第17章

『その有り得ない事象っていうのは』

ライの最もな質問に、ブレイブはゆっくりだが話始めた

『主に皆さんの命に関わることです……』
『………それって…………』

エルリィは恐る恐る言葉を紡ぐ

『……詳しい話は言えないんです。言ってしまったらダメだと、20年後のライさんから、キツく言われているんです』
『20年後の………俺から………?』

まさか未来の出来事に関してを自分が口止めしていたとは思わなかったが、たしかに自分なら、やりそうだとは思った

『もしこの時代のライさんに出逢えたら、俺たちの時代のライさんにこれを渡すようにと』

ブレイブは、砂の上に置いてあったアタッシュケースをライにわたした

『これは……』

アタッシュケースを開いたライは、そこにあった物を見つめた。

それには美しい色をした、術式が掘られた宝石のようなコアが鎮座していた

『亀裂の大元をふさぐための術式が刻まれた思念石です。貴方の思い全てを込めて貴方が刻んだ………この世界と未来を救うための【希望の想念石-リアンハート-】、です』

ブレイブが拳を握りながら言った

『希望の想念石【リアンハート……】綺麗……』

そのリアンハートを見て、エルリィは思わずそう呟いた。色味は無色透明ではあるのだが、光の加減で様々な色に光り輝くそれからは未来のライが込めた想いが伝わってくるかのようである

ライの他にもう1人、刻神龍の力の適正がある存在がいるのだが、その彼は先程上がった名前の死龍神と操神龍の手により重傷を負ってしまい本来上手くいくはずだった継承が出来なくなり、失敗してしまったのだ。

徐々にその彼の身体は侵され、彼の友人も酷く落ち込んでしまい、今も尚、生死の境を彷徨っているその彼の側から離れられないらしい。

動けるようになっても日常生活に戻るのは難しいともかかりつけ医に言われて、その彼の友人の皇女殿下2人も絶望に打ちのめされてしまったとのことだ。

そこで未来のライはせめてと思い、仲間たちの前から数ヶ月ぐらい姿を消した

例え、敵から『逃げたのか』と罵られようが仲間たちは彼を信じた

そして帰ってきたライは早々に自身の工房にこもり、この思念術石を完成させたのだそうだ

なんとも夢のような話だが、事実であるのはブレイブの瞳を見ればわかった

すると思念術式のそばに封筒が添えてあった

ライはそのアタッシュケースをセレナに渡して、その手紙をあけた

その手紙には見覚えのある文字の羅列があった

正真正銘、ライの文字であった

セレナの開けてみたら?と、いう言葉にライは手紙の封を切った

手紙の内容はこうである


『過去の仲間たちへ。これが届いたということは、無事亀裂を見つけて今ごろその封印の仕方と神聖帝國騎士団を探していると思う

未来の世界はちと厄介なことになっている。全てはお前たちの世界全てで起きた現象が引き金になり、未来は変わってしまった。こっちの世界の使者が今そっちにいるはずだ。

失ってしまったものもたくさんある。仲間、友、あるいは家族。それぞれが失い、壊れていった。生き残っているやつらももう少ない

この手紙とアタッシュケースと共に、亀裂の大元から封印する術を残しておく。

各世界の亀裂は各世界の主要人物に送っておいた術式を組み込んだ思念石で封印はできるが、それだけでは解決にはならない。

大元を封印しなければ再び亀裂はでき、世界中に魔物があふれる鼬ごっこのままだ。

こんなのは正しい歴史ではない。数年後には全ての世界は死滅し、敵の手に落ちる

だから頼む。お前たちの世界と未来を救ってくれ』

手紙はこれで締められていた

そう。血痕の染み付いた封筒と共に

するとシスカがその手紙と全く同じものがアークエイルの本部、しかもシスカの自室にピンポイントで謎のエディルレイドの存在を仄めかす資料と共に落ちてきたと教えてくれた

『そういや、オレもラピードと吹っ飛ばされた異世界で情報を集めていたときに、世話になった組織のトップがいたんだが、オレら宛に手紙を渡されたぜ。それと同じものをな』

懐から同じ封筒を取り出したのはユーリである

つまりはこの手紙は紛い物ではなく本物だということになる

この場にいる全員、言葉が出ないとはまさにこのことだと思った

20年後の真実はあまりにも重たすぎたのだから

『どうするかは、貴方たちに任せます。ここで引いても、誰も貴方がたを責めることなどできませんから』

ブレイブはそれきり何も言わなくなった

ジルファもだ。恐らくジルファはこの真実を知っていた。刻を司る龍神なのだ。未来を知っていても何らおかしくはなかった

ライは手紙を見つめながら、目を伏せる

もしこれが決められた運命なのだとしたら

もしこの事実を知らないままだったら

きっと俺は、俺たちは

出逢うこともなかったのだろう

ゼルファイナが言っていた

"使命、ね。そういうのって重いけどよ。いざ見据えちまうとそれがやりたいことに繋がって、どかりと真ん中にいつの間にかあるもんだよな"

敵に塩を送られたような気もするが、その言葉はライに"覚悟"を決めさせるには充分であった

"戦うのに必要なのは身体じゃない

…………それは『覚悟』だよ"

