序章 旅の始まり
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初めて見たとき、本当に夜の海のような、絶望に沈んだミッドナイトブルーだった。
意識が戻って何者なのかと問い詰めたときには、真昼の波間のようなきらめきを含んだコバルトブルー。
そして自分を起こしに来るときは、鮮やかなターコイズブルー。
コロコロと変わる瞳の色は、見ていて飽きなかった。
彼女は自身のことを海だと言ったが、それも本当かもしれないと思うほど、その瞳は海にソックリだった。
あまり人には執着しないが、彼女については少しばかり、捨てるには未練があった。
海の上ではその瞳はどんな風に見えるのだろうかと、興味をそそられる程度には。
「おれも変わったもんだ……」
クク、と笑っていると、傍のダズが小さく首を傾げた。が、無言のまま、久しぶりに暴れてやるかと前を見据える。
この島唯一の山の麓にある、古びたロッヂ。どこかの誰かが別荘として建てたらしいが、今や盗賊団のアジトとなっている。
なかなか尻尾を掴ませてくれず、探し出すのに2ヶ月もかかってしまった。バロックワークス時代ほどの情報網があればすぐに分かっただろうが、今はまだ一味と呼べる人数は10人にも満たない。
しかしこの仕事が終わればそんな生活からはオサラバできるだろう。
傷も癒えた事だし、クロコダイルとしてはさっさと海に出たいところだ。
「ダズ、手筈通りだな?」
「ええ、人は問題なく。船は金さえあれば」
まだほんのりと夕暮れの気配が残る空の下、薄暗い影の中でクロコダイル達は動き出した。
◇
「……ンで、テメェがここにいる?」
クロコダイルは一瞬我が目を疑った。ここ──盗賊団のアジトなどに、いるはずのない人物がいたから。
「……サー」
消え入りそうな声で呟くのは、先ほど未練がどうのと思っていた彼女その人だった。
「へえ、意外だな。いきなりボスの登場とは。てっきり高みの見物かと思ってたぜ」
彼女のすぐ後ろ、後頭部に銃を突きつけた男が引きつった笑みを浮かべている。
おそらくあれが盗賊団のトップだろう。
「何ぼんやりしてやがる!この女がどうなってもいいのか?武器を捨てろ!」
所々声が裏返っているところを見ると、俺が出てくるのは本当に予想外だったのだろう。
今回は能力を使うつもりはなかったが、こうなってしまっては使わざるを得ないか。
持っていた銃をゴトリと床へ落とし、相手を見やる。
あの至近距離で撃たれては、さすがにギリギリ間に合うかどうか。
「すみ、ません、サー。お弁当、作れませんでした」
この状況でなお、おれの方が怖いのかそんな事を抜かす小娘に無性に腹が立つ。
後ろで黙れ!と騒ぎ立てる盗賊には、殺意すら覚える。
「おれァ今機嫌が悪い。とっとと終わらせてぇところだが……」
「っ…う、うるせぇ!!」
狙いはこの盗賊団が溜め込んだお宝であり、抵抗しないなら殺さないつもりだったが、このおれ相手でも戦う気らしい。
盛大にため息を一つ。
そして、問いかける。
「来るか、来ねェか、答えを聞こうか。アスター」