その力は誰が為に
【エリア11】
かつて日本と言われたこの場所は、神聖ブリタニア帝国という大国相手に大敗を喫した
日本最後の首相、枢木ゲンブは徹底抗戦を促し、日本は敗北
日本は神聖ブリタニア帝国の属領となった
属領となり長い期間、ブリタニアは日本人を【イレヴン】という俗名で呼び、徹底的に日本人を虐げた
それに鬱屈していた感情を抱いていたアッシュフォード学園の生徒、ルルーシュ・ランペルージはブリタニアとイレヴンによるテロに巻き込まれ、名誉ブリタニア人として、軍属となっていた日本人の幼馴染の少年、枢木スザクと再会……
度重なる戦いの末、エリア11はニ年ほど前にようやく日本という名前を取り戻した訳だがその経緯を長々説明するのも面倒だ、と、とある森の中にある湖に佇む青年がいた
この場所は諸外国地域の森の中。
テロの疑いのあるとされている、ある地域の潜入調査に【世界人道支援機関(WHA)】の名誉顧問のナナリー・ヴィ・ブリタニアからの依頼でこの場所に来た
彼女はルルーシュの妹で僕の幼馴染だ。ゼロとして活動する僕も黒の騎士団のカレンや、元神聖ブリタニア帝国の皇帝直属の騎士【ナイトオブラウンズ】のナイトオブスリー
現在は黒の騎士団の航空幕僚長のジノに協力してもらっているのが現状だ
近くの小島にはトリスタンと紅蓮も控えているが、今のところ変わったところはどこにもないと先程連絡があった
本当にこんな平和そうな場所にテロリズムなどあるのだろうか?と報告を受けた時点で頭に疑問が過るが、シュナイゼルの読み通りとあるならばあながち間違いではなさそうである
かつて僕も名誉ブリタニア人としてブリタニアに身を置いていたこともあったので、シュナイゼルのことをつい殿下と呼んでしまうのは最早不可抗力だ
ルルーシュが彼にかけたギアスは【ゼロに仕えよ】
そのせいで今は僕が上司みたいなものなのだが、未だにこの感覚は慣れずにいた
ゼロは黒の騎士団の象徴。
僕は頭を使うよりこうして現地に赴いて身体を動かす方が得意なので、今もそのスタイルは変わらない。
頭を使うのはずっとルルーシュの仕事だったせいもあるけれども、その頭脳労働はシュナイゼルが今はしてくれている。
コードをシャルルから受け継いで不老不死となったルルーシュは、C.C.と一緒にギアスの欠片を探しに向かう旅に出ていて、今は何処ともしれない場所にいるから連絡があるなんて稀である
あの時はナナリーと僕も敵に捕縛され割と大変だったし、僕なんて拷問により大怪我だ。
今でも此の件は俺の人生、なんてものはもうないのだが一番の失態のような気がする。
ルルーシュのことでC.C.から真実を聞いた後は、なんとか冷静さを取り戻せれた
だけどやっぱりルルーシュが生きていたことは僕もカレンも素直に嬉しかったし、次からは何時でも会えると思うと自然とゼロとしての仕事にも注力出来た。
たまには帰ってきて貰わないととは言ったかも知れないけどルルーシュは嫌がるかもしれない
それに僕はゼロだ。
ゼロとしてこの身のすべてを世界平和へ捧げるため、慌ただしく過ごす方がルルーシュがいない寂しさを忘れられる。
ましてや穏やかな学生時代のような生活に戻ることもないからなおさらだ
それがルルーシュが残した最後の願い(ギアス)
そんな日常を取り戻し、平和の維持に務めている時に、ナナリーからの件の件の連絡があったのだ
しかし僕が前線に出ることで、ナナリーの護衛が手薄になる事から、僕たち【黒の騎士団】は、元ブリタニアの筆頭騎士であったオルドリン・ジヴォンが率いる【グリンダ騎士団】に監査官として協力してもらっている
彼女とナナリーは、トウキョウ租界で僕がフレイヤを撃ってしまい、租界を消失させ、多大な被害や死者を出してしまった時にオルドリン率いる部隊がナナリーを助けてくれた縁があるのだ
もしかしたらその時にはもう腹は決まっていたのかも知れない。
元ナイトオブナインのノネット・エニアグラム麾下の彼女たちグリンダ騎士団には、何度も助けられた。もちろん今も。
ナナリーも彼女たちを懇意にしており、僕とルルーシュと同じような関係であった先代のグリンダ騎士団の団長の親友であり、騎士として仕えていた主君【第88皇女マリーベル・メル・ブリタニア】に僕と同じ罰を科されたオルドリンとは数少ない理解者としてもたまに話している。
彼女には双子の兄がいた。
先の騒乱で亡くなった兄の名はオルフェウス・ジヴォン。
コーネリアは、オルフェウスの前では【ネリス】と名乗っていたらしい。そう彼女から聞いたこともある
オルドリンは女性ながらに僕に引けを取らないレベルのKMFのパイロットであり、僕のランスロットの開発にも大きく貢献していた功績もある。マークスマンシップは僕の方が上だが。
確かマリーベルもルルーシュ並みの知略、KMFの操縦レベルはオールSランクだったとユフィから聞いた。やはり血は争えないのだろう。
ユフィと腹違いとはいえ姉妹であり、同じ血の流れるナナリーにも、この仮面を外すように言われたら断れない
ランスロット・ハイグレイルはグリンダ騎士団のKMFとユグドラシル・ドライブを連結することで、機体同士を合体させることが出来る特殊能力を持っているのだ。その力を活かしてテロ鎮圧、人命救助等沢山の仕事も担ってくれている。
オルドリン自身のカリスマ性と思い切りのいい性格、愚直なまでの一途さ
僕が持ち合わせていないカリスマ性で部下は彼女に付いてくる。
オルドリンの仲間の一人、レオンハルト・シュタイナーはシュタイナーコンツェルンの御曹司で、ジノ直属のナイトメアの開発に大きく携わっていることもあるせいなのか、ジノとレオンハルトも主従関係ながらとても仲がいい
この湖は、キャンプ施設になっているのか、いくつか休憩施設も併設されている。
この近くに、正に今日オープンするリゾート施設がある。
そのオープニングセレモニーには世界の有名人が登壇する。
もちろん護衛付きではあるが、シュナイゼルの読み通りならば、そのオープニングセレモニーが狙いなのは僕にでも分かる
こうして直ぐに動けるように、僕は少しだけ離れた場所にロイドさんとセシルさんに専用機を整備してもらっているのだが
ナナリーがジルクスタンに幽閉された時は、ランスロットsiNで真っ向から敵を全滅させたことはまだ記憶に新しい
ゼロが力を持つ必要はない、と口酸っぱく上に言ってはいるものの、シュナイゼルもラクシャータさんたちも結局は不測の事態に備えて常日頃から準備はしてくれている。
ナナリーの時のような失態をまた繰り返さないためにも
爆ぜる焚き火を見つめながら、僕は軽くため息をついた
そろそろセレモニーの時間も近づいて来ているな、と時間を確認していたらポケットに入れている携帯が音を鳴らした
しばらくその携帯電話を見つめ、ひとつ深呼吸して通話ボタンを押した
『──【私だ】』
ゼロとして活動するときは、基本的に一人称は【私】にしている。携帯の名前はジノだった
『【ゼロ】か?今、気になる情報が入った。』
ジノから聞いた話、カレンが周辺に奴等のKMFの倉庫を見つけたらしい。
『【倉庫か。警備は?】』
『いや、警備はいないらしい。周辺の見回りにでも行ってるのかもな。……見つかった機体はグラスゴーとガニメデだ。戦力的には大した問題ではないがどうする?』
ジノも空中で敵の視界に入らない距離でトリスタンで哨戒中のようだ。
『【そうだな。この際あちらのKMFを機能不全にしてやればいいかも知れない。出来るだけ見つからないように穏便に済ませたい。この周辺は観光地でもある。一般人もいることを踏まえると】』
『…それには同意だ。民衆が折角のリゾート中にテロリスト集団に襲われた、なんて最悪だもんな』
ジノは僕がラウンズ時代に仲良くしてくれた数少ない友人である。
ルルーシュ程付き合いは長くはなかったけど、ナンバーズの出のせいで、僕が何かと肩身の狭い思いをしていた頃、ジノとアーニャにはよく助けてもらっていた。
『【ああ。ありがとうジノ】』
『…いや。今仮面外してるのか?』
『【うん?まぁ。一応テロの有無を確かめるための潜入調査だし。変装はしてるけど、シュネーが手配してくれて。…………ちょっと待ってくれ】』
危うく普通に喋ってしまった。どうもジノと話していたら気が抜けてしまう。
話していると何となく気配を感じ、視線を横に滑らせた
10人か。
『ジノごめん後でまた連絡する』
『えっ、すざ……』
本当の名前を呼ばれる前に通話をオフにした
『あっ!……何かトラブルだな!!カレン!!』
ジノはカレンの方へと直接ダイレクトに繋いだ
『…聞いてた!!こっちも今、連中に嗅ぎつけられた!!良くない方に動いちゃったみたいね』
カレンの足元には戦闘不能にさせられたテロリスト集団4名ほどが泡を吹いて倒れていた
『………さては編成員にスパイでもいたかな。なかなかに優秀だ。最近入ってきた奴が怪しそうだが』
『そっちは任せたよ!!』
カレンは自分の愛機、紅蓮特式へと乗り込んだ
『了解だ!無茶だけはするなよカレン!』
首からぶら下げていた紅蓮の起動キーを差込口に挿入する。エンジンとエナジーフィラー、そしてユグドラシルドライブの響く音と共に紅蓮の瞳は輝いた
『アンタもね!一番無茶しそうなの今のゼロだけど!!───さぁ、久しぶりの仕事だ!!行くよ紅蓮!!』
右腕部の輻射波動機構も勿論健在だ
『……ルルーシュとスザクが残した平和、簡単に破らせやしないよ!!』
カレンの周りを敵のKMFが囲い、こうして思ったよりも長くなる一日は始まった
僕は焚き火を囲んでいた薪と風除けのために作っておいた石をテロリスト集団へと蹴り飛ばした
『うわぁ!!!』
勿論、火は着いていたので、足に若干の熱を感じながらも、この程度は差し支えない。
そしてそれは見事にテロリスト集団へと命中した。
この場所を待ち伏せに選んだのも近くに水場があるから湿度も高く、森林火災の危険性が少ないからである
『【武器を降ろせ!武器を持たない人間を自分は決して撃たない!!】』
もはやお決まりのセリフになってきているが、これは僕が決めた僕のルールでもある。
懐から隠し持っていた銃を抜き、牽制のために構える
『ふざけるな怪しい奴め!!そんな戯言聞くわけがないだろう!!!』
予想通りの反応。
やっぱりこうなるのか。
分かってはいたが、改めてその台詞を聞くと、まだ争いの火種や傷跡は各地に残っているということを改めて実感してしまう。
悪逆皇帝の名前は世界に知れ渡っている
これもルルーシュと、当時彼の騎士として共にブリタニアという世界を壊した枢木スザクという男の所為で、だ
枢木スザクとは勿論、俺のことだ。
表向きは死んだことになっているが、生憎とこうして生かされている。
悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを討ち、世界を救った仮面の英雄【ゼロ】として
ルルーシュの残したこの世界を見届けるために。
『………………【そうか。残念だ。ならば、黒の騎士団の名の下に、お前たちを拘束する】』
一気に頭が冷えていく感覚。
『……かかれ!!!』
まずはサバイバルナイフで斬り掛かってくるのを腕に付けていた時計で止める
この前変えたばかりだったのだが、安物だから特に問題はない。
そしてナイフを持った方の手首を簡単に捻り上げてやった。
サバイバルナイフはその反動で耳障りな音を立てて落下する。
そのまま鳩尾を蹴り飛ばす。水飛沫と共に男は泉へとダイブした
まずは一人。
『コイツ……!!?ガキのくせに戦い慣れているだと!?』
当たり前である。元軍人を舐めないでいただきたい。
だけどこの程度は牽制みたいなものである。そのまま流れで何人かは此方へとそれぞれの獲物を武器に飛び込んでくる。
これも織り込み済みだ。
と、いうかもう子供という年齢でもないんだけどな。
テロリスト集団の攻撃も当たることはないだろう。
よく訓練されているが、元軍属の僕の敵ではない
適当に相手の攻撃をいなして、たまに反撃して戦闘不能に追いやる。
最近はずっとKMFに戦闘は任せっきりだから変装しているとはいえ、生身の戦闘は割と久しぶりな気がする。
最近までジルクスタンに囚われていた時の怪我のせいでナナリーの護衛はオルドリンに任せていたけど、しばらく前線に出れなかったし、僕は怪我なんて構ってられるかと前線に出ようして久しぶりにルルーシュに怒られたので大人しくしておいた。
怒らせると本当に怖いんだよな。僕限定で、だけど。何となく嬉しいと思ってしまうのは許してほしい。
デスクワークで鈍った身体を叩き起こすのには丁度いいかも知れない。
ルルーシュがうまいことカレンたちを使って、ルルーシュの詰めたスケジュールで動いてくれたのは助かった。ナナリーも少しだけルルーシュと逢えて嬉しそうだったし。
長年の軍生活で身に付けた生き残るための術は、そう簡単に抜ける物ではなかった。身体って覚えてるものだな、とぼんやり考えながら。
程なくして、テロリスト集団は沈黙した。
『……【ジノ、私だ。ポイントDでテロリスト集団を鹵獲。数は10。拘束はしておいたのであとは頼む】』
『…こちらジノ・ヴァインべルグ、トリスタン。了解した。セレモニーの方も気になるな』
そういえばこの近くにあったリゾートホテルにも包囲網があったな。
『……【今のところ何も起きていないようだが、逆に不自然な気がするな。カレン、そちらは大丈夫か?】』
近くにあった適当なサザーランドに乗り込み、チャンネルをカレンとジノにつなげる
『…敵のKMFは沈黙した。だけどやっぱりゼロの言う通り……セレモニーの方も警戒したほうが良さそう……嫌な予感がする』
そう話していたら、ゼロの方へと緊急アラート通信が入った
『…緊急アラート!?【どうした!?】』
『こちら【超合衆国】代表、皇神楽耶。現地リゾート施設にて人質事件が発生。テロリスト集団が施設内に引きこもり、各国の要人たちが人質に取られた模様。丁度貴方がた3人のすぐ目の前の施設ですね。至急現地駐在と連携を取り、人質解放の任を要請したいのですが返答は如何なものか?』
神楽耶からの通信に3人は画面越しに顔を見合わせる。
視線の先には、確かに今日オープニングセレモニーのあるリゾートがある。
『…【了解した。黒の騎士団、これより人質解放の任に着く!!】』
ジノには機動力のあるトリスタンで現地確認をしにリゾート施設内が見える場所へ向かうよう指示を出す
『了解!!』
ジノとカレンは同時に頷いた
『…それともう一つ』
神楽耶の次の言葉に、3人は目を見開いた
『…………………うそだろ?』
思わず素が出てしまったスザクは頭を抱えた
『ははは!これは楽な仕事になりそうだなゼロ!』
『…何やってんのあいつら!!!不老不死の連中はみんなマイペースな訳!!?面倒事ばっか増やして!!』
『ですが好機とも言えます。ともかく最優先事項は目標二人と接触することです。彼らは我等にとっても最重要機密。……ですが上手いこと彼等の力を借りれれば奴らを制圧出来るでしょう。では、よしなに』
神楽耶の一言に、スザクはサザーランドの足を施設へと向ける
『【カレン、いつも通り一緒に来てくれるか?】』
変装を解いたマスクを適当にコクピットの床に放り投げる。カレンの液晶画面には見知った顔が映った。
『それは【枢木スザク】としてのお願い?【ゼロ】としてのお願い?』
それを横に聞きながら、スザクは苦笑した
『意地が悪いなぁ。任せるよその辺は。まずはロイドさんたちと合流しよう。君の紅蓮も潜入調査分のエナジーフィラーしか搭載してなかっただろう?長丁場になりそうだから、エナジーフィラーも満タンにして、ちゃんと整備しておかないと』
『あはは!ごめんごめん!なら行こうか!』
◆◇◆◇◆◇
『……うっ……ひっく……怖いよぉ……』
その頃、リゾートホテル内の一室では、泣きじゃくる女の子がいた
『…大丈夫だ。よく頑張ったな。きっともうすぐ助けが来てくれるさ』
響いた女性の髪は珍しい翠の色をしている。女の子の頭を優しく撫でて安心させているようだ。
『……ほんと?おねぇちゃん……?』
『勿論だ。すぐに来てくれるからな。なぁ、相棒?』
そう呼ばれた長身痩躯の男はベッドに腰掛け、何やらカーテンの外を眺めていた。
『あぁ。今、敵の配置を確認しているところだ。』
黒髪の艶のある長くなった髪は、後ろでゆるく束ねられており、その瞳は紫色の男だ。
たまたま見かけたテロリスト集団の後を追っていたら、この場所に辿り着いた。オープニングセレモニーが始まり、しばらくして爆発音が響いたのだ。
出火元は西の時計台広場である。
今は地元のレスキューと合衆国所属の者たちがテロの制圧に回っている。
しかし圧倒的に数が足りないのが現状であり、超合衆国へととルルーシュが秘匿通知でSOSを送ったのだ。
犯人の人質解放の要求は、多額の身代金と超合衆国へと捕らわれている仲間たちの解放。
愚かなことだ、と黒髪の男、【L.L.】ことルルーシュ・ランペルージは思った
コードをシャルルから事故とはいえ、引き継いでしまい不老不死になってしまった男は先の争乱のせいで悪逆皇帝と罵られている男本人である。
流石に本名を言う事はまずいので、目の前の女の子には適当に偽名を伝えておいたが。
『ねぇ、お兄ちゃん』
女の子はカーテンの方を見つめているルルーシュに不安そうに声をかける
『…どうしたんだい?』
険しい視線ではなく、女の子へと向ける視線はいつもの優しいルルーシュのそれだ。
妹のナナリーに向けるような瞳である
『…………おかあさん大丈夫かな?ん、とね、わたし、おかあさんに連れられてこのりぞーと?施設に来たの。ここで、大事なお祭りがあるんだよ、って。おかあさんはとってもえらい人でね、いつもみんなのことを、気に、かけてくれてるの……おとーさん、は、いなく、なっちゃったから、おかあさんだけしかわたしにはいないの』
まだ拙い言葉遣いの女の子の話をルルーシュとC.C.は聞いていた。
と、なると、この少女の母親はセレモニーに登壇するはずであった政界の人間ということになる
『……そうか。二人で頑張っているんだな。すごいよ』
窓際から離れて女の子に視線を合わせ、頭をルルーシュは優しく撫でる。
すると女の子は照れ臭そうに笑う
『だが、しかし実際どうするんだ?私達は表立ってはあまり動けないぞ?この子の母親も話の通りなら、隣の館にある式典会場に囚われている可能性が高い』
それを聞いてルルーシュはふむ、と1つ頷き
『…大丈夫さ。さっき秘匿通信で連絡しただろう?時間帯的にそろそろだ』
部屋の時計をみて、ルルーシュが言うと
『【テロリスト達に告げる!!!今すぐに人質を解放しろ!!抵抗する場合、我ら黒の騎士団が全力を持ってテロの対処に当たる!!もう一度言うぞ!今すぐに人質を解放するんだ!!】』
聞き慣れた友の声にルルーシュはまた笑った
『……仕事が早いな、全く恐れ入る』
C.C.も頼もしい援軍に笑った
『くろの、きしだん?もしかしてゼロ!?ゼロがきてくれたの!?』
『あぁ、そうだ。』
そんなやり取りの後ろで、外の廊下から慌ただしく足音が響く
『………………行ったか。よし、まずはこの子をゼロたちに保護してもらわないと』
C.C.がそう言うとルルーシュも頷いた。
テロ開始から数時間
警告はしている。
結局はこの繰り返しなんだな、とスザクはトレーラーの中で頭を抱えながら思った
『…スザクくん、新しいパイロットスーツと機体の調整、出来たわよ。いつでもいける』
扉の開く音と共に入ってきたのは藍色の髪が印象的な女性のセシル・クルーミー。
スザクがブリタニアにいた頃から世話になっている技術者の一人だ
『ありがとうございます。セシルさん。』
先程から数回に渡って、テロリスト集団に降伏勧告をしているが全く持って反応がなく、持ってきていた最終手段の愛機、ランスロット・アルビオンゼロの調整をしてもらっていた。ルルーシュ皇帝統治下から進められていた【統合打撃装甲騎計画】のひとつだ。
ただし、このアルビオンは悪逆皇帝の騎士であった男のKMFを模したもの。しかし目の前にあるそれの色は黒く染め上げられたゼロの専用機
『…………まさかまた、こんなに早く乗ることになるなんて。』
『今の貴方には少し辛いかしら?』
確かにこの場にルルーシュもいるのだろう。ならばこれはシュナイゼルの思惑だろう。
『…いえ。違うんです。そうじゃなくて』
言いづらそうに言葉に悩むスザクを見て、セシルは続きを促す
『これに乗ることに抵抗はないんです。むしろ乗り慣れているし、有り難いくらいで。……ただ何だか少し複雑な自分がいて』
ゼロが力を持つべきではないと謳っている癖に、あの戦いから数年。
今の現状ではこの力に頼るしかないのも分かっている。
『えぇ。わかっているわ。──ランスロット・アルビオンは悪の象徴。だけど、この場所に陛下がいるなら、このアルビオンは貴方が守るべき陛下のための剣であり盾。……私はねスザクくん。このランスロットで貴方が守ってきたものがたくさんあると思うの。』
黒く染め上げられたアルビオンを見ながら、セシルは言った
『……僕が守ってきたもの……』
守ると言っても、ひとえに色々だ。
友であったり、仲間であったり、民間人であったり、思想だったり意思だったり
『アルビオンは確かに悪の象徴かも知れない。だけどこの力で守れたものもたくさんあったはずよ。奪うより多くのものを、貴方は守ってきたの。だから今があるの。それを忘れては駄目。』
パイロットスーツと共に渡されたのはランスロットの起動キー。
それはあまりにもスザクの思いが詰まり過ぎた大切なものになってしまった。
