第8章 "ボス"
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タバコの葉をひとつまみくるりと巻き、窓の外に視線をやる。船尾を向いた窓から見える景色は単調で、それでいて飽きることはない。
船が通った後にできる波紋を視界の端に捉えながら、単純作業を繰り返す。
もう少しで最初に仕入れたタバコの葉がなくなるので、またブレンド配分を考えねばならない。ウォーターセブンに着いて時間が取れたら、陸地でゆっくり作業したいところだ。
仮眠をとったので今日の作業は少し遅れているが、まだ挽回できる範囲だ。できる限り進めなければと、ひたすら作業に集中する。
そうして今日の作業の目処がついたのは、いつも食事の準備を手伝い出す時間だった。
「あ、しまった……」
自主トレーニングのことをすっかり忘れていた。明日少し多めにやるようにしよう。
ともかく食事の準備を手伝いに行こうと机の上を片付け、キッチンへ向かう。
ハシゴを降りたところで、船がぐらりと大きく揺れた。
「っと、うわ」
いや、違う。揺れたのは船ではなく、自分自身だった。バランスを崩して膝をつく。
そこでようやく気づいた。
いったい何時間、クロコダイルに触れていない?頭痛はまだわずかだけれど、目眩がしてうまく歩けない。
6時間をとうに超えている気がして、余計に目眩がする。急に身体が重く感じるようになり、どこと言わず、内臓が痛み出す。
壁伝いになんとかキッチンにたどり着いた途端、
「アスターさん!?大丈夫ですか、ひとまず医務室へ」
ロッシュさんに軽々と抱えられ、すぐ隣の医務室のベッドへ放り込まれる。
「なに、今度はどうしたの?」
さっきの今で少々呆れ気味のモリスが、それでも触診をしてくれる。
「……おなか、いたい」
目眩だと思っていたものの原因にようやく思い当たり、やれやれ、どうやら今回はかなり重いようだと内心頭を抱えた。
「モリスごめん、月イチのやつ……痛み止めください……」
熱心に心音を聞いていたモリスに、小声でそう言うのとほぼ同時に扉が勢いよく開いた。
「あ、っ……ボス」
サー、と言いかけてどうにかこうにかボスと呼ぶ。線引きをする為に自分でそう呼ぶと決めたのだ。この感情を、心の奥底へ押し込める為に。
クロコダイルは無言で私の寝そべるベッドのそばまで来ると、ゆっくりかがんで、するりと一瞬だけ額を撫でた。
少し冷たい、乾いた指先。後に残るざらついた感触に、どうしても胸が苦しくなる。
ダメだ、これ以上好きになっちゃいけない。
目を閉じて、額に残る感触をかき消そうと自分でも触ってみる。
この感覚を、あと何度味わうことになるんだろう。海上にいる間、何回触れなれけばならないんだろう。
きっと、ラフテルにたどり着くまでに、気が遠くなるほどの数になるんだろう。
この気持ちがなくなって、胸の痛みを忘れられる日が本当に来るのかな。
何度擦ってみても、額の砂っぽさは拭えない。胸につかえた痛みも、そこに居座ったままだ。
微かにため息をつきながら目を開けると、クロコダイルはもう医務室からいなくなっていた。
船が通った後にできる波紋を視界の端に捉えながら、単純作業を繰り返す。
もう少しで最初に仕入れたタバコの葉がなくなるので、またブレンド配分を考えねばならない。ウォーターセブンに着いて時間が取れたら、陸地でゆっくり作業したいところだ。
仮眠をとったので今日の作業は少し遅れているが、まだ挽回できる範囲だ。できる限り進めなければと、ひたすら作業に集中する。
そうして今日の作業の目処がついたのは、いつも食事の準備を手伝い出す時間だった。
「あ、しまった……」
自主トレーニングのことをすっかり忘れていた。明日少し多めにやるようにしよう。
ともかく食事の準備を手伝いに行こうと机の上を片付け、キッチンへ向かう。
ハシゴを降りたところで、船がぐらりと大きく揺れた。
「っと、うわ」
いや、違う。揺れたのは船ではなく、自分自身だった。バランスを崩して膝をつく。
そこでようやく気づいた。
いったい何時間、クロコダイルに触れていない?頭痛はまだわずかだけれど、目眩がしてうまく歩けない。
6時間をとうに超えている気がして、余計に目眩がする。急に身体が重く感じるようになり、どこと言わず、内臓が痛み出す。
壁伝いになんとかキッチンにたどり着いた途端、
「アスターさん!?大丈夫ですか、ひとまず医務室へ」
ロッシュさんに軽々と抱えられ、すぐ隣の医務室のベッドへ放り込まれる。
「なに、今度はどうしたの?」
さっきの今で少々呆れ気味のモリスが、それでも触診をしてくれる。
「……おなか、いたい」
目眩だと思っていたものの原因にようやく思い当たり、やれやれ、どうやら今回はかなり重いようだと内心頭を抱えた。
「モリスごめん、月イチのやつ……痛み止めください……」
熱心に心音を聞いていたモリスに、小声でそう言うのとほぼ同時に扉が勢いよく開いた。
「あ、っ……ボス」
サー、と言いかけてどうにかこうにかボスと呼ぶ。線引きをする為に自分でそう呼ぶと決めたのだ。この感情を、心の奥底へ押し込める為に。
クロコダイルは無言で私の寝そべるベッドのそばまで来ると、ゆっくりかがんで、するりと一瞬だけ額を撫でた。
少し冷たい、乾いた指先。後に残るざらついた感触に、どうしても胸が苦しくなる。
ダメだ、これ以上好きになっちゃいけない。
目を閉じて、額に残る感触をかき消そうと自分でも触ってみる。
この感覚を、あと何度味わうことになるんだろう。海上にいる間、何回触れなれけばならないんだろう。
きっと、ラフテルにたどり着くまでに、気が遠くなるほどの数になるんだろう。
この気持ちがなくなって、胸の痛みを忘れられる日が本当に来るのかな。
何度擦ってみても、額の砂っぽさは拭えない。胸につかえた痛みも、そこに居座ったままだ。
微かにため息をつきながら目を開けると、クロコダイルはもう医務室からいなくなっていた。