第1章
古代の技術で生み出された魔導器(ブラスティア)の恩恵を受ける世界テルカ・リュミレース。人々は、魔導器の力によって街に結界を張り、魔物に脅かされることのない平和な日々を送っていた
……のは、一昔前の話であり、今は魔導器の恩恵はなく、結界もない。しかし帝都ザーフィアスという場所には、帝国騎士団というものが存在しており、魔物たちは彼らが退治し、街の住人たちの安全を確保していた
そのザーフィアスの市民街にある武具屋では、若い青年と店主である男がカウンターを挟んでなにやら話をしていた
『だからさ旦那!この値段でどうにかならない?』
『ふざけてんのかお前は。いくらあの人のとこの奴でもそれじゃあこっちが赤字だろうが!』
『……ぐぬぬ……』
片方は茶髪の長い髪を後ろで結った黒のコートを身に纏ったまだ20代半ばの青年。容姿端麗で、その美貌に町ゆく人間は一度は見惚れるであろう容姿をしていた
カウンターの向こうにいる男は、こちらはガタイがずいぶん立派であり、いかにも鍛冶師然とした男
年のころは五十近くといったところだ
なにやら商談をしているようであった
『…やっぱりダメだよな…わかった!言い値で頼む!』
『毎度ありー。』
先に折れたのはやはり青年の方で、商談はカウンター向こうの男に軍配が上がったようだ
『ちぇ……やっぱりガウスさんには勝てねーなぁ……』
ガウスと呼ばれた男は、当たり前だと一言口にした
『ライよぉ、次来る時はあのねーちゃんに直談判するよう掛け合って出直して来やがれ』
ライ、と呼ばれた方は罰の悪そうな顔をしながら頭をがしがしと掻いた
『そんなことしたら俺があの人に殺されるっての……』
まぁスパルタのあの女性のことだ。こっちの言うことには耳もくれないだろうとライは予想が簡単についたが。
『あはは!ライ、うちのお父さんに商談に勝とうなんてまだ無理だってば!』
『…そうだよライさん。お父さんはすーーっごく頑固なんだから!』
ライとガウスの他に、二人女の子の声が響いた。
ガウスの愛娘のエルリィと、妹のマルリア姉妹だ。
『……よぅ、エルリィ、マルリア。いやー。完敗だわ……』
そう
ライことライフェン・ジルファーンは放浪している旅商人である。
出身はザーフィアスではないが、その道では名の知れた商人でもある
しかし、彼が唯一商売で勝てない人物がこの男、ガウス・シザードである
彼は現役のギルド【魂の鉄槌(スミス・ザ・ソウル)】のNo.2であり、五大ギルドの重鎮である。
今日はそんな彼に武器の買い取りをしてもらうためにこのザーフィアスの武具屋、シザードに足を運んでいたが。
結果はご存じの通り、惨敗である
『まぁまぁ、商談はそれぐらいにしてお茶の準備ができましたよ。』
もうひとつ柔らかい声がひびいた
ガウスの妻のエミリア
彼女は元ギルド【魔狩りの剣】の先代ボスであった。現役バリバリの頃は【魔狩りの女帝】と各所から恐れ……いや、尊敬されていた人だ。
現ボスのクリントを赤子の手をひねるかの如く伸したことも何度もあったので、彼が亡きドン・ホワイトホース以外に唯一頭の上がらない存在でもある。
それ故に、彼女の娘であるエルリィとマルリア姉妹を気にかけてくれている。
そしてこの夫妻、知る人ぞ知るおしどり夫婦でありザーフィアスの城下で知らない人間はいないとされている仲睦まじい夫婦である。
そんなこんなでガウスと商談を展開していたおかげで、気付けばもう午後3時を回っていた
『もうこんな時間かよ………』
自分でも思うが、よく粘ったものだが彼がこのい丈夫に勝てる日は当分来ないだろうと素直に思った
しばらく談笑をしていたが、ふとライは店の外に見える見回りをしている騎士団員に目がいった
するとエルリィがそんなライに気づいたのか
