第7章 駆け引き未満
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銃器類を確保した翌朝。
目を覚ますと、アスターはこちらに背を向けて銃の手入れをしているようだった。時折、金属同士が擦れる音が聞こえる。
まだ覚醒しようとしない頭で、ぼんやりと思い出す。
クライガナ島を出てから、砂になって行く感覚にもう襲われていない、と。
単純に能力を使う時間が減ったからという可能性もあるが、それにしては見事に無くなった。
一時的なものだったのか確認はした方がいいだろうが、寝不足からは解消された訳だ。
にしても、ますます海の加護について知りたくなる。盗聴妨害用の白電伝虫が手に入ったら、イワンコフにでも聴いてみるか。
まだ少し気だるい身体を起こし、余っていたアスターの手巻きタバコに火をつける。
「っあ、おはようございます」
最初に吸った時は少し物足りないと思ったが、どこかクセになる香りで、こうして時折吸ってしまう。
「あァ」
一瞬振り返ったアスターは、すぐに手元の作業に視線を戻していた。
「今更だが……」
「はい、なんでしょう」
「"コレ"何が混ぜてあるんだ?」
とんとん、と灰皿に灰を落とし、開け放たれた窓の方に向かって煙を吐き出す。
よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに蒼い目を輝かせたアスターが、作業を止めてこちらに向き直る。
「最初に仕入れたものを含めて、タバコの葉3種類と、たぶんコレが聞きたいんだと思うんですが、香りの鍵になってるのは、紅茶です」
「紅茶?」
「はい。少しだけ、茶葉をブレンドしてるんです」
「ほォ……紅茶だったのか」
道理で、既視感があった訳だ。
「愛煙家には紅茶よりコーヒーの方が好きな方多いので、どっちにしようか迷ったんですけどね」
どちらも試してみて、紅茶の方が香りが良くマッチしていたのだと言う。あの短時間でそこまでやっていたのかと、少し感心した。
「あとは売り上げ次第だなァ」
このまま量産するか、また配合を変えるか。そもそも同じものが手に入るとも限らないので、その土地で安く手に入るものを、他の──できれば簡単には行き来できない距離の島で高く売るのが理想ではあるが。
「売れる、とは思うんですけど」
「クハ、まぁ結果はすぐ出る」
明日の夜、約束通りあの店に行けばすぐに分かることだ。
今日一日は、タバコの仕入れ先探しと必要物資などの調達で終わってしまうだろう。
──見立て通り、予定していたことが終わった頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。
傍のアスターは、一日中歩き回ったせいもあり、いささか俯き加減で歩いている。
「そういや……まだ痛いんじゃあねェのか」
「え?なにがです?」
「足」
「え、は……いや少し、だけ」
ちらりと見下ろせば、赤くなった耳に視線が吸い寄せられる。
じわりと背中を這い上がるこれは、そう。
興奮。
まさか、あり得ないと自分で自分を否定する。
よりによってこんな小娘に。
このおれが。
惹かれる、など。
しかし、もしそうだとするなら、あの触れたい気持ちに説明はつく。
いや、きっと逆だ。
触れていたから、こんな気持ちが湧いて出たのだ。
そうに違いない。
だいたいそんな生ぬるい……いや、甘ったるい事にかまけている時間などないのだ。さっさと新世界に入らねば。
そういった類のモノは、四皇と渡り合うのに弱みにしかなり得ない。ビッグ・マムのようによほど強靭な家族であればまた話は変わってくるが。
今のおれに、四皇と張り合えるほどのものがあるとすれば恐らくたったひとつ、インペルダウンというこの世の地獄を見てきた事くらいだ。
あとから思えば、この頃のおれは少し──否、かなり、焦っていたのだ。
もっと強く、もっと先へ……と。
目を覚ますと、アスターはこちらに背を向けて銃の手入れをしているようだった。時折、金属同士が擦れる音が聞こえる。
まだ覚醒しようとしない頭で、ぼんやりと思い出す。
クライガナ島を出てから、砂になって行く感覚にもう襲われていない、と。
単純に能力を使う時間が減ったからという可能性もあるが、それにしては見事に無くなった。
一時的なものだったのか確認はした方がいいだろうが、寝不足からは解消された訳だ。
にしても、ますます海の加護について知りたくなる。盗聴妨害用の白電伝虫が手に入ったら、イワンコフにでも聴いてみるか。
まだ少し気だるい身体を起こし、余っていたアスターの手巻きタバコに火をつける。
「っあ、おはようございます」
最初に吸った時は少し物足りないと思ったが、どこかクセになる香りで、こうして時折吸ってしまう。
「あァ」
一瞬振り返ったアスターは、すぐに手元の作業に視線を戻していた。
「今更だが……」
「はい、なんでしょう」
「"コレ"何が混ぜてあるんだ?」
とんとん、と灰皿に灰を落とし、開け放たれた窓の方に向かって煙を吐き出す。
よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに蒼い目を輝かせたアスターが、作業を止めてこちらに向き直る。
「最初に仕入れたものを含めて、タバコの葉3種類と、たぶんコレが聞きたいんだと思うんですが、香りの鍵になってるのは、紅茶です」
「紅茶?」
「はい。少しだけ、茶葉をブレンドしてるんです」
「ほォ……紅茶だったのか」
道理で、既視感があった訳だ。
「愛煙家には紅茶よりコーヒーの方が好きな方多いので、どっちにしようか迷ったんですけどね」
どちらも試してみて、紅茶の方が香りが良くマッチしていたのだと言う。あの短時間でそこまでやっていたのかと、少し感心した。
「あとは売り上げ次第だなァ」
このまま量産するか、また配合を変えるか。そもそも同じものが手に入るとも限らないので、その土地で安く手に入るものを、他の──できれば簡単には行き来できない距離の島で高く売るのが理想ではあるが。
「売れる、とは思うんですけど」
「クハ、まぁ結果はすぐ出る」
明日の夜、約束通りあの店に行けばすぐに分かることだ。
今日一日は、タバコの仕入れ先探しと必要物資などの調達で終わってしまうだろう。
──見立て通り、予定していたことが終わった頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。
傍のアスターは、一日中歩き回ったせいもあり、いささか俯き加減で歩いている。
「そういや……まだ痛いんじゃあねェのか」
「え?なにがです?」
「足」
「え、は……いや少し、だけ」
ちらりと見下ろせば、赤くなった耳に視線が吸い寄せられる。
じわりと背中を這い上がるこれは、そう。
興奮。
まさか、あり得ないと自分で自分を否定する。
よりによってこんな小娘に。
このおれが。
惹かれる、など。
しかし、もしそうだとするなら、あの触れたい気持ちに説明はつく。
いや、きっと逆だ。
触れていたから、こんな気持ちが湧いて出たのだ。
そうに違いない。
だいたいそんな生ぬるい……いや、甘ったるい事にかまけている時間などないのだ。さっさと新世界に入らねば。
そういった類のモノは、四皇と渡り合うのに弱みにしかなり得ない。ビッグ・マムのようによほど強靭な家族であればまた話は変わってくるが。
今のおれに、四皇と張り合えるほどのものがあるとすれば恐らくたったひとつ、インペルダウンというこの世の地獄を見てきた事くらいだ。
あとから思えば、この頃のおれは少し──否、かなり、焦っていたのだ。
もっと強く、もっと先へ……と。