スザクは受け取った白と黒を基調にしたパイロットスーツを見つめる。最期の皇帝の纏った白と、最期の皇帝の騎士としての黒。
『……いつかこの力が必要じゃなくなる日が来るまで、貴方は戦い、平和を守ると約束したのでしょう。2年前のゼロレクイエムの前に、陛下と。───だけどね、スザクくん。相手が陛下とはいえ、友達を救うのに難しい理由なんて必要ないのよ』
『……セシルさん……』
その通りである。それがルルーシュが残した最期の願いだった。
何を迷う必要があったんだろう。
この2年、散々問いかけて来たじゃないか。
悩んで悩んで。
だけどまだ悩み続けている。
だけど自分には同じ道しか選べなくて
それがルルーシュに科された僕への罰であり罪。
何て君は残酷な人なんだ。
最終調整に入るセシルのいる管制室の奥の更衣室で、スザクは新しいパイロットスーツに袖を通した。
ロッカーにはゼロとしての衣装がハンガーへと掛けられている。ルルーシュが纏っていた物と同じタイプの衣装と仮面。やはりこの仮面はまだ僕には重い。しかし
この生涯全てをかけて【ゼロ】としてただ、戦い、救えと。ルルーシュに託された願いはこの胸にある
『………君も同じことを言うんだろうか。ユフィ。───ならば僕は』
そう言って、グローブを装着し、スザクはロッカーを閉めた
この汚れ切った手でも救えるものが、まだあるのならば
更衣室が再び開く音が聞こえ、セシルはふとそちらに視線を向ける。
そこには真っ直ぐと翡翠色の瞳でランスロットを見据えるスザクがいた
『……うん。やっぱり似合ってる。少しは落ち着いてきた?』
ふとセシルに声をかけられ、スザクはセシルに視線を向けた
『はい!強度も問題ありません。凄く身体に馴染みます。気が引き締まるし力が溢れて来るようで。……セシルさん、さっきはありがとうございました。』
スザクの手には、ゼロの仮面と衣装があった
『……改めて思ったんです。ルルーシュだけじゃない。僕は、ここにいる人たち全員を救いたい。だけど自分はKMFに乗って道を切り開くことしか出来ない。だからセシルさん。僕がゼロとして戻ってくるまでの間、現場を仕切る者が必要です』
確かにスザクが前線に出るとなると、指揮官が不在ということになる。
手元にあるゼロの衣装をセシルは見つめ
『そうね。元々最優先事項として陛下とC.C.さんと合流するように言われているものね。』
何かしらないか、と、そう思考しているとスザクとセシルが待機しているトレーラーの液晶に、ロイヤルチャンネルから連絡が入った。
何とタイミングが良すぎる男であろうか。流石現黒の騎士団の指揮系統を掌握しているだけはある
『…これは皇室専用のチャンネル?はい。』
通話ボタンを押してスザクは答えた
『…やぁ。ゼロ。いや、今は枢木スザクくん、と呼んだほうがいいのかな?』
顔を見ずとも分かる声である。
『……シュナイゼルか。あぁ。今はセシルさんと自分しかいないので、問題は。』
『それは良かった。そちらのテロリスト集団へと、再三降伏勧告を送ってはいるのだがね。いや何、なかなか手こずっているんだ。』
やはりその連絡だったか
『…申し訳ない。自分が不甲斐ないばかりにルルーシュまで巻き込んでしまった。』
その言葉を聞いて、シュナイゼルは少し意外そうな反応をした
『…いや、良くやってくれているよ。君も紅月くんもね。あちらもなかなかに粘り強いようだし。それにルルーシュなら大丈夫さ。それは君が一番良く知っているだろう?』
このタイミングでシュナイゼルが連絡をしてきたということは、どうやら譜面が整いつつあるようだとスザクとセシルは察した
『…もう嫌というほど。………何分人手も物資も足りないので、鎮圧には少々時間がかかりそうだ』
『そう言うだろうと思ってね。たった今援軍を要請した。何。たまたま近くを飛んでいたのでね。間もなくそちらに着くだろう』
テロリスト集団への援軍、となると恐らくオルドリンとノネット率いるグリンダ騎士団だろう。
『恩に着る。』
程なくして、外の方に紅色の旗艦が降りてきた
【対テロリスト遊撃機甲部隊グリンダ騎士団】
紅色の空母【グランベリー】を有する部隊である。
『対テロリスト遊撃機甲部隊、グリンダ騎士団。超合衆国の名のもと、只今推参!ってね。久しぶりじゃないか枢木。いや、今はゼロだったかね?』
彼女はノネット・エニアグラム。
元ナイトオブラウンズのナイトオブナインだ。
後ろには、所属パイロットの現騎士団長の【オルドリン・ジヴォン】と騎士団長補佐の【ソキア・シェルパ】【レオンハルト・シュタイナー】、【マリーカ・ソレイシィ】、【ティンク・ロックハート】の筆頭騎士の4人のメンバーもいた。
一番の最高戦力を編成をしてくれていたシュナイゼルには頭が上がらない
こんな人達を自分の麾下に置いたルルーシュは後で一発殴らせてもらおうと思う。色々と言いたいこともあるし
『ノネットさん!お久しぶりです。えぇ、まぁ。この様にしつこく生かされています。』
黒の騎士団のトレーラーの中で、ノネットが手を出してきたので、スザクは少し躊躇いつつもその手を握った。
『いいんだよ。他のラウンズ連中の驚いた顔も見たかったけどね。二年前は派手にやってくれたようだけど。』
そう。ノネット、ジノ、アーニャ以外のラウンズはあの戦いでスザクが全員殺した。
それも自分の意志で
『……否定はしません。』
『別に責めている訳じゃないさね。あれはお前が、自分の意思で選んだ道なんだろう?たった一人の友の願いを叶えるために』
『はい』
『恨み言の一つでも言ってやろうか、なんて思わなかった訳じゃないけどそれは【悪逆皇帝の騎士枢木スザク】に、であって、黒の騎士団のCEOの【ゼロ】じゃない。……うちのオズも同じ穴の狢だ。ならば誰も文句は言うまいよ。アタシらもそれを承知でここに来たんだ。でないと最初からこの依頼自体蹴ってるさ』
後ろに控えていたオルドリンは成り行きを見守っていたが。
スザクがラウンズ時代から、彼女の芯はブレていないようだった。
スザクはそんなノネットに安心感すら覚え
『…本当にありがとうございます。ノネットさん。貴女と出会えて、本当に良かった。』
『よしな今更。………まぁあとで一杯ぐらい汲んでもらおうかね?……さぁ、愚痴り大会はこれくらいにして、と。
───命令をおくれよ司令官殿。』
これは逃げられそうにないな、とスザクは思った
ノネットの一言にスザクは改めてリゾート施設を見据え、自軍全体に回線を繋げた。
『……【こちらは黒の騎士団【ゼロ】!!黒の騎士団、グリンダ騎士団、現地駐在全部隊に告げる!!!
これよりこの3組織の総力を持ってテロ鎮圧に移る!!現場指揮権等はこの時間を持って全て【対テロリスト遊撃機甲部隊グリンダ騎士団】へと移行!!
救出対象は重傷者、並びに子供、女性、老人を優先!……軽傷者は現場の者の案内に従って保護施設まで自分の足で移動して頂きたい。KMFのパイロットは敵のKMFの無力化に注力しつつ、人命救助を頼む!!】』
『イエスマイロード!!!』
『了解!!』
それぞれの了解の返事を聞き、スザクは頷いた
そして再び、スザクは戦場に舞い戻ることになった
もしくはもう亡霊なのかもしれない。
だけどこの身体に流れる血潮は確かに熱くて
自身が未だ彼に生かされているということを再認識する。
『聞いていたねシュネー。コーネリア。ここにいる限りは大丈夫だが、ナナリーの護衛は君たちに任せたよ。私も久しぶりに彼の指揮を手伝うとしよう。カノン、来てくれ』
『仰せのままに』
シュナイゼルの横には、ナナリーとスザクの部下のシュネー、コーネリアが控えていた
『シュナイゼルお兄様、とても頼もしいです。ではスザクさん。兄を……ルルーシュお兄様をよろしくお願い致します』
ナナリーの願いにスザクは頷いた
『…うん。心配しないで。すぐに終わらせて君のところに連れて帰るよ。シュネーもありがとう。そちらは頼んだ』
『はい!スザクさん!』
『次の最後通告の後、あちら側からの返答なき場合、各KMF部隊の突入を許可する。みんな、自分のKMFの確認を怠らないようにね』
オルドリンの指示に、ソキアたちは頷いた
『オルドリン、少しいいかい?』
スザクに声をかけられ、オルドリンは振り返った
『どうしたの、スザク』
仲間たちがKMFに着いたのを確認してスザクにオルドリンは歩み寄る
『いきなりナナリーの護衛からこんなところまで来てもらってすまない』
『あちらには私より頼りになる方がいるから。それにテロ鎮圧は私達の仕事だもの。やってることは変わらないし
実は私もね、マリーとお兄ちゃんがいなくなって、しばらくはスザクと同じこと考えてたの』
『僕と同じこと?』
『そう。あの時はマリーとお兄ちゃんが考えていたことはぼんやりとしか理解出来なかったの。でも、ルルーシュさまが崩御されてからのこの2年間、グリンダ騎士団の騎士団長になって、色々な場所に降りて、テロ鎮圧に尽力して』
ランスロット・ハイグレイルを見つめながらオルドリンはこう話してくれた
『…この前の見回りの時に久しぶりにグレイルと空を飛んでて見えたんだ。今を生きる人たちの笑顔が』
『……今を生きる人たちの笑顔……』
確かに悪逆皇帝ルルーシュとその騎士枢木スザクがしたことは、余りにも人道に反し、卑劣極まりないことだったであろう。正に力こそすべてのブリタニアを見事に体現していた最期の皇帝
『…あの時、私達はマリーのところに行っていたの。私はマリーも救いたかった。だけど、マリーはルルーシュさまと同じ道を選んだ。』
すべての憎しみを一人で背負い、一人でいってしまおうとして
だが、それをオルドリンの兄のオルフェウスが拒んだ。
オルドリンに友人殺しの烙印を残させないために。
オルフェウスは【自身の姿を偽る】というギアスを持っていた
そのギアスで自身の妹の【筆頭騎士オルドリン・ジヴォンがマリーベル・メル・ブリタニアを討ち取った】という真実であり偽りの歴史を残して
実際にマリーベルを討ったのは、オルドリンではなくオルフェウスだったのに。
『………それは………僕と同じ………やっぱり……あの時、マリーべル皇女殿下がルルーシュに謁見しに来て、そのお姿を拝見したことがあってね。その時思ったんだ。何処かしらルルーシュに似ている。瞳の奥底で何か見つめているような、それでいて哀しげな……なにか大きな決意を感じて……』
それをオルドリンは聴いて目を見開いた
『……やっぱりすごいね、スザクは。そう。マリーのテロリストへの憎しみは本物だった。マリーは私達との最後の決戦の時に、私達を否定した。大嫌いだとも言われたわ。だけど、それはどうも愛情の裏返しだったらしくて』
『…そうか。だから、ルルーシュは似ているからこそマリーベル皇女殿下の行き先も見据えて……やっぱり兄妹だね。やり方があまりにも似すぎてる。ルルーシュもマリーベル皇女殿下も』
