序章 旅の始まり
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目覚めると、見知らぬ部屋の椅子に座らされていた。
どことなく既視感を覚えつつ周囲を見回すと、薄暗い雑然とした部屋の中、何人か男たちがいるのが分かった。
腕は後ろ手に縛られており、足も椅子の脚にくくりつけられている。
どうやら自分は拉致監禁されているらしいと理解して、そして理由に思い当たる。
意識を失う直前、ジャンの、話が違う!という叫び声。
おそらく、この男たちに私の情報を売ったのだろう。危険が及ばないようにすると、騙されて。
後頭部がツキリと痛んだ。
──そうして、今に至る。
「来るか、来ねェか、答えを聞こうか。アスター」
後頭部に押し当てられた銃口。前方には、いつにも増して機嫌の悪そうな、殺気をも感じるクロコダイル。
緊迫した空気の中、問いかけられた言葉をどうにか噛みしめる。
この男は、本当に策士だと思う。
きっと、行かないと言えばこのまま見捨てられるのだろう。地獄のような選択肢を提示しておきながら、私の名を初めて呼ぶのだ。
それを、悔しいかな、嬉しいと思う自分がいる。
だからもう、答えは決まっていた。
「って……連れて行ってください。サー・クロコダイル」
刷り込みだろうがなんだろうが構わなかった。
戻る家も潰され、本人は不本意とはいえ友人には裏切られ。未練がないわけではない、というのは本当だけれど、ついて行きたいと思う気持ちを止めるほどの力はなく。
この人が何を成すのかを、近くで見ていたい。
そう思わせる魅力が確かにあった。
「クハ…ハハハッ…いいだろう。せいぜい縮こまって震えてろ」
「ごちゃごちゃうるせぇぞこの──」
焦れた盗賊の男が、銃口をクロコダイルへ向ける。それが合図だった。
「"砂嵐"」
瞬く間に砂嵐が巻き起こる。
次々と男たちの悲鳴が聞こえる中、能力の影響を受けない私はじっとしているしかない。動こうと思っても、まだ縛り付けられたままで無理だが。
砂嵐に遮られた視界の中、ゆらりと目前にクロコダイルが現れた。右手で椅子の背もたれに触れると、それは瞬く間に砂に変わって行く。
支えを失った身体が後ろに倒れそうになるが、クロコダイルの右腕に抱きとめられて尻餅を回避する。下半身は砂になっていて、いつもはずいぶん見上げる彼の顔はほとんど同じ高さである。
「ありがとうございます、サー」
「後悔しても知らねぇぞ」
「しない、と思います。根拠はないですが」
こんなか弱い小娘一人、何故連れて行ってもいいと思ったのかはなはだ疑問ではあるけれど。
来るかと聞かれたから、行くと答えた。
今は、それでいい。