第26章

ルーシィは沙羅の意外な言葉に目を見開いた

『……お話聞かせてもらえますか?』

ルーシィの言葉に、沙羅と明妃、シュテルンは一呼吸おいたあとに話し始めた

『ルーシィ、お主がシュテルンと契約したのは何故じゃ?』

師の質問に、ルーシィはまっすぐに彼女を見つめた

━━━皆の力になりたかったから

とか在り来りの答えでは駄目だと直感で思った

買い出しを終えて、リルハとロキは三日月浜に降りる坂を下っている

『ありがとうね、お嬢。今日の食事当番は誰だっけ?』 
『今日の夕ご飯の担当はシェリアさんたちだよ。シェリアさんが作るご飯、美味しいからつい食べ過ぎちゃうんだよね〜』

そんなリルハを見ながら、砂浜に近づいてきたところで、リルハがルーシィに声をかけようとしたところを、ロキはリルハの前に自身の腕を止めることで、マスターの動きを制した。

リルハは一瞬、頭にクエッションマークを浮かべたあと、砂浜に視線を向ける。

そこにいたのは自身の師匠のルーシィと、最近知り合った明妃と沙羅、最近仲良くなったばかりのシュテルンだった

ルーシィが読んでいた本の中にあった名前を持つ、龍神の三人だ。

ルーシィはリルハに星霊を継承してからは、エトワールフルーグと体術だけで数々の仕事を熟してきた

彼女が望むなら、星霊たちは今でも力を惜しむことなく貸している

もう随分前、リルハが生まれる前の話である

本来星霊魔導師は、召喚士のため本体はそこまで強くはない。

近接戦闘に持ち込まれると、普段から鍛錬している戦士や近接系魔導師には圧倒的不利になる

そこでマカロフから解散命令がくだされたのち、ルーシィは記者の仕事を職に持ちつつ、更に散り散りになってしまった仲間たちをさがす傍ら、星霊依という戦闘スタイルを手に入れた。

星霊依は星霊門を開き、黄道十二門の星霊を呼び出すことで、彼らの能力を貸してもらうという魔法のドレスである

エルザの換装魔法をヒントに考案したものだ

当然、星霊の鍵がないとドレスは発動しない。

リルハにこの力を渡すということは、ルーシィの保身が約束できないということになる

当時、自分たち星霊もルーシィを信じられない訳ではないし、彼女が決めたことならと納得はした

ルーシィからは、リルハには基本的に星霊魔導師は召喚士なので、無茶はしないようにと釘を差した。
それに関して、リルハはグレイの造形魔法と、ジュビアの水魔法でその弱点はカバーすることを思いつき、二人に指導を賜ったのだ

逆にルーシィは新しいバトルスタイルを確立するため、得意の鞭の腕を磨き続けた。多分、ルーシィに撃ち落とせない物はもうないと思っている

百発百中の鞭で敵の動きを止め、ナツたちがその標的に対して必中必倒の一撃を与える

チームプレイが物を言う魔導師同士の戦いでこれ以上完璧な必勝法はないと思った

ロキ的には、目の前の前のオーナーだった娘が戦うたびに彼女の肉や骨が砕ける様を見ているのは、何とも度し難いものがあったのも事実だ

ルーシィにこのことを言ったら多分怒られるだろうが

━━━あたしだって、妖精の尻尾の魔導師なのよ。

彼女は怪我をするたびにそう言って、気丈に振る舞った。

だがロキもナツも、知っていた。彼女が怪我をして動けなくなり、ベッドの上で燻っていたことを

しかし、この天変地異が起きた先の世界で再会したルーシィは、周りの仲間たちとグレイ、ジュビア、リルハのフォローのおかげで元気にしていたのをみて、ロキは本当の意味で安心したのだった。

更にガルデニアでの戦闘後にプランスールへと向かう旅先の途中のラジーン洞窟で、ルーシィが目の前に一緒にいるシュテルンと契約してしまうとは思わなかったが。

シュテルンの能力は、あまりにもルーシィとの相性が良すぎたのである。

前述の通りの能力を得たルーシィも、身一つで戦っていたときよりも、更に自信に満ちた表情をしていた。

元々、妖精の尻尾にいたときから鍛練は欠かさずしていたルーシィだから出来た芸当だと素直に思った。


『……あたしがシュテルンと契約した理由?』

『そうじゃ。知っての通り、妾たち龍神と呼ばれている者たちの能力は、危険な物でな。……ライのように最初から我らに協力してくれていた訳でもない。主がシュテルンの能力を悪用する気など、まったくないというのも理解しておる。それを承知の上で敢えて問うぞ。…………何故じゃ?』