『ね。マリーは凄いよ。私はそんなマリーだからこそ、彼女の騎士になった。だから私も、私だからやれることをやっていこうって。大切なマリーとお兄ちゃんに託された願いだからこそ。──やっぱり今回の件もゆるせないんだ。』
そう。
平和になってまだ2年。だがこの2年で変わりつつあることもある。
ルルーシュたちが文字通りに命に変えて残した平和をこうして破るのは自分たちにとって余りにも度し難いものである
これは当事者である自分たちにしか分からない怒りであろう。友が残した願いだからこそ、こんなことは断じて許されるべきでないのだ。
勿論あちらの言い分もあるのだろう。それは法の元でしっかりと聞こうと思う。
話を聞くにしても、これではまともに話し合いの席に付かせることも出来ないからだ。
『……頼りにしてるよ。今日は来てくれてありがとう。これ、作戦概要と味方の配置図と識別番号。確認しておいてくれるとありがたい』
スザクは封筒をオルドリンに渡した。
『こちらこそ。今日は勉強させていただきます。我らグリンダ騎士団は剣を持たぬ人々の剣ですから』
そう言うとスザクは手を振って別の場所に資料を届けにいった
『…あり?オズ、枢木卿と話してたの?』
愛機のシェフィールドから顔を覗かせたソキアが声をかけた
『うん?今の彼をそう呼んでもいいのかは難しいけどね』
『そうですよね。あまりよく思ってなさそうですし』
哨戒からレオンハルトとマリーカが戻ってきたようである
『今そこですれ違ったんですが、疲れた顔してましたよね』
マリーカの指摘にティンクが耳を傾けた
『そうみたいだねぇ。彼も色々と大変そうだからね。幾ら元ラウンズだったとはいえ、表の世界では裏切り者扱いだし』
普通に突っ込むティンクは相変わらずである
『そんなの今更関係ないでしょ。それにあの人、お父様が先代の首相の嫡男だし元々礼儀正しいのよ。それにあの人は今はゼロを名乗っている。マリーのことも、ナナリー様のことも気にかけてくれていたようだし』
何度か彼がラウンズ時代に会ったこともあり、仕事も一緒になったこともあるので、スザクの人柄と性格は全員が知っていた。
『…何でしょうね、この、彼が一緒に戦っているという安心感』
『わかるにゃ〜。何度も戦場でセブン様時代の枢木卿を見ているからかなぁ?』
『日本人の彼がラウンズになることも異例だったもんねぇ。』
レオンハルト、ソキア、ティンクの言葉にふとマリーカが思い出した
『当時はまだ日本人に対して、尊厳も何もない時代でしたしね。私がまだブラッドリー卿の部下だったときに、ブラッドリー卿が枢木卿に喧嘩を吹っ掛けてたのを間近で見ているので、その時にユーフェミア様のことを友人として、主君として……本当に大切に思っていたということも伝わってきて……あの方は本当に実直な方なんだな、と思ったんです。そこはずっと変わらないですよね。』
そのナイトオブテンのルキアーノ・ブラッドリーはトウキョウの決戦でカレンに消されたのだが。
あれから2年、世界はだいぶマシになった。日本人を苦しめていた枷は全て無くなり、笑顔も増えてきた。
『……ソキア、作戦開始したらサポートよろしくね。貴女のシェフィールドなら隠れた敵も全て見つけられるし』
『オーキードーキー!』
ばちこーんと音がなりそうなくらいで元気に返事をしてくるソキアに元気だなぁとレオンハルトたちは思った
◆◇◆◇◆
『ジルクスタンの時みたいにイレギュラーがない限りは勝てるわね。一番の大仕事はアンタが一番適任だと思うし。それにしても……』
資料を見ながらカレンは横目で久しぶりに見るスザクの顔を見て
『………?』
怪訝そうに見つめるカレンにスザクは疑問符だ
『……画面越しだと分かりづらかったけど、アンタひどい顔よ!?ちゃんと休めてる?』
『…え?あぁ…まぁ…』
『その反応!!何か後ろめたい気持ちがあるときの顔!!』
『あぁ本当だな!ラウンズ時代からスザクは真面目過ぎて、昼飯もそこそこにすることも多くてさぁ』
カレンだけでなく、ジノからも言われてしまっていよいよスザクは観念するしかなかった
『……いや、実はあんまし休めてない……かも……すみません……』
『やっぱり!!まだ最終通告まで一時間以上あるし、私とジノで資料配っとくから少し寝てきなさいよ』
そういえば最近、仕事が多すぎて寝るのも遅くなってしまうことも増えているなとぼんやり思う
『……いや、でも……』
『いやも、でもも、すったもんだもないでしょ!面倒事は私達に任せて少しでも早くあいつら助けるためにあんたの力は必要なんだから』
『……うん。そうだね。ありがとう。じゃあ、少しだけ休んで来ようかな。』
『あぁ。15分前になったら起こしてやるからさ。』
ジノの一言に、スザクは二人に資料を渡して、スザクは帽子を深く被ってトレーラーに戻っていった
『なぁカレン。世間から見れば、ランスロットはいい評判じゃないんだよな。スザク本人もそれを分かってんのにランスロットに乗るしかないのか』
『…うん。でもそのせいでほぼ勝確なのよねこのテロ。だけど、思ったよりも敵の数が』
『……多い、か?』
『そう。聞いてた数より多いかも。もしかしたらシュナイゼルはこれを見込んでグリンダ騎士団を……』
恐らくイレギュラーを踏まえて、かも知れないが
今の世界でイレギュラーなどあってはならないがシャムナのギアスの例もある。
『まぁとにかく油断せずに、だな。』
ジノの声に、カレンはそういうこと!と頷いた
◆◇◆◇◆
『セシルくんもなかなかに厳しいことを言うね〜』
ランスロットが待機しているトレーラーではコクピット内で眠っているであろうスザクの横で、ロイドが言った
『…今の彼にはちょっと厳しかったかも知れませんね。だけど、少し資料を渡すついでに散歩に出た間に色々と整理できたみたいでちょっと安心しました。』
資料を渡すように建前を作り、スザクに散歩に行くように促したセシルは、帰ってきたスザクの顔が覇気を取り戻したのを見て安堵の息を漏らした
『そうだねぇ。これから進軍って所で中途半端なままで戦場に立ったら真っ先に死ぬだろうし』
スザクにルルーシュが掛けた『生きろ』というギアスは自分より格上の相手に対して、普通の人間ならば逃げるの選択肢一択のところを、スザクの場合はその選択肢を取っ払い、精神力でそれをカバー、戦うことを大前提として『死なない選択肢』を明確にしたことで限界を超え、超常的な身体能力、操縦の腕なり、機体性能なりで突破させるというものでもある
『陛下も言ってたじゃない?スザクくんの尋常ではない精神力があるからこそのあの強さ、ってさ』
あのゼロレクイエムまでの道程あってこその二人の何者にも断ち切ることのできない絆、或いは運命とも言うべきかも知れない
本気でお互いを思い合い、信頼し、そして殺し合った結果
親友としての繋がり、信頼と疑惑、憎悪、騎士と皇帝。そして
【共犯者】
二人の歩んだ道。
『そうですよね……』
『…でもさぁ。陛下には絶対言えないよね。スザクくんはさぁ……』
『……えっ?あぁ……』
割とルルーシュに依存気味なきらいがあるスザクのことは確かに言えないかも、とセシルは思った。
『……やはり引かないか。これはシュナイゼルもスザクも頭を抱えてそうだな』
『…そろそろ動きがあるかとは思ったが、奴らのナイトメアが増えてきていないか?』
『…悪手だな。グリンダ騎士団とスザクがいる限り奴らにチェックを入れる隙などないというのに』
そう思い、スザクのところに一番の数を投入したのだろうがその辺りのテロリストにスザクが負けるはずがないのは周知の事実である
『お前の騎士様はお前が絡むと容赦ないからな。結婚披露宴は何時だ?祝儀ぐらいは出してやるぞ?』
『何でオレとスザクが結婚前提なんだ?普通ならナナリー……いや、せめて同棲……違うそうじゃない!』
だがしかし、スザクとルルーシュは横から見ていると距離感が友人のそれではないのである
『いいじゃないか。私は思うぞ。お前に釣り合いそうな相手といえばあいつ以外にいるか?』
『確かにいないが、それとこれとは話が別だろ……』
いない、とはっきり言ってしまうルルーシュもルルーシュだが。
とはいえ、普通にこうしてスザクは生きており、ゼロとして活動している
これは黒の騎士団と超合衆国全体の公然の秘密なのである
『お兄ちゃん、まってるひとがいるの?』
気晴らしにC.C.が何故か持っていた絵本を女の子が読む手を止めて、ルルーシュに向き直る
『…ッ?!あぁ、いや、これは、その』
もしやスザクの名前を聞かれただろうか?と思っていると、女の子は不自然そうな顔をした
『じゃあ、はやく、そのひとのためにもげんきにかえらなきゃ、だね。わたしもお母さんにはやくあいたい』
女の子の一言に、ルルーシュとC.C.は顔を見合わせた
『子供のほうが余程しっかりしているな?』
『…くっ、お前に言われるとなんかムカつくぞ』
そうこうしていると、外の方で派手な音がした
『……動いたか!』
『なに、いまのおおきなおと……』
女の子はC.C.にしがみついた。C.C.はその女の子の肩を本と一緒にギュッと抱き寄せる
『大丈夫だ。助けが来たんだ』
『…C.C.。お前はその子を連れてこの場所に走りその子の保護を頼むんだ。そこにグリンダ騎士団のシュタイナー家の者が控えている。一番敵がいないルートを割り出しておいた。』
ベッドの下へと隠していた麻酔銃と配置が書かれたメモはC.C.へと、女の子には頭を守るために自分がつけていた帽子を被せてやる
『それは構わないが……お前はどうするんだ?』
『オレも後で合流する。何、心配ない。別々に逃げたほうが都合がいい。あいつも来ているしな。途中で拾ってもらうさ。それに、いざという時はアレを使う』
アレ、と聞いてC.C.は頷いた
『おにいちゃん……』
女の子が不安そうに帽子を抑え、ルルーシュは女の子の頭を撫でてやる
『大丈夫だよ。そういえば、名前を聞いてなかったね。』
『わたし?わたし?ユフィだよ』
ユフィ、と聞いてルルーシュとC.C.は瞠目した
『んとね、むかしおとーさんとお母さんがユーフェミア様に助けられたことがあってね、そのユーフェミア様からお名前を頂いてつけたらしくて。
……でも、ユーフェミアさまはにほんじん?のひとをたくさん殺したって聞いた。わたしの名前が、にてる、から、って、とか、にほんじんとブリタニアのちがどうの、とか、わるいきぞくやにほんじんのひとたちにたくさんいじめられたけど、むずかしいことわかんないけど』
ルルーシュさまとその騎士さまのスザクさまが、たすけてくれたんだよって。だからね、ルルーシュさまとスザクさまは、わるいひとだ、って言われてるけど、わたしにとってはヒーローなんだ!
