第16章

救世システムガルデニアは、異様な空気に包まれていた。

『グァァアァアッ』

奇妙な叫び声をあげ、ライたちの目の前にはゼロムが現れた

『こいつらが噂に聞いてるゼロムか!なるほど確かに気味の悪い連中だぜ!』

延びてきた蔦を自身の愛刀で切り裂きながらユーリは言った

『見た目は花だけど、やっぱりなんか気持ち悪い!!』

エルリィが飛び蹴りで飛びかかってきたゼロムを吹き飛ばした

『全くその通りだね!ダングレストに出てきた、巨大芋虫ゼロムも相当だったけど』

蒼海のマントを靡かせ、魔神剣を放ちながらフレンも同意する

『ここのは、弱点が炎のやつがほとんどだ!』

ライも傷を負っているが、後方支援で思念術を放ち応戦していた

『炎ね……なるほど!』

ユーリは愛刀を翻し、ゼロムめがけて振り抜いた

『焼き尽くす!!……天狼滅牙・飛炎!!』

その振り抜きと共に、ゼロムは炎の竜巻に巻き込まれ、跡形もなく焼きつくされた

今のでこの辺りのゼロムは大方、片付いたようである

『うし。一丁上がりっと!』

ユーリはヒラリと自身の愛刀をくるりと一回りさせた

『……よし。次が出ないうちに奥へいこう。』

エルリィも片付いたようで、ライたちに駆け寄ってきた

『エルリィ、ケガをしてる。見せて』

肘についた傷を、フレンは見落とさなかった

『これぐらい大丈夫だよ!』
『だめだ。菌が入ったら化膿してしまうだろう?……聖なる活力、来い。ファーストエイド』

大丈夫と言い張るエルリィに、フレンは肘の傷に治癒を施した

『…………ありがとう』

少し頬を染めてエルリィはお礼をいった

『どういたしまして』

ふと微笑むフレンに、エルリィは思わず瞳を反らした

『さて、と。バカップルはほっといて先にいくかね』

ユーリは砂糖を飲まされたと言わんばかりに呆れながら歩きだす

『なっ!ぼ、ぼくとエルリィはそんなんじゃ………』

慌てて否定するフレンには目もくれず、ユーリは愛刀を鞘に納めた

ライはその光景を見て、苦笑するしかなかったがエルリィの方は否定も肯定もしなかった

しばらく歩みを進めると、どこからか銃の発砲音と刃同士がぶつかり合う音が聞こえた

『誰かが戦ってる!』

エルリィが一番に反応を示す。

5人は急いで音がした方に足をのばす、が

ドン!!!と、耳をつんざくようななにかミサイルを発射するような音とともに、通路のさきから熱のこもった白煙が立ち上った

『うおっ!!?あっち!!』

ユーリが顔を腕で覆い隠しながら叫んだ

そして次は、激しい烈風と閃光ののちにその白煙は全て消え去った

『こ、こんどはなにっ?!』

エルリィは吹き飛ばされないように、近くの柱に捕まりやりすごす

『同契反応!?まさか………』

ライはその身に覚えがありすぎる同契反応に白煙の向こうを凝視した

そこにいたのは、ピンクの丸いキノコ……ではなくよく見たら小柄な少女。そして、その身体に似つかわしくないランチャーを少女は脇に抱えていた

その横には赤いジャケットを身にまとい、美しい翠緑の風を纏った大剣を構えた少年と、ブロンドの髪をポニーテールにした、二対の黒の曲刀を構えた青年が無数の骸骨のような兵と対峙していたのが確認できた

