序章 旅の始まり
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私の1日は、コーヒーを淹れることから始まる。ダズとクロコダイルへコーヒーを淹れ、2人を起こしに行く。時間はいつも7時ぴったり。
ダズは寝起きは良いようで、すんなり部屋から出てくる。
問題はクロコダイルだ。やたらと寝起きが悪い。ドアの前から呼びかけただけでは起きて来ない事は数日で学んだので、気休めにノックして部屋に入り、体を揺すって起こす。
「起きてください、サー」
「んあ……」
慣れて来たけれど、起き抜けの人相の悪さも相当なものだ。しかしそれよりも問題なのは、
「うわっ」
こうして時折、寝ぼけて私もろとも二度寝しようとするところだ。
クロコダイルの腕の中、すっぽりと包まれて心地良いやら恥ずかしいやら。何度かこうされているが、まだ慣れない。いや、あまり慣れたくはないが。
「サー、コーヒーが冷めてしまいますよ」
再び体を揺さぶると、ようやくうっすらと目を開く。
「おはようございます、サー・クロコダイル」
ここで解放されることがほとんどなのだが、今日はどうやら気分がいいらしい。……表情は、凶悪だけれど。
腕の中の私を、抱き枕よろしくギュッと抱きしめて、きっと真っ赤になっているであろう私の耳を甘噛み。
「ひあっ……」
思わず漏れたその嬌声で満足したのか、抵抗するように胸元を押すとすんなり抱き枕から解放された。
「っ……も、戻ります。起きてくださいね」
どくどくと暴れる心臓を抑えながら、キッチンへと戻った。
甘噛みされた耳が、まだ熱を持っている。
クロコダイルが何を考えているのかわからないが、嫌われてはいないらしい。
最初こそ怯えてはいたが、とって食われるわけでなし、仕事を言いつけられてお給料までもらっている。
忙しい毎日はありがたかった。両親のことを、思い出さなくて済む。
ここへ来て2日目、クロコダイルが短く、お前の家は片付けておいた、と言った。それ以外、私の家族に関する話題は全くなかった。
◇
ダズとクロコダイルを見送ると、まずは買い物へ行く。2人がどこへ行ってるのかは知らない。知らない方がいいかな、とも思っている。
買い物が済むと、洗濯だ。家のすぐ裏手に水路があり、そこで自分のものと、2人のものを手早く洗う。それから二階のベランダに干す。
1人で軽い昼食をとり、昼から掃除にとりかかる。来た当初はそこかしこが荒れていたが、少しずつ片付けて、今はだいぶ楽になってきた。
掃除が終わると自室で一休み。
殺風景だった部屋には、衣類や本など、少しずつ物が増えて来ていた。棚はいつの間にかダズが設置してくれていて、聞くとクロコダイルが買ったとのことだった。
読みかけだった本が終わり、少しばかり余韻を楽しむ。
夕食の準備をして、2人の帰りを待つ。あ、洗濯物を取り込むのも忘れずに。
私の毎日はこの繰り返しだ。
ちなみに、周辺ではダズと二人暮らしということになっていて、クロコダイルは能力を使って人に見られないように出入りしている。
脱獄犯なのだからまあ、隠れるのは当然といえば当然だ。
帰って来た2人とともに夕食を済ませ、風呂に入り、眠る。
そんな毎日に終止符を打ったのは、私がクロコダイルの元に来てからちょうど2ヶ月後だった。