第8章 "ボス"
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航海は順調だった。
海列車の線路と付かず離れず、半日に一回ほど列車とすれ違ったり追い越されたりしながら、ウォーターセブンへの航路を進んでいた。
この日は珍しく、舵と見回り担当のものを除き、ボスも含めた全員でダイニングで夕食をとった。そのあとボスは食後の一服に、オレは舵の交代の為に一緒に甲板へ出た。
「ボスと一緒にメシなんて、みんな喜んでましたよ」
「クハ、単純な野郎共だ」
葉巻をふかし、コートをはためかせるボスはどこまでも格好いい。かなりの強面だが、海賊らしくて童顔のオレは憧れてもいる。
「そういや、アスターのウデだいぶ上達しましたよ。海軍の一兵卒とならもうやりあえるかも」
「ああ、それァ結構」
その、当たり前だと言わんばかりの反応に、オレは少し調子に乗ってしまったのだ。これなら、少しは突っ込んでみても大丈夫なんじゃないか、と。
だから。
「ボスはアスターのこと、好きなんすよね?」
ドがつくほどストレートに、聞いた。
いつもなら皿洗いのためにキッチンにいるアスターが、ダイニングの窓際でこの会話を聞いているとも、知らずに。
「っ──……バカか。こんな小せェ船で、色恋でゴタつくなんざまっぴらごめんだ」
ほんの一瞬、確かに言い淀んだ言葉があった。それがなんだったのか、今となっては分からない。
ボスはあからさまに会話はこれで終わりだ、と船尾の方へ行ってしまい、半ば途方にくれる。ちょっと早すぎたかと、この時はまだそれくらいの認識だった。
事が深刻だと分かったのは、翌日の昼食、つまりついさっきの事だ。
今日はボスは船長室でお昼を食べるらしく、ダズさんと2人分の食事をオレが運んだ。そして、ボスがアスターにお前はダイニングへ行けと言った。
「分かりました、ボス」
と、アスターはそう返事をしたのだ。そう、アスターが、ボスのことを「ボス」と呼んだ。
それはそれは衝撃が走った。
オレも、ダズさんも、そして何よりボスその人も。
同時にアスターに視線が集まるが、彼女は気づかなかったのか気づかないフリか、そのままハシゴを降りてしまう。
これはヤバイ、と直感的に思った。
そしてその直感は、悪い意味で的中してしまったのだった。
いつもより笑わないアスターに、野郎どもがいくら話しかけたところで良い効果はなく。薄く笑っては俯きがちに食事を終え、いつもは最後まで手伝う皿洗いも、あまりに暗い顔をしているので途中でロッシュが切り上げさせた。
そして、今に至る。
「ゼッッタイボス機嫌悪いよ……賭けてもいい」
ボスがアスターに見せる執着が好意以外の何物でもない事は、この一味ほぼ全員が勘づいていた。その上で、あくまでそっとしてきた。
アスターの故郷を出る時はこのままお別れかとヒヤヒヤしたし、海に出たら出たで甲板には上がらせない過保護っぷりに驚いた(しかもアスターには保護されてる自覚ゼロ)し、夜中に船長室を覗き見ることが憚られると感じるほどだった。覗きの趣味はない、けど。
なんならもう既にデキているのではないかと思ったことも一度や二度ではない。
ま、それはオレの早とちりということになるか。
「はあ……」
盛大にため息をついて、ロッシュに急かされながら寝室へ向かった。
昨夜は夜通し舵の番だったので、本当は眠くて仕方ないのだ。アスターが落とした突然の爆弾に驚いて忘れかけていたけれど。
今更オレがどうこうしようとしても逆効果になる気がして、とにかく今は眠ろうとハンモックに身を投げた。
ああ、目が覚めたらボスとアスターの仲が元に戻っていたらいいのに。
海列車の線路と付かず離れず、半日に一回ほど列車とすれ違ったり追い越されたりしながら、ウォーターセブンへの航路を進んでいた。
この日は珍しく、舵と見回り担当のものを除き、ボスも含めた全員でダイニングで夕食をとった。そのあとボスは食後の一服に、オレは舵の交代の為に一緒に甲板へ出た。
「ボスと一緒にメシなんて、みんな喜んでましたよ」
「クハ、単純な野郎共だ」
葉巻をふかし、コートをはためかせるボスはどこまでも格好いい。かなりの強面だが、海賊らしくて童顔のオレは憧れてもいる。
「そういや、アスターのウデだいぶ上達しましたよ。海軍の一兵卒とならもうやりあえるかも」
「ああ、それァ結構」
その、当たり前だと言わんばかりの反応に、オレは少し調子に乗ってしまったのだ。これなら、少しは突っ込んでみても大丈夫なんじゃないか、と。
だから。
「ボスはアスターのこと、好きなんすよね?」
ドがつくほどストレートに、聞いた。
いつもなら皿洗いのためにキッチンにいるアスターが、ダイニングの窓際でこの会話を聞いているとも、知らずに。
「っ──……バカか。こんな小せェ船で、色恋でゴタつくなんざまっぴらごめんだ」
ほんの一瞬、確かに言い淀んだ言葉があった。それがなんだったのか、今となっては分からない。
ボスはあからさまに会話はこれで終わりだ、と船尾の方へ行ってしまい、半ば途方にくれる。ちょっと早すぎたかと、この時はまだそれくらいの認識だった。
事が深刻だと分かったのは、翌日の昼食、つまりついさっきの事だ。
今日はボスは船長室でお昼を食べるらしく、ダズさんと2人分の食事をオレが運んだ。そして、ボスがアスターにお前はダイニングへ行けと言った。
「分かりました、ボス」
と、アスターはそう返事をしたのだ。そう、アスターが、ボスのことを「ボス」と呼んだ。
それはそれは衝撃が走った。
オレも、ダズさんも、そして何よりボスその人も。
同時にアスターに視線が集まるが、彼女は気づかなかったのか気づかないフリか、そのままハシゴを降りてしまう。
これはヤバイ、と直感的に思った。
そしてその直感は、悪い意味で的中してしまったのだった。
いつもより笑わないアスターに、野郎どもがいくら話しかけたところで良い効果はなく。薄く笑っては俯きがちに食事を終え、いつもは最後まで手伝う皿洗いも、あまりに暗い顔をしているので途中でロッシュが切り上げさせた。
そして、今に至る。
「ゼッッタイボス機嫌悪いよ……賭けてもいい」
ボスがアスターに見せる執着が好意以外の何物でもない事は、この一味ほぼ全員が勘づいていた。その上で、あくまでそっとしてきた。
アスターの故郷を出る時はこのままお別れかとヒヤヒヤしたし、海に出たら出たで甲板には上がらせない過保護っぷりに驚いた(しかもアスターには保護されてる自覚ゼロ)し、夜中に船長室を覗き見ることが憚られると感じるほどだった。覗きの趣味はない、けど。
なんならもう既にデキているのではないかと思ったことも一度や二度ではない。
ま、それはオレの早とちりということになるか。
「はあ……」
盛大にため息をついて、ロッシュに急かされながら寝室へ向かった。
昨夜は夜通し舵の番だったので、本当は眠くて仕方ないのだ。アスターが落とした突然の爆弾に驚いて忘れかけていたけれど。
今更オレがどうこうしようとしても逆効果になる気がして、とにかく今は眠ろうとハンモックに身を投げた。
ああ、目が覚めたらボスとアスターの仲が元に戻っていたらいいのに。