第4章 報われない恋と幽霊騒ぎ
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髪をしっかり乾かしたアスターが部屋に戻ってきた時、また昨日の首尾の悪さを思い出して舌打ちをしそうになっていた。
忌々しい。
スムーズに事が運ばないのが何よりも苛立つ。
フロントにモーニングコールを依頼してから隣に潜り込んできたアスターの首元に、顔を埋めた。
先程胸に顔を埋めた時の瞳をもう一度見ても良かったが、直接肌に触れたい欲が勝った。
この時のおれはまだその欲の大元に気づかないまま、首筋に柔く噛み付く。
「っ……何かあったんですか」
ふわりと石鹸の香りがする。酒でもタバコでも、はたまたきつい香水でもないそれにひどく落ち着きを覚える。
船を出してこいつとただ共に寝る事が増えてから、女を買わなくなった。欲を吐き出すだけの行為がなぜか馬鹿らしくなってしまったのだ。
しっとりした肌から口を離して、ごろりと天井を向いた。
「何故そう思う」
「少し、ピリピリしてた気がして」
全くこいつは、人の機微に聡い。
本気で隠そうとしないと、隠し事もできなさそうだ。今のところする予定はないが。
「ウォーターセブンの"永久指針"が手に入らねェ」
そもそも"偉大なる航路"を横切りながら遡っている状況なので、"記録指針"が使えないのだ。複数の"永久指針"と、航海士のヘンリーが持っていたかなり詳しい海図があったから進めているようなもの。
「代わりにサン・ファルドの奴ァ手に入った」
「あ、聞いたことあります、その町」
「別名カーニバルの町、だ」
そこから海列車を辿っていけばウォーターセブンにたどり着ける。回り道ではあるがどうにかなりそうで、ここから動けないなんて最悪の事態は免れた。
「カーニバル、見てみたいです」
チラリと横を見ると、淡いアクアブルーの瞳がこちらを向いていた。思わず手を伸ばしてしまったのは、海賊の性だろう。
反射的にであろう、目を細めた彼女の頬に、いつかのように触れる。
赤みが指す頬を手のひらで覆うと、アスターは猫のようにすり寄ってきた。
じわりと伝わってくる体温が心地よい。
小さな体躯を抱き寄せて、襲い来る睡魔に身を委ねた。
おやすみなさい、と、アスターの声が聞こえた気がした。