第1章 特効薬
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お前は甲板に出るな。ここでは特に仕事もないが、甲板に出ないなら自由にしていい。
そう言われ、部屋に一人、取り残されてから数時間。
「ひま……」
ぽそり、呟いたところでこの部屋には答えてくれる人はいない。
色々な図鑑など航海に役立ちそうな本は船長室に一通り揃っていて、ぱらぱらとめくってはいたものの。
落ち着かない。
これまで毎日家事をしてきたこともあり、何もしないというのは性に合わない。
何か手伝えることが、私でも役に立てることがないだろうか。
ぼんやり時計の針を眺めて、ふと、今朝顔を合わせたロッシュを思い出した。
そろそろ昼食だろう。
船長室のもう一つの出入り口である梯子を降り、武器庫などを通って船首側へ移動する。
キッチンをそっと覗き込むと、予想通り忙しなく動き回るロッシュがいた。さすがに調理はプロにお任せの方が良いだろう。
「ロッシュさん、お手伝いします。お皿とか」
「えっ本当ですか!……あーいや、ボスに怒られそうですねえ」
「甲板に出なければ自由にしていいって言われてるんで、大丈夫ですよ。それに今までだってしてたし」
それじゃあ甘えさせてもらおうかなあ。そう言ってロッシュさんは、ひたいの汗を拭いながら私に指示をくれた。
ダイニングに食器類を並べ、グラスに水を注ぎ、準備を整える。
おおよそ終わったところでロッシュさんに声をかけようとしたちょうどその時、ダイニングの扉が勢いよく開いた。
「コック!三人分の食事をおれの部屋へ持って来い!すぐだ」
「イエス!ボス!」
ちらり、私を一瞥したクロコダイルは、トーンを落として再び口を開く。
「お前はここで野郎どもと飯食ってろ」
「は、はい」
◆
それはそれは騒がしい食事だった。
山盛りのおかずがみるみる減って、慌てて自分の皿に取り分けた。
私のことは、みんなもう『姐(あね)さん』と呼ぶことで周知されてしまったらしく、訂正したけれど相手にされなかった。ボスの女、という認識を覆すことは難しそうだ。
まあ、同室だしクロコダイルが連れてきたんだし、周囲から見ればそうなるのかと分からないではないのだが。
食事の後、皿洗いなどをも手伝い終わると、またすることが無くなった。
ロッシュさんも見張りの番だと甲板へ出て行き、1人になってしまった。
「戻るか……」
船長室で、どこかの島に上陸した時に役に立てるよう、動植物の図鑑でも眺めていよう。
梯子から顔を出すと、そこにクロコダイルはいなかった。また外にいるのだろう。
図鑑を何冊か手に取り、ソファでくつろぎながらページをめくる。
今朝治ったと思った頭痛に悩まされ始めたのは、それからすぐだった。殴られたところは触るとまだ痛かったけれど、原因はおそらくこれではない。
痛みは大したことはなく、薬や医者に頼るほどでもない。
またそのうち治るだろうと、気にしないようにして本を読み進めることにした。
しかし。
そろそろ夕食の準備だろうかとダイニングに顔を出す頃には、頭痛はかなりきつくなっていた。
頭全体が揺さぶられているような。
そこに船の揺れが加わって、少々ふらつく。
ロッシュさんにものすごく心配されながら昼食と同じように準備を終わらせると、また同じようにダイニングの扉が勢いよく開いた。
「コック!食事三人分、おれの部屋だ。ゆっくりでかまわん。……小娘、ついて来い」
「は、い」
ロッシュさんに準備が終わっていることを告げ、大きな背中に続く。