middle/あまいなみだ
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ほんの少し日が傾いて来た。
海の向こうに見える江ノ島が、ほんのり赤みを帯びている。
服はほとんど乾いて、下着も透けなくなっていた。
「さて、何から見る?」
空き缶を捨てると、陣内さんはすぐにわたしの右手をとって歩き出す。
「お、すぐそこがペンギンだ。そういえばアスターちゃんのアバターペンギンだったね」
言いながら近づいていく。ガラスの向こうには、フンボルトペンギンがたくさんいた。
「あ、隣、アザラシですね」
「本当だ。ここだったらずっと一緒なんだな」
陣内さんと私のアバターが水槽の中でおしゃべりしている様子を想像して、少し可笑しかった。
「ここのペンギン達、みんな家族なんですね」
水槽の上にある画面には、家系図のようにペンギン達が紹介されている。
「本当だ。うちの家族みたい」
「え、そんなに親戚多いんですか」
「集まるともう大変で。30人くらいかなあ。甥っ子姪っ子はまだ小さいし騒がしいよ」
もうちょっと大きくなって来たら今度は正月のお年玉が馬鹿にならない、と苦笑する。
陣内さんのご実家は長野であること、お姉さんがいること、お祖母様の誕生日には親戚一同が集まること、他にも色々と、家族のことを話してくれた。
「おばあさまって、おいくつなんですか?」
「今年で89歳。まだまだ元気だよ」
「へえ、すごい、親戚が集まったら、4世代になるんですね」
典型的な核家族だったのでリアルに想像はできないけれど、きっと賑やかな食卓だろうなと思う。
ペンギン達は、気ままに泳いだり陸でぼんやりしていたりとまとまりがない。きっとこんな感じなのだろうと、陣内さんの育って来た環境に思いを馳せた。
一旦入り口まで戻り順路通りに見ようということになり、相模湾のコーナーから順番に回る。
どこにカニがいるの?と、小さな水槽を一緒に探したり、頭上を通り過ぎるエイを2人して口をぽかんと開けて眺めたり、円形の窓から身を乗り出して水槽を覗き込んだり。ひときわ大きな水槽の前にはベンチがあり、座ってぼんやりと魚達を観察したり。
ほとんど無言だったけれど決して苦痛ではなく、繋がれた手がずっと暖かくて。
「クラゲって、無になれますね」
「だね」
今はブラックライトの中を漂うクラゲを、ただぼんやりと眺めている。
何も考えていないようにも見えるし、思慮深げにも見える。クラゲはそんなところが好きだ。
ぐるぐると考えることはあるけれど、今はーー家に帰るまでは忘れていよう、そう思った。
ちょうどその時、繋がれた右手がそっと離されて。反射的に陣内さんを見ると、今度は指を絡めて。いわゆる、恋人つなぎになった。
「っ……」
微かに笑う陣内さんから、思わず顔をそらしてクラゲへ視線を移す。
ブラックライトでよかった。きっと今私の顔は、真っ赤だ。