面の笑みを浮かべていた。
「今日は祝杯をあげなきゃね」
「硝子が呑みたいだけじゃないの?」
「お祝いに決まってるじゃん」
この子呑む気満々だ。と、思っていると視線を感じる。視線の先にはにこにこと微笑んでいる傑がいた。呑む気満々な人がもう一人いたよ。
「俺もお祝いしたい!」
スパッと挙手した悟を私たちは無言で見つめる。
・・・
「不良共め」
テーブルに並べられたアルコール類を見つめ、悟は悪態をつく。
「朔耶のそれ何?」
「日本酒」
うげー、と嫌そうな顔をされたが美味いものは美味いのだ。傑と硝子は缶ビールを手に取り、私と悟にも自分の飲み物を持つよう促してくる。
「昇級おめでとー。かんぱーい!」
硝子の緩い乾杯に頬を緩めながらお猪口を傾ける。アルコールを楽しむ私の真向かいで悟だけはコーラを口にしていた。最初、傑が麦酒を勧めたけれど悟はそれを即、却下した。以前、傑が麦酒は美味しいと嘘をついて悟に一口飲ませたことがあるらしいのだが、「まっず!!」と大不評だったそうだ。
「お前らちゃんと片付けして帰れよ」
「分かってるよ」
「大丈夫、大丈夫」
私たちが現在居るのは男子寮、悟の部屋。角部屋で隣は傑の部屋なので多少騒いでも迷惑の掛からない絶好の場所である。
「あーあ。俺、寿司食べたかった」
「はいはい。今日は庶民の祝い方で我慢しな」
お祝いしようと話が上がった時から悟は寿司を推していた。彼が言う“寿司”が板前さんが握る高級寿司だと察知した硝子は寿司はまた今度、と悟の意見を流した。お店では飲酒が出来ないから。
「悟、ピザ美味しいよ」
自分の意見が通らなかったことに今だに不服な悟にマルゲリータの乗ったトレーを差し出す。ピザには特別感が無い、と小言を漏らしつつ切り分けられた内の1枚を取った悟は口へと運ぶ。
「美味っ!」
スーパーのベーカリーで購入したピザがお気に召したらしく、にぱぁっと笑顔になる悟。
(((単純だ)))
「もう1枚食っていい?」
「どうぞどうぞ」
「悟、海鮮系もあるよ」
「食う♪」
このお坊っちゃんチョロ過ぎやしないか、ちびりとお酒を口にしながら思う。
ピザを食べ終わると悟がゲームをしようと言い出し、テレビの置かれた棚の前に移動して準備を始めた。たらっぺを摘んでいると不意にコントローラーを差し出されて視線を上げればニヤつく悟がいて顔の左側がひくついてしまう。
「何のゲーム?」
「ス◯ブラ。したことある?」
「あるよ。少し」
「じゃあ、説明不要な」
余裕そうな悟がウザいが、経験値の浅い私では立ち打ち出来ずあっさり負けてしまう。そして、2回戦目も同じ結果。こんなに力量に差があって悟は楽しいのだろうか。3回戦目はキャラを変更してみたがやはり序盤から攻められてしまう。すると、肩をつんつんと突かれ視線を移すと傑が笑顔で手を差し出してきた。すぐに察しがついて悟にバレない様にコントローラーを譲り渡す。硝子がニヤニヤして私を応援するのとテレビ画面内で某有名配管工と●ービィが互角で戦い始めたのが可笑しくて笑いを必死に堪えた。
「・・・なんか、動き違くね?」
「そうかな?」
「ヤべッ、落ちそ・・・って、お前かよ!!」
状況を把握した悟の反応に私と硝子が笑っている間に傑の必殺技が決まり配管工は落下した。
「卑怯だぞ!交代しやがって!」
「卑怯?普段ゲームをしない朔耶を対戦相手に指名する誰かさんに言われたくないな」
「クソっ!もう一戦すんぞ!」
かかってきやがれ、と睨む悟に対し傑は涼しい顔をしていて、そんな二人の間から脱出した私は硝子の隣へと移動した。ゲームはプレイするより見てる方が面白い。
その後、一戦で終わる筈もなくゲームは続いた。結果は悟の勝利ではあるが傑は悔しがる様子もなく私に「負けちゃった」と笑いかけ元の位置へと腰を下ろす。傑が腰を下ろすや否や硝子は立ち上がり、一服しに部屋を出て行った。
「傑、ありがとね」
「お礼を言われる程ではないよ。けど、悟がイイ反応してくれて面白かった」
「うっせー」
悪態をついた悟はゲームを片付けてコーラを飲み干した。新しいジュースを取りに冷蔵庫へ移動した悟はその扉を開けて肩を落とす。スーパーで飲み物を選んだのは硝子なので酒類で満たされてしまうのは必然だった。
