ss/刀剣
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審神者という仕事についてからはや半年が経とうとしていた。
私は最近、戦力の見直しを進めていた。考えることは尽きず、ついつい夜中まで机に向かっていた。
そんなある日。
またぞろ机に向かっていると、部屋の外に誰かの気配。
「主、少々根を詰めすぎてはおらんか?燭台切りが夜食を用意しておったので持ってきたぞ」
「ありがとう。もらうよ」
滑り込むように入って来た宗近は、広がった書類を器用に避けて、私のそばまでやって来た。
「これでひと息入れてくれ。もう休んだ方が良い刻限だが…まだ終わらぬのであろう?」
「うん…」
返事をしながら、頭を抱える。でも、今日はもう寝た方がいいかもしれない。さっきからほとんど進んでいないのだから。
ひとまず机の上の書類を端に寄せ、夜食とやらを受け取る。
おにぎりが一つに、味噌汁、それにお茶と梅酒が一杯。光忠からももう寝ろと言われているようだ。
「ふふ、叶わないなぁ」
「さ、召し上がれ」
宗近は私の頭にぽんと手を乗せると、ごく自然に、驚くほど自然に、私の後ろに座り、私を包み込むように腕を腹部に回した。
「いただーっー!?む、むねちかさん?」
「うん?ああ、ハグするとストレスが緩和するとテレビでやっていたのを見てな。どうだ?」
どうも何も、ストレスどうこうよりも心臓に悪い。どくどくと早鐘を打つ心臓を抑えるすべもなく、口に入れたばかりの白米を咀嚼する。
「そんなに腹が減っていたのか?」
宗近が笑っている振動が伝わってくる。お互いに浴衣なのだから当たり前だ。私の心臓の音も届いているに違いない。絶対に確信犯だ。
耳元で優しい声で話しているのも、自分がどう思われていてどうすれば魅力的なのか、分かってやっている。絶対に。
「主、ほら、慌てすぎだ」
無心になりきれぬままひたすら夜食を食べ進めていると、ツイ、と顎を持ち上げられた。宗近らが私の口元についていた米粒をつまみとり、そのままぺろりと口に入れる。
「ん?」
首を傾げながらこっちを見ないでほしい。しかも至近距離で。
ひときわ大きく跳ねた心臓を落ち着けるように、ぐいと梅酒を流し込んだ。
「ご、ゴチソウサマデシタ」
「うむ。燭台切りには礼を言っておかねばな」
そう言いながら、宗近の腕は私を抱きしめたまま離さない。
「あの、む、むねちかさん?そろそろ離して…」
「いやじゃ」
「なっ…」
ただをこねる子供のように、プイと向こうを向く宗近に言葉を失いかける。
「主が他の男の事ばかり考えておるから仕置きだ」
「な、なにをーー」
「じじいの我儘である事は分かっておる。それでも……」
首元にすがりつくように顔を埋める宗近。少し、くすぐったい。
「むねちか、さん。逃げたりしないから、離してくれますか」
少し緩んだ腕の中で、くるりと体を反転させる。膝立ちで、少し上から宗近を見下ろす。
「本当に、あなたは綺麗ね」
整った顔立ち。初めて出会った時から、瞳がとても好きだとは思っていた。
両頬に手を当てて真正面から顔を見ていると、宗近がふいに目を伏せた。
「あまりじじいをからかうな」
先ほどまでの余裕は何処へやら、ぽそりと拗ねたように呟く。
「驚いた。宗近さんでも照れるんだ」
そんな軽口を叩いた瞬間、緩んでいた宗近の腕に力がこもった。
腰のあたりでがっちりとホールドされ、膝立ちだった私はされるがまま宗近の頭を抱きしめる形となる。
「からかうなと、言ったろう?」
胸元で、宗近がこちらを見上げる。
「すごいな」
何が、とは言わずとも私も分かっている。先ほどまでと比べ物にならないほど早い心臓の音。おそらく真っ赤な頬。
「あるじ、あるじ」
言いながら、胸に顔を埋める宗近。表情が見えなくなる。
「な、何でしょう」
「主の1番でありたい」
「うん。宗近さんが1番だよ」
これは迷わず答えられる。新しい合戦場へ向かう時など、ここぞという時は必ず宗近を隊長に選ぶ。それはこれからも変わらないだろう。
「主の唯一でありたい」
「うん。ごめん、それはできない。お仕事の、時はね」
では仕事でない時はどうかと問われれば、答えに窮する訳だけれど。宗近はそれ以上問いを続けることはなかった。
「私が眠るまでそばにいてくれる?」
「…うむ、心得た」
ようやくホールドが緩み、宗近の腕の中から抜け出すと、そのまま布団に入る。
「ゆっくりおやすみ、主」
優しい大きな手が頭を撫でる。
それがあまりにも気持ちよくて、すぐに意識を手放してしまった。
本当はもっと、一緒にいたかったのに。
おやすみあるじ。またあした
20170905
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