『最近また警備が厳重になったんだよねぇ』
なるほど熱心なことだとは思ったが、ただの見回りにしてはしっかり武装している
『いくら結界がなくなったからって、こう四六時中見回りなんざされていると、なんだかなー………』
マルリアがエミリアお手製のチョコレートマフィンをつつきながらぼやいた。
『ま、確かにな……』
ライは淹れてもらった紅茶を一口啜る
『けっ、魔物が怖くて商売なんざできるかってんだ。』
ガウスの言うことはもっともだ
ライ自身も売り物にする商売道具を自ら採取することも多く、魔物との戦いは避けられないので慣れてしまえば慣れてしまったと言ってしまえるが、人々の安全を確保するための街中を白昼堂々鎧姿で歩かれると、逆に不安を煽りかねないように思える
騎士団長の彼が配慮できてないはずがないだろうし、ライは思わず眉を潜めた
夕方になるぐらいに、ガウスの店にまた一人客が見えた
小気味いい呼び鈴ののち、顔を見せたのは黒い短髪に眼鏡のエルリィと同い年ぐらいの中性的な顔立ちだった
『ガウスさん…こんにちは~…今日はちょっと用事で……………』
すると間髪入れずに、ものすごい音が店中に響き渡った
もはや見慣れた光景に、ライは飽きれ半分でその存在を見やる
ガウスがその生物学上では女性である客に拳骨を入れていたのだった。
彼女は見事に床にめり込んでいたが
しばらく長い沈黙ののち、彼女はよろりと立ち上がった
ガウスの一撃を食らって平気な人間など、世界、いや、宇宙広しといえど一人しか思いあたらなかったが
『あら?珍しいお客さんね?』それを後ろで見ていたエルリィと、エミリア、マルリアも顔を見せた
『おー。ガキんちょが。いっちょまえに帝国の騎士団の隊長なんざやりやがって』
『毎度思うけど…これは拳骨じゃなく……爆砕拳じゃないかと思う………』
爆砕拳…爆砕陣の拳バージョンである
ごもっともである。
すると彼女は、ライの姿を見つけるなり、ぱっと目を輝かせた
『あ!ライもいたんだ!久しぶりだね!』
『よー、リョウ。久しぶり。ちょっとガウスさんとの商談でな。まぁ惨敗だったが』
『にゃはは!そりゃそうでしょ!』
笑うリョウと呼ばれた女性は、ライがこのザーフィアスで出逢った人物だった。
打ち解けるのにそう時間はかからなかったものの、初対面時はリタに魔導器泥棒と勘違いされ、ファイアーボールをもらったりもしたが。
ザーフィアスに来ると決まってリョウたちとはつるんでいるようになった
『んで?今日は一体なんの用事だ?』
ガウスがリョウに問いかけるとリョウは頭を何回か掻いて苦笑した
『いやぁ………ガウスさんに何度か打ってもらってて…ツケてもらってるから、貯めてたお金をごっそり持ってきた…今回打ってもらう分も』
するとリョウは懐から財布を取りだしカウンターに置いた
ガウスはその財布を一瞥したのち、軽く溜め息をついた
『てめぇやっと払いに来やがったか』
横にある帳簿を開き、ガウスは財布の中身と帳簿を確認し始めた
『ナハハハ、安い給料貯めてようやく返せる額が溜まったもんですから』
ガウスはリョウの言い分を聞いて、眉間にシワを寄せた
『安い給料ってな。帝国の騎士様なんざ儲け放題だろうが。………………多いな。また打つのか?』
『はい…忙しすぎて近頃来れてなかったので、剣がボロボロなんで………
うちの隊は経費がないんで僕のポケットマネーからだしているから超安月給なんですよ』
ポケットマネーとはまたあの騎士団長は酷いことをするもんだと、ライは頭を抱えた。受け取ったリョウの剣を抜いてみて、ガウスはさらに眉間のシワを深くした
『ったく。ひでぇな刃こぼれ……………こんなんでよく魔物なんざ今まで切れたな………。』
『自分でも不思議なくらいですよ』
