第3章 触れたい相手
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まずは体を鍛えろ。
クロコダイルは船に乗って早々に、私を上から下まで眺めてからそう言った。
人が人なら嫌悪感を感じたかもしれない、不躾とも言える視線。だというのに、不思議とそんなことはなかった。
鍛えるとは言っても、何をどうすればいいのかさっぱり分からない。とりあえず筋力トレーニングからだろうかと、汗をかいても気にならない服に着替える。
「お邪魔しま~す」
着替え終えたちょうどその時に船長室の扉が開いて、金髪の男が入ってきた。
長さは私と同じくらいで、同じように後ろで一つにまとめている。常に口元の笑みを絶やさない彼は、この船の航海士だ。
「きちんと話すのは初めまして。オレ、ヘンリー。よろしくアスターさん」
「あ、は、じめまして。アスターです」
知ってる~と笑顔で握手を交わすヘンリー。背の高さは同じくらいだが、感じる圧力が彼の強さを思わせる。
「ボスが面倒見てやれって言うもんだから、今日からオレ、先生ね。ヨロシク」
「そうだったんですか。先生…よろしくお願いします」
歳下だし先生は照れるから普通に名前で呼んで、それに敬語もナシ!と言うので、ヘンリーと呼ぶことにした。
「ところでアスターさんとボスはドコまでいってるの?もうキスくらいはしたよね?」
「は?な、そんなんじゃ……」
あたふたと否定の言葉を重ねる。私とクロコダイルの関係を説明するのが難しい。
拾われて、雇われて、ほんの少しだけ認められて。それ以上のことなんて何もない。
年下相手にいいように翻弄されていたが、突然ヘンリーはぐえっと蛙のような声を上げた。
私の言葉に興味津々だった彼の後頭部を直撃したのは──
「ヘンリー、なんの面倒を見るつもりですかこのお馬鹿」
──ロッシュの拳だった。
「アスターさん、馬鹿に付き合わなくていいですからね」
あくまでにこやかに対応してくれてはいるが、少し怖いオーラを感じるような。
「あんまりつつくなよ、馬鹿」
「馬鹿馬鹿ウッセ!なんだよ」
「ああ、鍛えるならこれ飲んでください。アスターさん」
はい、と渡されたのは大きめのジョッキで、中には白い液体がなみなみと入っていた。
「僕の特製プロテインです。筋肉のゴハン」
始める前に半分、終わった後に残りを飲むようにと、マドラー付きでテーブルに置くロッシュ。
「んじゃ、始めますか」
「はい……じゃなかった、うん」
そうして、地獄のような鍛錬の日々が始まることになる。
◆
今までまともに運動をしたといえば、10歳くらいまで通っていた学校で、授業や休み時間に体を動かした程度で。その後、まともにスポーツもやってこなかった。
そんな私の筋力はもちろん、世間一般の女性平均より少し劣るくらいだろう。海賊としてなど、とても役に立たないレベルだった。
それを、ヘンリーは3ヶ月で海軍の一兵卒くらいとなら余裕で渡り合えるくらいにまでしようというのだ。
「本気でやればできるもの?」
「本気じゃないの?」
「いや、本気だけど……」
「んじゃなんとかなる。あーあと大事なこと聞いとく」
ヘンリーのにこやかな表情が少し陰る。
「敵を……ヒトを殺す覚悟は、ある?」
ギクリと、した。もちろんそこも織り込み済みでクロコダイルに返事をしたつもりだったけれど、改めて言葉で聞くとどうしても、引っかかるものがある。
「戦うにしても逃げるにしても、殺さざるを得ない状況って、あるから」
「わかって、る」
「これから教えるのはヒトゴロシの方法だからね。覚悟決めとかないと……死ぬよ」
それは重い、一言だった。
でも、黙って守られるだけのお姫様になりたくてここにいるんじゃない。
私はあの人について行きたいし、手を煩わせることはできる限り避けたい。
そのためには、隣に並び立つには、強くあらねばならない。
「……うん」
ヘンリーに向かって短く返事をすると、へらりといつもの笑顔に戻った。
「まぁでも、殺す方法を知るってことは殺さないで済む方法も知るって事だ。それに力量が伴えば、殺さずに切り抜けられる場面も増えていくしね。ま、肩の力抜いて」
