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予想通りではあったのだけど、想像と実際とではやっぱり違う。何がって、自分の動揺っぷりが。
「こ、こここ小十郎さんっ!?」
思わず声が裏返ってしまったが、全国の──現代のばさらふぁんの皆様にはご理解いただけると思う。何せ今私は、あの片倉小十郎に抱きしめられているのだ。
脳内の私は小十郎の胸に顔を埋め背中に手を回して「こじゅ~」と甘えているが、実際は直立不動である。手も足も出ない。
ただ、身体と顔の熱がどんどん上がって、心臓が飛び出すんじゃないかっていうくらいドクドクうるさい。
「ッ……ブハッだめだ笑っちまう!」
ウブにも程があるだろう! と、小十郎は笑った。
「ちょ、ちょっと……何なんですか一方的に抱きついといてソレ! 花の乙女をからかって楽しいですか!」
目の前のたくましい胸板に拳を数度叩きつけると、
「ああ、楽しい」
なんて、また抱きしめられて耳元で囁かれるものだから、私はもうどうしようもなくなって黙り込んでしまう。
「ううー……」
今度こそ胸に顔を押しつけると、小十郎のにおいが私を満たした。
太陽と土と、ほんの少しの血のにおい。生と死が混在する、あなたのにおい。
少しだけ体の力が抜けて、叩きつけた拳を開いて半襟を掴む。
なんで今更、こんなことを。
私は、ひと月も前に振られたはずなのに。
いわゆるトリップだと分かったのは、ここへやって来てから一週間後だった。
たまたま持っていたお菓子は初日に食べきってしまい、それから六日間、訳もわからず小川の水だけで森を歩き続けてようやくたどり着いた城下町。最初はタイムスリップかと思ったが、それにしては少し変だと思っていた。
それが確信に変わったのは、茶屋のご主人の好意で団子一本とお茶を一杯ご馳走になった直後のことだった。
「Hey,団子5本ほど包んでくれ」
「毎度、少々お待ちを」
浅葱色の着流しの青年が、ちらりと私を見て目を見開く──否、私のはるか後方を見ていた。
「っやべ、そこのlady、わりぃが団子受け取ってあの強面に渡しといてくれ」
返事をする間も無く青年は走り去り、茶屋の主人が団子を手に出てくる。
「ありゃ、ま──藤次郎様は?」
「あの、なんか、受け取っといてくれって言われたんですけど……」
「おや、そうなのかい?じゃあ頼むよ」
人の話は最後まで聞いてくれないかな!?と、疲れ切った頭では反論もできず。
受け取った団子をどうしたらいいのかと小首を傾げていると、あの青年が言っていたと思しき強面の男が、少し息を切らせて目の前で立ち止まる。
「チッ……くそ、逃げ足の速い」
その横顔に、明らかに見覚えがあった。
「こ、じゅうろ……?」
ならば先ほどの青年は、そうだ、確かに政宗だった。
ということはつまり、ここは戦国BASARAの──
そうして、おきまりの紆余曲折を経てお城に居候させてもらうことになり、約ひと月ほど経った時、私は小十郎に告白した。
トリップの前から好きなキャラではあったけれど、それはそれ、実際に対面してみたら最初は怖いという感情が勝っていた。
けれど日が経つ毎に、小十郎の警戒心が薄れるのと比例して、怖くなくなっていった。
そしてそれに反比例して、好きだと思う気持ちが育っていくのを止められなかった。
「──好き」
畑仕事の休憩などという、色気もムードもなにもない状況で、水出しのお茶を飲む横顔を見ていて、抑えきれなくて呟くように言った。言ってしまった。
「そうか」
ただ一言、返ってきた言葉はそれだけだった。
え、どういうこと?これはもう、これ以上この話しはしたくないという感じ?