潮風が細波を揺らす。ルーシィは一呼吸置いてゆっくり言の葉を紡ぐ

『何だか同じことを改めて言うのは恥ずかしいわね』
『よい。ゆっくりと聞かせておくれ』

沙羅は微笑みながら、優しく続きを促す

沙羅の声は、今までずっと張り詰めていた頑なな心をほぐして、丁度いい塩梅へと変えてくれるような声である

『あたしがシュテルンと契約したのは、確かにギルドの皆のため、というのはあるわ。リルハに星霊を継承したのも、確かにあたしの意思。後悔もしていない』 

夕日に照らされ、ルーシィの金色の髪が風に揺れる。

少し前までは、なかなか答えが見つからなかった。シュテルンと契約してからというもの、今日までずっと胸のうちに留めていたことを改めて口にする

『それでもやっぱり、あたしが何処にいたとしても妖精の尻尾の一員だということは変わらないし。一番に浮かぶのはやっぱりギルドの皆のことだったわ』

沙羅はルーシィを見つめる

『…ならば妾たちのためではない、と?』
『契約したばかりのあたしのままだったら、そう言うでしょうね。でも、今は違うの』

明妃もシュテルンも横で砂の城を作り始めている。

そんな二人に沙羅は呆れつつも、ルーシィへと視線を戻す。

それを確認したのちに、ルーシィは続ける

『…今は、心から貴女たちの力になりたいと思っているわ』

だからシュテルンとも一緒にいたいし、この力をこの旅で出逢った、貴女たちや仲間たちのために振るいたい。

そのためなら、どんな訓練も怠りたくない

ライみたいにうまくは出来ないけど、あたしにシュテルンがこの力を貸してくれるなら、それで助かる命が少しでも増えるなら

『あたしなりにこの力に向き合おうと思ったの』

そうルーシィは答えた。

手にした力には責任が伴う。その手にした力をどう使うか

強大な力は、扱い方によってはその者には毒にも薬にもなりうるのだ


『…なるほどな。友と認めた我らのためか。そのために戦う、と。』

『それが妖精の尻尾の流儀なのよ。仲間は絶対に見捨てない。……それに、ライが言ってたの。龍神の力を借りるためには、相互理解が一番だって。』

それは龍神の皆に対してもだし、星霊やこの旅で出逢った仲間たちに対してもそうなのである

『……他者を思う気持ちがあれば、きっと相手は応えてくれるって。なら、その気持ちに応えれるようになろうって。シュテルンが力を貸してくれるのなら、あたしも全力でそれに答えたい。━━━いいえ。答えるの』