まさか彼らは

目を見開いたライをフレンは見て

『ライ、知り合いかい?』

フレンの問いかけにライは忌々しそうに軽く舌打ちをこぼしたのち

『知り合いもなにも俺の取引先の要人だよ!!』

その返答に、ユーリは

『ってことは、敵じゃねぇな。に、してもなかなかショッキングな光景だな』

目の前には夥しい、死人兵の姿。所謂ゾンビ兵、この世界で言うスケルトンの類いが奇妙な鳴き声を上げて目の前に立ちはだかっていた

いくらそのような類いの魔物がいるとはいえ、この数は少し異常だった

ライの中にいるジルファはその光景には見覚えがあった

『ライ、この死人兵の数はちと異常だ。それにこのやり口が得意なやつをオレはよく知ってる』

ジルファの言葉に、ライはまさかと反応を示した

『あぁ。これだけの数の死人兵をいとも容易く操ることができるのは龍神ぐらいしかいねぇよ。恐らく操神龍と死龍神だ』

龍神にも色々いるとは聞いてはいたが、まさかここまで邪道を極めている龍神もいるとは思いもよらなかった

『近くに大元は?』

ライの言葉にジルファは気配を探る

『……だめだ。いねぇみてぇ。逃げ足だけは速ェからなやつら、多分もう他の異世界だ』

他の異世界、と聴いて思わずライは本日何度目かわからない舌打ちをこぼした。そうだとしたら今の時点では打つ手がないからである。

『とにかく加勢しましょう。こんな場所で彼らを死なせるわけにはいかないわ』

今まで黙っていたセレナが小太刀を抜き放ち言った

『そうだね!ライの知り合いならぼくらにとっても仲間だ!』

ライは銃を抜き放つ。

これだけ傷が塞がればまだ動けるだろう。ジルファの治癒が聞いているのかだいぶ出血もマシになってきた。

血を失いすぎて少し貧血気味だが、動けないほどではない

『ライ!あまり無茶はすんなよ!』

ユーリは再びその刃を引き抜き、その辺りに鞘を放り投げた。スイッチがはいったときにするユーリの癖である

『そうだよ。前衛はぼく、ユーリ、エルリィがいるんだから!』

フレンだ。

気遣いは嬉しいが、そうも言ってられないのが正直なところである

『わかってるよ!』

そう言って、ライはその手にある相棒の引き金を強く引いた


『なっ、なんですかこの骸骨さんの群れはここはお化け屋敷かなにかですか!!?』

桃色のキノコ……もとい帽子の少女、アークエイルのシスカは思わず声をあげた

『うっげぇ~。アークエイルに所属してからどれくらいかわからないけども、さすがに骸骨は食べる気にはならないわねぇ』

黒の曲刀から女性の声が響く

『あわわわわ、た、た、食べないで~!!僕はおいしくないですよ~!!』

金髪の青年がその長いポニーテールを骸骨さんに引っ張られているのを確認したシスカは『ろ、ローウエェェエン』と情けない声を出していた。

『おいロー!!遊ばれてんじゃねぇよ!!こ、怖くなんてないからな!』

曲刀を構えた彼をローと呼んだ赤いジャケットの青年は大剣を構えつつも少々及び腰である

『…………クー、お化け屋敷ってなに?』

緑の大剣からもまた女の子の声が聞こえたが、こちらの声は曲刀の彼女とはまた違った、ふんわりした、しかし眠そうな声だ

『レン、お化け屋敷ってのは……』

そんな会話を繰り広げていると、死人兵たちは彼らに奇妙な声をあげ襲いかかってきた

『ぎゃぁぁぁあぁあ!!!』

金髪の青年、ローことローウェンは叫びつつも敵の攻撃を受け、弾き返した。怖がりつつも戦い慣れしているようである

『それにしてもここに来てからというもの、出逢うのは人ではなく、なにやらどこぞのゾンビを倒していくゲームや、ファンタジーゲームに出てきそうな生物ばかり!!何なんでしょうね全く!!』

シスカは制服の下から、どこからともなく銃を取り出し死人兵たちを撃ち抜いた。確実に脳天を貫いたその弾丸は、死人兵を一発で地面に叩きつける

『ゾンビとか言うな!!夢に出てきそうだろ!?…………ていうか、オレたちも負けてらんねぇな!!いくぜレン!!西風の阿(ゼフィロスアート)!!』

続いてクーことクード・ヴァン・ジルエットも大剣を振るい、その強烈な風の刃は広範囲の死人兵をバラバラに切り裂いた

レンの刃は、風のように鋭く速く、疾風のごとく鋼鉄さえも紙のように軽く切り裂ける切れ味である


『ちょっとロー!逃げてばっかじゃどうしようもないわよ!!』

曲刀から叱責する声が、ローウェンに渇を入れた

『わ、わかってるよキーア!!はぁ!!』

曲刀と化したキーアを振り抜き、ローウェンは死人兵たちを吹き飛ばした

しかし、死人兵たちは一向に減る気配はない。それどころか更に増えているようにもみえる

もともとシスカたちは、自分たちの故郷でアークエイルが生業としているエディルレイドの保護をするために、反応を追ってかつて訪れた街に向かう途中だった

たまたまそこで、エディルガーデンと言われる街での一件ののちに、旅を続けていたクーとレンと再会して、目的地が同じだったということもあり、どうせなら一緒に行動しませんかということで、行動を共にすることになったまではよかった


