刀×審神者短編集

【銀杏並木と口付け(薬研×来葉)】

『…すっかり冷え込むようになってきたな。』
『昼間はまだ少しだけ暖かいけど、夜は冷えるね』

たまにこうして、大将と俺は現世に足を運んでなんともなしによく散歩していたりする。本丸内では限られた範囲でしか散策は出来ないので、月に何度かはこうして現世の方へ足を運んでいる。所謂『お散歩でーと』という物らしい。今日は公園の銀杏並木の中を歩いている。

大将も審神者の仕事ばかりでは根も詰まるので、俺が彼女と付き合う前にしばらく重傷を負って動けなくなった山姥切に代わり、この近侍の仕事を頂戴した時アドバイスされた通り、たまにこうして彼女を引っ張り出して散歩しているのだ

俺も現世のことはまだ知らないことの方が多いので、勉強にもなるからこの申し出は願ったりかなったりである。もう山姥切も回復して、再び第一部隊の戦力として戦場を駆け回って戦果を上げている。

今は、山姥切の好意で、俺が第一部隊の隊長を任されているのだ。近侍というのはそういった仕事もこなす必要がある。主力、もとい大将のお気に入りは皆第一部隊に配置されている

『銀杏並木きれいだね。』

お互いに恋人繋ぎで歩く並木通りは少しだけ気恥ずかしくもある。

たまに吹く風に乗ってすぐ横から大将がいつも付けている練り香水の薫りがする。風に靡く淡い栗色の髪はいつもさらさらで指通りがよい

それに触れれるのは俺だけの特権だ。

『銀杏並木も綺麗だが、俺は大将も綺麗だと思うぜ。』

思わずその栗色に口付けてしまう。くすぐったそうにする大将も可愛いなと思う。

『や、や、や薬研さん、ここは公園ですっ』

名前にさんがつくとそれは全力で照れている証拠である。

こう、大将と付き合い始めてから俺は意外と独占欲が強いことに気付いた。

恋の力ってもんは凄まじいもんだと我ながら思ったのは記憶に新しい。

『…あぁすまん。大将が可愛すぎてつい、な』

そう言って動揺して他の者とぶつかりそうになった大将をさりげなく銀杏の木の方にそっとよける。

彼女の後ろは大きな銀杏の木。

逃げ場がなくなったその華奢な身体を痛めないようにそっと追い込んで、自然な流れで彼女の桜色の唇に口付けた。
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