それを聞いて、ルルーシュは言葉が出なかった
ゼロレクイエムの前準備のため、貴族制度廃止の政策をしたとき、反抗勢力を徹底的に叩き潰すための任務時に、日本人の男と、ブリタニア人の女性のハーフの子供を見かけたと、スザクから聴いたのだ。
『…そうか…辛かったよな……』
何とか絞り出した言葉も上手に出ていたかはわからないが、あの大芝居も無駄では無かったのかもしれない。
『ううん!今の方がね、お母さんがわらってる日がふえたんだよ!だから、わたしもうれしいの!!』
それを聞いてルルーシュは思わず女の子を抱きしめてしまった
まだ幼いそのちいさな体に背負ったその過去は重たいものであるだろうにと。
『おにーちゃん?』
『そうか。ユフィ。その名前を大事にするんだぞ。きっとその名前が君を守ってくれる。』
『うん!!』
ルルーシュの初恋の少女だった皇女であり、腹違いの妹であったあの子の愛称とたまたま同じ名前の女の子。
ただそれだけなのに
何となく幼い頃のユーフェミアにも似ている気がする。
何としてもこの子を親元のところへと送り届けなければとC.C.とルルーシュは思った。
かつて日本と言われたこの場所は、神聖ブリタニア帝国という大国相手に大敗を喫した
日本最後の首相、枢木ゲンブは徹底抗戦を促し、日本は敗北
日本は神聖ブリタニア帝国の属領となった
属領となり長い期間、ブリタニアは日本人を【イレヴン】という俗名で呼び、徹底的に日本人を虐げた
それに鬱屈していた感情を抱いていたアッシュフォード学園の生徒、ルルーシュ・ランペルージはブリタニアとイレヴンによるテロに巻き込まれ、名誉ブリタニア人として、軍属となっていた日本人の幼馴染の少年、枢木スザクと再会……
度重なる戦いの末、エリア11はニ年ほど前にようやく日本という名前を取り戻した訳だがその経緯を長々説明するのも面倒だ、と、とある森の中にある湖に佇む青年がいた
この場所は諸外国地域の森の中。
テロの疑いのあるとされている、ある地域の潜入調査に【世界人道支援機関(WHA)】の名誉顧問のナナリー・ヴィ・ブリタニアからの依頼でこの場所に来た
彼女はルルーシュの妹で僕の幼馴染だ。ゼロとして活動する僕も黒の騎士団のカレンや、元神聖ブリタニア帝国の皇帝直属の騎士【ナイトオブラウンズ】のナイトオブスリー
現在は黒の騎士団の航空幕僚長のジノに協力してもらっているのが現状だ
近くの小島にはトリスタンと紅蓮も控えているが、今のところ変わったところはどこにもないと先程連絡があった
本当にこんな平和そうな場所にテロリズムなどあるのだろうか?と報告を受けた時点で頭に疑問が過るが、シュナイゼルの読み通りとあるならばあながち間違いではなさそうである
かつて僕も名誉ブリタニア人としてブリタニアに身を置いていたこともあったので、シュナイゼルのことをつい殿下と呼んでしまうのは最早不可抗力だ
ルルーシュが彼にかけたギアスは【ゼロに仕えよ】
そのせいで今は僕が上司みたいなものなのだが、未だにこの感覚は慣れずにいた
ゼロは黒の騎士団の象徴。
僕は頭を使うよりこうして現地に赴いて身体を動かす方が得意なので、今もそのスタイルは変わらない。
頭を使うのはずっとルルーシュの仕事だったせいもあるけれども、その頭脳労働はシュナイゼルが今はしてくれている。
コードをシャルルから受け継いで不老不死となったルルーシュは、C.C.と一緒にギアスの欠片を探しに向かう旅に出ていて、今は何処ともしれない場所にいるから連絡があるなんて稀である
あの時はナナリーと僕も敵に捕縛され割と大変だったし、僕なんて拷問により大怪我だ。
今でも此の件は俺の人生、なんてものはもうないのだが一番の失態のような気がする。
ルルーシュのことでC.C.から真実を聞いた後は、なんとか冷静さを取り戻せれた
だけどやっぱりルルーシュが生きていたことは僕もカレンも素直に嬉しかったし、次からは何時でも会えると思うと自然とゼロとしての仕事にも注力出来た。
たまには帰ってきて貰わないととは言ったかも知れないけどルルーシュは嫌がるかもしれない
それに僕はゼロだ。
ゼロとしてこの身のすべてを世界平和へ捧げるため、慌ただしく過ごす方がルルーシュがいない寂しさを忘れられる。
ましてや穏やかな学生時代のような生活に戻ることもないからなおさらだ
それがルルーシュが残した最後の願い(ギアス)
そんな日常を取り戻し、平和の維持に務めている時に、ナナリーからの件の件の連絡があったのだ
しかし僕が前線に出ることで、ナナリーの護衛が手薄になる事から、僕たち【黒の騎士団】は、元ブリタニアの筆頭騎士であったオルドリン・ジヴォンが率いる【グリンダ騎士団】に監査官として協力してもらっている
彼女とナナリーは、トウキョウ租界で僕がフレイヤを撃ってしまい、租界を消失させ、多大な被害や死者を出してしまった時にオルドリン率いる部隊がナナリーを助けてくれた縁があるのだ
もしかしたらその時にはもう腹は決まっていたのかも知れない。
元ナイトオブナインのノネット・エニアグラム麾下の彼女たちグリンダ騎士団には、何度も助けられた。もちろん今も。
ナナリーも彼女たちを懇意にしており、僕とルルーシュと同じような関係であった先代のグリンダ騎士団の団長の親友であり、騎士として仕えていた主君【第88皇女マリーベル・メル・ブリタニア】に僕と同じ罰を科されたオルドリンとは数少ない理解者としてもたまに話している。
彼女には双子の兄がいた。
先の騒乱で亡くなった兄の名はオルフェウス・ジヴォン。
コーネリアは、オルフェウスの前では【ネリス】と名乗っていたらしい。そう彼女から聞いたこともある
オルドリンは女性ながらに僕に引けを取らないレベルのKMFのパイロットであり、僕のランスロットの開発にも大きく貢献していた功績もある。マークスマンシップは僕の方が上だが。
確かマリーベルもルルーシュ並みの知略、KMFの操縦レベルはオールSランクだったとユフィから聞いた。やはり血は争えないのだろう。
ユフィと腹違いとはいえ姉妹であり、同じ血の流れるナナリーにも、この仮面を外すように言われたら断れない
ランスロット・ハイグレイルはグリンダ騎士団のKMFとユグドラシル・ドライブを連結することで、機体同士を合体させることが出来る特殊能力を持っているのだ。その力を活かしてテロ鎮圧、人命救助等沢山の仕事も担ってくれている。
オルドリン自身のカリスマ性と思い切りのいい性格、愚直なまでの一途さ
僕が持ち合わせていないカリスマ性で部下は彼女に付いてくる。
オルドリンの仲間の一人、レオンハルト・シュタイナーはシュタイナーコンツェルンの御曹司で、ジノ直属のナイトメアの開発に大きく携わっていることもあるせいなのか、ジノとレオンハルトも主従関係ながらとても仲がいい
この湖は、キャンプ施設になっているのか、いくつか休憩施設も併設されている。
この近くに、正に今日オープンするリゾート施設がある。
そのオープニングセレモニーには世界の有名人が登壇する。
もちろん護衛付きではあるが、シュナイゼルの読み通りならば、そのオープニングセレモニーが狙いなのは僕にでも分かる
こうして直ぐに動けるように、僕は少しだけ離れた場所にロイドさんとセシルさんに専用機を整備してもらっているのだが
ナナリーがジルクスタンに幽閉された時は、ランスロットsiNで真っ向から敵を全滅させたことはまだ記憶に新しい
ゼロが力を持つ必要はない、と口酸っぱく上に言ってはいるものの、シュナイゼルもラクシャータさんたちも結局は不測の事態に備えて常日頃から準備はしてくれている。
ナナリーの時のような失態をまた繰り返さないためにも
爆ぜる焚き火を見つめながら、僕は軽くため息をついた
そろそろセレモニーの時間も近づいて来ているな、と時間を確認していたらポケットに入れている携帯が音を鳴らした
しばらくその携帯電話を見つめ、ひとつ深呼吸して通話ボタンを押した
『──【私だ】』
ゼロとして活動するときは、基本的に一人称は【私】にしている。携帯の名前はジノだった
『【ゼロ】か?今、気になる情報が入った。』
ジノから聞いた話、カレンが周辺に奴等のKMFの倉庫を見つけたらしい。
『【倉庫か。警備は?】』
『いや、警備はいないらしい。周辺の見回りにでも行ってるのかもな。……見つかった機体はグラスゴーとガニメデだ。戦力的には大した問題ではないがどうする?』
ジノも空中で敵の視界に入らない距離でトリスタンで哨戒中のようだ。
『【そうだな。この際あちらのKMFを機能不全にしてやればいいかも知れない。出来るだけ見つからないように穏便に済ませたい。この周辺は観光地でもある。一般人もいることを踏まえると】』
『…それには同意だ。民衆が折角のリゾート中にテロリスト集団に襲われた、なんて最悪だもんな』
ジノは僕がラウンズ時代に仲良くしてくれた数少ない友人である。
ルルーシュ程付き合いは長くはなかったけど、ナンバーズの出のせいで、僕が何かと肩身の狭い思いをしていた頃、ジノとアーニャにはよく助けてもらっていた。
『【ああ。ありがとうジノ】』
『…いや。今仮面外してるのか?』
『【うん?まぁ。一応テロの有無を確かめるための潜入調査だし。変装はしてるけど、シュネーが手配してくれて。…………ちょっと待ってくれ】』
危うく普通に喋ってしまった。どうもジノと話していたら気が抜けてしまう。
話していると何となく気配を感じ、視線を横に滑らせた
10人か。
『ジノごめん後でまた連絡する』
『えっ、すざ……』
本当の名前を呼ばれる前に通話をオフにした
『あっ!……何かトラブルだな!!カレン!!』
ジノはカレンの方へと直接ダイレクトに繋いだ
『…聞いてた!!こっちも今、連中に嗅ぎつけられた!!良くない方に動いちゃったみたいね』
カレンの足元には戦闘不能にさせられたテロリスト集団4名ほどが泡を吹いて倒れていた
『………さては編成員にスパイでもいたかな。なかなかに優秀だ。最近入ってきた奴が怪しそうだが』
『そっちは任せたよ!!』
カレンは自分の愛機、紅蓮特式へと乗り込んだ
『了解だ!無茶だけはするなよカレン!』
首からぶら下げていた紅蓮の起動キーを差込口に挿入する。エンジンとエナジーフィラー、そしてユグドラシルドライブの響く音と共に紅蓮の瞳は輝いた
『アンタもね!一番無茶しそうなの今のゼロだけど!!───さぁ、久しぶりの仕事だ!!行くよ紅蓮!!』
右腕部の輻射波動機構も勿論健在だ
『……ルルーシュとスザクが残した平和、簡単に破らせやしないよ!!』
カレンの周りを敵のKMFが囲い、こうして思ったよりも長くなる一日は始まった
僕は焚き火を囲んでいた薪と風除けのために作っておいた石をテロリスト集団へと蹴り飛ばした
『うわぁ!!!』
勿論、火は着いていたので、足に若干の熱を感じながらも、この程度は差し支えない。
そしてそれは見事にテロリスト集団へと命中した。
この場所を待ち伏せに選んだのも近くに水場があるから湿度も高く、森林火災の危険性が少ないからである
『【武器を降ろせ!武器を持たない人間を自分は決して撃たない!!】』
もはやお決まりのセリフになってきているが、これは僕が決めた僕のルールでもある。
懐から隠し持っていた銃を抜き、牽制のために構える
『ふざけるな怪しい奴め!!そんな戯言聞くわけがないだろう!!!』
予想通りの反応。
