ss/刀剣
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たまたま審神者が、近侍のにっかり青江を連れて2000年代に遠征に来ている時に、事は起こった。
「え?待ってくださいどういうことですか」
突然の政府からの入電。
本丸に入るためのチャンネルがなんらかの影響でおかしくなっており、現在出入りができない状況であると。
原因究明と解消に、恐らく一晩中かかる、と。
一方的に電話が切れ、すぐそばの青江を呆然と見上げる。
「どうしたんだい?不安そうな顔だねえ」
その顔はいつも通り、右半分髪に隠れてほとんど見えない。
薄手の紺色のパーカーにベージュのジャケット、細身のジーンズ。この時代に溶け込むための服はシンプルだが、とてもよく似合っている。
っと、見とれている場合ではなかった。
「……とにかく夜を越せる場所を探さないと」
「そうだね、僕はともかく、只人の主を野宿させるわけにはいかない」
電話の内容を説明するも動揺の様子はなく、うんうんと鷹揚に頷いて、青江がひょいと私の背後に向かって指をさす。その先に、
「……ワオ」
ホテルがあった。あの外観はおそらく、ビジネスホテルではない。そう、きっと、ラブホテル。
いやそれはさすがにダメなのでは、と思う反面、私たちはあくまで神様と只人であって、恋仲になどなり得ないのだから何も問題ないとも思う。
そんな私の葛藤をよそに、青江は涼しい顔でそのホテルに向かって歩き出していた。
「いやいやいや、ちょっと待っ「一度入ってみたかったんだよねえラブホテル。ふふっ」──確信犯かよ…」
興味津々な青江が、力の抜けた私をグイグイと引っ張っていく。もうどうとでもなれと、釣られて足を動かすことほんの数分。
「……ワオ」
チェックインして部屋に入るとそこには、なんとも、おそらく古風な、ラブホテルの情景が広がっていた。
丸いベッドは、全体的に赤い。それにガラス張りのシャワールーム。電気が二種類あり、通常の蛍光灯と、ムーディーな薄いピンク色の間接照明。
なんて、なんて古風な。これでベッドが回ったら完璧なのでは。いや、ラブホテルのなにを知っているわけではないのだけれど。
青江はというと、部屋の中をとても楽しそうに見て回り、満足した様子でベッドに腰掛けた。
「すごいねえ」
「うん、楽しそうで何よりだよ」
呆れ半分、安堵半分。チェックインの前に買ってあったコンビニおにぎりとお茶をテレビの脇に置き、青江の隣に腰掛ける。
安心したからか、急に脱力感に襲われた。抗うことなく、そのまま後ろに倒れる。
「お疲れ様。シャワーはいいのかい?」
明日でいいかなあ、でもさっぱりしたい気持ちもある、ああでも眠い。そんな葛藤の中目を閉じる。ここなら歌仙に怒られることもないし、寝てしまおうか。
「主、寝るならちゃあんと布団にお入り」
ほら、青江は怒りはしない。
「うーん……」
「でなければ──」
不意に天井から降る光が遮られた気がして、目を開ける。そこに、あったのは。
「──食べてしまうよ」
「う!?」
「おにぎりを、主の分までね」
にっかりと、笑う青江と至近距離で目が合う。
無言のままコクコクと頷き布団に潜り込んで。赤くなっているであろう顔と、ドクドクとうるさい心音を隠したくて頭の上まで布団に潜り込んだ。
今のは完全に不意打ちだった。私の気持ちはもうバレバレかもしれない。
神様相手に隠し事なんて通用しない、のかも知れないけど。せめて青江が知らないふりをしてくれている間は、このままただの主と刀でいたい。
楽しそうにクスクス笑っていた青江が、電気はどうする、と聞いてきて。震える声で、全部消してと答えた。
途端に暗闇に包まれて、そのまま目を閉じる。
「おやすみ、主」
さすがに寝ずの番をしてくれるだろう青江が、優しい声で私を呼ぶ。
それだけで震えそうなほど嬉しいことは、まだ教えてあげない。
