第4章 報われない恋と幽霊騒ぎ
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いつもの時間にいつも通り目が覚めて、すぐそばにある温もりに手をのばしかけ、そして一瞬で覚醒した。
その温もりはクロコダイルで、昨夜どういう状況だったのか思い出したからだ。
起き抜けから胸の奥がきゅうきゅうと苦しそうに鳴いて、これはもう無視できそうにないとそっとため息をついた。
わたしは、クロコダイルが好きなのだ。
20近くも歳の離れた、世間から見れば極悪人に、惚れてしまった。
これはきっと報われない恋というやつだ。
拾われて、ほんの少しは認められていると思う。気まぐれにこうして同じベッドで眠ることもある。けれど、この人は、恋人だなんて甘ったるいものにはこれっぽっちも興味なんてないだろう。
いや、そうであってほしいなんて思いもある。
のろのろと起き上がってソファに移動すると、もう一度小さくため息をついた。
目的に向かって、邪魔するものは倒し、足手まといは切り捨ててでも前へ進んで欲しい。その背を追いたい、と。
一方で、その手でわたしの全てに触れて欲しいなんて思いも、ないといえば嘘になる。
どちらもわたしの中にある気持ちで、どっちか一つを選べと言われれば、今のわたしは迷うことなく彼の背を追う方を選ぶ。
だからこの気持ちは封じて、伝えるつもりはない。いくら胸の奥から鳴き声が聞こえようと、胸が高鳴ろうと、顔が熱くても、だ。
幸いにも最初のうちからわたしの反応はほとんど変わっていないはずなので、クロコダイルに気取られることはないだろう。悪意には敏感そうだけど、好意にはひどく鈍感そうだし。
ちらりとクロコダイルを見ると、珍しく寝顔がこちらを向いていた。
一瞬、口元に淡い笑みを浮かべているように見えて、目を瞬いた。けれど気のせいだったようで、数歩近寄って見ても、ただ寝息を立てるばかりだった。
◇
それから3日後の夕方。
あれ以降嵐に遭うことも海賊や海軍に襲われることもなく、すんなりと新たな島に到着しようとしていた。
3、4時間おきにクロコダイルに頭を撫でられるのと、彼が私と同じベッドで寝る事を譲らなかった以外は、別段面白いことも何もなかった。
とはいえ、その間私は厳しい鍛錬と激しい筋肉痛に耐えていた、訳だけれど。余計なことを考えなくていい分、自分の身体とじっくり向き合えたとは思う。
たった3日ではとても変化を感じるほどではないが、筋肉痛の痛みには少し慣れて来たし、ヘンリーの言う正しい姿勢での腕立て伏せはたぶんできるようになった。
今朝もヘンリーが組んだメニューをこなし、しっかりストレッチをした。
甲板では先程から、上陸する島の特徴をヘンリーが説明している。
島の名は『アカリ島』
春島とされているが、時期による四季はなく、地区による四季がある。
島をほぼ四等分にしてぐるりと春のプランタ区、夏のレテ区、秋のロトンヌ区、冬のイヴェル区。それぞれの区は山か渓谷で分断されている。
一番外部との交易が盛んなのはロトンヌ区で、海岸沿いはほとんどが港だ。私達もその内のひとつに停泊することになった。
そして、一番注意すべきは、すぐ隣のクライガナ島に住んでいると言う王下七武海、鷹の目、ジュラキュール・ミホークだ。
王下七武海という抑止力があるので、この平和な島には海軍はほとんどいない。
彼に遭遇しないこと。もし会っても一般市民のつもりで普通に接すること。手配書が出回っているのはクロコダイルとダズだけなので、2人以外はすんなり見逃されるだろう。
説明はそこで終わり、今度はクロコダイルの声が聞こえて来た。話の内容が聞こえなかったので、船長室の扉を半開きにしてみる。
船員達への指示を出しているようだった。2人1組で、情報収集や船員のスカウトなど、様々な地区へ散って行くようだ。
指示が終わると、全員にお金を渡していた。トラブルにならないよう、しかし好きに使って良いと。
女だー!なんて、ひと盛り上がりがあって。
ああ、若い男の人が多いから、そういう事もあるかと、あまり詳しくはない部類の知識をぼんやり思い出す。
クロコダイルも、するんだろうか。ここ数日共に眠っていたが、やはり抱かれる事はなかった。全くしない、なんて事はないだろうけれど。全然想像がつかなくて、すぐに考えることを諦めた。
上陸して、ひとまず今晩はこのロトンヌ区で泊まり、明日から本格的に動き出すこととなった。