かつて苦楽を共にした【彼女】もそう言っていたなと、ライは自嘲的な笑みを浮かべた

ひとりひとり、今この場にいる仲間の顔を見る

この場にいる全員が、同じ気持ちだった

『ブレイブ』

ライの落ち着いた声に、俯いていたブレイブは顔をあげた

『……教えてくれてありがとな。何か変な感じだけど、未来の俺たちが繋いでくれた想いを知らないままでこの先間違えるより、よほどいい』

ライの言葉にアンリが顔あげ

『……それじゃあ……』

アンリは恐る恐るライたちを見上げた

『おう。お前らは何も心配しなくていいんだぜ。それに、決められた運命ほどくだらねぇ話なんてこの世にはねぇよ』

ユーリがアンリの頭を撫でてやった

『そうだね。僕たちは間違えないと決めた。例え進む道が別々だとしても』

フレンがブレイブに歩みより微笑んだ。その微笑みはまだ幼いながらに耐え忍んできた彼らにとってどれだけの救いになったかなど聞くまでもないだろう

『運命なんて関係ないよ。あたしたちは、あたしたちなりに今の世界を生きる。そのずっと続いていく道を』

エルリィが胸に手を当てて、目を伏せる

『そうね。終わらせやしないわ』

セレナが子供たちを抱き締める

子供たちは涙を流すことはなかったが、その小さな肩は明らかに震えていた


『ならば私たちも全力で皆さんをサポートしますよ』


シスカが親指で、自分の胸をウィンクしながら示してみせた。シスカ以外のアークエイルとクーとレンも同じように微笑んだ

『ありがとうございます、みなさん』

ブレイブの言葉にライたちは改めて頷き合った

『そのためにも、まずはこのガルデニアの中枢部だな。きっとシングたちも戦ってるはずだ』

ライの言葉にシスカたちも頷いた

『謎のエディルレイドの反応もいまだ中枢部からですし、恐らくライさんの仲間が戦っていると思って間違いないはず。エディルレイドはエディルレイドでないと太刀打ちできません。皆さん無事ならいいのですが』

