第5章 強くなりたい
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目が醒めると、ペローナは消化がよく血肉となるような食事を用意してくれていた。ミルクがゆと、鶏肉とキャベツの煮物。それにスライスしたゆで卵の乗ったサラダ。
どれも優しい味付けで、咀嚼しては飲み込んで行く。
私が食べる様子をペローナはじっと見ていて、満足そうに何度か頷いていた。
なんだか餌付けされている気分だ。
その視線に少しばかり居心地の悪さを感じながらも半分ほど食べたところで、扉が控えめにノックされた。入っていいかと、くぐもった男の声が聞こえる。
「どうぞ」
「お邪魔しまーす……」
入って来たのは、ロッシュにヘンリー、モリスの3人だった。そして入って来て早々、横一連に並んだ男たちはガバッと頭を下げる。
「「ごめんなさい!!」」
「わっ──え、なんで謝るんですか」
大きな声に、持っていたミルクがゆの皿とスプーンを落としかけた。いや、実際スプーンにすくったミルクがゆは皿の上に音を立てて落とした。
顔を見合わせた3人が、しゅんとしながら話し出す。
「僕が暴走しなければ、アスターを危険にさらすことはなかったのに」
「私がモリスを止められていれば、怪我をさせることはなかったのに、と」
「同じく……」
一番情けない顔のヘンリーは、すっかり意気消沈してしまっている。
「あ、謝る必要なんて。私ももっと強ければ怪我なんてしなかっただろうしそれに」
並んだ3人を順番に見る。
「モリスは強くなろうとしてて、2人はみんなを守ろうとしてくれて、結果的に無事だったんだから謝る必要ない、よ。むしろロッシュさんの方が……」
「あー、ちがうちがう、怪我の程度の問題じゃくてさ。誰が怪我をしたかが問題なんだよアスターさん」
「ヘンリー、それくらいで。ま、すぐ分かるでしょう。要件はそれだけです。今はゆっくり休んでくださいね」
3人は嵐のように去って行き、部屋に静寂が戻る。
最後の方は言葉の意味がよく分からなかった。
誰が怪我をしたか?ロッシュの方がよほどひどい怪我をしている。私の怪我なんて、あってないようなものだ。動けずにいるが、原因は身体の酷使による。
一体どういうことだろうと首をひねりながら、食事を再開した。
◆
ヘンリーの言葉の意味を少なからず理解したのは、翌朝のことだった。
食事の後すぐにまた寝てしまい、目が醒めるとカーテンの隙間から優しい光が差し込んでいた。まだかなりはやい時間のようだ。
首を動かすと、こちらに背を向けた男が1人、ソファに座っている。こんな時間に起きているなんて珍しい。
「……サー、おはようございます」
「ン、起きたか」
こちらを振り返るでもなく、手元のニュース・クーに目を落としたまま。
そう言えば、2人でまともに話すのは久しぶりかもしれない。振り返ってみるとやはり、シッケアールに着いてから、会話らしい会話はなかったように思う。
海の上とは違って頭痛もなく触れる必要もないので、もちろん夜も別々に寝ていた。
少し背筋の伸びる気持ちで、ベッドから起き上がり絨毯に足を下ろす。ゆっくり立ち上がると、あちこちに痛みはあるものの普通に歩くことはできそうだ。
「お前、今日一日休め」
「えっもう、動けます」
「焦るんじゃあねェよ。まだ新世界まで時はある」
クロコダイルは珈琲を一口飲み、ゆっくりと新聞を一枚めくる。
「昨日も言ったがなァ、勝手に死のうとしてんじゃあねェよ」
「ッすみません。気づいたら動いてました」
「勝手に死ぬことは許さねェと、言ったろう」
正面に座った私に、ちらりと視線を寄越すクロコダイル。その目にわずかに潜む鋭さが、私に刺さる。
「すみ、ません」
うつむいて唇を噛む。そうだった。
『好きにしろ。ただし勝手に死ぬことは許さん』
それが、最初の命令だった。
忘れていたわけではない。でもあの瞬間、そんな事は微塵も脳裏になかった。
「鍛錬は明日から再開だ。それとモリスの能力のこともある、2日ほど滞在を伸ばす」
昨夜決めたと、クロコダイルは言い切った。
