middle/あまいなみだ
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五連勤を乗り越えて意地でも定時で上がり、帰宅後に散々悩んだ昨夜。けれど起きてからもまた少し着るのを躊躇った。
久しぶりのシンプルなワンピースも、どこに行くのか聞かされていないので歩きやすいようにとローヒールにしたのも、裏目に出ないことを祈りながら鏡を見る。
「大丈夫、普通に、普通に」
そもそもスカートをほとんどはかないので、スカートを選んだ時点で自分の中ではかなりおしゃれ度は高いのだ。ただ、それは世間から見れば別に普通であることも分かっている。
こんなにそわそわするのは、それこそ初彼氏以来かもしれない。こんな歳になってまたこんな経験をすることになるとは、思ってもみなかった。
「大丈夫、かわいい、と思う」
最後にもう一度自分に言い聞かせて。
待ち合わせの新宿駅は広い。かなり早めに家を出た。
最寄駅まで歩き、新宿へ向かう。一本なので、特に間違える心配もない。
新宿の一つ手前の駅に着いた時、陣内さんからメールが来た。
『おはよう。その電車で行くから、改札出ないで5番ホームの真ん中あたりにいて』
昨夜の待ち合わせについての連絡もそっけなかったが、今回もだ。
あの音声通話以来、用件しか交わしていない。仕事では元々絡むことはそう多くはないし、それを思うとなぜ私なんかに興味を持ったのか、不思議だった。
『了解しました。まもなく着きます』
返信したところで、少しばかり不安になる。たとえばもし、もしも、私が陣内さんから感じているこれが好意でなかったら。好意に見せかけた、別のものだったら。
もやもやと黒いものが胸の中に広がる。
5番ホームに到着しても気持ちは晴れず、思わず眉間にしわを寄せた時、
『おはよう』
それだけのメールが来て、首をかしげた。
「おはよう。アスターちゃん」
「じ、陣内さん」
突然呼ばれて振り向くと陣内さんは真後ろにいた。いや、それより今、名前を呼ばれた。
「……あ、やだ?」
その聞き方はずるい。前も思ったけれどそんな、嫌と言いにくい聞き方はずるい。
「いやでは、ないですけど、」
「けど?」
「なんかズルイ」
「ははっごめん。でも、ずるい大人だから、諦めて?」
その笑顔も、ずるい。先ほどまでもやもやとしていた胸中は、すっかり陣内さんに塗り替えられてしまっていた。