飛行挺で移動中のその途中で空に裂け目が現れて、そのままその裂け目に吸い込まれてしまった

飛行挺の制御も効かず、そのまま見覚えのないこの場所に追突して今に至る

『とにかくここを切り抜けないことには……謎のエディルレイドの反応もこの先ですし………』

レーダーにあった謎のエディルレイドの反応はこの先の中枢部からである

シスカがなんとか策を講じようとするが、死人兵たちの攻撃はおさまることはない

このままではいずれにしろ死人兵に食われておしまいである。

レンも先ほどから同契しっぱなしなので体力の方も心配である

『先輩!!』

あれこれ思考を巡らしていると、突然ローウェンの声が響き渡り、気付いたときには死人兵がシスカに剣を降り下ろしているところだった

『しまっ……!!』
『グァアァァ』

シスカが声を上げたのと、死人兵の声が響いたのはほぼ同時

しかし死人兵の剣が届くよりも速く、その雷をまとった電磁砲は死人兵の身体を容赦なく引き裂き、蒸発させた

あまりにも見覚えがありすぎるその閃光に、電磁砲が飛んできた方向を慌てて一行は振り返った


『はは!危機一髪だな!シスカ!!』

ダークブラウンの髪を揺らし、黒のハーフジャケットを羽織ったその男は口元に不敵な笑みを浮かべながら言った

『らっ……ライさん!!?ど、どうして!?』

シスカはさも驚いたような反応を見せた。当たり前か。

『うっせぇな。ここにうちの奴ら(仲間)がいるんでな。追ってきたんだよ』

『ていうかケガしてるじゃないですか!!あらあら珍しい』

シスカの言葉にライは苦笑するしかなかった

『大丈夫か兄さんたち。こいつらは頭を潰すか、炎で身体ごと焼き尽くすぐらいしねぇと動きは止まらねぇぜ』

ローウェンに向かってきた死人兵を蒼破刃で吹き飛ばし、ユーリはいう

『な、なるほど………』

ローウェンは納得したかのように相槌を打った

『レン!クー!大丈夫!?』

吹き飛ばされたクーとレンに駆け寄り、セレナは二人に治癒術を施した

『お前……セレナか!わりぃ!助かった!』 

『……セレナ……久しぶり……』

レンが安心したような声で、セレナに話しかけるとセレナはにこりと微笑んだ

『一気に片付けよう!!こんなとこで足踏みしてる暇は……』

フレンの剣での一撃で、死人兵を吹き飛ばしたのち、エルリィはフレンの背中に自分の背中を預けた

『そうだね!!ない!!いこうフレン!!』

フレンとエルリィの息の合った連携で、死人兵たちは次々と蹴散らされていく

『お盛んなこったな。さて、オレたちもいくかラピード!!』
『グルルゥ……ワン!!』

ユーリとラピードも敵陣のど真ん中に突っ込んでいき、息の合ったコンビネーションで死人兵の攻撃をかわし、いなし、隙あらば蹴りと自身の獲物で切り裂いて頭を砕いていった

『フィアフルストーム!!』

ライは思念術のフィアフルストームで広範囲に渡る敵の死人兵を巻き上げ、切り裂いていく

その威力は前よりも上がっているように見えた

ジルファの力が作用しているのかそうでないかはわからないが、それでも周りの死人兵たちを消滅させるには充分すぎた一撃だった

だが、まだ魔力の根元は残っていた。長居をしたらまた復活しそうである

『走れ!!』

ライの声で、開けた道を全員一直線にその広間の反対側の扉へ

追ってくる死人兵たちは、銃でシスカが、水でセレナが牽制しながら駆け抜ける。そしてシスカは懐から手榴弾を取り出し、そのロックを口で外して、できるだけ死人兵の中心に放り込んだ