「わかりました」
少し過保護にすぎる気はしたが、その言葉に甘えてほとんど部屋でペローナと過ごし、久しぶりに穏やかな1日となった。
どれも優しい味付けで、咀嚼しては飲み込んで行く。
私が食べる様子をペローナはじっと見ていて、満足そうに何度か頷いていた。
なんだか餌付けされている気分だ。
その視線に少しばかり居心地の悪さを感じながらも半分ほど食べたところで、扉が控えめにノックされた。入っていいかと、くぐもった男の声が聞こえる。
「どうぞ」
「お邪魔しまーす……」
入って来たのは、ロッシュにヘンリー、モリスの3人だった。そして入って来て早々、横一連に並んだ男たちはガバッと頭を下げる。
「「ごめんなさい!!」」
「わっ──え、なんで謝るんですか」
大きな声に、持っていたミルクがゆの皿とスプーンを落としかけた。いや、実際スプーンにすくったミルクがゆは皿の上に音を立てて落とした。
顔を見合わせた3人が、しゅんとしながら話し出す。
「僕が暴走しなければ、アスターを危険にさらすことはなかったのに」
「私がモリスを止められていれば、怪我をさせることはなかったのに、と」
「同じく……」
一番情けない顔のヘンリーは、すっかり意気消沈してしまっている。
「あ、謝る必要なんて。私ももっと強ければ怪我なんてしなかっただろうしそれに」
並んだ3人を順番に見る。
「モリスは強くなろうとしてて、2人はみんなを守ろうとしてくれて、結果的に無事だったんだから謝る必要ない、よ。むしろロッシュさんの方が……」
「あー、ちがうちがう、怪我の程度の問題じゃくてさ。誰が怪我をしたかが問題なんだよアスターさん」
「ヘンリー、それくらいで。ま、すぐ分かるでしょう。要件はそれだけです。今はゆっくり休んでくださいね」
3人は嵐のように去って行き、部屋に静寂が戻る。
最後の方は言葉の意味がよく分からなかった。
誰が怪我をしたか?ロッシュの方がよほどひどい怪我をしている。私の怪我なんて、あってないようなものだ。動けずにいるが、原因は身体の酷使による。
一体どういうことだろうと首をひねりながら、食事を再開した。
◆
ヘンリーの言葉の意味を少なからず理解したのは、翌朝のことだった。
食事の後すぐにまた寝てしまい、目が醒めるとカーテンの隙間から優しい光が差し込んでいた。まだかなりはやい時間のようだ。
首を動かすと、こちらに背を向けた男が1人、ソファに座っている。こんな時間に起きているなんて珍しい。
「……サー、おはようございます」
「ン、起きたか」
こちらを振り返るでもなく、手元のニュース・クーに目を落としたまま。
そう言えば、2人でまともに話すのは久しぶりかもしれない。振り返ってみるとやはり、シッケアールに着いてから、会話らしい会話はなかったように思う。
海の上とは違って頭痛もなく触れる必要もないので、もちろん夜も別々に寝ていた。
少し背筋の伸びる気持ちで、ベッドから起き上がり絨毯に足を下ろす。ゆっくり立ち上がると、あちこちに痛みはあるものの普通に歩くことはできそうだ。
「お前、今日一日休め」
「えっもう、動けます」
「焦るんじゃあねェよ。まだ新世界まで時はある」
クロコダイルは珈琲を一口飲み、ゆっくりと新聞を一枚めくる。
「昨日も言ったがなァ、勝手に死のうとしてんじゃあねェよ」
「ッすみません。気づいたら動いてました」
「勝手に死ぬことは許さねェと、言ったろう」
正面に座った私に、ちらりと視線を寄越すクロコダイル。その目にわずかに潜む鋭さが、私に刺さる。
「すみ、ません」
うつむいて唇を噛む。そうだった。
『好きにしろ。ただし勝手に死ぬことは許さん』
それが、最初の命令だった。
忘れていたわけではない。でもあの瞬間、そんな事は微塵も脳裏になかった。
「鍛錬は明日から再開だ。それとモリスの能力のこともある、2日ほど滞在を伸ばす」
昨夜決めたと、クロコダイルは言い切った。
「わかりました」
少し過保護にすぎる気はしたが、その言葉に甘えてほとんど部屋でペローナと過ごし、久しぶりに穏やかな1日となった。