強い眼差し。リョウと同じ瞳の色だ。

『……良い。充分じゃ。ならばこちらからもお願いしよう。我らに力を貸しておくれ。』


『はい!変わらぬご指導とご鞭撻のほど、よろしくお願いします!!』

ルーシィは深く頭を下げた。そんなルーシィにシュテルンは作っていた手を止め、その細腰に飛び込んだ

『るんるん、ありがとう!!……君を選んで良かった!!』

『……こちらこそ、力を貸してくれてありがとう。シュテルン。二人で頑張りましょう!』

『うん!!』

満面の笑みのシュテルンを見て、ルーシィたちも釣られて笑みがこぼれた。

そしてそんな仲間たちを見つめていた姿が二人

『……どうやら妖精の尻尾にまた一人家族が増えることになりそうだね』

ロキと

『…うん!!きっと、もっと、もーーーーっと楽しいギルドになるね!!』

リルハである

『…そうみたいだな。渡航先でもしっかりやってるようで何より』

突然響いた第三者の声にロキとリルハは反射的に身構えた

『あっ、君は……』

目の前にいる男はあまりにも見覚えのある人物であった。
特徴的な東雲色の髪に、銀のメッシュ。瞳の色は薄目の青の青年

『き、キルシュ兄ちゃん!!?』

そう。妖精の尻尾のもうひとりのエルザと並ぶ剣士のS級魔導士がそこにはいた。

『久しぶりだな、リルハ、ロキ。元気そうじゃん』

キルシュの悪戯っぽい笑顔に、リルハは開いた口が塞がらなかった

突然賑やかになり始めた先に視線を向けると、そこにはリルハとロキ、キルシュがいた

『リルハにロキ!?……今の聞かれちゃった!?………何かキルシュもいるし!!』

キルシュ・フローレット

ジェラール、エルザ、ギルダーツ、ラクサスに並ぶS級クラスの魔導師だ。

使う魔法は、エルザと同じく剣術タイプだが、キルシュが使うのは専ら剣だけである

エルザのように鎧を換装するタイプではなく、ベースの剣に属性のついたラクリマを嵌め込んで、剣術のスタイル自体を変える戦い方が得意な魔導師だ。

『……あーーー。ごめんねルーシィ。盗み聞きするつもりは無かったんだけど』

ロキの謝罪に苦笑しつつ、そういえばロキに買い出しを頼んでいたのだった

『散歩してたら、ロキと偶然逢って、お使いの手伝いしてたの!リチアも今はクンツァイトさんたちと一緒にワンダリデルでこれからの準備をしているみたいだから。』

そういえばリタとエステルがクンツァイトとリチア、ヒスイと一緒にレイミとローズが準備した弁当を持って、ワンダリデルまで昨日から足を運んでいると聞いていた

『そうだったのね。ロキ、リルハ、買い出しありがとう!シェリアが帰ってきたらご飯の準備しなくちゃね。ところでキルシュ、あんたがここに来たってことは……』

ルーシィはキルシュに視線を向けた。

『おう。久しぶりだなルーシィ。そ。例の頼まれごとの進捗。』

そういえばロキから、ルーシィが出る前にキルシュに頼み事をしていたとリルハも聞いていた

『そういえばキルシュ、ルーシィに調べてもらいたいことあるって頼まれてたんだっけ』

ロキの言葉に、キルシュは真面目な顔に戻った

『あぁ。ナツとエルザ、ウェンディの居場所がわかった。今回はその報告』

ルーシィは出かける前に、隣に部屋を間借りしているキルシュの部屋の郵便受けに手紙を入れていたのだ

自分に何かあったときに、ナツたちの居場所をそれとなく調べてほしいという旨の手紙だ。

剣咬の虎のゼノヴィアにも声をかけていたようである。

つい最近、ルーシィがマグノリアの郵便ポストに手紙を入れていたのをジュビアとグレイも目撃していたのでそれも知っていた。


『ほ、ホントに!?ナツさんたち見つかったの!?』

最初に反応したのはリルハである

『それで?彼らは今どこに?』

ロキの言葉にキルシュは答える

『惑星ディオネっていう惑星(ほし)にある、ブルームっていう村なんだけど』

『…ディオネって確か、ライたちが行こうとしてる惑星じゃ……』

ルーシィの答えにキルシュは瞠目したのち

『え?そうなん?いや、そのブルームに潜ってる二人がいてさ。その二人からナツ達を保護したって聞いて』

それを聞いて、ロキとルーシィ、リルハは顔を見合わせる

『この世界で全く情報が入らないから、どうしたものかと思っていたところだったけど……。ナツたちがそこにいるなら行くしかないわね。』

『そうだね。それは僕も賛成だ』

『パパとママが帰ってきたら、報告しないとだね。確か、魔物の討伐に出てて、今日の夜帰ってくるみたいだから』

『なら、ライが帰ってきたら聞いてみないとだな』

この前、一度ギルドに戻れないかとカルセドニーとベリルに聞いたところ、ライがいるなら、マグノリアに帰れたかもしれないが、タイミング悪く今はセレナとジルファと一緒に別の世界に行っていると聞かされたのだ