「おやすみ」
今は、まだ。
20190429
「え?待ってくださいどういうことですか」
突然の政府からの入電。
本丸に入るためのチャンネルがなんらかの影響でおかしくなっており、現在出入りができない状況であると。
原因究明と解消に、恐らく一晩中かかる、と。
一方的に電話が切れ、すぐそばの青江を呆然と見上げる。
「どうしたんだい?不安そうな顔だねえ」
その顔はいつも通り、右半分髪に隠れてほとんど見えない。
薄手の紺色のパーカーにベージュのジャケット、細身のジーンズ。この時代に溶け込むための服はシンプルだが、とてもよく似合っている。
っと、見とれている場合ではなかった。
「……とにかく夜を越せる場所を探さないと」
「そうだね、僕はともかく、只人の主を野宿させるわけにはいかない」
電話の内容を説明するも動揺の様子はなく、うんうんと鷹揚に頷いて、青江がひょいと私の背後に向かって指をさす。その先に、
「……ワオ」
ホテルがあった。あの外観はおそらく、ビジネスホテルではない。そう、きっと、ラブホテル。
いやそれはさすがにダメなのでは、と思う反面、私たちはあくまで神様と只人であって、恋仲になどなり得ないのだから何も問題ないとも思う。
そんな私の葛藤をよそに、青江は涼しい顔でそのホテルに向かって歩き出していた。
「いやいやいや、ちょっと待っ「一度入ってみたかったんだよねえラブホテル。ふふっ」──確信犯かよ…」
興味津々な青江が、力の抜けた私をグイグイと引っ張っていく。もうどうとでもなれと、釣られて足を動かすことほんの数分。
「……ワオ」
チェックインして部屋に入るとそこには、なんとも、おそらく古風な、ラブホテルの情景が広がっていた。
丸いベッドは、全体的に赤い。それにガラス張りのシャワールーム。電気が二種類あり、通常の蛍光灯と、ムーディーな薄いピンク色の間接照明。
なんて、なんて古風な。これでベッドが回ったら完璧なのでは。いや、ラブホテルのなにを知っているわけではないのだけれど。
青江はというと、部屋の中をとても楽しそうに見て回り、満足した様子でベッドに腰掛けた。
「すごいねえ」
「うん、楽しそうで何よりだよ」
呆れ半分、安堵半分。チェックインの前に買ってあったコンビニおにぎりとお茶をテレビの脇に置き、青江の隣に腰掛ける。
安心したからか、急に脱力感に襲われた。抗うことなく、そのまま後ろに倒れる。
「お疲れ様。シャワーはいいのかい?」
明日でいいかなあ、でもさっぱりしたい気持ちもある、ああでも眠い。そんな葛藤の中目を閉じる。ここなら歌仙に怒られることもないし、寝てしまおうか。
「主、寝るならちゃあんと布団にお入り」
ほら、青江は怒りはしない。
「うーん……」
「でなければ──」
不意に天井から降る光が遮られた気がして、目を開ける。そこに、あったのは。
「──食べてしまうよ」
「う!?」
「おにぎりを、主の分までね」
にっかりと、笑う青江と至近距離で目が合う。
無言のままコクコクと頷き布団に潜り込んで。赤くなっているであろう顔と、ドクドクとうるさい心音を隠したくて頭の上まで布団に潜り込んだ。
今のは完全に不意打ちだった。私の気持ちはもうバレバレかもしれない。
神様相手に隠し事なんて通用しない、のかも知れないけど。せめて青江が知らないふりをしてくれている間は、このままただの主と刀でいたい。
楽しそうにクスクス笑っていた青江が、電気はどうする、と聞いてきて。震える声で、全部消してと答えた。
途端に暗闇に包まれて、そのまま目を閉じる。
「おやすみ、主」
さすがに寝ずの番をしてくれるだろう青江が、優しい声で私を呼ぶ。
それだけで震えそうなほど嬉しいことは、まだ教えてあげない。
「おやすみ」
今は、まだ。
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