第4章 報われない恋と幽霊騒ぎ
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鬱々とした気分が徐々に晴れていく。
それと同時に何が起こったのか思い出され、少しばかり頭を抱えた。
懐から葉巻を取り出し、吸い口をカットして火をつける。ひと口吸って、煙を吐き出すとともに、すぐそばで同じように頭を抱えた男に話しかけた。
「よう、鷹の目」
「クロコダイル、久しいな」
目が合うと、互いに少しだけ苦笑する。
大人2人、しかも大男の七武海と元七武海が雁首そろえて一体何をやっているのかと。
こう狭い空間では、あのゴースト達の方が圧倒的に有利だった。その事実に小さく舌打ちする。
「おれァ新世界に行きてえだけだ。お前とやりあうつもりはねェ」
「ふむ。凶悪な脱獄囚を見逃せと言うか」
表情の乏しいミホークは何を考えているのか、表面だけでは分からない。しかし何事か考えているということだけは分かった。
「見逃しても良いが、条件がある」
ミホークは無表情から少しだけニヤリと笑みを浮かべた。
「実は今稽古をつけている奴がいてな。少し手伝ってくれ」
それが条件だ、と言ってミホークは絨毯から立ち上がり、乱れた服を正した。
「お前が、弟子を取るたァな」
「それを言うならお前とて、おぼこいおなごを連れていたではないか」
おぼこい。まぁ確かにあれは十中八九処女だろうが。
毎夜同じベッドに入る度、これでもかと言うほど顔を蒸気させるアスターを思い出してくつくつと笑った。
「それで、答えは」
「……構わねェが、こちらも色々と立て込んでるんでな。1週間ほどはこの島に滞在したい」
「なに、その後で構わんさ」
話がまとまったちょうどのタイミングで、ドアが乱暴に叩かれる。
「む、ゴースト娘か」
ミホークがドアを開けた途端、ずんずんと部屋に入ってきたのは先ほどおれとミホークを鬱々とさせた張本人だ。
その後ろからゆっくりと着いてきたアスターは着替えていて、髪が少し濡れているのでどうやらシャワーも浴びてきたようだ。
「そっちの話はまとまったみてえだからコッチの話もするぞ」
モリアの部下ーーペローナは、その姿形に似合わぬ腕組みと仁王立ちでフンと鼻を鳴らした。
「明日一日アスターは休ませろ。あと金をやれ」
「なんでおれの手下でもねえ女に指図されなきゃならん。話にならねえな」
欲しいものも言えないような状況ならいざ知らず、アスターは見た目には普通に見える。
悔しそうな表情を隠そうともしないペローナを、アスターが後ろからそっと制する。
「ペローナ、ありがと、大丈夫だから」
「うー!よくねえ!明日一日は休め!しゃがみこむほど痛えくせにやせ我慢すんじゃねえよ!」
「うん、だから、ありがと」
勢いの途絶えないペローナに抱きついて止めるアスター。
しゃがみこむほど痛い、と言う言葉の意図が分からず、無言のままアスターを見る。
「ええと、お腹が痛くて。座ってできる仕事があれば私に回してください。なければ、できれば休みたい、です」
言われてみれば顔色もあまり良くないような気もする。そのままじいと顔を見ていると、しどろもどろになりながら目をそらす。
「あ、病気じゃないです。その、えーと……つ、月に一度来るやつ、です……」
俯いてボソボソと言った内容は確かに聞こえて、ああと短く返事をする。月の障りなら仕方ないかと、懐の財布を取り出した。
「それで、いくらいるんだ」
「あ、う、1万ベリーあれば十分、かと」
どうにも煮え切らねえ返事をしやがるなとアスターをじろりと見るが、視線を遮るようにペローナが睨み返してきた。
そもそもアスターには少なくない給与を払っていたはずだが、何故今持っていないのかと。逡巡の後、すぐに思い出した。
「そうか、拉致られてそのままだったな。1ベリーも持ってねェ訳だ」
アスターの故郷を出る時の状況が状況だったと、財布から1万ベリー札を5枚取り出す。
「とりあえずこれでいいだろう」
「え、こんな」
「ア?拉致られる前はもっと持ってただろうが」
好きに使えと、その手に札を押し込んだ。女は色々と入り用だ。あればその分、服だなんだと買うだろう。
そんなおれをミホークがニヤニヤしながら見ている気がして、小さく舌打ちした。
その夜はペローナの部屋にアスターが、ミホークの部屋にペローナが、そしておれとアスターが泊まるはずだった部屋におれとミホークが、寝ることになった。
ペローナに押し切られる形だったが、また鷹の目と酒を飲み交わすことになるとは思っていなかったのでまあ良しとしてやろう。