シスカの最もな言葉に、ライたちは再び中枢部を目指して歩みを進めた

◇◆◇◆

その中枢部は辺り一面が凍りついている

その中でシングたちは未知の力と対峙しながら、成すべきことをやろうとしていた

『一振りで辺り一面が氷付けに……』

シングはただ目を見開くしかできなかった

『ライから聞いてはいたけど、とんでもない威力だね』

コハクが切羽詰まった表情で言う

ライからエディルレイドという存在がいるということは前に聞いていた。

彼のパートナーのセレナもエディルレイドだからである

ライが彼女を連れてきたのは本当に突然だった

ライにそんな存在がいたということにも驚きだが、特筆すべきはそのセレナのエディルレイドとしての能力だった

『どうなされたのかしら?もしかして怖いのかしら?』

その思考を破るように、目の前のレイピアを構えた女が言った


『ねー、レイリー!!こんな奴ら一発で終わらせようよ~。』

どこからともなく少女の声が聞こえてきた。そう。彼女の持っているレイピアからである

『マリアノ、少し静かにしてもらえるかしら。言われなくてもわかっているわ』

レイリと呼ばれた女性はため息をつきながらも相づちを返した

シングたちは改めて自身の武器を構え直すが攻撃を仕掛けるまえに速くレイリ、もといレイリアがレイピアから冷気を飛ばしてシングたちを吹き飛ばした

ソーマで防御を全開にするが、それでも身体がだんだん凍りついてきたのは避けることができなかった

このままでは……と足りない頭でシングはなんとか打開策を練ろうとする

すると、また再び激しく目の前のマザーゼロムが胎動を始めた

それから先の展開はご存知の通りだった

再び産み出されるゼロムたちにベリルは

『ちっくしょぉ……ボクらの思念力もそろそろ限界だよぉ……』

半分涙目になりながら目の前のゼロムたちをみやる

度重なる戦いに、シングたちの力も体力も思念力も底をつきかけていた

万事休すかと思ったそのときだった



『【━━━澄みそそき、明光成りて


────契り籠ん】』

澄んだ声とともに、シングたちの背後から強烈な同契反応とともに、目の前のレイリアとマリアノに無数の矢が襲いかかった。

この猛々しくも、静かな水の思念の波動は何度も感じたことのあるものだった

『わっりぃ!みんな!また手間かけちまったみてぇ!!』

聞こえたのはいつものライの声だった


『ライ!!』

一番に反応を示したのは案の定シングだった


『おっ、せぇよこのバカやろー!!』

次にヒスイである。

『ってライ!アンタ怪我してんじゃん!!?見るからに重傷だろそれぇえぇ~~!!!』

元々半泣きであったベリルが更にライの腹にある傷を見て戦慄した

『肯定。早急に医療施設に送還するべきだ』

クンツァイトの機械的な指摘に、ライは苦笑するしかなかった

『相変わらずお前は再会する度に怪我をして帰ってくる。よく飽きないな』

カルセドニーもここぞとばかりに彼に叱責を贈った

『ちょ、みんなひどすぎ……』

ライは本当に彼らの前では形無しである

『ライお兄ちゃん!』

リルハも顔をパッと輝かせ、ライをみやる。その傍らにはルーシィと獅子宮の彼も見てとれた。どうやら星霊召喚は成功しているようである。

ライは密かにリルハに親指を立てるとそれを見たリルハは、ブイサインで答えてくれた

『君がお嬢を助けてくれたお兄ちゃんってことか。おかげでお嬢のとこにまた出て来れたよ。とりあえず礼を言っておこうかな』

獅子宮のレオ、リルハと契約している黄道十二門の星霊だ。

妖精の尻尾の仲間からはロキの愛称で親しまれている

『ライ!あなたのおかげで、星霊のみんなともまた再会できたわ。本当にありがとう!』

ルーシィが微笑んでライに礼を言った

『俺はなにもしてねぇよ。それよりまだ奴さん元気みたいだぜ。俺は同契者を足止めしておく。お前ら、さっさとやること済ませろ』

ライはその傷を庇おうともせず、前に歩み寄った

するとそれを見計らっていたかのごとく、ライに無数の氷柱が飛んできた

ライは冷静さを失うことなく、同じく水の矢でその氷柱をすべてきれいに打ち落とした

とたんに凄まじい力の拮抗ともに、爆風が吹き荒れた

エディルレイド同士の競り合いに、その場にいた全員はただただ目を見開くことしかできなかった

『うふふ。さすが噂に名高いジルファーンの男ね。今のは確実に仕留めたと思っていたのですけど』

白煙が舞い散るとともに、その中からは女性が姿を現した。その手には雪の結晶のような鍔が施された美しい形をした細剣、レイピアが握られていた

恐らく属性は雪属性であろう

非常に珍しい属性であるエディルレイドだ

『よくいうぜ。俺のパートナーの属性は水、あんたのパートナーの属性は雪と似たり寄ったりじゃねぇか』

ライの言葉に目の前の女、レイリアはただ不敵に笑むだけだった

そしてその光景を眺めていた第三者の声

『ライさん!間違いないですよ!彼女のレイピアの彼女が謎のエディルレイドの反応の正体です!』

忘れかけていたが、ここにはシスカたちアークエイルも居たのだった

『まぁ。うるさいキノコがいると思ったらアークエイルまでいたなんて予想外ですわね』

レイリアがクスクス笑いながらキノコ、もといシスカの方を向いて言った

『なななっ!!誰がキノコですか!』

シスカは思わず突っ込んだ

『ええ!?先輩のそれやっぱりキノコだったん!?』

ローウェンも自身の先輩であるシスカにボケたおす

『わたしのは帽子ですとなんど言ったらわかるんですか!?』

続いてその光景を傍観していたクーが

『………胞子飛ばすなよ………』

と、一歩後ずさりながら言う

『貴方もですか!!?』

その光景をレンは退屈そうに欠伸をしながら見つめていた

このメンバーに関してはこれがデフォルトなので、あまり気にしないでいただきたい

『かわせ!!』

ライの声にシスカたちアークエイルははっと我に返った

目前には無数の氷柱がすでに迫ってきているところだった

その氷柱は辺りのゼロムすら巻き添えにしてライたちに降り注いだ


『エステル危ない!!』

リタの声に振り返る。そこには先ほどゼロムたちを巻き添えにした氷柱が目の前まで迫っていた

『させるかよ!!』

覚悟していた痛みは来ず、目の前には見慣れた黒髪と長髪

何度も見た光景がそこにはあった

火のエアル、ここにはそれはないがそれに準ずる炎の思念力をうまく利用し、飛んできた氷柱は全て溶かされた

舞う水滴は目の前の男の美しさをよりいっそう引き立たせた


『ユーリ……!』

エステルの言葉に振り返る。そしてエステルはユーリに思わず抱きついた

『おっと!よぉ久しぶりだなエステル。無事で何よりだ』

相変わらずのユーリの様子にエステルは思わずその翡翠色の瞳から大粒の涙を流していた

『それはこっちの台詞です!!今まで、何処に行っていたんですか!!みんながどれだけ貴方を心配していたかわかってるんです……!?』

依然として涙を流すエステルに、苦笑いをしつつユーリはその桃色の髪を少し乱暴に撫でてやった

『悪かったよ……実はラピードも俺も、フレンとエルリィも異世界に飛ばされちまってな。ちと戻るのに手間がかかっちまったんだよ。』

やはりエステルには弱いユーリである

正直に事情を話していた

『まぁ別にアタシは心配してなかったけどねぇ』

リタがゼロムを焼き払いながら言う

『あれ?リタも結構心配してたように見えるけどねー』

ルーシィの一言にリタは顔を真っ赤にして『そ、そんなことないわよ!』と全力で否定した

その隙をついて、周りのゼロムがリタたちに襲い掛かる

それをその剣でフレンが切り裂いた

『再会したのはいいけどまずはコイツらをどうにかしなくてはね。話はそれからゆっくりと。うん。話さなければならないことが………たくさんあるんだ。本当に………』

そんないつもより覇気がないようなフレンに違和感を覚えつつも、ユーリは『とにかく行くぜフレン、ラピード!!。あと、エルリィ!しっかりフレンサポートしてやってくれよ頼むわ!』

言いつつユーリはフレンと、ラピードはエルリィと呼吸を合わせてその力を振るった

『よぉーし!!わたしも頑張っちゃうぞー!!……開け!人馬宮の扉!!サジタリウス!!』

その腰から星霊の鍵を抜き放ち、リルハはサジタリウスを呼び出した

『リルハ様!!ルーシィ様!!お久しぶりであります!もしもし!』

サジタリウスは馬の姿をした人馬の星霊である。

『サジタリウス!お願い!!』
『お任せであります!もしもし!』

リルハの掛け声でサジタリウスはその弓を上空に向け、大量のゼロムをその無数の矢で貫いた

『やったね!ありがとうサジタリウス!』

リルハとハイタッチしたサジタリウスは『ではまた』と頭を下げ戻っていった。

しかしゼロムはまだまだ沸き上がってくる

『!ルーシィ!!』

周りのゼロムに善戦はしているものの、ルーシィの防衛策はエリダヌス座の星の大河(エトワールフルーグ)

