第8章 "ボス"
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「アスター、おはよう」
何度か、肩のあたりを叩かれて意識が浮上する。
「ン、え……?」
「え?じゃない、そろそろ起きて船長室に戻らないと、ボスの眉間のシワが増える一方だよ」
まるで見てきたかのような物言いに、このくらいの事で何を言っているのかと失笑する。
「こら、笑い事じゃない。僕がとばっちりを受けるのはやだよ」
まるで本気のモリスに、渋々ベッドを抜け出す。
「……わかった戻る」
幾分か熟睡できたようで、身体はかなり軽くなった。
頭がまだ少しぼうっとするが、これは長時間クロコダイルに触れていないせいかもしれない。そろそろ頭が痛くなってきてもおかしくない時間だ。
全く、いつのまにこんな不便な身体になってしまったのやら。海の加護というものが一体何なのか、知りたい気持ちがじわじわ大きくなりつつあった。
けれど、それよりはるかに重く私にのしかかる問題があった。
「はあ……」
船長室につながる梯子を前に、溜め息が漏れる。
昨日の、夕食後のことだ。珍しくクロコダイルも含めて全員で食事を済ませた後。
「ボスはアスターのこと、好きなんすよね?」
軽い調子で、ヘンリーが尋ねる声が外から聞こえて来た。船尾を向いた窓の外、きっとダイニングを出てすぐの場所にいるのだろう。
聞く気は無かったし、答えは聞きたくない、と思った。その思いとは裏腹に、私の身体はフリーズしたように動かず、窓を閉めようともしない。
だから、クロコダイルの答えもしっかりと聞こえていた。
「バカか。こんな小せェ船で、色恋でゴタつくなんざまっぴらごめんだ」
吐き捨てるような声が、突き刺さった。
ほうらね、好きだなんだって言わないで大正解だったじゃない。
いくら好きなのを止められないとしても、言わなければ知られることもない。誰にも知られなければ、"ゴタつく"こともない。
だから、大丈夫。とは言っても、クロコダイルと顔を合わせるのは無理だ、泣いてしまいそうで。
だから私は、ロッシュさんに断って皿洗いを途中で抜け、船長室の主人が戻ってくる前にソファで薄手の毛布にくるまった。
寝てしまえばいい。そうすれば顔を見ずに済む。ぎゅっと目をつむり、何か抱きかかえるように丸まった。
しばらくして。小さく軋んだ音がして足音が近づく。頬に、一瞬ざらついた指が触れて、震えそうになる身体を必死で抑える。
そして、そのまま一睡もできずに、夜明けを迎えた。
「はあ……」
再び大きな溜め息をついて、梯子を登る。物音のなかった船長室は無人で、ホッとして作業机に向かった。
何度か、肩のあたりを叩かれて意識が浮上する。
「ン、え……?」
「え?じゃない、そろそろ起きて船長室に戻らないと、ボスの眉間のシワが増える一方だよ」
まるで見てきたかのような物言いに、このくらいの事で何を言っているのかと失笑する。
「こら、笑い事じゃない。僕がとばっちりを受けるのはやだよ」
まるで本気のモリスに、渋々ベッドを抜け出す。
「……わかった戻る」
幾分か熟睡できたようで、身体はかなり軽くなった。
頭がまだ少しぼうっとするが、これは長時間クロコダイルに触れていないせいかもしれない。そろそろ頭が痛くなってきてもおかしくない時間だ。
全く、いつのまにこんな不便な身体になってしまったのやら。海の加護というものが一体何なのか、知りたい気持ちがじわじわ大きくなりつつあった。
けれど、それよりはるかに重く私にのしかかる問題があった。
「はあ……」
船長室につながる梯子を前に、溜め息が漏れる。
昨日の、夕食後のことだ。珍しくクロコダイルも含めて全員で食事を済ませた後。
「ボスはアスターのこと、好きなんすよね?」
軽い調子で、ヘンリーが尋ねる声が外から聞こえて来た。船尾を向いた窓の外、きっとダイニングを出てすぐの場所にいるのだろう。
聞く気は無かったし、答えは聞きたくない、と思った。その思いとは裏腹に、私の身体はフリーズしたように動かず、窓を閉めようともしない。
だから、クロコダイルの答えもしっかりと聞こえていた。
「バカか。こんな小せェ船で、色恋でゴタつくなんざまっぴらごめんだ」
吐き捨てるような声が、突き刺さった。
ほうらね、好きだなんだって言わないで大正解だったじゃない。
いくら好きなのを止められないとしても、言わなければ知られることもない。誰にも知られなければ、"ゴタつく"こともない。
だから、大丈夫。とは言っても、クロコダイルと顔を合わせるのは無理だ、泣いてしまいそうで。
だから私は、ロッシュさんに断って皿洗いを途中で抜け、船長室の主人が戻ってくる前にソファで薄手の毛布にくるまった。
寝てしまえばいい。そうすれば顔を見ずに済む。ぎゅっと目をつむり、何か抱きかかえるように丸まった。
しばらくして。小さく軋んだ音がして足音が近づく。頬に、一瞬ざらついた指が触れて、震えそうになる身体を必死で抑える。
そして、そのまま一睡もできずに、夜明けを迎えた。
「はあ……」
再び大きな溜め息をついて、梯子を登る。物音のなかった船長室は無人で、ホッとして作業机に向かった。