クロコダイルは船に乗って早々に、私を上から下まで眺めてからそう言った。
人が人なら嫌悪感を感じたかもしれない、不躾とも言える視線。だというのに、不思議とそんなことはなかった。
鍛えるとは言っても、何をどうすればいいのかさっぱり分からない。とりあえず筋力トレーニングからだろうかと、汗をかいても気にならない服に着替える。
「お邪魔しま~す」
着替え終えたちょうどその時に船長室の扉が開いて、金髪の男が入ってきた。
長さは私と同じくらいで、同じように後ろで一つにまとめている。常に口元の笑みを絶やさない彼は、この船の航海士だ。
「きちんと話すのは初めまして。オレ、ヘンリー。よろしくアスターさん」
「あ、は、じめまして。アスターです」
知ってる~と笑顔で握手を交わすヘンリー。背の高さは同じくらいだが、感じる圧力が彼の強さを思わせる。
「ボスが面倒見てやれって言うもんだから、今日からオレ、先生ね。ヨロシク」
「そうだったんですか。先生…よろしくお願いします」
歳下だし先生は照れるから普通に名前で呼んで、それに敬語もナシ!と言うので、ヘンリーと呼ぶことにした。
「ところでアスターさんとボスはドコまでいってるの?もうキスくらいはしたよね?」
「は?な、そんなんじゃ……」
あたふたと否定の言葉を重ねる。私とクロコダイルの関係を説明するのが難しい。
拾われて、雇われて、ほんの少しだけ認められて。それ以上のことなんて何もない。
年下相手にいいように翻弄されていたが、突然ヘンリーはぐえっと蛙のような声を上げた。
私の言葉に興味津々だった彼の後頭部を直撃したのは──
「ヘンリー、なんの面倒を見るつもりですかこのお馬鹿」
──ロッシュの拳だった。
「アスターさん、馬鹿に付き合わなくていいですからね」
あくまでにこやかに対応してくれてはいるが、少し怖いオーラを感じるような。
「あんまりつつくなよ、馬鹿」
「馬鹿馬鹿ウッセ!なんだよ」
「ああ、鍛えるならこれ飲んでください。アスターさん」
はい、と渡されたのは大きめのジョッキで、中には白い液体がなみなみと入っていた。
「僕の特製プロテインです。筋肉のゴハン」
始める前に半分、終わった後に残りを飲むようにと、マドラー付きでテーブルに置くロッシュ。
「んじゃ、始めますか」
「はい……じゃなかった、うん」
そうして、地獄のような鍛錬の日々が始まることになる。
◆
今までまともに運動をしたといえば、10歳くらいまで通っていた学校で、授業や休み時間に体を動かした程度で。その後、まともにスポーツもやってこなかった。
そんな私の筋力はもちろん、世間一般の女性平均より少し劣るくらいだろう。海賊としてなど、とても役に立たないレベルだった。
それを、ヘンリーは3ヶ月で海軍の一兵卒くらいとなら余裕で渡り合えるくらいにまでしようというのだ。
「本気でやればできるもの?」
「本気じゃないの?」
「いや、本気だけど……」
「んじゃなんとかなる。あーあと大事なこと聞いとく」
ヘンリーのにこやかな表情が少し陰る。
「敵を……ヒトを殺す覚悟は、ある?」
ギクリと、した。もちろんそこも織り込み済みでクロコダイルに返事をしたつもりだったけれど、改めて言葉で聞くとどうしても、引っかかるものがある。
「戦うにしても逃げるにしても、殺さざるを得ない状況って、あるから」
「わかって、る」
「これから教えるのはヒトゴロシの方法だからね。覚悟決めとかないと……死ぬよ」
それは重い、一言だった。
でも、黙って守られるだけのお姫様になりたくてここにいるんじゃない。
私はあの人について行きたいし、手を煩わせることはできる限り避けたい。
そのためには、隣に並び立つには、強くあらねばならない。
「……うん」
ヘンリーに向かって短く返事をすると、へらりといつもの笑顔に戻った。
「まぁでも、殺す方法を知るってことは殺さないで済む方法も知るって事だ。それに力量が伴えば、殺さずに切り抜けられる場面も増えていくしね。ま、肩の力抜いて」