刀×審神者短編集
【クロワッサンとコーヒーと貴女と。】【薬研×来葉(現パロ、薬研の年齢操作あり)】
ここは都内某所のとあるアパートである。このアパートに引っ越して数ヶ月。
携帯のアラームのうるさい音に、布団の中でもぞりと動く者がいた
『あー……もう起きる時間か………』
歳は二十代前半、黒髪を揺らして、布団の中の男はその瞼を開いた。
『…あの人は…さすがにもう起きて
るかな…』
掠れた声は、だいぶ低い。普段から低い声なのだが寝起きとあってさらに低くなっている。
軽く背伸びをして布団から出た。時間は朝の七時前だ。乱れた髪を手櫛で整える。寝室の外から食器をさわる音がする。いつもの朝だ
まだ眠気はあるが、コーヒーの香りに薬研は口元を緩ませた
『おはよー、来葉さん……』
寝室から出ると、そのコーヒーの香りは一層強くなった。だんだんと意識が覚醒してきた。気配に気付いた来葉が振り返る
『あっ。おはよう薬研。ちょうどコーヒー出来たところだよ。』
2LDKのアパート。
そこに間借りているこの部屋は、つい最近念願の二人暮らしを始めたばかりのである。婚約指輪はお互いにつけている。次は結婚式の日取りかなとぼんやりと雑誌を見ている次第だ。
テーブルには焼きたてのクロワッサン、サラダとコーンポタージュがほくほくと湯気をたてていた。
薬研はそれを見て空腹を感じる。そんな目の前の年下の彼の姿を見て、来葉はクスクスと笑った
『早く座りなよ。お腹空いてるでしょ』
そういえば昨日は夜遅くまで残業をしていたので、簡単な食事しかしてないことを薬研は思い出した
『減ってる減ってる。……でもその前に』
そっと来葉の側に近寄り、薬研はその桃色の唇にちゅ、っと口づけた
『んむ……。ふふ。おはよ、薬研』
へにゃりと頬を緩ませる来葉がかわいくて、抱き寄せた
『ん。おはよ、来葉さん。……今日はクロワッサンか。毎日来葉さんが焼いた焼きたてのパンが食べれる俺は幸せ者だな。』
来葉は親が経営しているパン屋の店員で、看板娘をしている。接客もパンを焼くのもお手の物なのである。
だからこうして来葉が早起きをして、薬研のために焼きたてのパンを焼いているのだ。仕込みさえ前日にしておけば、あとは焼けばいいだけなので来葉と薬研の朝食はいつもパンなのである。
『えへへ。ありがとう。普通のクロワッサンとチョコレートのやつだよ。焼きたてにバターつけて食べてね』
テーブルにはバターの包みと、バターナイフが置かれている。磨かれたバターナイフは美しいシルバーだ
お揃いの色ちがいのマグカップにドリップしたばかりのコーヒーを入れていく。香ばしい豆の薫りが鼻腔をくすぐる。何より幸せな瞬間だ
『やっぱりコーヒーはドリップに限るな』
『貴方がそう言ったから器材いちから集めちゃったよ。』
このアパートに引っ越してからというもの、お互いに生活環境にはこだわり始めたのはいい傾向である。
将来は家を建てて、子供と一緒にそれなりに幸せに過ごしたいなと薬研は思うようになった。
それを聞いた来葉は頬を真っ赤に染めて、薬研の胸に顔を埋めてきたのを思い出す。本当に可愛い。そうとしか思えない。自分も大概重症だと思った
薬研は焼きたてのクロワッサンを契って、その美しい見事な層にバターを塗って口に入れた。来葉はじーっとそんな薬研を見つめる。
クロワッサンはさくさくでふわふわだった
『うまっ……。さくさく。また腕上げたな、来葉さん』
『やった!』
小さくガッツポーズをする目の前の婚約者を可愛いなと思ってしまう。朝起きたばかりだというのに、自然とクロワッサンが収まっていく
コーンポタージュに浸して食べても最高だった
◆◆◆◆◆
『薬研、今日は何時に帰るの?』
朝食を終えて、洗顔等を済ませたあと、朝の番組を見ながら来葉は薬研のネクタイを整えていく
『今日は早いよ。夕飯も一緒に食べれる。来葉さんは?』
『私は今日は十六時までだから、薬研より早いかな。』
『なら、一緒に夕飯の買い物に行こうか。』
お互いの帰宅時間を確認したところで、来葉はまた微笑んだ。今日行けば明日はお互いに休みだ。薬研の車で出かける約束しているのだ。そろそろ出勤時間である