だが、キルシュが言うように、その情報の通りにディオネにナツたちがいるならば、話は別である。

ライと来葉は、エッジたちの艦でディオネへと向かうことが決まっている。

事情を話して、エッジたちに頼めばいいかもしれない。

『ねぇキルシュ、これからエッジ艦長とレイミ副艦長のところに行こうと思うんだけど、あんたも来てくれない?キルシュのこと紹介しておきたいし、時間あればだけど』

キルシュはS級魔導師なので、他の面々に比べて仕事量も多い。割と多忙なこともあるので、こうして逢えることも少ないのである。

『あぁ。今は、ナツたちの行方を探すのが最優先任務だからさ。最優先じゃなくても勝手にやるけど。同行を許して貰えないかオレも直談判するよ。』

キルシュは割と親しみやすい性格だし、パーティーにいれば、頼もしいことこの上ないのだ

『…ふふ。今日のメニューはこれで終わりじゃからな。いいのではないか?』

それを見守っていた沙羅が優しく微笑んだ

『ありがとうございました、師匠。明日もまたよろしくおねがいします!』


そんなこんなで、ルーシィたちは路地裏で白猫と戯れていた来葉を捕まえ、カルナスへと案内して貰うことになったのだ。

その白猫は、ルーシィたちを確認するとすぐに建物の影へと逃げてしまったが

来葉の肩には何故か小さいぬいぐるみが張り付いていた。

そのぬいぐるみは、何となく魔力めいたものを感じ

『…来葉、その肩のぬいぐるみはんなりとしててかわいいわね』

ルーシィは黙っていようと思ったがあまりのそのぬいぐるみの可愛さについ突っ込んでしまった

『あぁ、この子?この子は私のボディーガードみたいなものだよ。』

ボディーガードという単語を聞いて、ルーシィたちは首を傾げた

『…エッジくん、レイミちゃん!お客さんだよ!』


『ここに艦長たちがいるの?何も見えないけど』

リルハの疑問に来葉は説明する

『これはね、現地の住民たちを驚かせないように、停泊中は光学迷彩シールドを展開して外敵から艦を守るための措置なの。ほら、足元見てみて』

それを聞いて、足元に目をやると少しだけ階段めいたものが露出して見えた。

『階段?』

『うん!ほら、こっち』

来葉は躊躇いなくその階段の先へと足を踏み入れれば、来葉の姿が忽然と消えてしまった

『!!消えた!?』

ルーシィたちが目を丸くしていると、階段の先から来葉の声が聞こえる

『大丈夫だよ〜。ほら、エッジくんたちに用事があるんでしょう?』

そんなこともありながら、ルーシィたちは階段の先へと足を運ぶ。

すると続く階段の上に、何やら入口のようなものが見え、そこにあったのは例の輸送艦だった。

来葉はその階段の一番上でルーシィたちを待ちながら、ロックのかかったID認識システムにカードキーを手慣れた様子でスライドした。

機械音とともに、ロックが解除されて来葉は中に待機しているであろう二人に声をかける

『エッジくん、レイミちゃん!お客様だよ〜!!』

しばらくして出てきたのは、やや赤紫がかったピンクのロングヘアーとエルフ耳、そして露出度高めの服装が特徴の女性だった

露わとなっている腕や腹、腿からは紋章術を使うために刻まれた紋章が確認できる。

『あら来葉。おかえりなさい。』

優しく微笑むその姿は、一言で言うなれば美しいの一言だった。急に出てきた赤髪の美女に呆気にとられながらルーシィとリルハ、キルシュは女性を見る

ロキは何故か髪型を直していたが。

『あ!ミュリアちゃん。お疲れ様。ただいま!』

ミュリアと呼ばれた赤髪の女性は、来葉にお疲れ様、と返した

親しげに話す来葉と彼女を見て、キルシュを押し退けてロキが前に出ると

『やぁ、はじめまして美しいお嬢さん。お名前は?』

何処からともなく一輪の薔薇の花を取り出し、ミュリアにロキは差し出した

『…あら、ありがとう。でもごめんなさい。一応これでも既婚者なのよ』

既婚者、と聴いていつものように撃沈したロキを見て、ルーシィは頭を抱え、リルハは面白くなさそうにブスッとしていたのをキルシュは見逃さなかった

『…ミュリア?お客さん?……あぁ、君たちか。いらっしゃい。』

優しく微笑む金髪のこの【輸送艦カルナス】の艦長、エッジ・マーベリックと副艦長のレイミ・サイオンジは快くルーシィたちを出迎えてくれた。

