はっぴーめりくり

きらびやかなイルミネーションと定番のクリスマスソングの流れる商店街を二人の男女が歩いていた

『はぁー。さっむー。あっという間に師走は過ぎて行くなぁ。』

茶色の髪を後ろの襟足で切り揃えた男が白い息を吐きながら空を見上げた

『そうね。今年ももう僅かね。』


蒼い美しい髪を靡かせ、ハイネックのセーターと白いコートを着込んで、マフラーを巻いた美しい少女はコバルトブルーの瞳を細めて、眩しいイルミネーションを見つめていた。

商店街はキラキラと空に瞬く星空のように照らされ、夜遅くだと言うのに明るく二人の顔がよく見える

『何やかんやとあっという間だな。』

茶色の髪の男、ライは横で歩いている蒼い髪の少女、妻であるセレナに視線を映す

依頼された仕事の帰り道の途中。気紛れに商店街に足を伸ばせば、クリスマス一色である。今日はクリスマス・イブ。喜ぶ人もいればそうでない人もたくさん溢れる日。

セレナとライは自宅で待っている双子の兄妹に準備していたクリスマスプレゼントを脇に抱えている。

『ライナもセイナもお腹空かせて待ってるわねきっと。クリスマスプレゼントも無事に受け取れたし』

セレナは提げている可愛らしい紙袋を愛しそうに見つめて微笑む。
クリスマスカラーの紙袋だ。ライの脇にも同じようにクリスマスカラーの包装紙に包まれたプレゼントがある。

娘のセイナには以前一緒に出かけた時に物欲しそうにジュエリーショップで見つめていた腕時計を、ライナはと言うと、趣味がお菓子作りと言うので新しい調理器具。そして双子と、実弟のフレオ、実妹のローズの4人でお揃いの物を持てるようにと準備したライが丹精込めて準備した色違いの石がついたブレスレットである。

ちょっとしたまじないを彫ってあるのでいざというときに彼らの身を守ってくれるようにと思ってのことだ

今日はうるさいジルファはリョウたちのところでクリスマスパーティだと言って、留守である。

ジルファの妹の美月も、お世話になっている組織の首領主催のクリスマスパーティだということだ

シリスもシリスで多分今頃、他の仲間たちにパーティに巻き込まれている頃だろう。渋い顔をしていたシリスの顔が目に浮かぶなと思った

『シリスも来たらよかったのにね。ライナとセイナ、あの子たちシリスのこと慕ってるし』

セレナの一言に俺は『あー』と空を見上げた。空には相変わらずキラキラと満点の星空が光っている。その様はこの聖夜を祝福しているようにも見えた

『シーちゃん昔から賑やかなの好きじゃないから、年末年始は静かにバーで飲みたいとか言ってたけど、あいつらを前にして、そんな言い訳は無駄だろうな。』

今頃連中の馬鹿騒ぎに巻き込まれている頃だろう。割と酒が入れば面倒な連中が多いので、酒が強いのもあり、保護者連合として、名指しされたのだった

『ふふ、そうね。本当に丸くなったわね。貴方もシリスも』

微笑むセレナに俺は少しだけ頬に熱が入るのを感じた

『あー、うん。そうね。』

『顔赤いわよ。』

誰のせいだと思ってるのだろうかこの娘は。

そんなことを考えていると、いつの間にか辿り着いた家の門の前。

あの戦いの後も、このジルファーンの家にはお世話になっている。

子供二人はそろそろお年頃だし、仕事も順風満帆なのだが、夫妻の計らいでそのまま実家として使わせてもらっている。

勿論、マイホームだってあるから生活には困っていない。
しかし、この年末年始だけは俺とセレナ、そして双子と一緒に里帰りさせてもらい、年末年始は一緒に過ごしているのだ