バルゴから託された伸縮自在の鞭一本だけである。魔力の鞭なのでそれだけでも充分なのだがやはり星霊がいない分、どうしても防御が疎かになってしまうのである。鞭は遠距離では無類の強さを発揮すればリーチも長いが、距離を詰められてしまえばとたんに反撃が難しくなってしまう

そしてゼロムはこの場にいる人間の中で、ルーシィが一番戦闘力が低いと判断したようだ

その無防備な背後にゼロムが複数体襲いかかった

『……僕たちの家族に手は出させないよ!レグルスインパクト!!!』

しかし足りない箇所は他の仲間が補えばいい

いち早く気付いたロキがその拳に光を溜め込み、更にルーシィもその鞭に魔力を送り込み、互いの背中を合わせて息の合ったコンビネーションで周りのゼロムを吹き飛ばした。

オーナーが変わってもこのコンビネーションは健在であった

『この感覚懐かしいね。今は僕たちはお嬢の守護者だけど、君とこうして背中を合わせて戦うこともいまだ嬉しく思うよ』

ルーシィは知ってのとおり、星霊たちのオーナーであった。今はルーシィはリルハに全ての星霊の鍵を譲りわたし、こうして愛弟子の成長を見守る存在になっている

『あたしもよロキ!まだまだ至らないところばかりがあるけど……あたしだって妖精の尻尾の魔導師だもん。貴方たちがいなくても、ギルドの一員としての意地と誇りならまだまだ負けないわよ』

『アイスメイク……フリーズランサー!!!』

続いてグレイの作り出した無数の氷の槍で辺りのゼロムは凍りつき、一瞬にして砕けちる

『今のであらかた片付きましたね!みなさん!いまです!』

ジュビアの言葉にシングたちは頷き合い、目の前のガルデニアのコアに駆け出した

『ここですべて終わらせる!!』

シングが一番にアステリアを抜き放ち衝撃波をためらいなく打ち込む

続いてコハクがシングを狙おうとしたゼロムをその長く美しい足で薙ぎ払った


そしてフレンの様子がおかしいように見えたかもしれないが、これはとある世界で起きたことに一端を発した。

どうあがいても抗うことのできないその数奇な運命はジルファの未来予知の能力でもノイズがかかって、結末がわからないのだ

最初から決められた未来を歩ませるなど、当人たちのためになるのだろうか

ただ一つ

今はその時ではないことだけしか、わかることはなかった

ただどんな結末になろうとも、本人たちが決めたことなら受け入れる他に選択肢などない

現にブレイブたちからの手紙で、未来を変えてみせると決めたばかりだ

見守ることしか出来ないジルファには、それが歯がゆかった。


『大丈夫!?シング!』

くるりと回転を決めて綺麗に着地を決めたコハクである

『ありがとうコハク!』

素直なシングのお礼に、コハクは『どういたしまして!』ととびきりの笑顔を浮かべた

しかしゼロムはまだまだ増え続ける

とにかく、ゼロムを生み出しているガルデニア自体を止めなくてはならない

『くそ!!しつけえったらねぇよな!』

ヒスイがその両の手にある自身のソーマ、ゲイルアークでゼロムを撃ち抜きながら皮肉る

『全くだよねぇ~!これでもくらえ~!!』

ベリルが水の思念術でゼロムを機能停止させる

『一刻も早くこのガルデニアを機能停止しなければならない』

クンツァイトも自身のソーマのヴェックスでゼロムを切り払いながら答える

『それにしても何故今さらになってガルデニアが復活を……あのとき自触崩壊を起こして完全に消滅したはず……』

カルセドニーが滑空しながら、ゼロムを次々に切り裂いていきながら最もな意見を口にした

それに関しては、同契者と相対しているライも疑問に思っているところである


『あんた、絶対何か知ってるだろ?』

ギリギリと弓でレイピアを受けとめながらライは目の前のレイリアに問いかけた

『さぁどうかしら?雇われの身だし、それに関しては雇い主の方が詳しいかも知れませんわね』

余裕の笑みを浮かべて、レイリアはそう答えた

『答える気はないって感じね』

セレナの声にライは耳を傾けながら、敵の攻撃をいなしていた

『貴方の仲間の助太刀にいかなくていいのかしら?苦戦しているようだけど』

レイリアの挑発ともとれる言葉にライは鼻で笑い

『必要ねぇよ。あいつらの実力は俺が一番知ってるし、優秀なヒーラーと腕の立つやつらしかいないんでな』

少し離れた位置でゼロムたちと交戦している仲間たちを横目で見ながらレイリアを吹き飛ばす

『んぎぃぃ~!!怪我人のくせして生意気~!!』

レイリアのレイピアから甲高い声の少女が吐き出すように皮肉った

『こっちだって結構ギリギリなんだけどな』

ジルファのせいで脇腹を抉っている傷はなかなか塞がってはくれないので、さっさと目的を果たしてここから脱出したいのが本音なのだが、彼女を退かせない限りそれは難しそうである

それに、彼女とゼルファイナは雇われの身と言っていた。その雇い主も気になるところである

『…そういえば、私たちの雇い主のこと知りたがっていましたわね。ゼルファイナから話は少しだけ聞いていると思うけどあながち無関係とは言えないから教えてあげてもよろしくてよ』