『こんにちは。マーベリック艦長。いきなりお邪魔してごめんなさい。あと、うちのロキがいきなり申し訳無いです』

何故かルーシィが謝っているのをキルシュが苦笑しながら見守っているのを後ろに、来葉も笑顔だ。

そしてリルハはエッジのことを見つめていた。何となくエッジとロキの声質が似ている気がしたからだ。

エステルと出逢ったときもそうだったし、シングと話していた時もだ。

異世界渡りをするようになってからというもの、そういったことが増えた気がする

世の中には似た人間が複数人いると聞いたが、こうも続くと何やら不思議な縁を感じざるを得ないのである

『紹介が遅れたわね。私はミュリア・ティオニセス。このカルナスの乗組員の一人よ。よろしくね。可愛いお嬢ちゃん方に可愛い坊やたち』

クスリと微笑みながら、ミュリアはそう自己紹介した

『よ、よろしくお願いします、ミュリアさん!』

ハッと我に返り、リルハは頭を下げた。

『あ、レイミ!差し入れのブルーベリィパイありがとう!とても美味しかったわ!』

ルーシィのお礼に、いいんだよ、と、レイミは答えると

『今お茶を準備するわね。そこに休憩スペースがあるから適当に座って待ってて』

『手伝うわよ、お嬢ちゃん。』

そう言って、レイミとミュリアは奥の給湯室へと足を運んだ。

視線を正面にずらすと、奥に円卓テーブルと椅子があり、エッジに促されながらルーシィたちはそのテーブルについた 

テーブルについたあと、気になっていたことをキルシュが来葉に聞いてきた

『そのぬいぐるみ、ずっと来葉さんの肩から離れないな。縫い付けてるん?』

キルシュが見ていたのは、来葉の肩に落ちることなく引っ付いている、例のはんなりとしたぬいぐるみである

そのぬいぐるみは、なぜか布を被っていて顔がよく見えないのだが妙に見ていたら落ち着く気配を纏っていた


『あぁ、彼?ぬいぐるみって言っても普通に動くし、神さまの【神力】が込められているんだ。』


『………………………』

布を被ったそのぬいぐるみは、来葉の肩でただ黙して彼らの様子を伺っていた。

まるで品定めをされているかのような視線に、ルーシィたちは何だかむず痒い感覚を覚える

『今日は初めて逢う人がいっぱいだから、シャイモード発動してるみたいだけどね』

エッジが椅子を引いて向かい側に座りながら言う

『……!!?』

エッジの一言が図星だったのか、その布を被ったぬいぐるみは更に布を深く被り、完全に丸まってしまった。

何だか丸餅を見ているようで可愛らしいなと素直に思う

『そっかぁ。何かごめんなさいね。』

ルーシィは布をかぶったぬいぐるみに申し訳無さそうに言った

『それにしても神様の神力って?魔力とは違うのかい?』

何とか立ち直ったロキに問われ、来葉は少し考えた後にこう答えた

『私ね、故あって今回みたいな歴史を揺るがすような有事が起きた際に対処する仕事についてるんだ。このぬいくんは私の式神みたいな子なの。』

【神力】というものは文字通り、神仏などが発する【気】のことだ

祈りを捧げた者に加護を齎すこともあるらしい。

そして他にも白猫と梟の式神もいるというのだ

今度紹介してくれるようだ。

『ところで、今日はどうしたの?』

エッジの質問に、今度はキルシュとルーシィが答える

『あの、実は……』

ルーシィは事の次第を話し始めた

◆◇◆◇◆◇

『なるほどね。ディオネに君たちの仲間が漂流しているのか……』

準備されたコーヒーと紅茶と一緒に、切り分けられたホワイトチョコがかけられたオレンジケーキをレイミがカットしているのを見ながらエッジは相槌を打った

ルーシィは紅茶、リルハは蜂蜜入りのミルクティー、キルシュはブラックコーヒーだ

『…はい。それで、私達にはこのような巨大な船艦みたいなものはないので、ディオネに行く足がなくて。』

ライもディオネという惑星には行ったことがないとそういえば言っていたなとエッジは思い出した

『ディオネに仲間がいるんだもん。助けに行きたいわよね』


『ええ。貴女たちの大切な人がいるんでしょう?』  

レイミとミュリアの言葉に、ルーシィたちは頷いた   

『…そうだね。そのための設備はしっかりつけてるし。』

『…それじゃあ!』

エッジの言葉に、ルーシィたちは顔を上げた

