middle/あまいなみだ
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目覚めて最初に見えたのは、陣内さんの顔だった。それも、こちらをじいっと見つめている、陣内さんの。
「……おはよう、ございます?」
「おはよう。アスターちゃん」
どうやら寝顔を観察されていたようだと気づき、布団をたくし上げて鼻まで隠した。
そんな私を見て、くすくすと笑いながら私の頭を撫でる陣内さん。
けれどすぐに真剣な表情になって、そのまま聞いて、と話し出した。
「順番がごちゃごちゃしちゃってごめん。……アスターちゃん、好きです。お付き合いしてくれますか?」
歳が歳だし色々と考えることもあるけど、とりあえずはそこから、と、ほんの少し照れのある笑顔で。
言葉をもらえていなかったことへの不安がないわけではなかったので、見透かされている気もしたけれど。それよりも、昨夜あんな事やこんな事をしておきながら、言葉にするのは照れるというのがなんとも面映ゆい。
「……本当に、私なんかで、いいんですか」
しょっちゅう後ろ向き全開だし、泣き虫だし、怖がりだし。顔だって普通だし、本当に不思議だ。なぜ、陣内さんが私に興味を持ったのか。
嬉しい、の前に、どうしてもそんな考えが駆け巡る。
「あのね。好いた惚れたの前に、家族になりたいって思ったのは、アスターちゃんが初めてなんだ。こんなこと言うと重いと思われるかもしれないけど、本当のことを言うと、家族になってほしいんだよね」
その言葉に、じわりと涙がにじむ。やはり、気持ちは見透かされているようだ。
「こんなおじさんはいや?」
その問いかけに、まさか、と首を横に振る。
「じゃあ、お嫁さん候補になってくれる?」
「……は、い」
嗚咽をこらえながらなんとか返事をすると、陣内さんは優しく微笑んで私を抱き寄せた。
聞こえてくる鼓動は、早朝に感じたそれよりかなり速く、こんな人でも緊張するのかと少し驚いて、嬉しくなった。
そうっとこちらからも背中に腕を回して、陣内さんを──理一さんを、見上げる。
「理一、さん」
「ん?」
「怖いくらい、好きです」
言ったと同時に涙が両目から溢れて、鼻筋でせき止められたそれを、理一さんがぺろりと舐め取る。
「やっぱり、あまい」
いたずらが成功した少年のように目を輝かせるその人に、どうしようもなく惹かれている。
まだ少し恐怖感は残ってはいるけれど、一緒に向き合ってくれる人がいる。不安な気持ちに寄り添ってくれる人がいる。
まだたくさん泣いてしまうだろうし、一生こんな泣き虫のままかもしれない。
それでも、共に歩んで行きたいと言ってくれるから。
ゆっくりかもしれないけれど、応えたいと思う。
「そういえば、アスターちゃんってこう、もっと困らせたいもっと泣かせたいと思うような顔するときあるんだよね……」
「な、」
何言ってるんですかこのドS!言おうとしたけれど、理一さんの唇で塞がれてしまった。抱きしめられているので、逃げることは叶わない。
ぐずぐずしていたら、理一さんがさっさと私を抱きかかえて歩き出す様子がぼんやりと浮かんだ。
それはきっとそう遠くない未来だと、思った。
fin
→あとがき