第2章 動き出す
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変な匂いの正体は、硫黄という物質らしい。
なぜだかダズはこの島のことを知っていて、一行は海沿いの、程よく裏社会に通じていそうな宿へ落ち着いた。
他の乗組員たちは大部屋で、クロコダイル、ダズ、私の三人は同室となった。他の部屋は満室だという。
「ダズ、お前なぜこの島のことを知っている?」
部屋に着いて早々、窓際のソファで葉巻を吸いながらクロコダイルが尋ねる。
「ボスはご存じないのも仕方ないですね。ここは、バロックワークス時代、社員旅行の候補地だったんですよ。結局採用はされませんでしたが、候補地の資料を一通り見たので」
ダズが持ってきた荷物を整理しながら答える。
そこまで興味がなかったのか、クロコダイルはふうんと小さく返事をして窓の外へ目をやった。
窓の外には、海が広がっている。海面までの高さは3メートルほどだろうか。そしてその手前のデッキには、露天風呂が。
なかなかにお高い部屋だろうと、旅行したことのない私にも分かる。
することもなく手持ち無沙汰にしていた私が部屋の中を一通り見終わった時、部屋の戸を叩く音がした。
「失礼してもよろしいでしょうか?」
女の人の声。チラリとクロコダイルを見ると、お前が対応しろと言わんばかりに軽く頷いた。
「はーい」
鍵を開けると、そこにはフロントにいた妙齢の女性がにこやかに立っていた。
「申し訳ありません、受付の際に聞きそびれたものですから。昼食はどうされますか?お外に食べに行かれます?それともお部屋にご用意致しましょうか」
「あ、えっと……っ」
クロコダイルに指示を仰ごうと振り返ると、目の前に黒い壁が。危うく、40代とは思えない彼の胸板に衝突するところだった。
「食事は夜だけで良い。明日以降もな」
「朝食もよろしいですか?」
「ああ、いらん」
「承知いたしました。では島の地図をフロントにご用意していますので、お出かけの際にお受け取りくださいませ」
では失礼いたします、と女性が去っていき、部屋に静寂が戻る。真上から降って来た低い声が、やたらと耳に残っていたけれど。
葉巻を吸い終えたクロコダイルが、いつものコートではなくダズが出していた黒いジャケットに着替えて、ハットをかぶる。
「まずはメシだな」
「……は、はい」
そのいつもと違う格好がすごく似合っていたので、少し見惚れてしまったのも仕方がない、と思う。
どう頑張っても、カタギには見えないけれど。
◇
フロントでもらった地図を頼りに、宿のすぐ近くの定食屋で軽めの食事を済ませた。
クロコダイルは裏路地で食後の一服を楽しみながら、ダズとこの島でのことを相談している。
私はといえば、その路地の入り口で地図とにらめっこだ。
二人の相談に、加わりたくないといえば嘘になる。でも、私が聞いたところで何の役にも立たないだろうし、なんだか聞いてはいけないような気もしている。
そんなわけで、話していることは分かるけれど、何の話かは聞こえない距離で、地図を見ている。
この島はきっと観光で成り立つ島なのだろう。宿と、食事処や酒場、温泉施設がほとんどで、あとは土産屋と少しだけ風俗関係の店がある程度か。
「煙草屋は…専門店はなさそう…」
煙草を扱っている店はあるようだが、家業でやっていたようなシガーショップはなさそうだ。
私に何かできることがあるだろうかと首をひねりつつ、他にする事もないので地図を眺め続ける。
宿周辺の地図が大体頭に入ったところで、頭の上に何かが乗った。
「っ!サー、終わったんですか」
それはクロコダイルの右手だった。ぽん、ぽんと2度、見た目からは想像できないほどの優しさで私の頭の上を跳ねた手は、だいぶ小さくなった葉巻へと戻る。
その手に釘付けだった視線をなんとか引き剥がして通路を振り返ると、誰もいなかった。
「あれ?ダズさんは……」
「日中は別行動だ。ただでさえ目立つのが二人いちゃあな」
確かに、とはいえなかった。残念ながら、一人でも十分過ぎるほど目立っている。
「ああ、ビジネスの話だが。大規模ではないが、山の麓にタバコの生産地があるらしい」
「えっシガーショップはなさそうでしたけど」
「全部隣の島に売ってる。食料のためにな」
「ああ、なるほど」
言われてみれば確かに、この島には畑などはなさそうだった。隣の島と持ちつ持たれつ、なのだろう。
今日はアポイントをとるに留め、実際に行くのは明日にしようということになり、クロコダイルは早々に宿の電伝虫を借りて約束を取り付けた。