と、小十郎の方を見ることもできずにそう判断して俯いた。バカだな、言わなきゃよかったのに。そうしたら今まで通りいられたのに。
そんな後悔に苛まれて過ごしたひと月は、一体なんだったのだろう。
「ッ……」
息をする毎に、小十郎に抱きしめられているのだという実感がじわじわと大きくなって、頬が熱いを通り越して耳や首元まで熱くなってくる。
「本当に、なんなんです?からかってるなら悪趣味ですよ」
「からかってこんなことする奴だと思われてたんなら心外だな」
そんなわけ、ないのに。
否定しようと顔を上げると、ほんの数センチのところに小十郎の顔があって、コクリと言葉諸共につばを飲み込む。
「お前──あの時、本当は、俺のことを好きと言ったのか?」
「……な、なにを今更っ」
「俺は、昨日までてっきりおにぎりの具かなんかのことだと思ってたんだ」
「は……?え?」
「で、昨日政宗様にお前の様子がおかしいからどうにかしろと言われて」
そうだ、思い返してみれば、何が好きなのかその対象は口にしていなかった。言ったタイミングも確かに、おにぎりを食べて、お茶を飲んだ後、だったと思う。
少し目をそらしていた小十郎が、また至近距離で私へと視線を戻す。
「──っくそ、煽るんじゃねぇ」
「ふぇ……?」
首をかしげると、小十郎の胸元にきゅっと押し付けられてしまい、また顔が見えなくなる。
「俺なんかでいいのか?苦労しかねぇぞ」
一緒に極楽浄土にも行けねぇしな、と呟いた小十郎を、強く抱きしめ返す。
「小十郎さん"が"いいんですばかにしないでください」
小十郎が少し、笑った気配がした。
「分かった。なら俺も応えよう」
太陽と土と、ほんの少しの血のにおい。生と死が混在する、あなたのにおい。
「末長くよろしくな」
不意に顎を掬われ、唇に軽く触れるだけの口づけ。
抱きしめられたまま、緩むことのない腕。
「こじゅうろ、」
「ん?」
ああもう、私はきっと一生、この人から逃れられない。
いや、死してなお、共に居られるよう祈ろう。
そして大きな耳元で囁くのだ。
だいすき、と。
20180815
旧サイトから発掘&大幅加筆修正。
ばさらは自由度が高くて大変よろしいですね。
「こ、こここ小十郎さんっ!?」
思わず声が裏返ってしまったが、全国の──現代のばさらふぁんの皆様にはご理解いただけると思う。何せ今私は、あの片倉小十郎に抱きしめられているのだ。
脳内の私は小十郎の胸に顔を埋め背中に手を回して「こじゅ~」と甘えているが、実際は直立不動である。手も足も出ない。
ただ、身体と顔の熱がどんどん上がって、心臓が飛び出すんじゃないかっていうくらいドクドクうるさい。
「ッ……ブハッだめだ笑っちまう!」
ウブにも程があるだろう! と、小十郎は笑った。
「ちょ、ちょっと……何なんですか一方的に抱きついといてソレ! 花の乙女をからかって楽しいですか!」
目の前のたくましい胸板に拳を数度叩きつけると、
「ああ、楽しい」
なんて、また抱きしめられて耳元で囁かれるものだから、私はもうどうしようもなくなって黙り込んでしまう。
「ううー……」
今度こそ胸に顔を押しつけると、小十郎のにおいが私を満たした。
太陽と土と、ほんの少しの血のにおい。生と死が混在する、あなたのにおい。
少しだけ体の力が抜けて、叩きつけた拳を開いて半襟を掴む。
なんで今更、こんなことを。
私は、ひと月も前に振られたはずなのに。
いわゆるトリップだと分かったのは、ここへやって来てから一週間後だった。
たまたま持っていたお菓子は初日に食べきってしまい、それから六日間、訳もわからず小川の水だけで森を歩き続けてようやくたどり着いた城下町。最初はタイムスリップかと思ったが、それにしては少し変だと思っていた。
それが確信に変わったのは、茶屋のご主人の好意で団子一本とお茶を一杯ご馳走になった直後のことだった。
「Hey,団子5本ほど包んでくれ」
「毎度、少々お待ちを」