『その申し出、受けさせてもらうよ。』

エッジのOKをもらえたところで来葉が付け足す

『ブルームなら私の同業者も滞在している村だから、わたしもキルシュくんも案内出来ると思うよ。』

『…と、なると長距離移動になるわね。貴方たちは初めての長距離宇宙旅行になるから慣れないこともあるだろうけど、その辺りは私達がサポートするわ』

ミュリアだ。

『あぁ。客室に使えそうなスペースはしっかりあるから、あとはベッドとか寝具の準備かな?』

それを聞いて、ルーシィたちはあたふたと両手を顔の前で振った

『いえ!そこまで気を使わないでください!床でも倉庫でも、どこでも寝るので!リルハの分だけベッドがあれば』

ルーシィの一言に、リルハは私も床で!と、言ったがリルハやルーシィのような年の娘に床で寝させるわけにはいかないと、ミュリアもレイミもエッジも思った

『だめよ、女の子が床なんて。身体が冷えてしまうわ』

と、ピシャリとミュリアに言われたので、寝具などはライに頼めばなんとかなるだろうということで落ち着いた

『僕は移動中は星霊界に戻るから、何かあれば出てくるよ。…お嬢やルーシィにベッドを用意してあげてくれるかい?』

ロキはそれでいいらしい

案内人のキルシュは同行するとして、あとの残りはロリセたちと、リタ、エステル、エルリィである。

八雲とミレイシアは現地集合となり、先行してディオネへと哨戒に回ることになったようだ。

ディオネを治めている騎士団の盟主には、イスリーとウィズ、仲間のリザとリュディ、来葉の部下たちが先にコンタクトを取って、色々と準備をしてくれているとのことだ

彼女たちによれば、ディオネでの通行許可証はすぐにでも人数分準備はできるが、リタの研究のために必要な国の文献の閲覧許可にはまだ時間が掛かりそうだと、今朝がた来葉の端末に連絡が入ったのだ

『ロリセちゃんたちはどうするのかな。』

リルハがふと彼女たちの名前を口にする

ロリセも本来の目的であったリルとクレイドとの再会も果たせたことだし、もう付き合ってもらう理由はなくなってしまったからだ

『…それはもう、彼女たち次第、というところかしら。とにかく、ライたちが帰ってくるまでまだ時間はあるから。』

ミュリアの言葉に、寂しさと不安を感じるが、同行か否かはそれまでに決めて貰えばいいだけの話である

『そういえば、ライも別の世界に行って、今はいないのよね。』

ルーシィの質問に、来葉は頷き

『うん。色々な世界に卸せる品物があるかどうかを見に行ったの。復興支援的な。』

商人としてより、その強さと立場ゆえ、パライバの麾下である傭兵のようなポジションなので忘れがちだが、ライの本職は商人である。

プランスールの瓦礫は仲間たちや結晶騎士団、パライバが遣わした帝国軍の者たちの派遣でほぼ片付き、無一文で流れ着いて生活に困っていた異世界の建築家や、漂流者を含めた原界の建築家や大工業を生業としている者たちにより、新たな住居などを順次建築中だ。

パライバの計らいにより、原界各地の街や村などの住居や、宿の一部を無料解放したりと、そこから来てくれる建築家や大工たちが発する金槌を打つ音や地ならしの音が今日も響いている。

襲撃から数ヶ月でここまで資金が集まったのは、教会とパライバは勿論のこと、更にはエフィネアのバロニア王国のリチャード、ラント家、ストラタの大統領、フェンデル、テルカ・リュミレースの皇帝のヨーデルや、とある皇族が住まう世界からや、ギルドユニオンからフレンの働きかけで惜しみなく資金援助があったのと、仕事と奏して魔物退治で得た資金を寄付してくれた傭兵団や、冒険者たちのおかげである 

『そういえばディオネに行くに当たって注意事項とかはある?』

リルハの質問に来葉は口元に指を添えて考える素振りを見せる

『…得にはないけど、ディオネには、神聖帝國騎士団の他にも、時間遡行軍っていう怖い人?たちがいるから気をつけてね。』

まぁ私の部下や同業者がもう殺っちゃってる可能性もあるけどね。と来葉は言った

『来葉って、見た目とは裏腹に割と強かよねぇ』

と、ルーシィは紅茶を飲みながら苦笑する。

それに関しては、まぁ血が血なので、とだけ言われたのであった
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