序章 旅の始まり
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クロコダイルの葉巻が半分ほど減った頃、部屋の扉をノックされた。
膝から降りるタイミングを完全に失ってしまっていたが、そこでようやく立ち上がる。
「入れ」
「ボス、失礼しやす!頼まれたもの持ってきました。ここに運んでいいんすか?」
「ああ」
運ばれて来たのは、あの白い部屋で使っていた棚と、その棚にあったものたちだった。
「私の……」
「ああ、すいやせん。盗賊に荒らされてて全部ってわけには行かなかったんすけど、できる限り回収してきました」
衣類はほとんど無傷で、本は少し破れている程度。ほんの少しあった化粧品の類がないところを見ると、きっと瓶が割れてしまったのだろう。唯一、衣類の中に落ちていた香水が無事だった。
「ありがとうございます」
「俺たちは命令を受けただけでさ!礼ならボスに」
ニカッと笑った男は、すぐに部屋から出て行った。
「ありがとうございます、サー」
「ああ、これもやる」
混ざってやがった、と差し出されたものを受け取る。
「これ……」
それは、20歳になった記念に撮った家族写真だった。どこで混ざり込んだのか、ベリーの束の間から出て来たという。
じわじわと迫り上がる、言葉にできない感情。
混ざっていたというのはきっと嘘だ。
この写真は、写真立てに入れて玄関に飾ってあったものだ。
手にとって、写真立てから外して懐に入れでもしない限り、こんな綺麗な状態で私の手元に届くことなんて。
ただの気まぐれ、だろうけれど。
「もう一度聞いておく。後悔しねェな?」
思えば、両親が死んでからようやく泣けた。それは、ソファで少々面倒臭そうな顔をして座っているこの男のおかげなのだ。
「しま、せん……つれてって、……っ」
もうそれ以降は、しゃくりあげてしまって言葉にならなかった。
クロコダイルは葉巻の煙を長々と吐き出して、分かったと答えた。
「出航する。先に寝ていろ」
白い棚の前でうずくまって泣く私の頭を、乱暴にグシャグシャとかき混ぜて、クロコダイルは部屋を出て行った。
殴られた後頭部が少し痛かったけれど、そんなことは気にならないくらいびっくりして、涙はすぐに止まった。
fin
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