浅葱色の着流しの青年が、ちらりと私を見て目を見開く──否、私のはるか後方を見ていた。
「っやべ、そこのlady、わりぃが団子受け取ってあの強面に渡しといてくれ」
返事をする間も無く青年は走り去り、茶屋の主人が団子を手に出てくる。
「ありゃ、ま──藤次郎様は?」
「あの、なんか、受け取っといてくれって言われたんですけど……」
「おや、そうなのかい?じゃあ頼むよ」
人の話は最後まで聞いてくれないかな!?と、疲れ切った頭では反論もできず。
受け取った団子をどうしたらいいのかと小首を傾げていると、あの青年が言っていたと思しき強面の男が、少し息を切らせて目の前で立ち止まる。
「チッ……くそ、逃げ足の速い」
その横顔に、明らかに見覚えがあった。
「こ、じゅうろ……?」
ならば先ほどの青年は、そうだ、確かに政宗だった。
ということはつまり、ここは戦国BASARAの──
そうして、おきまりの紆余曲折を経てお城に居候させてもらうことになり、約ひと月ほど経った時、私は小十郎に告白した。
トリップの前から好きなキャラではあったけれど、それはそれ、実際に対面してみたら最初は怖いという感情が勝っていた。
けれど日が経つ毎に、小十郎の警戒心が薄れるのと比例して、怖くなくなっていった。
そしてそれに反比例して、好きだと思う気持ちが育っていくのを止められなかった。
「──好き」
畑仕事の休憩などという、色気もムードもなにもない状況で、水出しのお茶を飲む横顔を見ていて、抑えきれなくて呟くように言った。言ってしまった。
「そうか」
ただ一言、返ってきた言葉はそれだけだった。
え、どういうこと?これはもう、これ以上この話しはしたくないという感じ?
と、小十郎の方を見ることもできずにそう判断して俯いた。バカだな、言わなきゃよかったのに。そうしたら今まで通りいられたのに。
そんな後悔に苛まれて過ごしたひと月は、一体なんだったのだろう。
「ッ……」
息をする毎に、小十郎に抱きしめられているのだという実感がじわじわと大きくなって、頬が熱いを通り越して耳や首元まで熱くなってくる。
「本当に、なんなんです?からかってるなら悪趣味ですよ」
「からかってこんなことする奴だと思われてたんなら心外だな」
そんなわけ、ないのに。
否定しようと顔を上げると、ほんの数センチのところに小十郎の顔があって、コクリと言葉諸共につばを飲み込む。
「お前──あの時、本当は、俺のことを好きと言ったのか?」
「……な、なにを今更っ」
「俺は、昨日までてっきりおにぎりの具かなんかのことだと思ってたんだ」
「は……?え?」
「で、昨日政宗様にお前の様子がおかしいからどうにかしろと言われて」
そうだ、思い返してみれば、何が好きなのかその対象は口にしていなかった。言ったタイミングも確かに、おにぎりを食べて、お茶を飲んだ後、だったと思う。
少し目をそらしていた小十郎が、また至近距離で私へと視線を戻す。
「──っくそ、煽るんじゃねぇ」
「ふぇ……?」
首をかしげると、小十郎の胸元にきゅっと押し付けられてしまい、また顔が見えなくなる。
「俺なんかでいいのか?苦労しかねぇぞ」
一緒に極楽浄土にも行けねぇしな、と呟いた小十郎を、強く抱きしめ返す。
「小十郎さん"が"いいんですばかにしないでください」
小十郎が少し、笑った気配がした。
「分かった。なら俺も応えよう」
太陽と土と、ほんの少しの血のにおい。生と死が混在する、あなたのにおい。
「末長くよろしくな」
不意に顎を掬われ、唇に軽く触れるだけの口づけ。
抱きしめられたまま、緩むことのない腕。
「こじゅうろ、」
「ん?」
ああもう、私はきっと一生、この人から逃れられない。
いや、死してなお、共に居られるよう祈ろう。
そして大きな耳元で囁くのだ。
だいすき、と。
20180815
旧サイトから発掘&大幅加筆修正。
ばさらは自由度が高くて大変よろしいですね。
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