やっぱりこうなるのか。
分かってはいたが、改めてその台詞を聞くと、まだ争いの火種や傷跡は各地に残っているということを改めて実感してしまう。
悪逆皇帝の名前は世界に知れ渡っている
これもルルーシュと、当時彼の騎士として共にブリタニアという世界を壊した枢木スザクという男の所為で、だ
枢木スザクとは勿論、俺のことだ。
表向きは死んだことになっているが、生憎とこうして生かされている。
悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを討ち、世界を救った仮面の英雄【ゼロ】として
ルルーシュの残したこの世界を見届けるために。
『………………【そうか。残念だ。ならば、黒の騎士団の名の下に、お前たちを拘束する】』
一気に頭が冷えていく感覚。
『……かかれ!!!』
まずはサバイバルナイフで斬り掛かってくるのを腕に付けていた時計で止める
この前変えたばかりだったのだが、安物だから特に問題はない。
そしてナイフを持った方の手首を簡単に捻り上げてやった。
サバイバルナイフはその反動で耳障りな音を立てて落下する。
そのまま鳩尾を蹴り飛ばす。水飛沫と共に男は泉へとダイブした
まずは一人。
『コイツ……!!?ガキのくせに戦い慣れているだと!?』
当たり前である。元軍人を舐めないでいただきたい。
だけどこの程度は牽制みたいなものである。そのまま流れで何人かは此方へとそれぞれの獲物を武器に飛び込んでくる。
これも織り込み済みだ。
と、いうかもう子供という年齢でもないんだけどな。
テロリスト集団の攻撃も当たることはないだろう。
よく訓練されているが、元軍属の僕の敵ではない
適当に相手の攻撃をいなして、たまに反撃して戦闘不能に追いやる。
最近はずっとKMFに戦闘は任せっきりだから変装しているとはいえ、生身の戦闘は割と久しぶりな気がする。
最近までジルクスタンに囚われていた時の怪我のせいでナナリーの護衛はオルドリンに任せていたけど、しばらく前線に出れなかったし、僕は怪我なんて構ってられるかと前線に出ようして久しぶりにルルーシュに怒られたので大人しくしておいた。
怒らせると本当に怖いんだよな。僕限定で、だけど。何となく嬉しいと思ってしまうのは許してほしい。
デスクワークで鈍った身体を叩き起こすのには丁度いいかも知れない。
ルルーシュがうまいことカレンたちを使って、ルルーシュの詰めたスケジュールで動いてくれたのは助かった。ナナリーも少しだけルルーシュと逢えて嬉しそうだったし。
長年の軍生活で身に付けた生き残るための術は、そう簡単に抜ける物ではなかった。身体って覚えてるものだな、とぼんやり考えながら。
程なくして、テロリスト集団は沈黙した。
『……【ジノ、私だ。ポイントDでテロリスト集団を鹵獲。数は10。拘束はしておいたのであとは頼む】』
『…こちらジノ・ヴァインべルグ、トリスタン。了解した。セレモニーの方も気になるな』
そういえばこの近くにあったリゾートホテルにも包囲網があったな。
『……【今のところ何も起きていないようだが、逆に不自然な気がするな。カレン、そちらは大丈夫か?】』
近くにあった適当なサザーランドに乗り込み、チャンネルをカレンとジノにつなげる
『…敵のKMFは沈黙した。だけどやっぱりゼロの言う通り……セレモニーの方も警戒したほうが良さそう……嫌な予感がする』
そう話していたら、ゼロの方へと緊急アラート通信が入った
『…緊急アラート!?【どうした!?】』
『こちら【超合衆国】代表、皇神楽耶。現地リゾート施設にて人質事件が発生。テロリスト集団が施設内に引きこもり、各国の要人たちが人質に取られた模様。丁度貴方がた3人のすぐ目の前の施設ですね。至急現地駐在と連携を取り、人質解放の任を要請したいのですが返答は如何なものか?』
神楽耶からの通信に3人は画面越しに顔を見合わせる。
視線の先には、確かに今日オープニングセレモニーのあるリゾートがある。
『…【了解した。黒の騎士団、これより人質解放の任に着く!!】』
ジノには機動力のあるトリスタンで現地確認をしにリゾート施設内が見える場所へ向かうよう指示を出す
『了解!!』
ジノとカレンは同時に頷いた
『…それともう一つ』
神楽耶の次の言葉に、3人は目を見開いた
『…………………うそだろ?』
思わず素が出てしまったスザクは頭を抱えた
『ははは!これは楽な仕事になりそうだなゼロ!』
『…何やってんのあいつら!!!不老不死の連中はみんなマイペースな訳!!?面倒事ばっか増やして!!』
『ですが好機とも言えます。ともかく最優先事項は目標二人と接触することです。彼らは我等にとっても最重要機密。……ですが上手いこと彼等の力を借りれれば奴らを制圧出来るでしょう。では、よしなに』
神楽耶の一言に、スザクはサザーランドの足を施設へと向ける
『【カレン、いつも通り一緒に来てくれるか?】』
変装を解いたマスクを適当にコクピットの床に放り投げる。カレンの液晶画面には見知った顔が映った。
『それは【枢木スザク】としてのお願い?【ゼロ】としてのお願い?』
それを横に聞きながら、スザクは苦笑した
『意地が悪いなぁ。任せるよその辺は。まずはロイドさんたちと合流しよう。君の紅蓮も潜入調査分のエナジーフィラーしか搭載してなかっただろう?長丁場になりそうだから、エナジーフィラーも満タンにして、ちゃんと整備しておかないと』
『あはは!ごめんごめん!なら行こうか!』
◆◇◆◇◆◇
『……うっ……ひっく……怖いよぉ……』
その頃、リゾートホテル内の一室では、泣きじゃくる女の子がいた
『…大丈夫だ。よく頑張ったな。きっともうすぐ助けが来てくれるさ』
響いた女性の髪は珍しい翠の色をしている。女の子の頭を優しく撫でて安心させているようだ。
『……ほんと?おねぇちゃん……?』
『勿論だ。すぐに来てくれるからな。なぁ、相棒?』
そう呼ばれた長身痩躯の男はベッドに腰掛け、何やらカーテンの外を眺めていた。
『あぁ。今、敵の配置を確認しているところだ。』
黒髪の艶のある長くなった髪は、後ろでゆるく束ねられており、その瞳は紫色の男だ。
たまたま見かけたテロリスト集団の後を追っていたら、この場所に辿り着いた。オープニングセレモニーが始まり、しばらくして爆発音が響いたのだ。
出火元は西の時計台広場である。
今は地元のレスキューと合衆国所属の者たちがテロの制圧に回っている。
しかし圧倒的に数が足りないのが現状であり、超合衆国へととルルーシュが秘匿通知でSOSを送ったのだ。
犯人の人質解放の要求は、多額の身代金と超合衆国へと捕らわれている仲間たちの解放。
愚かなことだ、と黒髪の男、【L.L.】ことルルーシュ・ランペルージは思った
コードをシャルルから事故とはいえ、引き継いでしまい不老不死になってしまった男は先の争乱のせいで悪逆皇帝と罵られている男本人である。
流石に本名を言う事はまずいので、目の前の女の子には適当に偽名を伝えておいたが。
『ねぇ、お兄ちゃん』
女の子はカーテンの方を見つめているルルーシュに不安そうに声をかける
『…どうしたんだい?』
険しい視線ではなく、女の子へと向ける視線はいつもの優しいルルーシュのそれだ。
妹のナナリーに向けるような瞳である
『…………おかあさん大丈夫かな?ん、とね、わたし、おかあさんに連れられてこのりぞーと?施設に来たの。ここで、大事なお祭りがあるんだよ、って。おかあさんはとってもえらい人でね、いつもみんなのことを、気に、かけてくれてるの……おとーさん、は、いなく、なっちゃったから、おかあさんだけしかわたしにはいないの』
まだ拙い言葉遣いの女の子の話をルルーシュとC.C.は聞いていた。
と、なると、この少女の母親はセレモニーに登壇するはずであった政界の人間ということになる
『……そうか。二人で頑張っているんだな。すごいよ』
窓際から離れて女の子に視線を合わせ、頭をルルーシュは優しく撫でる。
すると女の子は照れ臭そうに笑う
『だが、しかし実際どうするんだ?私達は表立ってはあまり動けないぞ?この子の母親も話の通りなら、隣の館にある式典会場に囚われている可能性が高い』
それを聞いてルルーシュはふむ、と1つ頷き
『…大丈夫さ。さっき秘匿通信で連絡しただろう?時間帯的にそろそろだ』
部屋の時計をみて、ルルーシュが言うと
『【テロリスト達に告げる!!!今すぐに人質を解放しろ!!抵抗する場合、我ら黒の騎士団が全力を持ってテロの対処に当たる!!もう一度言うぞ!今すぐに人質を解放するんだ!!】』
聞き慣れた友の声にルルーシュはまた笑った
『……仕事が早いな、全く恐れ入る』
C.C.も頼もしい援軍に笑った
『くろの、きしだん?もしかしてゼロ!?ゼロがきてくれたの!?』
『あぁ、そうだ。』
そんなやり取りの後ろで、外の廊下から慌ただしく足音が響く
『………………行ったか。よし、まずはこの子をゼロたちに保護してもらわないと』
C.C.がそう言うとルルーシュも頷いた。
テロ開始から数時間
警告はしている。
結局はこの繰り返しなんだな、とスザクはトレーラーの中で頭を抱えながら思った
『…スザクくん、新しいパイロットスーツと機体の調整、出来たわよ。いつでもいける』
扉の開く音と共に入ってきたのは藍色の髪が印象的な女性のセシル・クルーミー。
スザクがブリタニアにいた頃から世話になっている技術者の一人だ
『ありがとうございます。セシルさん。』
先程から数回に渡って、テロリスト集団に降伏勧告をしているが全く持って反応がなく、持ってきていた最終手段の愛機、ランスロット・アルビオンゼロの調整をしてもらっていた。ルルーシュ皇帝統治下から進められていた【統合打撃装甲騎計画】のひとつだ。
ただし、このアルビオンは悪逆皇帝の騎士であった男のKMFを模したもの。しかし目の前にあるそれの色は黒く染め上げられたゼロの専用機
『…………まさかまた、こんなに早く乗ることになるなんて。』
『今の貴方には少し辛いかしら?』
確かにこの場にルルーシュもいるのだろう。ならばこれはシュナイゼルの思惑だろう。
『…いえ。違うんです。そうじゃなくて』
言いづらそうに言葉に悩むスザクを見て、セシルは続きを促す
『これに乗ることに抵抗はないんです。むしろ乗り慣れているし、有り難いくらいで。……ただ何だか少し複雑な自分がいて』
ゼロが力を持つべきではないと謳っている癖に、あの戦いから数年。
今の現状ではこの力に頼るしかないのも分かっている。
『えぇ。わかっているわ。──ランスロット・アルビオンは悪の象徴。だけど、この場所に陛下がいるなら、このアルビオンは貴方が守るべき陛下のための剣であり盾。……私はねスザクくん。このランスロットで貴方が守ってきたものがたくさんあると思うの。』
黒く染め上げられたアルビオンを見ながら、セシルは言った
『……僕が守ってきたもの……』
守ると言っても、ひとえに色々だ。
友であったり、仲間であったり、民間人であったり、思想だったり意思だったり
『アルビオンは確かに悪の象徴かも知れない。だけどこの力で守れたものもたくさんあったはずよ。奪うより多くのものを、貴方は守ってきたの。だから今があるの。それを忘れては駄目。』
パイロットスーツと共に渡されたのはランスロットの起動キー。
それはあまりにもスザクの思いが詰まり過ぎた大切なものになってしまった。
