第3章 触れたい相手
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トイレ以外で唯一鍵のかかる場所──お宝の倉庫で身体を拭き、激しい揺れによろめきながらも船長室に戻れば。
あっという間にクロコダイルに捕らえられて、共にハンモックの中におさまっていた。
期待通りに、なってしまった。
ハンモックというのはとても厄介だ。
ベッドなら多少、身体同士の密着を避けることができるけれど。
ハンモックはそうはいかない。中心へ中心へと、常に寄せられる。
つまり、クロコダイルと私の身体はこれまでと比べ物にならないくらい密着していた。
それだけならまだいい。
さっきから心臓が痛いくらいに脈打って。
もちろん顔は火が出そうなほど熱くて。
あの原因不明の、胸の奥から聞こえてくる鳴き声は最大級にうるさくて。
外から聞こえていた激しい雨の音すら、聞こえない。
自分が分からない。
こんなのは知らない。
今までだって抱き枕のように一緒に眠った事もあるのに。なんなら、耳を甘噛みされたり舐められたりした事だってあるのに。
思い出したら余計に苦しくて、逃れたくて、でもできなくて、下唇を噛む。
くつくつと笑うクロコダイルに、悪態の一つでもついてやりたいのに。
こういうことは恋人としてください、と。
こんな小娘を弄んでどうしたいのかと。
そうだ、こんな事は、好きな人同士がすべき事だ。
たとえわたしがクロコダイルを好きだとしても──
「え?……え?」
「ア?なんだよ」
どうにかして彼の顔が視界に入らないようにと彼の反対側を見ていたけれど、反射的に振り返る。
わたしがクロコダイルを、すき?
そんな、ばかな。
「オイ?」
何も言わないわたしの髪に、不審そうなクロコダイルが、触れる。
「その目の色は初めて見るなァ」
いったいどんな色だというのだろう。
常よりも少し目を細めてわたしを見るクロコダイルは、初めて見る表情をしていて。
「……いで」
ぎゅ、と目を瞑る。
「み、ない、で」
これ以上わたしを見ないで。そんな、眩しそうな顔で、見ないで。
勢いよくまた彼の反対側へ顔を向ける。
嫌だ、恥ずかしい。なのに、もっと一緒にいたいだなんて思っている自分もいる。
ゆるゆるとわたしの髪を梳く彼の右手が、とても心地良いのだけれど。
恥ずかしくて胸が苦しくて。そのまま目を瞑って、ただひたすらに時が過ぎるのを待った。
fin
next→あとがき
あっという間にクロコダイルに捕らえられて、共にハンモックの中におさまっていた。
期待通りに、なってしまった。
ハンモックというのはとても厄介だ。
ベッドなら多少、身体同士の密着を避けることができるけれど。
ハンモックはそうはいかない。中心へ中心へと、常に寄せられる。
つまり、クロコダイルと私の身体はこれまでと比べ物にならないくらい密着していた。
それだけならまだいい。
さっきから心臓が痛いくらいに脈打って。
もちろん顔は火が出そうなほど熱くて。
あの原因不明の、胸の奥から聞こえてくる鳴き声は最大級にうるさくて。
外から聞こえていた激しい雨の音すら、聞こえない。
自分が分からない。
こんなのは知らない。
今までだって抱き枕のように一緒に眠った事もあるのに。なんなら、耳を甘噛みされたり舐められたりした事だってあるのに。
思い出したら余計に苦しくて、逃れたくて、でもできなくて、下唇を噛む。
くつくつと笑うクロコダイルに、悪態の一つでもついてやりたいのに。
こういうことは恋人としてください、と。
こんな小娘を弄んでどうしたいのかと。
そうだ、こんな事は、好きな人同士がすべき事だ。
たとえわたしがクロコダイルを好きだとしても──
「え?……え?」
「ア?なんだよ」
どうにかして彼の顔が視界に入らないようにと彼の反対側を見ていたけれど、反射的に振り返る。
わたしがクロコダイルを、すき?
そんな、ばかな。
「オイ?」
何も言わないわたしの髪に、不審そうなクロコダイルが、触れる。
「その目の色は初めて見るなァ」
いったいどんな色だというのだろう。
常よりも少し目を細めてわたしを見るクロコダイルは、初めて見る表情をしていて。
「……いで」
ぎゅ、と目を瞑る。
「み、ない、で」
これ以上わたしを見ないで。そんな、眩しそうな顔で、見ないで。
勢いよくまた彼の反対側へ顔を向ける。
嫌だ、恥ずかしい。なのに、もっと一緒にいたいだなんて思っている自分もいる。
ゆるゆるとわたしの髪を梳く彼の右手が、とても心地良いのだけれど。
恥ずかしくて胸が苦しくて。そのまま目を瞑って、ただひたすらに時が過ぎるのを待った。
fin
next→あとがき