第7章 駆け引き未満
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約束の日、約束の時間。
三日前と同じ格好で、その店を再訪した。
靴擦れが悪化しないよう、靴だけは変えたけれど。
老紳士は私たち2人を恭しい礼で出迎え、渡してあった二つの鞄を差し出した。
「首飾りを渡せ」
「え、あ、はい」
もたもたと後ろの留め具を外し、クロコダイルへ渡そうとすると、クイ、と顎で老紳士の方を指し示す。
そのまま向きを変えると、
「ありがとうお嬢さん」
老紳士は首飾りを受け取り、元あった棚の中にしまい込んだ。
「確かに」
その間に鞄の中身を改めていたクロコダイルが、そのまま鞄を鉤爪に引っ掛けて踵を返す。
どうやらもう要件は終わりらしい。
「お気をつけて」
出迎えた時より少し深い礼で、老紳士は私たちを見送った。
帰りにレンタルドレス店に寄り、借りていたものを一式返却した。
黒いシャツとジーンズに着替え、ようやく自分に戻った感覚だ。ドレスもヒールも、経験値がなさすぎて窮屈にしか感じなかった。
更衣室から出ると、クロコダイルは店内にはいないようだった。店員に礼を言って外に出ようとするが、扉は動かない。小さな窓から覗くと、どうやらこのすぐ向こうに黒い大きな背中があるようだ。
「サー?どうし──!!」
突如、扉がガタガタと揺れた。
再度窓から外を見ると、砂嵐と化したクロコダイルが、数人と戦っている。
「ッあの、この建物屋上に出られますか」
振り返ると、店員はすぐ後ろまで来ていた。
「ヒッ」
──店員、ではなかった。黒い仮面を被った男が、私に殴りかかってくる。
驚いて尻餅をついた拍子に、男の足を引っ掛けてしまい、彼は扉に突っ込んでそのまま外に倒れこむ。
とっさに、半自動でしまった扉に鍵をかけ、すぐ隣にあった棚を押しやってバリケードを作る。
心臓が早鐘を打っている。これは訓練でも遊びでもない。おそらく、殺し合いだ。
女だからと舐められていたのか、はたまた凌辱するつもりだったのか、男は腰に下げた銃を使わずに殴りかかってきた。だから運良く命拾いしただけだ。
一度ゆっくりと深呼吸すると、狙撃銃に弾を込めてから屋上へ上がる階段を探すことにする。バリケードの向こうから、複数の発砲音が聞こえる。
バックヤードへ入ると、縛られ気を失っているらしい店員が倒れていた。
「……後で、また来ますね」
口に貼られたテープだけ外し、すぐにその場は立ち去る。
一応敵が潜んでいないか警戒しながら、階段を登り、屋上にたどり着く。
古そうな扉を薄く開け、また周囲を見回す。
リズさんに習ったことを、死ぬなと握られた手を、忘れてはならない。そしてもちろん、クロコダイルからの命令も。私は、勝手に死んではならない。
幸い屋上に人影はなく、周囲の建物にも狙撃手は見当たらない。姿勢を低くして、銃声の聞こえる方へにじり寄る。
もう一度深呼吸をしてから、狙撃銃の安全装置を解除する。
凪いだ海のように、平静を装って。
三日前と同じ格好で、その店を再訪した。
靴擦れが悪化しないよう、靴だけは変えたけれど。
老紳士は私たち2人を恭しい礼で出迎え、渡してあった二つの鞄を差し出した。
「首飾りを渡せ」
「え、あ、はい」
もたもたと後ろの留め具を外し、クロコダイルへ渡そうとすると、クイ、と顎で老紳士の方を指し示す。
そのまま向きを変えると、
「ありがとうお嬢さん」
老紳士は首飾りを受け取り、元あった棚の中にしまい込んだ。
「確かに」
その間に鞄の中身を改めていたクロコダイルが、そのまま鞄を鉤爪に引っ掛けて踵を返す。
どうやらもう要件は終わりらしい。
「お気をつけて」
出迎えた時より少し深い礼で、老紳士は私たちを見送った。
帰りにレンタルドレス店に寄り、借りていたものを一式返却した。
黒いシャツとジーンズに着替え、ようやく自分に戻った感覚だ。ドレスもヒールも、経験値がなさすぎて窮屈にしか感じなかった。
更衣室から出ると、クロコダイルは店内にはいないようだった。店員に礼を言って外に出ようとするが、扉は動かない。小さな窓から覗くと、どうやらこのすぐ向こうに黒い大きな背中があるようだ。
「サー?どうし──!!」
突如、扉がガタガタと揺れた。
再度窓から外を見ると、砂嵐と化したクロコダイルが、数人と戦っている。
「ッあの、この建物屋上に出られますか」
振り返ると、店員はすぐ後ろまで来ていた。
「ヒッ」
──店員、ではなかった。黒い仮面を被った男が、私に殴りかかってくる。
驚いて尻餅をついた拍子に、男の足を引っ掛けてしまい、彼は扉に突っ込んでそのまま外に倒れこむ。
とっさに、半自動でしまった扉に鍵をかけ、すぐ隣にあった棚を押しやってバリケードを作る。
心臓が早鐘を打っている。これは訓練でも遊びでもない。おそらく、殺し合いだ。
女だからと舐められていたのか、はたまた凌辱するつもりだったのか、男は腰に下げた銃を使わずに殴りかかってきた。だから運良く命拾いしただけだ。
一度ゆっくりと深呼吸すると、狙撃銃に弾を込めてから屋上へ上がる階段を探すことにする。バリケードの向こうから、複数の発砲音が聞こえる。
バックヤードへ入ると、縛られ気を失っているらしい店員が倒れていた。
「……後で、また来ますね」
口に貼られたテープだけ外し、すぐにその場は立ち去る。
一応敵が潜んでいないか警戒しながら、階段を登り、屋上にたどり着く。
古そうな扉を薄く開け、また周囲を見回す。
リズさんに習ったことを、死ぬなと握られた手を、忘れてはならない。そしてもちろん、クロコダイルからの命令も。私は、勝手に死んではならない。
幸い屋上に人影はなく、周囲の建物にも狙撃手は見当たらない。姿勢を低くして、銃声の聞こえる方へにじり寄る。
もう一度深呼吸をしてから、狙撃銃の安全装置を解除する。
凪いだ海のように、平静を装って。