「おっ!奇跡的にジュース発見!」
桃のイラストが入った白い缶を手にした悟は冷蔵庫の扉を閉めるなりプシュッとその場で開封して飲み始めた。美味い、と言う悟に私と傑は目をパチクリさせる。
「朔耶。硝子、ジュース買ってた?」
「私は知らないよ」
コソッと話している間、悟は更に一口飲んで此方へ戻って来た。机に置かれた白い缶に視線を注げば、それは紛れもなくアルコール表記がされており、お猪口を持つ手が止まる。傑も枝豆を食べる手を止めて唖然としていた。バラエティ番組を見始めた悟は気付いていない。傑に視線を向けると口元に人差し指を立てていて、どうしようかと悩んだが悟に変化も無いしアルコール度数も低いから、と私も黙っておくことにした。
しかし、その数分後。
ベッドに背を預けてテレビを見ていた悟の頬や耳が紅潮してきて、私も傑も若干の焦りを感じ始める。
「悟、大丈夫?顔赤いよ」
「んー。なんかさぁ、頭がボーッとする」
それはアルコールの所為だよ。傑がコソッと水を買いに行き、私は悟にベッドへ横になるように促す。のそりと動いた悟は寝床に大の字になって首だけを私の方に向けた。眠そうにしているのでサングラスを外して勉強机へとそれを置いてあげると名を呼ばれた。
「そこの、1番上の引き出し」
「開けていいの?」
身動ぎして横向きとなった悟が頷いたのが見え、私は言う通りに引き出しを開けてみる。そこにはA4サイズの茶封筒だけが入っていてそれを手に取ってみた。「やる」と言われ中身を覗くと見たくもない忌々しいものが見える。それは夏期休暇直前に彼に回収を頼んだ私の見合い写真。五条家に送られたかどうか定かではなかったが、此処にあるということはそういうことだ。
「何で処分しなかったの?捨てて欲しかった」
「ちょーレアじゃん。粧し込んでる朔耶なんて」
「私はこの写真嫌い」
「ふはっ。笑顔、作ってるもんな」
「ハサミある?」
「自分の部屋でやって。俺、寝る」
限界だったのか瞼を閉じた悟はすぐに入眠し規則正しい呼吸を繰り返した。部屋主が寝てしまっては室内を物色するのは流石に失礼なので鋏は諦めるしかない。
「ただいまー。五条、生きてる?」
「もう寝ちゃった」
「えっ、さっきまで起きてたのに」
傑から話を聞いたのか硝子は面白そうに笑って悟が寝ているベッドへと近付いていく。傑は買って来た水を冷蔵庫に入れて此方へとやって来る。
「五条の顔真っ赤じゃん」
「缶の中、まだ半分以上あるよ」
「「えっ」」
悟の飲み掛けの缶を持ち上げるとまだまだ中身が入っていることに硝子と傑は酷く驚いた。普段から悟は呪霊や呪詛師相手には自分のことを『最強』と謳っているのに、どうやらお酒に対してはダメダメらしい。
「悟寝ちゃったし、お開きにする?」
「何言っての朔耶!まだまだこれからでしょ」
「だったら私の部屋で呑む?隣だからすぐ移動出来るし」
断る理由も無く、私も硝子も傑の部屋で呑むことにした。悟が気に掛けていた片付けもきっちり済ませ、部屋を後にする。
「朔耶、それナニ?」
「来た時、持ってなかったよね」
「え、いや、コレは・・・」
「何々?五条からのプレゼント?」
「そうなの?」
「プレゼントじゃないから」
茶封筒をこっそり持ち出すには無理があって、早々にその存在がバレた。見るな見るなと言えば、見たくなってしまうのが人間の性。勘弁して、と目元を手で覆う私は羞恥に耐えるしかなかった。
(2023.12.27)
夏期休暇と繁忙期が過ぎ去った9月。
私、傑、悟は登校するなり校内放送で夜蛾先生に呼び出された。木造校舎の廊下をポケットに手を突っ込んで姿勢悪く歩く二人の後をついて行く私は呼び出された理由に皆目見当もつかなかった。
「朔耶が呼び出されるなんて珍しいね」
「お前もとうとう指導と言う名の洗礼を受けるのか」
「思い当たることがないんだけど」
辿り着いてしまった職員室の扉を雑に開けた悟の後に続いて入る。「失礼しまーす」と悟の間の抜けた様な挨拶に先生は呆れ顔を浮かべてから椅子から立ち上がり何故か新しい学生証を配られた。
「3人共、昇級だ」
先生に言われるまで私たちは揃って昇格の話があったことを忘れていた。説教でなくて良かった、とホッとしつつ真新しい学生証に目を通していると何故か一緒になって悟と傑がジーッと見つめてくるので私は首を傾げた。