『お義母様のクリスマスケーキ、楽しみだわ。ライナが一緒に作ったから楽しみにしててね、って言ってた』

『そうだなぁ。お前に似て、最近ライナもますます腕上げてるからな。』

ローズもこの日のために、一ヶ月も前からクリスマスメニューのレシピを考えていた。仲間たちに絶賛されたビーフシチューも楽しみである

門を開いて、玄関のドアを開いた

『ただいま〜』

『ただいま戻りました。』

二人同時に同じ事を言って。苦笑した

玄関を開けた途端、ふわりと鼻腔を擽ったのは芳醇なデミグラスソースと野菜の薫りだった。ローズのビーフシチューだ。

『おかえりなさい二人とも。寒かったでしょう?ありがとうね、二人のクリスマスプレゼント取りに行ってくれて』

まず出迎えてくれたのは叔母のシルヴィアだった。

『これぐらいお安い御用だって。元々俺とセレナも二人にクリスマスプレゼント取りに行ってたし。……二人は?』

『ふふ。ライナはローズの手伝いをしてくれてるわ。セイナの方はスフェンとツリーの飾り付けをしてるの』

愛しい双子の健気な姿を聞いて、俺とセレナは何かこみ上げて来るものを感じた

そういえば玄関の隅に、複数のプレゼントが置いてあった

『このプレゼントの山……さてはアイツらだな。』

色とりどりに包まれたプレゼントを見て、俺は頭を抱えた

毎年のことなのだが、そろそろ倉庫を増やさないと入り切らないかもしれない

『うふふ、そうなのよ。ライナとセイナにって。せっかく用意してくれた上に、遠路遥々ここまで来てくれたみんなだから、断れなくて。貴方たちにもあるのよ。部屋に置いておいたから後で見てあげなさいね』

シルヴィアの言葉に俺とセレナは苦笑した

まぁこちらもあの戦いで出逢ったヤツらには新年の挨拶やら、バレンタインやら、ホワイトデーのお返し、そして今回のようにクリスマスのプレゼントやらを送っているので人のことは言えないのだが

『今年は何かしらね。昨年はお揃いの写真立てとか、生活用品のセットとかだったわね』

洗剤などの生活用品は大いに助かるのだが、これは正月明けにマイホームに帰ったら開封作業が大変だな。と思った

『さぁてねぇ。毎年選ぶのも大変だろうにな。』

『でも、選ぶのは楽しいわ。貴方もでしょ?』

セレナにそう言われて、俺はもう何も返せなかった

そのまま手洗いなどを済ませ、リビングへと向かった


『あっ!お父さん、お母さん!おかえりなさい!』

一番に気づいたのはセイナだった。
茶色の俺譲りの癖のある髪をぴょこんと揺らしてセイナは微笑んだ

『ただいま我が娘よ。お。今年もいい感じに仕上がってるなぁ。ツリー』

我が娘、と言う言葉にセイナは一瞬苦笑しながらも

『えへへそうでしょ!スフェンおじさんと頑張った!』

えっへんと胸を張る姿も愛しく見える。親バカだという事はわかってる。自覚してる。この間もシリスに言われた。悪いか親バカで

『昨年よりも飾り付けがカラフルね。マスコットもたくさん。増えたね』

青い髪を押さえながら、セレナは母親の笑顔を浮かべた

ツリーには某幸せの名前の青い猫と、黒い猫、そして毒舌な白い猫を模したマスコット、とある世界の固有種の語尾が『ですの』とつく子、旅に赴く某犬士などなどがクリスマスのサンタクロースの衣装を着たオーナメントが飾り付けられていた