スザクは受け取った白と黒を基調にしたパイロットスーツを見つめる。最期の皇帝の纏った白と、最期の皇帝の騎士としての黒。
『……いつかこの力が必要じゃなくなる日が来るまで、貴方は戦い、平和を守ると約束したのでしょう。2年前のゼロレクイエムの前に、陛下と。───だけどね、スザクくん。相手が陛下とはいえ、友達を救うのに難しい理由なんて必要ないのよ』
『……セシルさん……』
その通りである。それがルルーシュが残した最期の願いだった。
何を迷う必要があったんだろう。
この2年、散々問いかけて来たじゃないか。
悩んで悩んで。
だけどまだ悩み続けている。
だけど自分には同じ道しか選べなくて
それがルルーシュに科された僕への罰であり罪。
何て君は残酷な人なんだ。
最終調整に入るセシルのいる管制室の奥の更衣室で、スザクは新しいパイロットスーツに袖を通した。
ロッカーにはゼロとしての衣装がハンガーへと掛けられている。ルルーシュが纏っていた物と同じタイプの衣装と仮面。やはりこの仮面はまだ僕には重い。しかし
この生涯全てをかけて【ゼロ】としてただ、戦い、救えと。ルルーシュに託された願いはこの胸にある
『………君も同じことを言うんだろうか。ユフィ。───ならば僕は』
そう言って、グローブを装着し、スザクはロッカーを閉めた
この汚れ切った手でも救えるものが、まだあるのならば
更衣室が再び開く音が聞こえ、セシルはふとそちらに視線を向ける。
そこには真っ直ぐと翡翠色の瞳でランスロットを見据えるスザクがいた
『……うん。やっぱり似合ってる。少しは落ち着いてきた?』
ふとセシルに声をかけられ、スザクはセシルに視線を向けた
『はい!強度も問題ありません。凄く身体に馴染みます。気が引き締まるし力が溢れて来るようで。……セシルさん、さっきはありがとうございました。』
スザクの手には、ゼロの仮面と衣装があった
『……改めて思ったんです。ルルーシュだけじゃない。僕は、ここにいる人たち全員を救いたい。だけど自分はKMFに乗って道を切り開くことしか出来ない。だからセシルさん。僕がゼロとして戻ってくるまでの間、現場を仕切る者が必要です』
確かにスザクが前線に出るとなると、指揮官が不在ということになる。
手元にあるゼロの衣装をセシルは見つめ
『そうね。元々最優先事項として陛下とC.C.さんと合流するように言われているものね。』
何かしらないか、と、そう思考しているとスザクとセシルが待機しているトレーラーの液晶に、ロイヤルチャンネルから連絡が入った。
何とタイミングが良すぎる男であろうか。流石現黒の騎士団の指揮系統を掌握しているだけはある
『…これは皇室専用のチャンネル?はい。』
通話ボタンを押してスザクは答えた
『…やぁ。ゼロ。いや、今は枢木スザクくん、と呼んだほうがいいのかな?』
顔を見ずとも分かる声である。
『……シュナイゼルか。あぁ。今はセシルさんと自分しかいないので、問題は。』
『それは良かった。そちらのテロリスト集団へと、再三降伏勧告を送ってはいるのだがね。いや何、なかなか手こずっているんだ。』
やはりその連絡だったか
『…申し訳ない。自分が不甲斐ないばかりにルルーシュまで巻き込んでしまった。』
その言葉を聞いて、シュナイゼルは少し意外そうな反応をした
『…いや、良くやってくれているよ。君も紅月くんもね。あちらもなかなかに粘り強いようだし。それにルルーシュなら大丈夫さ。それは君が一番良く知っているだろう?』
このタイミングでシュナイゼルが連絡をしてきたということは、どうやら譜面が整いつつあるようだとスザクとセシルは察した
『…もう嫌というほど。………何分人手も物資も足りないので、鎮圧には少々時間がかかりそうだ』
『そう言うだろうと思ってね。たった今援軍を要請した。何。たまたま近くを飛んでいたのでね。間もなくそちらに着くだろう』
テロリスト集団への援軍、となると恐らくオルドリンとノネット率いるグリンダ騎士団だろう。
『恩に着る。』
程なくして、外の方に紅色の旗艦が降りてきた
【対テロリスト遊撃機甲部隊グリンダ騎士団】
紅色の空母【グランベリー】を有する部隊である。
『対テロリスト遊撃機甲部隊、グリンダ騎士団。超合衆国の名のもと、只今推参!ってね。久しぶりじゃないか枢木。いや、今はゼロだったかね?』
彼女はノネット・エニアグラム。
元ナイトオブラウンズのナイトオブナインだ。
後ろには、所属パイロットの現騎士団長の【オルドリン・ジヴォン】と騎士団長補佐の【ソキア・シェルパ】【レオンハルト・シュタイナー】、【マリーカ・ソレイシィ】、【ティンク・ロックハート】の筆頭騎士の4人のメンバーもいた。
一番の最高戦力を編成をしてくれていたシュナイゼルには頭が上がらない
こんな人達を自分の麾下に置いたルルーシュは後で一発殴らせてもらおうと思う。色々と言いたいこともあるし
『ノネットさん!お久しぶりです。えぇ、まぁ。この様にしつこく生かされています。』
黒の騎士団のトレーラーの中で、ノネットが手を出してきたので、スザクは少し躊躇いつつもその手を握った。
『いいんだよ。他のラウンズ連中の驚いた顔も見たかったけどね。二年前は派手にやってくれたようだけど。』
そう。ノネット、ジノ、アーニャ以外のラウンズはあの戦いでスザクが全員殺した。
それも自分の意志で
『……否定はしません。』
『別に責めている訳じゃないさね。あれはお前が、自分の意思で選んだ道なんだろう?たった一人の友の願いを叶えるために』
『はい』
『恨み言の一つでも言ってやろうか、なんて思わなかった訳じゃないけどそれは【悪逆皇帝の騎士枢木スザク】に、であって、黒の騎士団のCEOの【ゼロ】じゃない。……うちのオズも同じ穴の狢だ。ならば誰も文句は言うまいよ。アタシらもそれを承知でここに来たんだ。でないと最初からこの依頼自体蹴ってるさ』
後ろに控えていたオルドリンは成り行きを見守っていたが。
スザクがラウンズ時代から、彼女の芯はブレていないようだった。
スザクはそんなノネットに安心感すら覚え
『…本当にありがとうございます。ノネットさん。貴女と出会えて、本当に良かった。』
『よしな今更。………まぁあとで一杯ぐらい汲んでもらおうかね?……さぁ、愚痴り大会はこれくらいにして、と。
───命令をおくれよ司令官殿。』
これは逃げられそうにないな、とスザクは思った
ノネットの一言にスザクは改めてリゾート施設を見据え、自軍全体に回線を繋げた。
『……【こちらは黒の騎士団【ゼロ】!!黒の騎士団、グリンダ騎士団、現地駐在全部隊に告げる!!!
これよりこの3組織の総力を持ってテロ鎮圧に移る!!現場指揮権等はこの時間を持って全て【対テロリスト遊撃機甲部隊グリンダ騎士団】へと移行!!
救出対象は重傷者、並びに子供、女性、老人を優先!……軽傷者は現場の者の案内に従って保護施設まで自分の足で移動して頂きたい。KMFのパイロットは敵のKMFの無力化に注力しつつ、人命救助を頼む!!】』
『イエスマイロード!!!』
『了解!!』
それぞれの了解の返事を聞き、スザクは頷いた
そして再び、スザクは戦場に舞い戻ることになった
もしくはもう亡霊なのかもしれない。
だけどこの身体に流れる血潮は確かに熱くて
自身が未だ彼に生かされているということを再認識する。
『聞いていたねシュネー。コーネリア。ここにいる限りは大丈夫だが、ナナリーの護衛は君たちに任せたよ。私も久しぶりに彼の指揮を手伝うとしよう。カノン、来てくれ』
『仰せのままに』
シュナイゼルの横には、ナナリーとスザクの部下のシュネー、コーネリアが控えていた
『シュナイゼルお兄様、とても頼もしいです。ではスザクさん。兄を……ルルーシュお兄様をよろしくお願い致します』
ナナリーの願いにスザクは頷いた
『…うん。心配しないで。すぐに終わらせて君のところに連れて帰るよ。シュネーもありがとう。そちらは頼んだ』
『はい!スザクさん!』
『次の最後通告の後、あちら側からの返答なき場合、各KMF部隊の突入を許可する。みんな、自分のKMFの確認を怠らないようにね』
オルドリンの指示に、ソキアたちは頷いた
『オルドリン、少しいいかい?』
スザクに声をかけられ、オルドリンは振り返った
『どうしたの、スザク』
仲間たちがKMFに着いたのを確認してスザクにオルドリンは歩み寄る
『いきなりナナリーの護衛からこんなところまで来てもらってすまない』
『あちらには私より頼りになる方がいるから。それにテロ鎮圧は私達の仕事だもの。やってることは変わらないし
実は私もね、マリーとお兄ちゃんがいなくなって、しばらくはスザクと同じこと考えてたの』
『僕と同じこと?』
『そう。あの時はマリーとお兄ちゃんが考えていたことはぼんやりとしか理解出来なかったの。でも、ルルーシュさまが崩御されてからのこの2年間、グリンダ騎士団の騎士団長になって、色々な場所に降りて、テロ鎮圧に尽力して』
ランスロット・ハイグレイルを見つめながらオルドリンはこう話してくれた
『…この前の見回りの時に久しぶりにグレイルと空を飛んでて見えたんだ。今を生きる人たちの笑顔が』
『……今を生きる人たちの笑顔……』
確かに悪逆皇帝ルルーシュとその騎士枢木スザクがしたことは、余りにも人道に反し、卑劣極まりないことだったであろう。正に力こそすべてのブリタニアを見事に体現していた最期の皇帝
『…あの時、私達はマリーのところに行っていたの。私はマリーも救いたかった。だけど、マリーはルルーシュさまと同じ道を選んだ。』
すべての憎しみを一人で背負い、一人でいってしまおうとして
だが、それをオルドリンの兄のオルフェウスが拒んだ。
オルドリンに友人殺しの烙印を残させないために。
オルフェウスは【自身の姿を偽る】というギアスを持っていた
そのギアスで自身の妹の【筆頭騎士オルドリン・ジヴォンがマリーベル・メル・ブリタニアを討ち取った】という真実であり偽りの歴史を残して
実際にマリーベルを討ったのは、オルドリンではなくオルフェウスだったのに。
『………それは………僕と同じ………やっぱり……あの時、マリーべル皇女殿下がルルーシュに謁見しに来て、そのお姿を拝見したことがあってね。その時思ったんだ。何処かしらルルーシュに似ている。瞳の奥底で何か見つめているような、それでいて哀しげな……なにか大きな決意を感じて……』
それをオルドリンは聴いて目を見開いた
『……やっぱりすごいね、スザクは。そう。マリーのテロリストへの憎しみは本物だった。マリーは私達との最後の決戦の時に、私達を否定した。大嫌いだとも言われたわ。だけど、それはどうも愛情の裏返しだったらしくて』
『…そうか。だから、ルルーシュは似ているからこそマリーベル皇女殿下の行き先も見据えて……やっぱり兄妹だね。やり方があまりにも似すぎてる。ルルーシュもマリーベル皇女殿下も』
『ね。マリーは凄いよ。私はそんなマリーだからこそ、彼女の騎士になった。だから私も、私だからやれることをやっていこうって。大切なマリーとお兄ちゃんに託された願いだからこそ。──やっぱり今回の件もゆるせないんだ。』
そう。
平和になってまだ2年。だがこの2年で変わりつつあることもある。
ルルーシュたちが文字通りに命に変えて残した平和をこうして破るのは自分たちにとって余りにも度し難いものである
