第5章 強くなりたい
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「ペローナ!」
「うおっアスター!来たのか!」
広いキッチンに1人でいたペローナに後ろから抱きつくと、危ねえなと悪態をつきながらもなんだかんだ嬉しそうに笑ってくれて。つられて、へへっと間抜けな笑い声が漏れた。
なんだかデジャヴを感じる。
「お前もココア飲むか?」
「ん? んー、ごめん、やめとく。すぐ鍛錬に行かなきゃ」
「そうか……」
あ、ちょっと寂しそう、なような。
「あー、夕飯の後に、一緒に飲まない?」
「べ、別に無理して飲まなくてもいいんだからな!」
「一緒に飲みたい」
「なっ」
ストレートに言われることに慣れていないのかすぐに動揺を見せてくれるペローナが、頬を赤らめて俯く。
「そこまで言うなら、用意してやらんことも……」
最後の方はごにょごにょと言葉になっていなかった。
一瞬の癒しを得てほっこりしたところで、城のエントランスへ向かった。
そこにはすでにダズとロッシュ、医者見習いのモリスがいた。
分厚いメガネの向こうから、モリスが私を少しだけ見上げる。
「アスター、まず僕と走り込みだって」
その視線を半ば遮る長い前髪は邪魔じゃないのだろうか。
あの最初の頭痛以来まともに話したことのないモリスだけれど、とてもインドア派っぽい彼と走り込みだなんて少しばかり不安だ。ただでさえ森には強そうなヒヒ達がたくさんいるらしいのに。
なんて思っていると、それが表情に出ていたらしく、ロッシュがフッと笑った。
「アスターさん、心配ないですよ。モリスは悪魔の実の能力者ですから」
「えっそうなの!?」
人は見かけによらない。
ロッシュの言葉に思わずモリスを見ると、そんな僕なんてと、視線が泳ぎまくっている。
「なんの能力、なの?」
私がこれまで実際に見たことがあるのは、クロコダイルのスナスナと、ダズのスパスパ、それにペローナのホロホロだけなのだ。
世の中にはまだまだ知らない、知られていない能力者がたくさんいるに違いない。
「くま、です」
「くま?」
くまって、あの熊か。ということは、"動物系"には、初めて出会っていた事になる。
「クマクマの実、モデル"ヒグマ"」
「強そう」
「コントロールが難しくて、まだまだ」
クロコダイルのような"自然系"が1番コントロールが難しいと言われているが、そもそも人を超えた力なのだから、どんな実でも自在に使いこなすのに時間は要するのだろう。
私なんて、自分の体すらままなっていないというのに。
モリスは背は私より低いけれど、体つきは結構しっかりしている。普段は医務室からほとんど出てこずに引きこもっているのに。
鍛え始めて約半月。ようやくうっすらと筋肉がつき始めた二の腕に触れる。
まだまだ、これからだ。
◆
ヘトヘトになった。文字通りヘトヘトに。
モリスと長距離の走り込み1時間に、短距離を繰り返すこと1時間。少し休憩を挟んで、ロッシュさんと組手を1時間。ヘンリーに銃の扱いを習って、試し打ちを30分ほど。
最後にいつもの筋トレの半分をこなして、城に戻った。
「ただいまぁ~……」
あてがわれた部屋にはシャワールームがあり、手早く汗を流して着替える。
組手の稽古によるアザがあちこちできてしまって、足も腕もしばらく露出できそうにない。
しかしそれを大幅に上回る疲労感と筋肉痛。いつもよりしっかりストレッチしたつもりだったが、それでも痛いものは痛い。
帰り際ロッシュに痛いと漏らしたら、筋肉が出来てる証拠ですよと微笑まれてしまった。
30分ぶっ続けで銃を撃っていたので、指まで痛いのだ。笑い事ではない。
「ふう……」
髪から滴る水をタオルで吸収し、すこし生乾きのままテラスへ出た。
外はもう薄暗く、すでに沈んだ夕日のかすかな光が霧の向こうに浮かんでいる。
ぐうっと伸びをして、深呼吸を一度。ほんの少し木々の匂いがする。
結局今日はモリスの能力を見ることはできなかった。明日に期待だ。
「アスター!メシだぞ」
その時突如目の前に、逆さまのペローナが現れた。驚いてゴクリと飲み込んだ息を吐き出す。
「びっくりした……」
「ははっ驚いたか!」
くるりと上下反転し、えっへんと胸を張るペローナはよく見ると向こう側が透けている。ゴーストプリンセス様はいたずらが大好きなようだ。
「悪いが二つ隣の部屋にいるゾロと一緒に来てくれるか?」
頼んだぞ!と言い置いて、ふわふわと下の階へ戻っていく彼女に手を振って見送る。
ゾロとは鍛錬の時にちらりと顔を合わせて、名乗りはしたけれどほとんど話しはしていない。想像を超える極度の方向音痴だというのはペローナから聞いていたし、お腹も空いていたので早速部屋を出た。
扉をノックすると、すぐに無愛想な顔でゾロが出てきた。左目を縦に切り裂くような傷跡がまだ生々しい。
「ゾロ、ごはんできたみたい」
「ああ」
一緒に行こうと言うと、彼はほんの少し眉根を寄せた。
「ペローナにでも頼まれたのか」
「うん、あたり」
2人、並んで歩き出して、
「なあ、お前」
すぐに、鋭い視線が私を刺した。
「アスターでいいよ」
「あー、アスター、ちっと頼みがあるんだが……」
けれどその鋭さは一瞬で、躊躇い迷うものに変わる。
ほぼ初対面の私などに一体何だろうかと首をかしげた。
「クロコダイルにひとこと言わなきゃなんねぇ事がある。そのー……」
数回、言い澱む言葉の先を何となく察する。まぁあの人は、確かに、話しかけづらいよなぁ。
「わかった、間に入ったらいいの?」
「!あ、ああ、助かる。大したことじゃねぇんだが、まぁ一応な」
ゾロは、感情がよく表情に出るようで。驚いた後嬉しそうに微笑むその様子は、年相応に幼さが見え隠れしていた。
5つ以上歳下だけれど、そこまで差を感じないのは彼が海賊として様々な経験をして来たからだろうか。今は離散しているという麦わらの一味に、いつか会えるだろうか。