全て裁縫が得意な叔母の手作りである。

クオリティが毎年上がっているシルヴィア叔母さんの腕には毎回驚かされている。そのうち巨大なぬいぐるみも出来そうである。

『うん!シルヴィアさんにお願いした。』

まじまじとツリーに飾り付けられたマスコットたちと見ていると、1つだけ不恰好な出来栄えのオーナメントがあった

『ん?このオーナメント』

そっとそのオーナメントに触れると、セイナが慌ててそのオーナメントだけを隠した。

『み、みちゃだめ!こ、これは失敗!』

かなり顔を真っ赤にしながら抗議してくる娘に首を傾げた

『あ。そのオーナメント、お母さんとお父さんだよ。セイナがシルヴィア叔母さんに教わりながら作ってた』

突然響いた声に、セイナは更に慌てた

声が聴こえた先には、キッチンミトンをつけ、大きめのグラタン用の耐熱皿に焼きたてのミートパイを持ったライナだった

『お兄ちゃぁぁあぁあぁあぁん!!!何で言っちゃうのーーーー!!?失敗したから飾らないでって言ったのに!!!』

これでもかと言うぐらい、セイナは顔を真っ赤にしていた。そんなライナはドカリと中央に敷いてあったランチョンマットの上にミートパイを置いた。

『飾ったの僕じゃないって。スフェンさんだよ』

それを聞いて、義兄のスフェンは何故か肩をびく付かせていた。恥ずかしそうにポカポカと俺の義兄の背中をその小さな拳で叩いていると  

『い、痛いぞセイナちゃん!!ごめん!でも勿体ないじゃないか!』

可愛らしいセイナにスフェンがギブアップの意を示した。

娘があまりにも可愛すぎる。

『兄貴またセイナちゃんに悶えてんのかよ。マジ親バカすぎだろ。スフェンにぃも似たようなものだけどさ。』

フレオも捕まえれたので、強制的に来てもらった。フレオの手には、子供用の飲み物があった。無論、ライナとセイナ用の飲み物である。

『フレオは相変わらず俺に厳しいな?』

更にはワインクーラーでよく冷えたシャンパンとロゼワインを持って、横切ったローズにも『邪魔』と言われたが気にしないでおく。

『…ふふ。ありがとうセイナ。とってもよく出来てるわ。』

ポカポカ叩いている後ろからセイナを抱き寄せたセレナを少しの間見つめると、しおしおと大人しくなった

『あ、えっと。へへ。ありがとうお母さん』

ぎこちない笑顔だが、セイナも嬉しそうだ

『帰ったぞ。お。早速いい匂いがしているな』

救護院の勤めから帰ってきた叔父のフリットの声が玄関のドアが閉められた音ののちにした

『貴方、おかえりなさい。あら、これは?』

すぐにシルヴィア叔母さんが玄関に走り、フリットの鞄を受け取ると片手に箱を抱えていたのに気付く

『救護院と孤児院からショートケーキのお裾分けをな。セイナとライナが好きなフルーツタルトもあるぞ〜。』

フルーツタルトという単語に、セイナとライナの瞳が輝いた。

そのあとに『やったーーー!!』と、声が聴こえた。

『よし、ビーフシチューもオッケーね。あとは昼間に準備していたポテトサラダとマカロニサラダ他前菜に………昨日から仕込んでいたマリネも数種も味が馴染んでる頃ね』

ビーフシチューの味見をしながらローズも笑顔だ。

『ローズねえちゃん、何か手伝うよ』

キッチンに戻っていたローズにフレオは声をかけた

『なら、食器とグラスをセッティングしてもらえる?』

それを聞いてフレオはピカピカに磨かれていた食器とグラスに目をやった

『了解〜。』

そのままフレオはテーブルに取皿とグラスを置いていく。子供たちには勿論ジュース用のだが


一通り料理と飲み物も並べ終わり、叔父がもらってきたショートケーキもセレナと皿に並べる。


ミートパイとグラタンの横にあるサラダには、サンタクロースとトナカイの型に抜かれた野菜やチーズが散りばめられとても可愛らしい。

毎年この飾り付けが楽しみなのだ。ライナもローズも日々料理の腕を上げている。

最近は映えるカットフルーツの作り方を勉強中らしい。こういうのが得意な連中などに教えて貰っているとか

少し薄暗くした室内。テーブルにあるキャンドルにライが火を灯せば

『美味しそう……記念に撮影しとこ』

キャンドルに照らされ、テーブルに並べられた数々のクリスマスメニューをセイナとライナはカメラ型の道具に納めた

『写真撮れた?』

ローズが二人に聴くと、双子はバッチリだよ!と微笑んだ。学校の友達に見せると言っていた

『冷めないうちに頂きましょう。セイナ、ライナ、いただきますの挨拶お願いね』

セレナが二人が席につくのを確認して微笑むと、ライナとセイナは『はい!』と元気よく返事をした


『手と手を合わせて』
『いただきます!』

二人のいただきますの挨拶ののち、全員揃っていただきますをする。これはフレオやローズにも言い聞かせていることなので、二人にもしっかりと憶えてもらっている。

『ははは。ライナとセイナはしっかりしているな。……みんな、メリークリスマス。』

フリットの穏やかな挨拶に全員が釣られて同じことを唱和した


『あっ!雪だ!』

ふと外に目をやったライナが言った

『おお。ホワイトクリスマスじゃん。何かめでたいなぁ』

ライもワイングラスを片手にシャンパンを口にした。

辛口のシャンパン。クリスマスには毎年このシャンパンを頂いている。程よいキレの中に甘さもありお気に入りの味である。セレナもロゼワインを口にする。『美味しい』と口元に笑みを浮かべた

今日はフレオが好きなメニューも並んでいる。普段は素っ気ない実弟も、ローズと叔母の料理は大好物だ。うまい!と幸せそうな顔をしているのを俺は見逃さなかった

そんな愛しい家族たちを見つめて【この幸せな時間がいつまでも続けばいい】と、俺は柄にもなく思っていた

★Happy Mery Christmas★
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