嘘か誠はよくわからないが、いきなりそんなことを言い出したレイリアに疑問を感じた

『ただし……』

途端に辺りの空気が低下したのをはっきり肌で感じた。ライも防御態勢に入る

『……この一撃に耐えれたらの話ですけどね!』

レイリアは溜め込んだ冷気を一気に放ってきたのだった

『どいつもこいつも、雇われの身、雇われの身……そんなにも守秘義務かよ、あぁ!?』

ライのその怒号ともとれる声とともに、高速で銃を抜き放ち、その冷気を電磁砲の一撃で全てを蒸発させた

美琴がいれば『アタシの十八番取るんじゃないわよ!!』と、超電磁砲を食らいそうではある

仕方ねぇだろ、俺のヴァルキュリアは電磁砲とは少し違う

電磁砲を放つ時はバッテリーを挿入し、その上に自身の思念力もついでに上乗せるのだ

そのやり方で、ライのヴァルキュリアは破壊力は抜群である

前はリョウとの手合わせでは剣を使ってなかったかって?

いつの話だそりゃ

それは彼の相方、リョウ・ウバルチフが剣を基本武器にしているための上方修正である

だってリョウいたら、俺前衛出る必要ねぇもん

と、いうより、シングたちと行動をしている間は基本的に前衛はシング、クンツァイト、カルセドニー、イネスで事足りているのだ

専らライはヒスイとコハク、ベリル、ガラドと一緒に後方支援である

剣ももちろん出来るがあまり使いたくねぇんだよな

ある意味人生の汚点とも言えるのだから

『全部蒸発させた……!?たかが銃ひとつでエディルレイドによる一撃を……!?』

レイリアはその威力に思わず本音を漏らしてしまった

『たかが銃ひとつじゃねぇーよ。こいつは俺の想いひとつで威力なんざいくらでも上がるんだよバーロー』

とある死神小学生探偵が吐きそうな言葉だが、そこは気にしないでいただきたい

『私とマリアのシンクロ率が劣った……ということか』

コツコツと足音が一歩ずつレイリアに近付く

『……さぁて、どうする?一撃耐えて見せたけど?』

レイリアの眉間にその冷たい銃口を宛がう

レイリアは微動だにせず、その銃口の先にあるライのその琥珀色の瞳に目を向けた

『……なぜあのとき自蝕崩壊を起こして消滅したガルデニアが復活している?俺たちはこの目でその瞬間をたしかに見た。……この規模のゼロムの再現は、いくらなんでも原界では無理だし、白化した結晶界の技術を合わせても無理だ。
結晶界の研究施設も街も全部白化しちまってるからな。………コレを作ったクリードも、フローラさんもすでにこの世にはいない。それに、テルカ・リュミレースで見たあのヘルメス式魔導器の魔核の件もだ。まとめて吐いてもらうぜ』

レイリアはしばらく黙り混んだ後に答えた


『………別に私が話さなくても、貴方ほどの知能の持ち主ならその結論はもうすでに出ているのではなくて?』


その一言に、銃口を持つ手が少し動いたのをレイリアは確認した

『……そうよ。貴方の推察の通り。……魔核はとある世界からの技術、フォミクリーを用いた物。ガルデニアは……』

レイリアは一度そこで言葉を切った

『……………過去からの異物………………龍神の力によるものか』

ライはそう続けた

『……龍神はそれだけのことをやってのける能力を持っているわ。過去に遡る能力など容易い。貴方の中にいる龍神のせいとかじゃないかしら』

『……それはねぇな。こいつはシングたちと旅をしている時から俺の中から離れたことはないもんでな。そもそもこいつにそんな能力はねぇ』

今の話が本当のことなら、敵の方にも龍神がいるということを意味している

こればかりは、どうしようもない事実である

後でジルファ辺りを尋問すれば犯人の目処は立ちそうだ

『………優しいのね。そうよ。彼らは利用出来るものなら何でも利用する。そこには愛情も何もない。ただ利用するだけ』

レイリアの言葉にライは何も言わなかった

『私とゼルの雇い主は貴方に妙にご執心のようだったわ。……きれいな銀髪のいい男よ。』

きれいな銀髪、という単語を聞いて更にライの銃を握る手が強くなったのをレイリアは見逃さなかった

『…………私が話せるのはここまで。煮るなり焼くなりなんなりしなさい』

『……!?レイリ!!』

その言葉を聞いて、マリアノは自ら同契を解いた。それを見たセレナも、戦意はなくなったと見たのか弓の姿から元の姿に戻った

そしてマリアノは、ライとレイリアの間に割って入り、その小さな身体と両の腕を目一杯広げて立ちはだかって見せた


『…あたしが…あたしがもっと強い武器だったらよかったんだ……』

マリアノの言葉にレイリアは言葉を失った

そうしたら、レイリアを傷つける全てのものから、彼女を守ってあげられた

『……苦しい思いも、痛い思いも、もう、悔しい思いもさせないんだ』

『…マリ……ア……』

ライはその銃口を押さえつけたまま、マリアノを見下ろした

その視線を受け、マリアノはライをキッと睨み付け

『もう一度、同契して、こいつらなんて、ギッタギタのメッキョメキョにしてやろうよ!!………あたし、頑張るから!!一生懸命頑張るから!!』

その瞳には、大粒の涙が流れていた

ライはしばらくマリアノを見つめたあと軽くため息をつきながら、その銃口をレイリアの眉間から下げた
それに安心したのか、レイリアは思わず膝からくず折れた。マリアノはレイリアに駆け寄り、その身体を支えた

