第1章 特効薬
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医者見習いーーモリスにあちこち診察された後、大丈夫みたいだからと、体力の回復に効く薬湯をもらい、船長室に戻った。
時間は真夜中だ。
ソファで薬湯をゆっくり飲んでいる間、クロコダイルは何も言わずにいつものソファで葉巻をふかしていた。
唯一開く窓は船尾を向いていて、煙は室内を漂ったあとゆっくりと外へ出て行く。
煙の軌跡をぼんやりと目で追いながら薬湯を飲み終えるのと、クロコダイルが葉巻を吸い終えるのが同時だった。
小さくなった葉巻を灰皿に押し付け、立ち上がるとコートをソファに引っ掛ける。
「え?」
そのままベッドへ向かうのかと見ていたら、なぜか私の方に来て。
「ちょっと、サーっなに……」
靴を脱いで膝を抱えていた私を、ひょいと持ち上げて運び出すクロコダイル。
「実験だ。触れていれば頭痛にならないかどうか」
それでどうして同じベッドで眠ることになるのか!
抗議しようにも、あっという間にぼすんとベッドに落とされ、隣にクロコダイルが滑り込む。
「なに、とって食いやしねェ。安心しろ」
左手の鉤爪とタイ、ベルトを外して、枕元の棚に放り投げる。そしてあろうことか、手首から先のないその左腕は私の首の下に差し込まれた。
う、腕枕、という、やつ。
ようやく驚きよりも恥ずかしさが勝ってきて、顔が熱くなる。
何も腕枕をする必要などないのでは、と思うけれど、今朝のように逆らうのか?と聞かれればそんなつもりはないと返してこの問答は終わってしまう。
ちらりと右側を見れば、クロコダイルは顔をしかめていた。
「……サー?」
「ア?いや、ダズの野郎、忌々しいが懐かしい呼び方しやがって、と思っただけだ」
呼び方?一体どんな、と記憶を辿る。
「あ、社長?」
激しい頭痛に襲われながらも、焦るダズの声は記憶に残っていた。あんなに動転しているダズは初めて見た。
「しかし、あんなに焦るダズは初めて見たな」
「え、サーもですか」
私と会うよりも遥か前、アラバスタにいた頃からの付き合いだろう2人でも、そうだなんて。
「珍しいもん見られたから、社長と呼んだことは不問にしてやろう」
くつくつと喉で笑うクロコダイル。先ほどまでのしかめ面はどこへやら、もう機嫌は良さそうだ。
「明日の昼頃には次の島に着くだろう。お前にも働いてもらうぞ。さっさと眠れ」
「わかりました。おやすみなさい」
と、答えたのはいいものの、どうにも落ち着かない。確かに頭痛は嘘のように治ったし、薬湯のおかげか、身体は温まってはいるが。
熱くなった顔が、まだおさまらない。
抜け出そうかと寝返りを打とうとしたら、左腕が首に巻き付けられて。
「ぐえ、くるしいです、サー」
抵抗してみるが、鼻で笑われてしまった。
薄手のシャツ越しに、筋肉質な腕の感触が伝わってくる。そっと手を添えると、少し冷たかった。
逆側ーークロコダイルの方へ寝返りを打つと、彼の左腕は肩に添えられた。
これでは本当にピロートークのようではないかと思いながら、とにかく目を閉じた。
目の前にあるクロコダイルの横顔なんて、見ているだけでどんどん眠気が遠くへ行ってしまいそうだ。
葉巻の残り香をゆっくり吸い込むと、不思議とすぐに睡魔に襲われた。
そうして、クロコダイルという男がますますよく分からなくなって来たと思いながら、眠りに落ちた。
fin
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