***
「昇級おめでとー。凄いじゃん」
ぱちぱちと拍手を送ってくれる硝子に私はお礼を伝えるのだけれど、悟と傑は腑に落ちないと言わんばかりの表情で此方を見てくる。
「朔耶も1級で良くね?」
「同感。評価基準が間違っている」
1級に昇格した2人は私が準1級と評されたことに納得がいかないらしい。私の呪力量や式神の質の高さなどを高く評価してくれているのは光栄ではある。
「でも、今後の任務の出来次第で昇格する、て先生言ってたから」
今日からまたコツコツ鍛錬を積めばいい。
「まあ、朔耶ならすぐに1級になれるよ」
「だな」
頑張れ、と応援してくれる傑と悟に笑って応える。すると、後ろから硝子が私の腕に自身の腕を絡ませ満面の笑みを浮かべていた。
「今日は祝杯をあげなきゃね」
「硝子が呑みたいだけじゃないの?」
「お祝いに決まってるじゃん」
この子呑む気満々だ。と、思っていると視線を感じる。視線の先にはにこにこと微笑んでいる傑がいた。呑む気満々な人がもう一人いたよ。
「俺もお祝いしたい!」
スパッと挙手した悟を私たちは無言で見つめる。
・・・
「不良共め」
テーブルに並べられたアルコール類を見つめ、悟は悪態をつく。
「朔耶のそれ何?」
「日本酒」
うげー、と嫌そうな顔をされたが美味いものは美味いのだ。傑と硝子は缶ビールを手に取り、私と悟にも自分の飲み物を持つよう促してくる。
「昇級おめでとー。かんぱーい!」
硝子の緩い乾杯に頬を緩めながらお猪口を傾ける。アルコールを楽しむ私の真向かいで悟だけはコーラを口にしていた。最初、傑が麦酒を勧めたけれど悟はそれを即、却下した。以前、傑が麦酒は美味しいと嘘をついて悟に一口飲ませたことがあるらしいのだが、「まっず!!」と大不評だったそうだ。
「お前らちゃんと片付けして帰れよ」
「分かってるよ」
「大丈夫、大丈夫」
私たちが現在居るのは男子寮、悟の部屋。角部屋で隣は傑の部屋なので多少騒いでも迷惑の掛からない絶好の場所である。
「あーあ。俺、寿司食べたかった」
「はいはい。今日は庶民の祝い方で我慢しな」
お祝いしようと話が上がった時から悟は寿司を推していた。彼が言う“寿司”が板前さんが握る高級寿司だと察知した硝子は寿司はまた今度、と悟の意見を流した。お店では飲酒が出来ないから。
「悟、ピザ美味しいよ」
自分の意見が通らなかったことに今だに不服な悟にマルゲリータの乗ったトレーを差し出す。ピザには特別感が無い、と小言を漏らしつつ切り分けられた内の1枚を取った悟は口へと運ぶ。
「美味っ!」
スーパーのベーカリーで購入したピザがお気に召したらしく、にぱぁっと笑顔になる悟。
(((単純だ)))
「もう1枚食っていい?」
「どうぞどうぞ」
「悟、海鮮系もあるよ」
「食う♪」
このお坊っちゃんチョロ過ぎやしないか、ちびりとお酒を口にしながら思う。
ピザを食べ終わると悟がゲームをしようと言い出し、テレビの置かれた棚の前に移動して準備を始めた。たらっぺを摘んでいると不意にコントローラーを差し出されて視線を上げればニヤつく悟がいて顔の左側がひくついてしまう。
「何のゲーム?」
「ス◯ブラ。したことある?」
「あるよ。少し」
「じゃあ、説明不要な」
余裕そうな悟がウザいが、経験値の浅い私では立ち打ち出来ずあっさり負けてしまう。そして、2回戦目も同じ結果。こんなに力量に差があって悟は楽しいのだろうか。3回戦目はキャラを変更してみたがやはり序盤から攻められてしまう。すると、肩をつんつんと突かれ視線を移すと傑が笑顔で手を差し出してきた。すぐに察しがついて悟にバレない様にコントローラーを譲り渡す。硝子がニヤニヤして私を応援するのとテレビ画面内で某有名配管工と●ービィが互角で戦い始めたのが可笑しくて笑いを必死に堪えた。
「・・・なんか、動き違くね?」
「そうかな?」
「ヤべッ、落ちそ・・・って、お前かよ!!」
状況を把握した悟の反応に私と硝子が笑っている間に傑の必殺技が決まり配管工は落下した。
「卑怯だぞ!交代しやがって!」
「卑怯?普段ゲームをしない朔耶を対戦相手に指名する誰かさんに言われたくないな」
「クソっ!もう一戦すんぞ!」
