middle/あまいなみだ
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振動でメールが来たことに気づき、トイレへ来て見てみると、送信元は愛佳だった。
『今日のこと教えてくれるなら明日のシフト代わってあげます』
いつもは絵文字の三つや四つある愛佳のメールだが、今日は文字だけだった。
思わずコールボタンを押すと、ワンコールで愛佳の声が聞こえて来る。
『お楽しみ中ですかぁ〜?』
「あ、愛佳サン、怒ってます?」
『怒ってないですけど、ちょっと拗ねてますぅ。それで?』
「えと、今新宿のバーで飲んでて」
『へぇえ〜。もうハッピーエンド直前ってカンジじゃないですかぁ』
とっととくっつけコノヤロー、と愛佳は少々投げやりだ。
「そんな簡単に言わないでよ……」
『センパイ、考えすぎだしホント怖がりですね。そんなことだろうと思いましたけど』
いいですか。愛佳は少し改まった雰囲気で話しだす。
『センパイがアタシに自分を大事にしろって言ったんですよ。だからアタシも言います。センパイはいい加減諦めて、ぜーんぶ洗いざらい陣内さんに見て知ってもらって、そんで全部抱きしめてもらいなさい。以上』
じゃあ明日は私出勤しますからごゆっくり♡そう、言うだけ言って一方的に通話が終わる。
「そんな、簡単に言わないでよ……」
ふと鏡を見ると、アルコールのせいもあるけれど、真っ赤で情けない顔の自分がいて、ますます恥ずかしくなる。
ぐるぐると考えないようにしよう、とは思ったものの、イザ進展しそうになったらまた二の足を踏んでいる。
両親が死んでからというもの、ずっとこんな調子だ。好きになった人には今一歩踏み込めない。好きになってくれた人には、自分の素を出し切れない。
今回は両方、だろうか。両方だと思っていて足元をすくわれはしないだろうか。
もうかなり泣いているところは見られてしまっている気がするけれど、これ以上そんな私を見せてしまって呆れられやしないだろうか。
そんな考えを全部ないものとして考えたら、私はいったいどうするだろう。
「やっぱり、わかん、ないな……」
ないものになんてできない。そういう面も含めて私なのだから。
いろんな気持ちを抱えたまま、それでもどうしたいかを探して行くしかない。
アルコールの力に頼るのもありかなぁ、と、次に何を頼むか考えながらトイレを後にした。
少し強めのカクテルを、と定番のカルーアミルクやルシアンを飲んだ。ふわふわと心地よい浮遊感に包まれている。こんなに飲んだのは久しぶりだ。
「アスターちゃん、結構強いの飲んでたけど大丈夫?」
「はい。だいじょぶ、です」
と言いながら、エレベーターから降りる足取りは少々怪しい。よろめいて思わず、隣にいる陣内さんに手を伸ばす。
「ほら、こっち」
その手を誘導され、互いの腕を絡めて、これで安心だね?と陣内さんが私の頭を撫でる。
これはもう、恋人同士にしか許されないやつでは、と後になって思うのだけれど、
「へへへ〜」
酔った私は、慌てるでも照れるでもなく、嬉しさのあまり陣内さんにぴたりとくっついて歩いた。
「ううん……アスターちゃん、飲み会とかであんまり飲んじゃダメだよ?」
「だいじょぶですよー。普段は一杯しか飲みません」
それは本当だ。よほどのことがない限り、1人の時も、職場の飲み会等でも、お酒は一杯ですぐソフトドリンクを注文する。
「さ、帰ろう?送るよ」
その一言で、嬉しくてフワフワしていた気持ちは何処へやら、一瞬のうちに崖っぷちに立たされた気分になった。
「……アスターちゃん?」
急に立ち止まった私に、心配そうな陣内さん。
「……た──い…」
思うように声は出なくて、
「うん?」
「……、うーっ」
代わりに涙が溢れる。
「この泣き虫め」
陣内さんはぐしゃりと私の髪をかき混ぜた後、人通りの多い夜の新宿の街を、ぐいぐいと引っ張っていく。
途中、居酒屋やカラオケの客引きに何度も声をかけられて、泣きながらもどこか冷静に、こんなに声をかけられるものなのかと驚いた。
大通りに出ると、すぐに陣内さんがタクシーを止め、腕を解かれ後部座席に押し込まれる。
「あ、や──」
嫌だ。あの、ひとりの、暗い家に帰りたくない。
なんとかして伝たいと見上げると、
「ほら、もうちょっと向こう行って」
「う、あっ!?」
数センチの超至近距離に陣内さんの顔があって、驚いて飛び退く。
運転手さんに告げた行き先はもちろん私の家の住所ではなく。
驚いた拍子に止まった涙が、またじわりと滲む。
嫌だ。