『セレナさん!!入り口を塞いでください!!』

言われるがまま、セレナはその入り口を塞いだ。そして

『悪く思わないでちょうだい』

その一言の直後、壁の向こうからは激しい爆音が響き渡った


そしてなんとか反対側の扉に全員飛び込み息をつく

『いっ!!』

飛び込んだ拍子に、ライの傷から止まりかけていた出血が溢れじわりと包帯が赤く滲む

『大丈夫かライ』

ユーリが愛刀をしまいながら問いかける

『……なんとかな……それよりちょっとやり過ぎじゃね?あれ』

激しい崩落音と瓦礫音にライは親指でそれを示した

『はっ……やられたら億倍にして返せと言われてるんでね』

シスカはとても悪い顔でその言葉を口にした

『鬼だ………』

ローウェンは案の定シスカに殴られていた


『助かりました皆さん……なんとお礼を言えばよいか……恐らくあのままだとじり貧状態で、今頃あの骸骨さんたちの胃袋の中だったかもですね……』

骸骨だけの魔物に、胃袋があるかは果たして微妙だがなにはともあれ、大事に至らなくてよかったとライは思った

『あんま無茶してくれんなよ。身内の取引先がつぶれるのはごめんだからな』
『貴方に言われたくはありませんけどね』

シスカの容赦ない一言に、ライは眉間に皺を寄せざるを得なかった

『なぁ。ここいったいどこなんだ?見た感じ、ライ知ってそうだよな』

クーの質問に、ライは頬をかきながら答えた

『ここは《救世システムガルデニア》の腹の中だよ。まぁ言ってしまえば、敵陣のある意味ど真ん中。そして、この宇宙圏は俺が生まれ育った世界だ。お前ら、飛行挺ごと亀裂に飲まれたんだろ?』

亀裂という言葉に、シスカは少し考えたのち

『ひょっとして、あの空に出来た裂け目は、異世界にワープする空間だったてことですか?』

シスカの出した言葉に、ローウェンは予想通り目を見開いた

『ってことは、僕たちはあの裂け目からこのガルデニアって所に飛ばされた……ってことなのか………』

キーアとの同契を解いて、ローウェンは頭をかいた

『そういえば、あちこちで地震が……そのせいで地割れとかたくさん起きてたわね』

キーアである

『そうなんです。僕らもついさっきまで別の異世界に飛ばされていたので、間違いはないはずです。あの地震で起きた亀裂に落ちると、何処ともわからない世界に飛ばされてしまうことが最近の調査でわかっています。恐らくあなた方もその類いでしょう……』

フレンの形式張った物言いにシスカたちは顔を見合わせた

『つまりはあの亀裂に飲み込まれたわたしたちは、時空をさ迷う放浪者となってしまったということですか。なんとかしてもとの世界に帰る手筈を整えなくては………』

シスカの言葉に、レンはあくびをしていたが状況は理解したようである

『まぁその辺りは大丈夫だ。ライに頼めばすぐにでももとの世界に戻れるさ』

ユーリである

『そうしたいのは山々なのですが、私たちはこのガルデニアに入ってからこの奥に謎のエディルレイドの反応があるようなので、それを確認もしなければ………』

シスカの言葉に、ライはふむ、と一つ相槌を打ったのち

『なら、一緒に行動しないか?地理があるやつがいた方がいいだろ?』
『あはは……実のところ道に迷ってしまっていたところをあの骸骨さんたちに襲われてしまったんでした……』

シスカは苦笑しながら言った。

交渉は成立したようである

『よろしくお願いいたします。わたしたちはエディルレイド完全保護協会アークエイル。わたしはシスカといいます。』
『僕はローウェン。気軽にローって呼んでください』
『キーアよん。よろしく!』