『全く、てめぇはあっさりと……』
そういえば、ライもその騎士団長から剣の修理を依頼されていた
元々商談ついでに工房を借りようとしていたのだ
ガウスの工房にはいい素材が揃っている。なので、ライはよくガウスの工房を使わせてもらっている
自分の工房もあるにはあるが、それは別の宇宙圏にある惑星【原界-セルランド-】にある。
転送術式を使えば一発で帰れるが、いかんせん距離が離れすぎているせいで思念力を大量に消費するのだ。
修理のためにわざわざ思念力を使って自分の工房に帰るのは出来るだけ避けたかったので、ガウスに無理をいって貸してもらっている
『ライ、てめぇもあの頭の硬い騎士団長様の剣を修理すんだろ。手伝いは……てめぇはいらねぇか』
『話早くて助かるっす………』
ガウスのいう頭の硬い騎士団長もといフレン・シーフォは、早く直してやらないと武器なしで魔物に飛び込んでいきそうな気がしないでもないので、ライは早々に奥の工房に引っ込んだのだった
『ったく、しょうがねぇやつだな!手入れもろくにしねーからそうなんだよ!!ダァホ!!』
本日2発目の拳骨、もとい爆砕拳がリョウに降り注ぐ。
またしてもリョウは床にめり込んでいた
『あなた、もうそれぐらいでいいんじゃない?』
妻のエミリアにも言われ、ガウスは仕方なく拳を下ろした
『1日2発は堪える……よ…』
そう最後に言い残し、リョウの意識は闇に沈んでいった
そんな光景を背後に聞きながら、ライは騎士団長から依頼された剣の修理を開始したのだった
こうしてザーフィアスのシザードの武具店の1日はつつがなく過ぎていった
しかしこの時からすでに運命の歯車は噛み合わなくなっていたのかもしれない
ほんとに些細なことが引き金になり、この戦いは幕を開けることになる
辛く、長く、遥か先の未来までをも巻き込んだ戦いの火蓋は切って落とされようとしていた
出逢うはずのない世界と世界が交錯し、交わるその瞬間はすぐ近くまで迫ってきていた
……のは、一昔前の話であり、今は魔導器の恩恵はなく、結界もない。しかし帝都ザーフィアスという場所には、帝国騎士団というものが存在しており、魔物たちは彼らが退治し、街の住人たちの安全を確保していた
そのザーフィアスの市民街にある武具屋では、若い青年と店主である男がカウンターを挟んでなにやら話をしていた
『だからさ旦那!この値段でどうにかならない?』
『ふざけてんのかお前は。いくらあの人のとこの奴でもそれじゃあこっちが赤字だろうが!』
『……ぐぬぬ……』
片方は茶髪の長い髪を後ろで結った黒のコートを身に纏ったまだ20代半ばの青年。容姿端麗で、その美貌に町ゆく人間は一度は見惚れるであろう容姿をしていた
カウンターの向こうにいる男は、こちらはガタイがずいぶん立派であり、いかにも鍛冶師然とした男
年のころは五十近くといったところだ
なにやら商談をしているようであった
『…やっぱりダメだよな…わかった!言い値で頼む!』
『毎度ありー。』
先に折れたのはやはり青年の方で、商談はカウンター向こうの男に軍配が上がったようだ
『ちぇ……やっぱりガウスさんには勝てねーなぁ……』
ガウスと呼ばれた男は、当たり前だと一言口にした
『ライよぉ、次来る時はあのねーちゃんに直談判するよう掛け合って出直して来やがれ』
ライ、と呼ばれた方は罰の悪そうな顔をしながら頭をがしがしと掻いた
『そんなことしたら俺があの人に殺されるっての……』
まぁスパルタのあの女性のことだ。こっちの言うことには耳もくれないだろうとライは予想が簡単についたが。
『あはは!ライ、うちのお父さんに商談に勝とうなんてまだ無理だってば!』
『…そうだよライさん。お父さんはすーーっごく頑固なんだから!』