それもまた、怖い。
ホント怖がりですね。そう言う愛佳の声がよぎったけれど、怖くてどうしようもなかった。
『今日のこと教えてくれるなら明日のシフト代わってあげます』
いつもは絵文字の三つや四つある愛佳のメールだが、今日は文字だけだった。
思わずコールボタンを押すと、ワンコールで愛佳の声が聞こえて来る。
『お楽しみ中ですかぁ〜?』
「あ、愛佳サン、怒ってます?」
『怒ってないですけど、ちょっと拗ねてますぅ。それで?』
「えと、今新宿のバーで飲んでて」
『へぇえ〜。もうハッピーエンド直前ってカンジじゃないですかぁ』
とっととくっつけコノヤロー、と愛佳は少々投げやりだ。
「そんな簡単に言わないでよ……」
『センパイ、考えすぎだしホント怖がりですね。そんなことだろうと思いましたけど』
いいですか。愛佳は少し改まった雰囲気で話しだす。
『センパイがアタシに自分を大事にしろって言ったんですよ。だからアタシも言います。センパイはいい加減諦めて、ぜーんぶ洗いざらい陣内さんに見て知ってもらって、そんで全部抱きしめてもらいなさい。以上』
じゃあ明日は私出勤しますからごゆっくり♡そう、言うだけ言って一方的に通話が終わる。
「そんな、簡単に言わないでよ……」
ふと鏡を見ると、アルコールのせいもあるけれど、真っ赤で情けない顔の自分がいて、ますます恥ずかしくなる。
ぐるぐると考えないようにしよう、とは思ったものの、イザ進展しそうになったらまた二の足を踏んでいる。
両親が死んでからというもの、ずっとこんな調子だ。好きになった人には今一歩踏み込めない。好きになってくれた人には、自分の素を出し切れない。
今回は両方、だろうか。両方だと思っていて足元をすくわれはしないだろうか。
もうかなり泣いているところは見られてしまっている気がするけれど、これ以上そんな私を見せてしまって呆れられやしないだろうか。
そんな考えを全部ないものとして考えたら、私はいったいどうするだろう。
「やっぱり、わかん、ないな……」
ないものになんてできない。そういう面も含めて私なのだから。
いろんな気持ちを抱えたまま、それでもどうしたいかを探して行くしかない。
アルコールの力に頼るのもありかなぁ、と、次に何を頼むか考えながらトイレを後にした。
少し強めのカクテルを、と定番のカルーアミルクやルシアンを飲んだ。ふわふわと心地よい浮遊感に包まれている。こんなに飲んだのは久しぶりだ。
「アスターちゃん、結構強いの飲んでたけど大丈夫?」
「はい。だいじょぶ、です」
と言いながら、エレベーターから降りる足取りは少々怪しい。よろめいて思わず、隣にいる陣内さんに手を伸ばす。
「ほら、こっち」
その手を誘導され、互いの腕を絡めて、これで安心だね?と陣内さんが私の頭を撫でる。
これはもう、恋人同士にしか許されないやつでは、と後になって思うのだけれど、
「へへへ〜」
酔った私は、慌てるでも照れるでもなく、嬉しさのあまり陣内さんにぴたりとくっついて歩いた。
「ううん……アスターちゃん、飲み会とかであんまり飲んじゃダメだよ?」
「だいじょぶですよー。普段は一杯しか飲みません」
それは本当だ。よほどのことがない限り、1人の時も、職場の飲み会等でも、お酒は一杯ですぐソフトドリンクを注文する。
「さ、帰ろう?送るよ」
その一言で、嬉しくてフワフワしていた気持ちは何処へやら、一瞬のうちに崖っぷちに立たされた気分になった。
「……アスターちゃん?」
急に立ち止まった私に、心配そうな陣内さん。
「……た──い…」
思うように声は出なくて、
「うん?」
「……、うーっ」
代わりに涙が溢れる。
「この泣き虫め」
陣内さんはぐしゃりと私の髪をかき混ぜた後、人通りの多い夜の新宿の街を、ぐいぐいと引っ張っていく。
途中、居酒屋やカラオケの客引きに何度も声をかけられて、泣きながらもどこか冷静に、こんなに声をかけられるものなのかと驚いた。
大通りに出ると、すぐに陣内さんがタクシーを止め、腕を解かれ後部座席に押し込まれる。
「あ、や──」
嫌だ。あの、ひとりの、暗い家に帰りたくない。
なんとかして伝たいと見上げると、
「ほら、もうちょっと向こう行って」
「う、あっ!?」
数センチの超至近距離に陣内さんの顔があって、驚いて飛び退く。
運転手さんに告げた行き先はもちろん私の家の住所ではなく。
驚いた拍子に止まった涙が、またじわりと滲む。
嫌だ。
それもまた、怖い。
ホント怖がりですね。そう言う愛佳の声がよぎったけれど、怖くてどうしようもなかった。