『名残惜しいけど、そろそろ行かなきゃな。』
しっかりとスーツを羽織って、壁の時計を見やる。そろそろ出掛けないと電車に間に合わなくなってしまう。車もあるにはあるが、都内は込みやすいので薬研はいつも電車勤だ
『気をつけてね。薬研は格好いいから心配だよ』
悪戯っぽい笑顔で来葉は笑う。それを聞いた薬研がまた来葉を抱き締めた
『なに言ってるんだ来葉さん。俺の嫁さんは来葉さんしかいないよ。俺だってパン屋のレジに並んで他所の男に笑いかけてる来葉さんが心配だし』
来葉は美人で可愛いらしい女性だ。成人して、薬研とこうして同棲するまでたくさん声を掛けられていたことも知っている。
悪い虫避けに指輪をお互いにつけるようになったのも、お互いに両思いだと知ってからだ。
流れでいっそ同棲でもするか、と冗談半分で声をかけたら、来葉は頬を染めながら、頷いた。それが数ヶ月前である。
実質結婚でもいいんじゃないかと薬研は思っていた。
あとは来葉の家族に娘さんを下さいと言うだけである。
まぁ来葉の家族は挨拶はいらないから、式の日取りが決まったら教えてくれというレベルだ。
薬研には年の離れた兄もいるので、そちらにも近いうちに彼女を紹介しにいく予定である。
薬研のところの兄の一期と来葉の兄の政人とは仲がいいので、よく一緒にいることもある
ほぼゴーサインはもらっているにも等しいのに、あえて挨拶に行くのは薬研がそうしたいと思ったからである。
元々そういった性格の薬研なので、来葉もそんな薬研の真っ直ぐな気持ちに惹かれて同棲を始めたのだ
途中まで同じ方向を歩いて、薬研は駅方面、来葉は商店街方面の分かれ道で一度足を止めた
『じゃあ薬研、また夕方にね。』
『あぁ。いってきます。』
別れ際にもう一度口づける。来葉はまた頬を染めたが、これ以上は色々と時間的にも不味いので楽しみは後に取っておこうと、夕方を楽しみに薬研は軽い足取りで今日も会社に向かうのであった。ブラック企業ではない会社で本当によかったなと思いながら
ここは都内某所のとあるアパートである。このアパートに引っ越して数ヶ月。
携帯のアラームのうるさい音に、布団の中でもぞりと動く者がいた
『あー……もう起きる時間か………』
歳は二十代前半、黒髪を揺らして、布団の中の男はその瞼を開いた。
『…あの人は…さすがにもう起きて
るかな…』
掠れた声は、だいぶ低い。普段から低い声なのだが寝起きとあってさらに低くなっている。
軽く背伸びをして布団から出た。時間は朝の七時前だ。乱れた髪を手櫛で整える。寝室の外から食器をさわる音がする。いつもの朝だ
まだ眠気はあるが、コーヒーの香りに薬研は口元を緩ませた
『おはよー、来葉さん……』
寝室から出ると、そのコーヒーの香りは一層強くなった。だんだんと意識が覚醒してきた。気配に気付いた来葉が振り返る
『あっ。おはよう薬研。ちょうどコーヒー出来たところだよ。』
2LDKのアパート。
そこに間借りているこの部屋は、つい最近念願の二人暮らしを始めたばかりのである。婚約指輪はお互いにつけている。次は結婚式の日取りかなとぼんやりと雑誌を見ている次第だ。
テーブルには焼きたてのクロワッサン、サラダとコーンポタージュがほくほくと湯気をたてていた。
薬研はそれを見て空腹を感じる。そんな目の前の年下の彼の姿を見て、来葉はクスクスと笑った
『早く座りなよ。お腹空いてるでしょ』
そういえば昨日は夜遅くまで残業をしていたので、簡単な食事しかしてないことを薬研は思い出した
『減ってる減ってる。……でもその前に』
そっと来葉の側に近寄り、薬研はその桃色の唇にちゅ、っと口づけた
『んむ……。ふふ。おはよ、薬研』
へにゃりと頬を緩ませる来葉がかわいくて、抱き寄せた
『ん。おはよ、来葉さん。……今日はクロワッサンか。毎日来葉さんが焼いた焼きたてのパンが食べれる俺は幸せ者だな。』
来葉は親が経営しているパン屋の店員で、看板娘をしている。接客もパンを焼くのもお手の物なのである。