『………もうひとつだけ聞かせてくれるか。』

俯いたままのレイリアに視線を戻す
僅かだが、その肩が動いた

『あんたたちにとっては……今そこで必死で護ろうとしているその子も………道具なのか?』

ライの一言に、マリアノは不安そうにレイリアを見つめた

しばらく沈黙したのち

『……違うわ。もういい……マリア。無理はしないで。今後の仕事に差し支える』

ライとセレナはその二人を見つめる

『………行きなさい。私たちの負けよ』

レイリアの一言に、ライはふと笑み浮かべて仲間たちの方へ走っていった

『……貴方たちのせいで、得意先を失ってしまいましたわ。どうしようかしらこの先。』

レイリアとマリアノの側には新たな影があった

『…ではこうしましょう。私たちが貴方たちの新しいお得意先になりますよ♡』

二人の前に現れたのはシスカだった

『……は?』

マリアノとレイリアは思わず目を点にした

『ですから、これは正当な取引ですよ。貴方たちは今まで通りあちらで情報収集をして、ライさんに渡してあげてください。あの人のことですから言い値で応じてくれると思いますよ。女性には優しい人ですからね』

そしてニコニコしながらシスカは二人に歩みより

『……ついでに保護するエディルレイドの情報収集もして、こちらに連絡をくだされば、私たち保護協会員がそのエディルレイドたちを保護、という形で協会が譲り受け、礼金を支払います』

おそらく後者が本音だと思うが、レイリアは少し考えたのち

『……うふふ。つくづく変わった人が多いのね貴方たちは。ギルド側の私たちに取引を持ちかけるなんて。……………ひとつだけいっておきますけど』

レイリアは埃を払いながら立ち上がり

『……私たちは高いですわよ?』

その一言にシスカは

『…そのように伝えておきます』

と、にっこりと笑みを浮かべた

どうやら取引は成立したようである

『ちゃっかりしてんな、あいつらも』

ライは苦笑しながら、シングたちに群がるゼロムたちを撃ち抜いていった

『ライ!大丈夫!?』

ベリルが気付いて、声をかけた

『待たせたな!まーほんっと、無限に沸き上がるなぁゼロムも!!』

ヒスイの背中に自身の背中を合わせながら言う

『ってめぇ!人を勝手に壁にしてんじゃ………』

文句を言おうとしたが、ふとライの傷口にヒスイ自身の手がたまたま当たる。すると、わずかだが指にその赤い血がついた

『……………。ったく!てめぇは後でまじで説教もんだな!!』
『説教でもなんでも受けるから、今は守ってくれよ~』

と、ふざけたやり取りを展開しながら、二人は同時に目の前のゼロムをその疾矢と光を帯びた弾丸で撃ち抜いた

『何だかんだでお兄ちゃんはライと仲良いもんね。』

ロリセの横で、蹴りをゼロムに入れながらコハクが言う

『みたいですね。お熱いことで』

ロリセはすっかり手に馴染んだ二挺銃で空中にいるゼロムを早打ちで打ち落とす

『肯定。ヒスイとライ、この二人が揃えば自分たちに敵などいない』

クンツァイトは相変わらず機械的な言葉を返すがその言葉の端々にはたしかな信頼が見え隠れしていた

『むむぅ~コンビネーションなら、コハク!』

それを聞いたベリルが、自身の絵筆のソーマ、ティエールを構え直しながら

『うん!私とベリルも負けないよね!』

コハクも前に出て、自身のバトン型ソーマのエルロンドを回しながら前に出た

『なにか策があるのね?』

リタが周りのゼロムを焼きながら距離をとった

『うん!こうするのさ!』

ベリルとコハクは同時に思念力を練り始める


『いくよ!ベリル!!』

二人隣同士にならび、敵を見据える

『ごーごー!!…そぉ~~れそれそれぇ~~!!』

次第にベリルのティエールから水の渦が作り出されていく

『はぁぁぁああぁ!!!』

更にコハクもその華麗なバトン捌きで炎の渦を練り始める。やがてそれは寄り添いあうようにひとつの美しい曲線を描いていき

『せぇーーの!!!蒼紅円舞曲!!!』

そのまま目の前のゼロムを飲み込んで行った

『すごいです!息ぴったりですねベリルとコハクは!』

エステルは大方消えていったゼロムたちがいた場所を見ながら感嘆の声をあげていた

『へへ~んだ!ボクとコハクのさいきょーコンビに勝てる奴らなんているもんか!』

ベリルは胸を張ってそう答えた


『久しぶりに見たけど、相変わらずコハクとベリルはいいコンビだな』

ライは自分を支えてくれている仲間を背に、ヒスイに背中を預けたままいうと

『ったりめぇだろ!誰の妹だと思ってんだよ!………俺たちもいくぜライ!』

『へいへいっと!』

ヒスイの叱責に苦笑しながら、ライは銃を構えた

そしてヒスイとライはほぼ同時に、その上空にヒスイは風の塊を、ライはその塊に電磁砲を放つ

やがて風の塊にその電磁砲は吸い込まれたが、それはバチバチと音を立てており、ヒスイの作り出した風の塊になんらかの作用をプラスしたのだろう

『……一体なにが……!』

その凄ましい風圧に、フレンは思わず眉を寄せて顔を覆い隠した

『……できるだけ離れておくんだな、テルカ・リュミレースの騎士よ。巻き込まれるぞ』

通り抜け様にフレンを襲おうとしたゼロムを、滑空しつつ切り裂いていったカルセドニーの声をたしかに聞いたフレンは、小さくうなずいた

『喰らいやがれ!!……紫電刹華・雲雀(しでんせっかひばり)!!』

二人が同時にその雷を帯びた風を撃ち抜くと激しいスパーク音とともに辺り一体のゼロムをその雷を帯びた鋭利な刃と、無数の風の矢が刺し貫き、辺りのゼロムは一掃されたのだった

