第4章 報われない恋と幽霊騒ぎ
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それから5日間、仕事はたっぷりあった。
タバコの葉の仕入れ。葉を貯蔵しておくための、外気を遮断する容器や、各種道具類への初期投資。あの、盗賊たちから奪った金品はほぼ底をついてしまった。
そして葉のブレンドを試す日々。昨日なんて、一日中ホテルに缶詰めだった。
もちろんその間も、体を鍛えるためのメニューはこなしていたし筋肉痛がなくなったわけではない。
クロコダイルはと言えば、あちこち飛び回っているようで、どうやら昨日は朝出て行ったきりホテルに戻ってこなかったようだ。
そんなに荒れた町ではないので彼の心配はしていないが、少しばかり不安はあった。もしこのまま置いていかれたらどうしよう、なんて。
そんな不安をかき消すように無心で朝の筋トレをしていたら、部屋の窓がカタカタと鳴った。
見ればガラスの向こうに砂煙が漂っていて、慌てて窓を開けた。そこにじわりと現れる大きな背中に、先ほどまでの不安は無用のものだったとホッとする。
「お帰りなさい、サー」
「……煙草寄越せ」
いつにも増して声が低い。何も言わず、昨晩ブレンドした煙草とライターを一緒に渡す。
こういう時、クロコダイルは何も言ってはくれない。
何があったのか知りたいと思うのは部下として分不相応だろうかと、いつも迷う。聞けば答えてくれるだろうか。一線引かれてしまうのだろうか。
後者が少し怖くて、結局何も聞けないのだ。
「香り、どうですか」
試作品の種類はとうに2桁を超えていた。一応、今までで一番美味しくて私の好みだと思うものができたけれど。それはクロコダイルの好みだとは限らない。
「悪くねェが……パンチにゃ欠けるな」
女向けならありじゃねェか?と、ごくごく普通に感想をくれた。
「ンだ、変な顔しやがって」
「い、いや、なんでも……あ、筋トレ続きします」
そういえば途中だったと、その横顔から視線を引き剥がした。
ピリピリしているのかと思えば、私の問いには普通に答えてくれた。
そういえば私が何か聞いた時、クロコダイルが何も言わなかったりはぐらかしたりということはなかったんじゃあないかと、思う。
筋トレメニューが終わっても、ベッドに腰掛けたクロコダイルはその場でぼんやりしていた。
軽くシャワーを浴びて部屋に戻ると、まだそのままの体勢でぼうっとこちらを見ていた。
「……サー?大丈夫ですか」
具合でも悪いのだろうかと目の前に立つ。
「うぐっ!?」
突如、胸元に軽い衝撃が。
背中と腰に回る腕。
そのままベッドに倒れる、クロコダイル。
その顔は私の胸に、埋もれている。
胸、に。
ぞくりと、肌が粟立つ。
整髪料とタバコの匂いがする。
女の香水の匂いは、しない。
代わりに微かだけれど血の匂いがした。
「さ、さー、なに、して」
何を確認してホッとしているんだと、自分に呆れそうになる。
クロコダイルはごろりと横向きになると、寝る、と短く言った。靴もコートもそのままで。
「3時間したら起こせ」
そんな無茶な。こんな体勢で3時間もいたら、私だって眠ってしまいそうだ。
「……分かりましたから一度離してください」
「……」
「ココに戻りますから」
ああ、私は一体何を言ってるんだろう。
だって、見下ろす位置にあるクロコダイルの目の下に薄っすらクマが見えて、ああ昨日一睡もしていないのかと思ったら。それに、どこぞで買った娼婦と寝て来たわけでもないときたら。
だけどまだ髪も乾かしていないし、布団を被らずに寝るなんて風邪をひく危険性の高い事、できないしさせられない。
ぐりぐりと鎖骨のあたりに額を押し付けたと思うと、クロコダイルは私の体を解放した。
起き上がってひとまず彼の靴を脱がせ、コートをハンガーにかける。布団を隣のベッドからひっぺがしてその体を覆うと、少し待っててくださいと声をかけた。