ライとガウスの他に、二人女の子の声が響いた。
ガウスの愛娘のエルリィと、妹のマルリア姉妹だ。
『……よぅ、エルリィ、マルリア。いやー。完敗だわ……』
そう
ライことライフェン・ジルファーンは放浪している旅商人である。
出身はザーフィアスではないが、その道では名の知れた商人でもある
しかし、彼が唯一商売で勝てない人物がこの男、ガウス・シザードである
彼は現役のギルド【魂の鉄槌(スミス・ザ・ソウル)】のNo.2であり、五大ギルドの重鎮である。
今日はそんな彼に武器の買い取りをしてもらうためにこのザーフィアスの武具屋、シザードに足を運んでいたが。
結果はご存じの通り、惨敗である
『まぁまぁ、商談はそれぐらいにしてお茶の準備ができましたよ。』
もうひとつ柔らかい声がひびいた
ガウスの妻のエミリア
彼女は元ギルド【魔狩りの剣】の先代ボスであった。現役バリバリの頃は【魔狩りの女帝】と各所から恐れ……いや、尊敬されていた人だ。
現ボスのクリントを赤子の手をひねるかの如く伸したことも何度もあったので、彼が亡きドン・ホワイトホース以外に唯一頭の上がらない存在でもある。
それ故に、彼女の娘であるエルリィとマルリア姉妹を気にかけてくれている。
そしてこの夫妻、知る人ぞ知るおしどり夫婦でありザーフィアスの城下で知らない人間はいないとされている仲睦まじい夫婦である。
そんなこんなでガウスと商談を展開していたおかげで、気付けばもう午後3時を回っていた
『もうこんな時間かよ………』
自分でも思うが、よく粘ったものだが彼がこのい丈夫に勝てる日は当分来ないだろうと素直に思った
しばらく談笑をしていたが、ふとライは店の外に見える見回りをしている騎士団員に目がいった
するとエルリィがそんなライに気づいたのか
『最近また警備が厳重になったんだよねぇ』
なるほど熱心なことだとは思ったが、ただの見回りにしてはしっかり武装している
『いくら結界がなくなったからって、こう四六時中見回りなんざされていると、なんだかなー………』
マルリアがエミリアお手製のチョコレートマフィンをつつきながらぼやいた。
『ま、確かにな……』
ライは淹れてもらった紅茶を一口啜る
『けっ、魔物が怖くて商売なんざできるかってんだ。』
ガウスの言うことはもっともだ
ライ自身も売り物にする商売道具を自ら採取することも多く、魔物との戦いは避けられないので慣れてしまえば慣れてしまったと言ってしまえるが、人々の安全を確保するための街中を白昼堂々鎧姿で歩かれると、逆に不安を煽りかねないように思える
騎士団長の彼が配慮できてないはずがないだろうし、ライは思わず眉を潜めた
夕方になるぐらいに、ガウスの店にまた一人客が見えた
小気味いい呼び鈴ののち、顔を見せたのは黒い短髪に眼鏡のエルリィと同い年ぐらいの中性的な顔立ちだった
『ガウスさん…こんにちは~…今日はちょっと用事で……………』
すると間髪入れずに、ものすごい音が店中に響き渡った
もはや見慣れた光景に、ライは飽きれ半分でその存在を見やる
ガウスがその生物学上では女性である客に拳骨を入れていたのだった。
彼女は見事に床にめり込んでいたが
しばらく長い沈黙ののち、彼女はよろりと立ち上がった
ガウスの一撃を食らって平気な人間など、世界、いや、宇宙広しといえど一人しか思いあたらなかったが
『あら?珍しいお客さんね?』それを後ろで見ていたエルリィと、エミリア、マルリアも顔を見せた
『おー。ガキんちょが。いっちょまえに帝国の騎士団の隊長なんざやりやがって』
『毎度思うけど…これは拳骨じゃなく……爆砕拳じゃないかと思う………』
爆砕拳…爆砕陣の拳バージョンである
ごもっともである。
すると彼女は、ライの姿を見つけるなり、ぱっと目を輝かせた
