第6章 小さな変化
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「おねえさん、観光かい?お守りはいかが?」
露天のおばあさんに声をかけられるが、立ち止まるわけにはいかない。クロコダイルの背を追い、自然早足になる。
普段より狭い視界にまだ慣れないが、なによりこの格好が動きづらい。レンタルしたドレスとかつらと仮面を身につけているのだが、普段履かない高いヒールで足元がおぼつかない。
「ま、まって、サー!」
声をかけた瞬間、濃い紫色のマントが音を立てて翻り、目の前に肘が差し出される。
「え、と……?」
「エスコートのされ方も知らねェのか」
金色の仮面が顔の上半分を隠していて、表情はわからない。怒っているのではないかと、慌ててその左腕に手をかける。
ふん、と鼻を鳴らしたクロコダイルが、先ほどより少しゆっくりと、歩き出す。
数歩進んだ先で、顔の上半分を隠すピンクゴールドの仮面を、そっと確認した。
大丈夫、ちゃんとついている。
頬が熱いのも、ちょっと涙ぐんでしまったのも、きっと気付かれやしない。
肘のあたりのたっぷりの白いフリルが、ウエストから大きくカーブを描く黒いドレスが、歩くたびにクロコダイルに当たる。手袋越しに感じるジャケットの感触に、どうしても意識が吸い寄せられる。
似たような格好をした人々とすれ違いながら、街灯とランタンの下を中心街へと向かった。
10分ほど歩いただろうか。中心街の西のはずれに、目的の店があった。
とっくに限界を超えた感情が涙になって押し寄せて来るのをなんとか耐え切って、ステンドグラスがあしらわれたドアを通り抜ける。あとから入ってきたクロコダイル。それに続くウィリアムは両手に荷物をたっぷり抱えている。
「いらっしゃいませ」
三人を出迎えたのは、しわがれた声だった。店主であろうその老紳士は、私たちを上から下までゆっくりと観察した後、何やらブツブツ言いながらキャビネットの引き出しを漁り出した。
不完全、とか、足りない、というような言葉の断片が聞こえて来る。
戸惑いながらクロコダイルを見上げるが、勝手知ったる風に店内をゆっくり物色しており、特に問題が発生した様子もない。ウィリアムと顔を見合わせて、軽く肩をすくめる。
どうやら何が何だか分かっていないのは私とウィリアムだけのようだった。
「あった!」
不意に、老紳士が嬉しそうな声を上げる。
これだこれだ、と、私の方に近づいてきて。
「お嬢さん、後ろを向きなさい」
「え、は、はあ……」
ニコニコと機嫌の良さそうな笑顔に押され、言われた通りに後ろを向く。
ひやりと、胸元に硬い感触がして、反射的に肩が震える。
「これで良し」
満足げな老紳士が、私に大きめの手鏡を差し出してきた。
そこに映っている仮面の女は、胸元に豪奢なアンティーク調のネックレスをつけていた。
「これ……」
いかにも高そうなそれを、指先でそっとなぞる。仮面が邪魔でうつむいても見えないけれど、確かに私の胸元に重みを感じる。
「いくらだ」
「そうさねえ……100万ベリーってところか」
横からクロコダイルが入ってきて、急に話が進んでいく。
ウィリアムから2つ鞄を受け取り、そのまま老紳士の方へと渡すクロコダイル。
「三日後、同じ時間においで」
「ああ、これもやろう」
ついでのように放り投げたのは、私がひたすら作っていたオリジナルブレンドのタバコだった。試供品、と書かれた小さな袋の中には、2本だけタバコが入っている。
器用に空中でそれを受け取った店主は、早々にドアに手をかけるクロコダイルに向かって恭しく礼をした。
露天のおばあさんに声をかけられるが、立ち止まるわけにはいかない。クロコダイルの背を追い、自然早足になる。
普段より狭い視界にまだ慣れないが、なによりこの格好が動きづらい。レンタルしたドレスとかつらと仮面を身につけているのだが、普段履かない高いヒールで足元がおぼつかない。
「ま、まって、サー!」
声をかけた瞬間、濃い紫色のマントが音を立てて翻り、目の前に肘が差し出される。
「え、と……?」
「エスコートのされ方も知らねェのか」
金色の仮面が顔の上半分を隠していて、表情はわからない。怒っているのではないかと、慌ててその左腕に手をかける。
ふん、と鼻を鳴らしたクロコダイルが、先ほどより少しゆっくりと、歩き出す。
数歩進んだ先で、顔の上半分を隠すピンクゴールドの仮面を、そっと確認した。
大丈夫、ちゃんとついている。
頬が熱いのも、ちょっと涙ぐんでしまったのも、きっと気付かれやしない。
肘のあたりのたっぷりの白いフリルが、ウエストから大きくカーブを描く黒いドレスが、歩くたびにクロコダイルに当たる。手袋越しに感じるジャケットの感触に、どうしても意識が吸い寄せられる。
似たような格好をした人々とすれ違いながら、街灯とランタンの下を中心街へと向かった。
10分ほど歩いただろうか。中心街の西のはずれに、目的の店があった。
とっくに限界を超えた感情が涙になって押し寄せて来るのをなんとか耐え切って、ステンドグラスがあしらわれたドアを通り抜ける。あとから入ってきたクロコダイル。それに続くウィリアムは両手に荷物をたっぷり抱えている。
「いらっしゃいませ」
三人を出迎えたのは、しわがれた声だった。店主であろうその老紳士は、私たちを上から下までゆっくりと観察した後、何やらブツブツ言いながらキャビネットの引き出しを漁り出した。
不完全、とか、足りない、というような言葉の断片が聞こえて来る。
戸惑いながらクロコダイルを見上げるが、勝手知ったる風に店内をゆっくり物色しており、特に問題が発生した様子もない。ウィリアムと顔を見合わせて、軽く肩をすくめる。
どうやら何が何だか分かっていないのは私とウィリアムだけのようだった。
「あった!」
不意に、老紳士が嬉しそうな声を上げる。
これだこれだ、と、私の方に近づいてきて。
「お嬢さん、後ろを向きなさい」
「え、は、はあ……」
ニコニコと機嫌の良さそうな笑顔に押され、言われた通りに後ろを向く。
ひやりと、胸元に硬い感触がして、反射的に肩が震える。
「これで良し」
満足げな老紳士が、私に大きめの手鏡を差し出してきた。
そこに映っている仮面の女は、胸元に豪奢なアンティーク調のネックレスをつけていた。
「これ……」
いかにも高そうなそれを、指先でそっとなぞる。仮面が邪魔でうつむいても見えないけれど、確かに私の胸元に重みを感じる。
「いくらだ」
「そうさねえ……100万ベリーってところか」
横からクロコダイルが入ってきて、急に話が進んでいく。
ウィリアムから2つ鞄を受け取り、そのまま老紳士の方へと渡すクロコダイル。
「三日後、同じ時間においで」
「ああ、これもやろう」
ついでのように放り投げたのは、私がひたすら作っていたオリジナルブレンドのタバコだった。試供品、と書かれた小さな袋の中には、2本だけタバコが入っている。
器用に空中でそれを受け取った店主は、早々にドアに手をかけるクロコダイルに向かって恭しく礼をした。