だからこうして来葉が早起きをして、薬研のために焼きたてのパンを焼いているのだ。仕込みさえ前日にしておけば、あとは焼けばいいだけなので来葉と薬研の朝食はいつもパンなのである。
『えへへ。ありがとう。普通のクロワッサンとチョコレートのやつだよ。焼きたてにバターつけて食べてね』
テーブルにはバターの包みと、バターナイフが置かれている。磨かれたバターナイフは美しいシルバーだ
お揃いの色ちがいのマグカップにドリップしたばかりのコーヒーを入れていく。香ばしい豆の薫りが鼻腔をくすぐる。何より幸せな瞬間だ
『やっぱりコーヒーはドリップに限るな』
『貴方がそう言ったから器材いちから集めちゃったよ。』
このアパートに引っ越してからというもの、お互いに生活環境にはこだわり始めたのはいい傾向である。
将来は家を建てて、子供と一緒にそれなりに幸せに過ごしたいなと薬研は思うようになった。
それを聞いた来葉は頬を真っ赤に染めて、薬研の胸に顔を埋めてきたのを思い出す。本当に可愛い。そうとしか思えない。自分も大概重症だと思った
薬研は焼きたてのクロワッサンを契って、その美しい見事な層にバターを塗って口に入れた。来葉はじーっとそんな薬研を見つめる。
クロワッサンはさくさくでふわふわだった
『うまっ……。さくさく。また腕上げたな、来葉さん』
『やった!』
小さくガッツポーズをする目の前の婚約者を可愛いなと思ってしまう。朝起きたばかりだというのに、自然とクロワッサンが収まっていく
コーンポタージュに浸して食べても最高だった
◆◆◆◆◆
『薬研、今日は何時に帰るの?』
朝食を終えて、洗顔等を済ませたあと、朝の番組を見ながら来葉は薬研のネクタイを整えていく
『今日は早いよ。夕飯も一緒に食べれる。来葉さんは?』
『私は今日は十六時までだから、薬研より早いかな。』
『なら、一緒に夕飯の買い物に行こうか。』
お互いの帰宅時間を確認したところで、来葉はまた微笑んだ。今日行けば明日はお互いに休みだ。薬研の車で出かける約束しているのだ。そろそろ出勤時間である
『名残惜しいけど、そろそろ行かなきゃな。』
しっかりとスーツを羽織って、壁の時計を見やる。そろそろ出掛けないと電車に間に合わなくなってしまう。車もあるにはあるが、都内は込みやすいので薬研はいつも電車勤だ
『気をつけてね。薬研は格好いいから心配だよ』
悪戯っぽい笑顔で来葉は笑う。それを聞いた薬研がまた来葉を抱き締めた
『なに言ってるんだ来葉さん。俺の嫁さんは来葉さんしかいないよ。俺だってパン屋のレジに並んで他所の男に笑いかけてる来葉さんが心配だし』
来葉は美人で可愛いらしい女性だ。成人して、薬研とこうして同棲するまでたくさん声を掛けられていたことも知っている。
悪い虫避けに指輪をお互いにつけるようになったのも、お互いに両思いだと知ってからだ。
流れでいっそ同棲でもするか、と冗談半分で声をかけたら、来葉は頬を染めながら、頷いた。それが数ヶ月前である。
実質結婚でもいいんじゃないかと薬研は思っていた。
あとは来葉の家族に娘さんを下さいと言うだけである。
まぁ来葉の家族は挨拶はいらないから、式の日取りが決まったら教えてくれというレベルだ。
薬研には年の離れた兄もいるので、そちらにも近いうちに彼女を紹介しにいく予定である。
薬研のところの兄の一期と来葉の兄の政人とは仲がいいので、よく一緒にいることもある
ほぼゴーサインはもらっているにも等しいのに、あえて挨拶に行くのは薬研がそうしたいと思ったからである。
元々そういった性格の薬研なので、来葉もそんな薬研の真っ直ぐな気持ちに惹かれて同棲を始めたのだ
途中まで同じ方向を歩いて、薬研は駅方面、来葉は商店街方面の分かれ道で一度足を止めた
『じゃあ薬研、また夕方にね。』
『あぁ。いってきます。』
別れ際にもう一度口づける。来葉はまた頬を染めたが、これ以上は色々と時間的にも不味いので楽しみは後に取っておこうと、夕方を楽しみに薬研は軽い足取りで今日も会社に向かうのであった。ブラック企業ではない会社で本当によかったなと思いながら