『あ!ライもいたんだ!久しぶりだね!』
『よー、リョウ。久しぶり。ちょっとガウスさんとの商談でな。まぁ惨敗だったが』
『にゃはは!そりゃそうでしょ!』
笑うリョウと呼ばれた女性は、ライがこのザーフィアスで出逢った人物だった。
打ち解けるのにそう時間はかからなかったものの、初対面時はリタに魔導器泥棒と勘違いされ、ファイアーボールをもらったりもしたが。
ザーフィアスに来ると決まってリョウたちとはつるんでいるようになった
『んで?今日は一体なんの用事だ?』
ガウスがリョウに問いかけるとリョウは頭を何回か掻いて苦笑した
『いやぁ………ガウスさんに何度か打ってもらってて…ツケてもらってるから、貯めてたお金をごっそり持ってきた…今回打ってもらう分も』
するとリョウは懐から財布を取りだしカウンターに置いた
ガウスはその財布を一瞥したのち、軽く溜め息をついた
『てめぇやっと払いに来やがったか』
横にある帳簿を開き、ガウスは財布の中身と帳簿を確認し始めた
『ナハハハ、安い給料貯めてようやく返せる額が溜まったもんですから』
ガウスはリョウの言い分を聞いて、眉間にシワを寄せた
『安い給料ってな。帝国の騎士様なんざ儲け放題だろうが。………………多いな。また打つのか?』
『はい…忙しすぎて近頃来れてなかったので、剣がボロボロなんで………
うちの隊は経費がないんで僕のポケットマネーからだしているから超安月給なんですよ』
ポケットマネーとはまたあの騎士団長は酷いことをするもんだと、ライは頭を抱えた。受け取ったリョウの剣を抜いてみて、ガウスはさらに眉間のシワを深くした
『ったく。ひでぇな刃こぼれ……………こんなんでよく魔物なんざ今まで切れたな………。』
『自分でも不思議なくらいですよ』
『全く、てめぇはあっさりと……』
そういえば、ライもその騎士団長から剣の修理を依頼されていた
元々商談ついでに工房を借りようとしていたのだ
ガウスの工房にはいい素材が揃っている。なので、ライはよくガウスの工房を使わせてもらっている
自分の工房もあるにはあるが、それは別の宇宙圏にある惑星【原界-セルランド-】にある。
転送術式を使えば一発で帰れるが、いかんせん距離が離れすぎているせいで思念力を大量に消費するのだ。
修理のためにわざわざ思念力を使って自分の工房に帰るのは出来るだけ避けたかったので、ガウスに無理をいって貸してもらっている
『ライ、てめぇもあの頭の硬い騎士団長様の剣を修理すんだろ。手伝いは……てめぇはいらねぇか』
『話早くて助かるっす………』
ガウスのいう頭の硬い騎士団長もといフレン・シーフォは、早く直してやらないと武器なしで魔物に飛び込んでいきそうな気がしないでもないので、ライは早々に奥の工房に引っ込んだのだった
『ったく、しょうがねぇやつだな!手入れもろくにしねーからそうなんだよ!!ダァホ!!』
本日2発目の拳骨、もとい爆砕拳がリョウに降り注ぐ。
またしてもリョウは床にめり込んでいた
『あなた、もうそれぐらいでいいんじゃない?』
妻のエミリアにも言われ、ガウスは仕方なく拳を下ろした
『1日2発は堪える……よ…』
そう最後に言い残し、リョウの意識は闇に沈んでいった
そんな光景を背後に聞きながら、ライは騎士団長から依頼された剣の修理を開始したのだった
こうしてザーフィアスのシザードの武具店の1日はつつがなく過ぎていった
しかしこの時からすでに運命の歯車は噛み合わなくなっていたのかもしれない
ほんとに些細なことが引き金になり、この戦いは幕を開けることになる
辛く、長く、遥か先の未来までをも巻き込んだ戦いの火蓋は切って落とされようとしていた
出逢うはずのない世界と世界が交錯し、交わるその瞬間はすぐ近くまで迫ってきていた