『いけ!!!シング!カルセドニー!!』

ライのその言葉に、シングとカルセドニーは頷き合った

『カル!!一気に決めよう!!』

『……ああ!……どけ!!』

シングの合図とともに、カルセドニーがガルデニアのコアに一気に残ったゼロムを切り裂きながら、詰め寄りその刃で目にも止まらない連撃を叩き込んでいく。

『よし!いける!!……ううぉおおおお!!!』

そのカルセドニーの連撃にシングも合わせてコアにその刃で傷をつけていく

次はカルセドニーがシングと合わせて、だめ押しとばかりに再び一撃を

その黄金の光を帯びたシングのアステリアの迅雷のごとき剣閃と、蒼空を思わせるカルセドニーの蒼の剣閃がクロスしたとき

『征禍!!』

カルセドニーの最後の一撃と

『星影!!』

シングの最後の一撃が

『双牙刃!!!』

その禍々しく紅く光るコアを十字の軌跡を描いて、爆散させたのだった


『……やったの!?』

交戦していたゼロムたちが急に機能停止になったのを見てリタはガルデニアのコアに目を向ける

完全に色を失ったガルデニアのコアはシングとカルセドニーの技で煙をあげて沈黙していた

『はぁぁ~……一時はどうなるかと思ったよぉ………』

ベリルが安堵したように胸を撫で下ろす

『これでゼロムも減るはずだよね。』

コハクもベリルの横でガルデニアを見つめている

『ったりめぇだろ。これでまた動いたりしたらさすがに俺も無理だぜ』

ヒスイが散らばるゼロムたちの残骸を足でつつきながら言った

『リチアが、ガルデニアは完全に沈黙した。もうゼロムが生まれることはないでしょう、って』

リチアをスピリアに宿していて、声が聞こえたリルハはシングたちにそう伝えた

『これで当面の危機は去ったか?』

カルセドニーが剣をしまいながら辺りを見渡す

『肯定。ガルデニアは完全に沈黙しているようだ。これでゼロムが及ぼす被害は徐々に減るだろう』

クンツァイトもゼロムの残骸に目を向ける

『いいえ、まだです……』

その言葉を発したのは今まで沈黙していたブレイブであった

『…どういうことです?』

エステルの言葉にブレイブはライを一瞥したのち

『……ここまでは敵にとっては想定内です。恐らくすでに次の手は打たれてる』

ブレイブはシングたちを一人一人見ている

『…次の手?』

不安げに眉を寄せるルーシィに構わずブレイブは続ける

『…奴らは恐らく次はプランスールを狙うでしょう。』

『……!!』

プランスール、という単語を聞いて顔色を変えたのは当然ライとカルセドニーたちだった

『プランスールだって!?』

ライの今までにない慌てように、シングたち以外は弾かれたように顔をあげた

『…プランスールにはライの家族が暮らしている家と、我ら結晶騎士団の総本山であるサンテクス大聖堂がある。奴ら、あそこを落として原界の戦力を一気に削ぎ落とすつもりか!!』

