第2章 動き出す
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翌日。
煙草の生産元へ、アポイント通りに尋ねた。
行きすがら決めた設定はこうだ。
幼い頃に両親を亡くした私と、クロコダイルは育ての親である叔父。成長して、両親がやっていたシガーショップの看板を継ぎたいと、叔父に頼み込んで、仕入れ先を探している──。
その煙草の葉は、家業のシガーショップでも何度か仕入れたことがある銘柄で、しかも、それなりに値の張るものだった。
にも関わらず、聞き出した卸値は販売値に見合わないほど安すぎて、困惑する。
「今出荷できる分はどのくらいあるんですか?」
「あー、3キロくらいかなぁ」
たっぷり髭を蓄えた、責任者のおじさんは、人の良さそうな笑顔で答えてくれた。
「全部ください。先ほどの卸値で」
「いやぁ、今は出荷先絞っちゃってるから……」
私の言葉に、渋い顔をするおじさん。
ちらりと隣を見ると、クロコダイルが面倒臭いから力づくで奪おうかと言わんばかりに、機嫌の悪そうな顔をしている。
諌めるように腕に一度触れた後、交渉に入る。
「では、今後もっと利益の出る情報をお渡しします。だから、売ってください」
「って言ってもねぇ…その情報の信憑性は?」
「両親が残してくれた帳簿に、末端のショップでの仕入れ値と販売価格が記録されています。仲介の問屋が、どれくらい儲けているか、これで分かります。輸送費用もあるでしょうけど」
それはただの私の手帳だった。仕入れ値やらが記録されているのは本当だけれど、それは私が記録していたものだ。
「……なるほど、それが情報か」
「ええ、隣の島への卸値、交渉次第でかなり上がると思います。売っていただけますか?」
「ウーン……1キロでどう?」
「全部です」
「1.5キロ!」
無言で、首を横に振る。
「分かったよ……2キロでいいか?」
「全部です。でなければ、この話はなかったこ「あーあー!!分かったよ!持ってけ!欲張りな嬢ちゃんだな!」
「ありがとうございます。やりました、おじさま!」
久しぶりの大きな取引で、しかも思い通りの結果を得られてホッとする。
以前は、三代続いたシガーショップの看板の力があったが、今は何もない。にしては、出だしとしては上々だろう。
交換条件の価格情報と、卸値の妥当な価格を伝えて、クロコダイルが持っていたアタッシュケースから金額を確認して渡す。
引き換えに煙草の葉がつまった麻袋を3つ受け取る。
取引成立だ。
最後にもう一度礼を言って、直接船へ向かう事になった。
◇
かさばる荷物が増えた帰り道。
麻袋ふたつにアタッシュケースを左手に抱え、ハットを目深にかぶったクロコダイルは、葉巻ではなく煙草を吸っている。おまけに持って行けと、おじさんがくれたものだ。
「全部任せたが、この銘柄そんなに良いものなのか」
歩きながら首を傾げている。それもそうだろう。これだけでは判別がつきにくい。
私も一本だけ、と、クロコダイルに火を借りて久しぶりの煙を吸い込んだ。うん、やはり記憶に間違いはなかったようだ。
「ええ。クセが少なくて、オリジナルブレンドを作るならベースにするのにうってつけですよ、おじさま!」
「……おい、小芝居はもうやめろ」
目元がよく見えないが、見上げたクロコダイルは何やら複雑そうな顔をしていた。そんな顔をさせたのが私だということが少し可笑しい。
「すみません、でも、ふふっ」
「なんだ、気持ち悪ィ」
「ひどい!ちょっと、嬉しかったのに」
仕事をやり終えた…いや、スタートラインに立てた達成感と、今後への期待。
それに、昨日からクロコダイルとこんなにも話をしている、という事実。故郷で彼の家政婦の真似事をしていた時は、最低限の話しかなかった。
「でも、何だ」
言いかけたことは最後まで聞きたがるよなぁなどと思ったけれど、これは言わないでおく。
「え、と……家族ができたみたい、とか、サーと、こんな会話もできるんだ、とか」
「フン、調子に乗るな」
「いたっ」
コツンと頭を小突かれたけれど、その衝撃は優しいもので。また少し嬉しくなってしまって、にやけそうになる口元を抑えるのが大変だった。