そしてクーとレンも歩み寄り

『オレはクード・ヴァン・ジルエット!クーでいいぜ!』
『………レン。真名は長いからレンでいい………』

二人の挨拶にユーリは苦笑した

『オレも長いのは苦手だからな。クーとレン、シスカにロー、キーアだな。オレはユーリ・ローウェル。ユーリでいいよ』

『ザーフィアス帝国騎士団団長のフレン・シーフォです。よろしく』

『わたしはエルリィ・シザード!帝都の下町の武具屋の看板娘やってます!武具は当店で是非♪』

『おお。こんな状況でもエルリィさんのお家は商魂逞しいのですね!。ま、何はともあれよろしくお願いします!───ところでエルリィさんのお店は火薬とか銃とかもありますかね?』

『勿論あるよ。なるほど!シスカちゃんは銃火器が得意なんだね。───あ。あと銃だけじゃなくてその華奢な身体の見かけによらず格闘技も得意ですねお嬢さん?』

エルリィにシスカの戦闘スタイルを看破され、その場にいたローウェン、キーア、クーとレン、シスカは目を見開いた。

『なんと!!?私が使っている戦闘スタイルを見ただけで!!?』

『エルリィは家のご両親の仕事を小さい頃からずっと見て育ったからね。一目見ただけで、その人がどんな戦闘スタイルなのかを看破しちゃうんだ。』

フレンの言葉に、シスカたちは納得してしまった。急に賑やかになったこのガルデニアで、ライとセレナはこんな状況にも関わらずつい笑みをこぼす。

『よし。なら中枢部だな。あそこはこのガルデニアの心臓部がある。……そこに正体不明のエディルレイドがいるんだな?』

シスカが取り出したレーダーを見ながらライは言った

『はい。もし悪用や迷っていたりするのなら、保護してあげなければ』

とにかく先に進むことなった

◇◆◇◆

しばらく魔物たちを切り伏せながら歩いていると、レンがなにかに気づいた

『……みんな、あそこに誰か倒れてる………』

相変わらず眠そうな顔をしているが、意識はまだあるようだ

『ほんとだ。おい!大丈夫か!?』

クーが倒れている3人の少年少女に駆け寄った

一人は、何処かで見たことある桃色の髪が特徴的な、襟足で髪を切り揃えた少年。年の頃はベリルたちと同じぐらいだった。

その隣に、同じく長く美しい黒髪を腰辺りまでに伸ばした少女。少女は桃色の髪の少年の手を握るように倒れていた

兄妹かもしれないとライは思った

しかし誰かににているような感じも拭えない

もう一人は、美琴と同じく常盤台中学の制服を身につけた、上条にも美琴にもよく似た少女である

『彼らは、一体……』

セレナが素直に口にした。

『恐らくシスカたちと同じく亀裂に飲まれてここにたどり着いた類いだと思うが……それにしても誰かに似てるな。』

見たことある顔だとは思ったが、それが誰かはこの場にいる全員、皆目見当もつかなかったが

すると桃色の髪の少年がゆっくりだが瞳を開けた

『んん……ここは……』

目を開けた少年にライは目線を会わせた

『ここは救世システムガルデニアの中だよ。』

少年はライの方を見て、急に目を見開いた

『ライさん!!ライさんですよね!?』

『…ん…!!?』

少年がいきなりライの名前を呼んだことに、この場にいた全員が驚いた

『……君、なんで俺のことを』

その一言に、桃色の少年は『あ。』と一言口にした

『……ごめんなさい。まさかまた逢えるとは思ってなかったので……』

また?ライだけではなく、この場にいる全員が不思議そうに顔を見合わせた

『……あ。自己紹介がまだでした。オレはブレイブっていいます……亀裂に飲まれて気付いたらここ、に………』

ブレイブは、ユーリとフレンの顔が視界に入る。 

すると、ライの時よりも更に動揺した顔を見せた

『………?なんだ?言いたいことあるならハッキリ言えよ?』

ユーリがブレイブを見ながら言う。すると、ブレイブは『…いえ』とだけこぼしただけであった


『……ん……お兄ちゃん……?』

そうこうしていると、ブレイブの手を握ったままの少女も目を覚ました

『アンリ!大丈夫か!ケガないか!?』

ユーリとフレンから視線を外し、アンリと呼ばれた少女の方へ視線を戻した

『…大丈夫…あっ……お……』