カルセドニーの言葉に、一瞬で周囲は状況を理解し、更にフレンとエルリィは目を見張った。先程から一体フレンとエルリィはここに来るまでに何を見てきたというのか。

それは分からないがどうもらしからぬ隙が多かった気がしたのにエステルとリタは顔を見合わせた。

『…そうだよ…あいつらはそうやって私とお兄ちゃんの家族まで!!』

アンリの悲痛な叫びにユーリとエステルは何故だかわからないがどうしようもない胸の感覚を覚えた

ひょっとしてアンリとブレイブはもしや

すると、ブレイブは何かに弾かれたように気づき

『危ない!!母さん!!』

そう言って駆けていった方向にいたのは

『……………えっ!?』

その翡翠色の瞳は驚きに見開かれる

耳をつんざくような音とともにエステルを助けたのは

『ぅっ!!』

『お兄ちゃん!!!』

ブレイブはエステルをとっさに庇い、肩に傷を負ってしまった

恐らく敵の術によるものであろう

アンリの叫びが谺する中、ライは精神を研ぎ澄ます

一部分だけ、穴が空いている場所がある

そこに確かに、いた

ライはすぐさまにその銃を抜き放ち、攻撃があった方向に弾丸を放つ

『ぐあっ!』

鈍い声と空間が歪むような感覚とともに、その場を沈黙が支配した

『……………逃がしたか』

ヒスイに支えられままだったにも関わらず、その見事に正確な射撃で相手に何かしらの痕跡を残したライは、やはり侮れないと横にいたヒスイは思った

一度敵が目の前に現れれば、ライは絶対に標的を逃さない性格だ

闇に潜り込み、確実に標的を狩り取るその姿はさながら暗殺者のようだとイネスは言っていた。

敵に回したら一番厄介な男だと

妹をインカローズに人質を取られた時、ライとシングたちは一度だけ道を違えそうになった

その時に相当の苦戦を強いられたのは昨日のことのように思い出される

いや、今は昔のことを思い出しているわけにはいかない

たしかに今、ブレイブははっきりとエステルのことをこう呼んだ

〝お母さん〟と

『…………お母さん、って……………』

リタがブレイブをまさか、というような目で見た

エルリィに治癒してもらっているブレイブを見つめ、ぼぉ~っとしているのはほかでもないエステルである

『おいエステル、しっかりしろ』

軽く頭をはたいてユーリはエステルに声をかけた

『ふぁ……、あ、す、すみませんユーリ……』

我に返ったエステルはブレイブとユーリを交互に見るがやがて首をかしげた
そのエステルの様子に気付いたこれまた今まで黙っていた白銀の騎士はふむ、とひとつ相槌を打ってブレイブとアンリを見た

『………えと。なんとなく思っていたんだけど、ブレイブってほんとになんとなくだけど、エステリーゼ様、アンリさんはユーリに少しにているような』

そのフレンの言葉に、ブレイブも我に返ったのかあわててエステルの上から飛び退いた

『す、すみませんエステルさんっ!!』

そんなブレイブを見て次に声を出したのはルーシィだった

『いや、あの。私もね、フレンと同じこと思ってたんだけど……』

すると、次に引き継いだのはグレイだ

『……あー……ルーシィ、実は俺もだ』

その言葉に、ブレイブとアンリは顔を見合わせた

『…ご、ごめんなさい…黙ってるつもりは、なかったんですが…』

アンリはバツが悪そうに答える

『…ねぇふたりとも、もう隠すのはキツい。』

そして更に続いた声は麻琴のものであった

『………じ、じゃあ、や、やっぱりぃ~?』

ベリルがコハクと顔を見合わせながら恐る恐る声に出した

『……ブレイブとアンリは……』

コハクである

『ユーリとエステルの……』

エルリィがリタの方をまた見やる

リタは黙ったままだった

『…はい、俺とアンリは…ユーリさんとエステルさんの…まぁ20年後からきたんですけど、子供、です』

その言葉に今まで黙っていたリタは


『ち、ち、ちょっとユーリ!!?あ、あんた!!な、な、なにあたしの親友に!!!手ぇ出してんのよぉおぉおぉ!!?』

ここにレイヴンがいたら、間違いなく焼かれていただろう

とりあえずリタはエルリィが押さえておいた

『いや待て俺はエステルには手を出してねぇぞ!!!何かの間違い!!』

『あぁ……どうりで似てると思っていました。』

と、ユーリの突っ込み(?)を尻目にエステルは納得したような声を出す。

『こっちはこっちで順応が早すぎるだろ』とユーリはため息とともにぼやいた

ライはユーリ、エステル、ブレイブ、アンリを一人一人一瞥していく

遠目からだが、アンリとブレーブもここに来るまでに何度となく武器を握っていた。

特にブレイブの太刀筋は、ユーリのそれと酷似していたからだ

半信半疑だったが、ブレイブの告白にライは納得した

そして少しだけリョウの太刀筋も見てとれた。恐らく未来のリョウが彼らを鍛えているのだろう

なるほど彼ならやりそうだと思い、銃をしまった。まるでその胸にある衝動を押さえるかのごとく。静かに

近くにいたヒスイはライの焦りに感づいて軽くライの肩をなだめるように叩く

ソーマリンクなどなくともお前のスピリアなど容易に、手に取るように想像できると

それに気付いたライも苦笑混じりに笑みを返した

『プランスールの襲撃が本当ならこんなところで足踏みしてる訳にもいかないだろ。すぐにでも向かうべきだと思いますけど』

ロリセの指摘に、今まで暴れていたリタもまだ納得はしていないようだったが少し落ち着いてきたようである

『ブレイブとアンリが俺とエステルの子供とかどうとかは一回置いとこうぜ。合流場所がプランスールってんなら、奴ら先回りで潰そうとしてもおかしくねぇからな』

ユーリの言葉に、その場にいる全員はうなずいた

『合流ついでに、プランスールにいる敵を全員追っ払っちまおうぜ。あそこにはこいつの妹のローズさんもいる。見捨てるつもりは当然ないだろここにいる全員』

ヒスイの言葉に、シングが頷き

『そうだね!!』

どうやら話は纏まったようだ

『ならば、次の進路はプランスールだな。とはいえ、リアンハイトでは敵の対空砲撃に捕まり兼ねないな。』

カルセドニーはふとその可能性を示唆する

確かにこれだけの物をこの時代に呼び寄せることができる力を持っているのなら、何がきてもおかしくはないと思った

『なら、洞窟を経由して一気にプランスールに抜けよう。あそこなら見つかりにくいはずだ』

ライの提案に、この場にいる全員は異論はないようである

『よし、ならば進路をラジーン洞窟にとるとするか』

カルセドニーはリアンハイトの準備に取り掛かる

一難去ってまた一難状態だが、泣き言を言ってもいられないのが事実である

まずは出来ることから一歩ずつやると決めた

そして舞台は新たな戦場に移り変わることになる

彼らを待つ運命と、出逢いと、その先に積み重なっていく道程はひとつずつ繋がっていく

巡る螺旋のように。ひとつずつ、また、ひとつずつ

繋がっていく

再びあの場所へ。始まりの場所へ
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