第3章 触れたい相手
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身体中の筋肉が悲鳴を上げているのを感じながら、濡れたタオルで体を拭いて服を着替えた。
情けないけれど、強くなるためには通過儀礼のようなものだ。これを超えていくしかない。
なんて思っていると、扉の外からヘンリーの声が聞こえて来た。
「着替え終わった?入っていい?」
「あ、うん!どうぞ」
入ってきたヘンリーは、ロッシュからの差し入れだと、サンドイッチと紅茶のセットをテーブルに置いた。
「ほんじゃ、ボスも呼んでくるから、紅茶はヨロシク」
茶葉の入ったポットにお湯を注ぎ、心の中で秒数を数える。
50になったところで、クロコダイルが船長室に入ってきた。
「もう少しで紅茶が入りますので待っててください」
返事は特に無い。咥えていた、小さくなった葉巻を灰皿に押し付ける。
細く長く煙を吐き出し、まだかとこちらを見てくるクロコダイル。
「あと10秒」
合計150秒を数えて、カップに琥珀色の液体を注いだ。葉巻の残り香に混じって、アールグレイの香りが室内に広がる。
「砂糖はいいですか?」
珈琲はいつもブラックだったけれど、紅茶を淹れるのは初めてなので一応聞いてみる。
「結構だ」
「はい、じゃあ、いただきましょう」
私たちだけ特別に差し入れをもらったようだったけれど、お腹が減りすぎて倒れるのでは無いかと思っていたので、ありがたくいただく。
サンドイッチは、とても美味しかった。
◆
サンドイッチを食べ終えて、一つのトレーに食器類をまとめる。
まだ紅茶が残っているのでふたたび座って香りを楽しんでいると、クロコダイルが口を開いた。
「頭痛は」
「あ、痛くない、です」
そう、おとといの夜思い至った仮説は、昨夜の内に彼に話してあった。
海は私に陸にいて欲しくて、長く陸を離れると頭痛になる。
そして"砂"であるクロコダイルに触れると、治る。
クロコダイルに触れずに海上いたら、頭痛になるのか。それを確かめるために、触らないように注意して過ごしていた。
しかしまだ、痛みの気配はない。
それよりも不可解なのは、触らないように注意して過ごしている事に、奇妙な違和感を覚えるところだ。
そこまで触れたり触れられたりしていたとは思わない。一昨日の夜はなし崩し的に添い寝、になってしまったけれど、昨夜はそれぞれ別で眠ったし。普段は会話も言葉少なだし。
温泉島を出てからというもの、どこか胸の内がざわつく。
その原因が、分からない。
いつ頭痛になるかと不安だから、きっとそうだと結論づけて、また紅茶を口に含んだ。すっかり冷めてしまったけれど、いい香りだった。