これは当事者である自分たちにしか分からない怒りであろう。友が残した願いだからこそ、こんなことは断じて許されるべきでないのだ。
勿論あちらの言い分もあるのだろう。それは法の元でしっかりと聞こうと思う。
話を聞くにしても、これではまともに話し合いの席に付かせることも出来ないからだ。
『……頼りにしてるよ。今日は来てくれてありがとう。これ、作戦概要と味方の配置図と識別番号。確認しておいてくれるとありがたい』
スザクは封筒をオルドリンに渡した。
『こちらこそ。今日は勉強させていただきます。我らグリンダ騎士団は剣を持たぬ人々の剣ですから』
そう言うとスザクは手を振って別の場所に資料を届けにいった
『…あり?オズ、枢木卿と話してたの?』
愛機のシェフィールドから顔を覗かせたソキアが声をかけた
『うん?今の彼をそう呼んでもいいのかは難しいけどね』
『そうですよね。あまりよく思ってなさそうですし』
哨戒からレオンハルトとマリーカが戻ってきたようである
『今そこですれ違ったんですが、疲れた顔してましたよね』
マリーカの指摘にティンクが耳を傾けた
『そうみたいだねぇ。彼も色々と大変そうだからね。幾ら元ラウンズだったとはいえ、表の世界では裏切り者扱いだし』
普通に突っ込むティンクは相変わらずである
『そんなの今更関係ないでしょ。それにあの人、お父様が先代の首相の嫡男だし元々礼儀正しいのよ。それにあの人は今はゼロを名乗っている。マリーのことも、ナナリー様のことも気にかけてくれていたようだし』
何度か彼がラウンズ時代に会ったこともあり、仕事も一緒になったこともあるので、スザクの人柄と性格は全員が知っていた。
『…何でしょうね、この、彼が一緒に戦っているという安心感』
『わかるにゃ〜。何度も戦場でセブン様時代の枢木卿を見ているからかなぁ?』
『日本人の彼がラウンズになることも異例だったもんねぇ。』
レオンハルト、ソキア、ティンクの言葉にふとマリーカが思い出した
『当時はまだ日本人に対して、尊厳も何もない時代でしたしね。私がまだブラッドリー卿の部下だったときに、ブラッドリー卿が枢木卿に喧嘩を吹っ掛けてたのを間近で見ているので、その時にユーフェミア様のことを友人として、主君として……本当に大切に思っていたということも伝わってきて……あの方は本当に実直な方なんだな、と思ったんです。そこはずっと変わらないですよね。』
そのナイトオブテンのルキアーノ・ブラッドリーはトウキョウの決戦でカレンに消されたのだが。
あれから2年、世界はだいぶマシになった。日本人を苦しめていた枷は全て無くなり、笑顔も増えてきた。
『……ソキア、作戦開始したらサポートよろしくね。貴女のシェフィールドなら隠れた敵も全て見つけられるし』
『オーキードーキー!』
ばちこーんと音がなりそうなくらいで元気に返事をしてくるソキアに元気だなぁとレオンハルトたちは思った
◆◇◆◇◆
『ジルクスタンの時みたいにイレギュラーがない限りは勝てるわね。一番の大仕事はアンタが一番適任だと思うし。それにしても……』
資料を見ながらカレンは横目で久しぶりに見るスザクの顔を見て
『………?』
怪訝そうに見つめるカレンにスザクは疑問符だ
『……画面越しだと分かりづらかったけど、アンタひどい顔よ!?ちゃんと休めてる?』
『…え?あぁ…まぁ…』
『その反応!!何か後ろめたい気持ちがあるときの顔!!』
『あぁ本当だな!ラウンズ時代からスザクは真面目過ぎて、昼飯もそこそこにすることも多くてさぁ』
カレンだけでなく、ジノからも言われてしまっていよいよスザクは観念するしかなかった
『……いや、実はあんまし休めてない……かも……すみません……』
『やっぱり!!まだ最終通告まで一時間以上あるし、私とジノで資料配っとくから少し寝てきなさいよ』
そういえば最近、仕事が多すぎて寝るのも遅くなってしまうことも増えているなとぼんやり思う
『……いや、でも……』
『いやも、でもも、すったもんだもないでしょ!面倒事は私達に任せて少しでも早くあいつら助けるためにあんたの力は必要なんだから』
『……うん。そうだね。ありがとう。じゃあ、少しだけ休んで来ようかな。』
『あぁ。15分前になったら起こしてやるからさ。』
ジノの一言に、スザクは二人に資料を渡して、スザクは帽子を深く被ってトレーラーに戻っていった
『なぁカレン。世間から見れば、ランスロットはいい評判じゃないんだよな。スザク本人もそれを分かってんのにランスロットに乗るしかないのか』
『…うん。でもそのせいでほぼ勝確なのよねこのテロ。だけど、思ったよりも敵の数が』
『……多い、か?』
『そう。聞いてた数より多いかも。もしかしたらシュナイゼルはこれを見込んでグリンダ騎士団を……』
恐らくイレギュラーを踏まえて、かも知れないが
今の世界でイレギュラーなどあってはならないがシャムナのギアスの例もある。
『まぁとにかく油断せずに、だな。』
ジノの声に、カレンはそういうこと!と頷いた
◆◇◆◇◆
『セシルくんもなかなかに厳しいことを言うね〜』
ランスロットが待機しているトレーラーではコクピット内で眠っているであろうスザクの横で、ロイドが言った
『…今の彼にはちょっと厳しかったかも知れませんね。だけど、少し資料を渡すついでに散歩に出た間に色々と整理できたみたいでちょっと安心しました。』
資料を渡すように建前を作り、スザクに散歩に行くように促したセシルは、帰ってきたスザクの顔が覇気を取り戻したのを見て安堵の息を漏らした
『そうだねぇ。これから進軍って所で中途半端なままで戦場に立ったら真っ先に死ぬだろうし』
スザクにルルーシュが掛けた『生きろ』というギアスは自分より格上の相手に対して、普通の人間ならば逃げるの選択肢一択のところを、スザクの場合はその選択肢を取っ払い、精神力でそれをカバー、戦うことを大前提として『死なない選択肢』を明確にしたことで限界を超え、超常的な身体能力、操縦の腕なり、機体性能なりで突破させるというものでもある
『陛下も言ってたじゃない?スザクくんの尋常ではない精神力があるからこそのあの強さ、ってさ』
あのゼロレクイエムまでの道程あってこその二人の何者にも断ち切ることのできない絆、或いは運命とも言うべきかも知れない
本気でお互いを思い合い、信頼し、そして殺し合った結果
親友としての繋がり、信頼と疑惑、憎悪、騎士と皇帝。そして
【共犯者】
二人の歩んだ道。
『そうですよね……』
『…でもさぁ。陛下には絶対言えないよね。スザクくんはさぁ……』
『……えっ?あぁ……』
割とルルーシュに依存気味なきらいがあるスザクのことは確かに言えないかも、とセシルは思った。
『……やはり引かないか。これはシュナイゼルもスザクも頭を抱えてそうだな』
『…そろそろ動きがあるかとは思ったが、奴らのナイトメアが増えてきていないか?』
『…悪手だな。グリンダ騎士団とスザクがいる限り奴らにチェックを入れる隙などないというのに』
そう思い、スザクのところに一番の数を投入したのだろうがその辺りのテロリストにスザクが負けるはずがないのは周知の事実である
『お前の騎士様はお前が絡むと容赦ないからな。結婚披露宴は何時だ?祝儀ぐらいは出してやるぞ?』
『何でオレとスザクが結婚前提なんだ?普通ならナナリー……いや、せめて同棲……違うそうじゃない!』
だがしかし、スザクとルルーシュは横から見ていると距離感が友人のそれではないのである
『いいじゃないか。私は思うぞ。お前に釣り合いそうな相手といえばあいつ以外にいるか?』
『確かにいないが、それとこれとは話が別だろ……』
いない、とはっきり言ってしまうルルーシュもルルーシュだが。
とはいえ、普通にこうしてスザクは生きており、ゼロとして活動している
これは黒の騎士団と超合衆国全体の公然の秘密なのである
『お兄ちゃん、まってるひとがいるの?』
気晴らしにC.C.が何故か持っていた絵本を女の子が読む手を止めて、ルルーシュに向き直る
『…ッ?!あぁ、いや、これは、その』
もしやスザクの名前を聞かれただろうか?と思っていると、女の子は不自然そうな顔をした
『じゃあ、はやく、そのひとのためにもげんきにかえらなきゃ、だね。わたしもお母さんにはやくあいたい』
女の子の一言に、ルルーシュとC.C.は顔を見合わせた
『子供のほうが余程しっかりしているな?』
『…くっ、お前に言われるとなんかムカつくぞ』
そうこうしていると、外の方で派手な音がした
『……動いたか!』
『なに、いまのおおきなおと……』
女の子はC.C.にしがみついた。C.C.はその女の子の肩を本と一緒にギュッと抱き寄せる
『大丈夫だ。助けが来たんだ』
『…C.C.。お前はその子を連れてこの場所に走りその子の保護を頼むんだ。そこにグリンダ騎士団のシュタイナー家の者が控えている。一番敵がいないルートを割り出しておいた。』
ベッドの下へと隠していた麻酔銃と配置が書かれたメモはC.C.へと、女の子には頭を守るために自分がつけていた帽子を被せてやる
『それは構わないが……お前はどうするんだ?』
『オレも後で合流する。何、心配ない。別々に逃げたほうが都合がいい。あいつも来ているしな。途中で拾ってもらうさ。それに、いざという時はアレを使う』
アレ、と聞いてC.C.は頷いた
『おにいちゃん……』
女の子が不安そうに帽子を抑え、ルルーシュは女の子の頭を撫でてやる
『大丈夫だよ。そういえば、名前を聞いてなかったね。』
『わたし?わたし?ユフィだよ』
ユフィ、と聞いてルルーシュとC.C.は瞠目した
『んとね、むかしおとーさんとお母さんがユーフェミア様に助けられたことがあってね、そのユーフェミア様からお名前を頂いてつけたらしくて。
……でも、ユーフェミアさまはにほんじん?のひとをたくさん殺したって聞いた。わたしの名前が、にてる、から、って、とか、にほんじんとブリタニアのちがどうの、とか、わるいきぞくやにほんじんのひとたちにたくさんいじめられたけど、むずかしいことわかんないけど』
ルルーシュさまとその騎士さまのスザクさまが、たすけてくれたんだよって。だからね、ルルーシュさまとスザクさまは、わるいひとだ、って言われてるけど、わたしにとってはヒーローなんだ!
それを聞いて、ルルーシュは言葉が出なかった
ゼロレクイエムの前準備のため、貴族制度廃止の政策をしたとき、反抗勢力を徹底的に叩き潰すための任務時に、日本人の男と、ブリタニア人の女性のハーフの子供を見かけたと、スザクから聴いたのだ。
『…そうか…辛かったよな……』
何とか絞り出した言葉も上手に出ていたかはわからないが、あの大芝居も無駄では無かったのかもしれない。
『ううん!今の方がね、お母さんがわらってる日がふえたんだよ!だから、わたしもうれしいの!!』
それを聞いてルルーシュは思わず女の子を抱きしめてしまった
まだ幼いそのちいさな体に背負ったその過去は重たいものであるだろうにと。
『おにーちゃん?』
『そうか。ユフィ。その名前を大事にするんだぞ。きっとその名前が君を守ってくれる。』
『うん!!』
ルルーシュの初恋の少女だった皇女であり、腹違いの妹であったあの子の愛称とたまたま同じ名前の女の子。
ただそれだけなのに
何となく幼い頃のユーフェミアにも似ている気がする。
何としてもこの子を親元のところへと送り届けなければとC.C.とルルーシュは思った。
1/1ページ