かかってきやがれ、と睨む悟に対し傑は涼しい顔をしていて、そんな二人の間から脱出した私は硝子の隣へと移動した。ゲームはプレイするより見てる方が面白い。
その後、一戦で終わる筈もなくゲームは続いた。結果は悟の勝利ではあるが傑は悔しがる様子もなく私に「負けちゃった」と笑いかけ元の位置へと腰を下ろす。傑が腰を下ろすや否や硝子は立ち上がり、一服しに部屋を出て行った。
「傑、ありがとね」
「お礼を言われる程ではないよ。けど、悟がイイ反応してくれて面白かった」
「うっせー」
悪態をついた悟はゲームを片付けてコーラを飲み干した。新しいジュースを取りに冷蔵庫へ移動した悟はその扉を開けて肩を落とす。スーパーで飲み物を選んだのは硝子なので酒類で満たされてしまうのは必然だった。
「おっ!奇跡的にジュース発見!」
桃のイラストが入った白い缶を手にした悟は冷蔵庫の扉を閉めるなりプシュッとその場で開封して飲み始めた。美味い、と言う悟に私と傑は目をパチクリさせる。
「朔耶。硝子、ジュース買ってた?」
「私は知らないよ」
コソッと話している間、悟は更に一口飲んで此方へ戻って来た。机に置かれた白い缶に視線を注げば、それは紛れもなくアルコール表記がされており、お猪口を持つ手が止まる。傑も枝豆を食べる手を止めて唖然としていた。バラエティ番組を見始めた悟は気付いていない。傑に視線を向けると口元に人差し指を立てていて、どうしようかと悩んだが悟に変化も無いしアルコール度数も低いから、と私も黙っておくことにした。
しかし、その数分後。
ベッドに背を預けてテレビを見ていた悟の頬や耳が紅潮してきて、私も傑も若干の焦りを感じ始める。
「悟、大丈夫?顔赤いよ」
「んー。なんかさぁ、頭がボーッとする」
それはアルコールの所為だよ。傑がコソッと水を買いに行き、私は悟にベッドへ横になるように促す。のそりと動いた悟は寝床に大の字になって首だけを私の方に向けた。眠そうにしているのでサングラスを外して勉強机へとそれを置いてあげると名を呼ばれた。
「そこの、1番上の引き出し」
「開けていいの?」
身動ぎして横向きとなった悟が頷いたのが見え、私は言う通りに引き出しを開けてみる。そこにはA4サイズの茶封筒だけが入っていてそれを手に取ってみた。「やる」と言われ中身を覗くと見たくもない忌々しいものが見える。それは夏期休暇直前に彼に回収を頼んだ私の見合い写真。五条家に送られたかどうか定かではなかったが、此処にあるということはそういうことだ。
「何で処分しなかったの?捨てて欲しかった」
「ちょーレアじゃん。粧し込んでる朔耶なんて」
「私はこの写真嫌い」
「ふはっ。笑顔、作ってるもんな」
「ハサミある?」
「自分の部屋でやって。俺、寝る」
限界だったのか瞼を閉じた悟はすぐに入眠し規則正しい呼吸を繰り返した。部屋主が寝てしまっては室内を物色するのは流石に失礼なので鋏は諦めるしかない。
「ただいまー。五条、生きてる?」
「もう寝ちゃった」
「えっ、さっきまで起きてたのに」
傑から話を聞いたのか硝子は面白そうに笑って悟が寝ているベッドへと近付いていく。傑は買って来た水を冷蔵庫に入れて此方へとやって来る。
「五条の顔真っ赤じゃん」
「缶の中、まだ半分以上あるよ」
「「えっ」」
悟の飲み掛けの缶を持ち上げるとまだまだ中身が入っていることに硝子と傑は酷く驚いた。普段から悟は呪霊や呪詛師相手には自分のことを『最強』と謳っているのに、どうやらお酒に対してはダメダメらしい。
「悟寝ちゃったし、お開きにする?」
「何言っての朔耶!まだまだこれからでしょ」
「だったら私の部屋で呑む?隣だからすぐ移動出来るし」
断る理由も無く、私も硝子も傑の部屋で呑むことにした。悟が気に掛けていた片付けもきっちり済ませ、部屋を後にする。
「朔耶、それナニ?」
「来た時、持ってなかったよね」
「え、いや、コレは・・・」
「何々?五条からのプレゼント?」
「そうなの?」
「プレゼントじゃないから」
茶封筒をこっそり持ち出すには無理があって、早々にその存在がバレた。見るな見るなと言えば、見たくなってしまうのが人間の性。勘弁して、と目元を手で覆う私は羞恥に耐えるしかなかった。
(2023.12.27)