アンリがユーリを見て、途中まで言い掛けた言葉をブレイブは慌てて彼女の口を押さえて黙るように制した

『…いっつ~。もぉなんなのよ!!いきなり亀裂に落ちたと思ったら砂の中とか!!』

もう一人の少女も起き上がったようである

『……あ!ライさんとセレナさんですよね!?』

制服の少女もライとセレナまで知っていたようである

『……そうは言っても、俺たちは君たちと面識は……』

ライの一言に、上条と美琴似の少女は

『あ。そうだよね。ごめんなさい。』

未だに混乱している一行に、子供たちは押し黙る

『詳しいことは歩きながら話していいですか?その、急いでるみたいだから……』

ブレイブの一言に、詳しいことを聞くために取りあえず中枢部を目指していくことになったのだった


◇◆◇◆◇◆


『未来からきた!?』

ブレイブは歩きながら、自分たちがここにいる経緯を話始めた

『はい。自分たちはこの世界から20年後の世界からきました。オレとアンリはそれぞれ20年後のテルカ・リュミレース、麻琴は20年後の学園都市からです。』

学園都市といえば、たしか上条たちがもといたという都市である。

ちなみに横浜にあるので、実はとある異能力集団の『武装探偵社』と『ポート・マフィア』の縄張りとかなり近かったりする

学園都市側が、そのマフィアとその探偵社がある領地に少しだけ差し掛かっているので、マフィアと学園都市は不可侵契約を結んでいる

中立区域で有事が起きればすぐにお互いのセンサーに引っかかるのだが

『…20年後って、オレらもう40越えてんな。エルリィはまだか。』

ユーリの言葉に、ブレイブは苦笑しながら相槌を打った

『20年後の世界かぁ。どうなってんだろう……』

エルリィは首を傾げながらいう

『……皆さんまだまだ現役貫いてますよ。ただ、あまり未来のことを話すとうるさい人がいるので』

麻琴の言葉に、この場にいる全員は首を傾げるしかなかった

『たしかに、未来を知るのはオレら龍神でも禁忌だ。ただ、オレは刻を司る龍神だから、ある程度の未来は見えちまうがな。未来を視るのが得意なのは、星神龍、星を司る龍神だ。そいつは星を視ることで過去から未来までの出来事を聞くことができる』

ジルファの言葉に、ライはそうなんだ、と頷いた

『ジルファくんもいるんだ!』

何故わかったのかアンリはパッと瞳を輝かせた

『とにかく、ブレイブさんたちは20年後からタイムトリップしてきたということですね?信じがたい話ですが、今のこの世界の状況を見る限り、信じるしかなさそうかも………』


シスカたちも、空間の裂目を通りこの世界に飛ばされたのだ。信じるに値する話だった

『まさかこの異変……この時代だけじゃなく未来まで巻き込んでんのか……』

ジルファの言葉に、反応したライより先にエルリィが口を開いた

『それ、って、勘なんだけどこの時代で起きたことが原因で未来にまで異変が生じてるってことなんじゃ』 

『!?』

またしてもこの場にいた全員が息をのむ。するとブレイブたちは言いにくそうにその言葉を発した

『……エルリィさん……それは間違っていませんよ。そうです。この時代に起きる"有り得ない事象"のせいで、オレたちが住んでいた未来がめちゃくちゃになってしまったんです』

まさかビンゴだとは思わなかった一行は、ますます混乱していた

今まで、神聖帝國騎士団と名乗る人たちに襲われたりしませんでしたか?

神聖帝國騎士団。その単語にライたちは思い当たる節があった

『……まさか、奴らのせいで未来は……僕とエルリィがさっきまでいた世界もその神聖帝國騎士団の脅威に見舞われていたんだよ』

フレンの切迫した声音に、ブレイブは頷いた。アンリは兄であるブレイブの手のひらをぎゅっと握った。そして更に続けたのはユーリである

『奇遇だなフレン。俺とラピードもさっきまでいた世界で同じ組織の名前聞いたばかりだぜ?』

『…20年後の全ての世界は、この時代に起きている異変のせいで、大地は荒れ果て、ほぼ奴らの手に落ちています。たくさん人も死んだ。僕たちの両親も……行方知れずに』

ブレイブの衝撃的な告白に、一行はただ立ち尽くすしかなかった
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