第8章

【ギルドの巣窟ダングレスト】

トルビキア大陸にある巨大都市であり、ここには数多くのギルドが点在している。

ユニオンとよばれるギルドの連合組織があり、五大ギルドの【天を射る矢(アルトスク)】【幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ】【遺構の門(ルーインズゲート)】【魂の鉄槌(スミス・ザ・ソウル)】【紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)】が中心となっていたが、紅の絆傭兵団、遺構の門は実質解体されており、2つ空席になっている

『そういや、ガウスさん今ユニオンにいるはずだよな?』

ダングレストにつき、言葉を発したのはライである

『あ、言ってたね。』

リョウである

『ならちょうどいいや。俺、ユニオン行くけどお前らどうする?』

そう仲間に話すライに、言葉を返したのはジュディスである

『私は先にみんなを連れて宿をとっているわ』

リルハは少し考えたのち
『私はライお兄ちゃんについてく!』

さらにロリセも続く

『あたしも暇だし、ライさんについてこうかな』

『あたしはその辺りをふらつくから、適当に用事済ませて来なさいよ。いつもの宿でしょ?』

リタはヒラヒラと手を振り、結界魔導器のある広場の方に歩いていった

『あ!待ってくださいリタ!私もリタと行きます!』

エステルはどうやらリタと行くようである。

『ならユニオンに行くのは、俺以外はリルハちゃん、ロリセちゃん、エルリィ、リョウだな?』

『ユニオンにはカロルやおっさん、クリントさん、ティソンさんにナンがいるから手間はないだろうし…ここ歩くならこっちの方がいいか』

昔ほど騎士とギルドの軋轢は無くなったがまだ騎士に敵意を持つ者もいるので、リョウはギルドの人間であるフヨウへと姿を変えた。
ロリセとリルハは大変驚いた上に顔合わせ

『おっさん?』
ロリセは頭に疑問符を浮かべながら眉をわずかに寄せた

『おじさんがいるの?どんな人なんだろう?』

ライはバツが悪そうに『あー…』と声を上げた

すると続けたのはエルリィであった

『……あんましリリルちゃんたちを近づけたくはないんだけど仕方ないよね……ユニオンに行く以上は』

あまりいい顔をしないライとリョウ、更にはエルリィに、リルハとロリセは不思議そうに再び顔を見合わせたのだった

『大丈夫だよ。レイヴンおじさんが何かしてきたら私が蹴るから!』と、エルリィはにっこりと微笑んでいた。


【ギルドユニオン本部】

ダングレストの中心に聳え立つそれは、まさにギルドの象徴とでも言うべきの建造物で重そうな扉はそれだけで存在感がある

『ここがギルドユニオンの本部よ!』

ライたちは、ギルドユニオン本部の扉の前まで来ていた

ロリセとリルハは、その重厚感のある建造物に、目が点になりかけたがすぐに我に返った
そんな二人にライは苦笑を漏らすが、リョウが『大丈夫だよ』とにっこり微笑んだ

『基本誰でも入れるから、そんなに緊張しなくていいよ』
『う、は、はい……』
『や、そんなこと言われてもな……』

ロリセとリルハは緊張がほぐれないようである

ライたちがギルドユニオンの扉に手をかけようとした時だった

『あ!エルリィにフヨウ!おーーい!!』

少し高めの変声期前の少年の元気な声が響き渡った

『この声……』

フヨウが振り返ると、そこには背の低い茶髪をリーゼント風にセットし、肩から大きな鞄を提げた少年が立っていた

『やっぱりカロル!久しぶりね、元気だった?』
『うん!元気だったよ!今ちょうど仕事から帰ってきたとこなんだ!』

カロル、と呼ばれた少年はリルハとロリセを見て『誰?』と視線をフヨウに映した

『あ、初めまして。リルハ=フルバスターです』
『ロリセ=シュトラウスです。よろしく』
『ロリセとリルハだね。よろしく。ボクはカロル=カペル。ギルド、凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)の首領だよ!』

人当たりのよい笑顔で、カロルはリルハとロリセに挨拶をした

すると今まで黙っていたライが口を開く

『よ、カロル。相変わらず元気だな』
『ライもね。』

なぜこの二人に面識があるのかというと、ライはこのダングレストにあるギルドユニオンによく顔を出しており、五大ギルドの一角を担っている『幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)』の社長(ボス)、カウフマンと商談関係で繋がっており、ドン・ホワイトホースの生前に商談のためにダングレストを訪れたことがあった

カロルとはその時に出逢ったのだ
それ以来、凛々の明星とライは友好協定を結んでいたりする

『エルリィも久しぶりだね!!ガウスさんからそろそろダングレストに来るって聴いてたけど
そういえば、今日はまたどうしたの?リョウがいるってことは、リタとエステルとジュディスもいるはずだよね?』
『鋭いなカロルは。ジュディスは先に宿をとってくれてる。リタとエステルは結界魔導器のとこだよ』

フヨウはそう簡潔に説明すると『あぁなるほど』と、カロルが相槌を打った

『それで?あのエロ親父は?一緒じゃないの?』
『あぁレイヴンなら……』
『ん?おっさんのこと呼んだ?』

いかにも軽薄そうな声が、全員の背後から聞こえた。フヨウはその声を聞いて軽くため息をつく

視線の先には、紫を基調とした色の生地の着物と腰に短刀を挿した無精髭を生やした年配の男性が立っていた

『……はぁ。いるとは思ったけどあんま逢いたくなかったわ……』

『あら。感動の再会とは思えないおっさんの扱い……フヨウちゃん酷くない?』

そこに突っ込みを入れたのはエルリィだった

『いや日頃の行いじゃない?』

なにはともあれこの男こそ『天を射る矢』の一員で、ドン・ホワイトホースの部下だった男レイヴンだ

その正体はザーフィアス帝国騎士団の首席隊長のシュヴァーン=オルトレインその人だったが、実は貴族の人間でもあり、星喰みの一件で1度はユーリたちを裏切り、剣を交えるまでに至った

しかし、凛々の明星の名のもと裏切りは不問とされメンバーからのキツい一発だけですんだのだった

レイヴンは切ない想いを抱きながらふと、視線を游がすとロリセとリルハが目に入る

『な、なんだこの美少女二人組は!!?嬢ちゃんやリタっち、ジュディスちゃんともまた違ったタイプの女の子!?ちょっとちょっと!?どういうことよこれ!?』

早口で捲し立てるレイヴンに、フヨウとエルリィはまた始まったと至極鬱陶しそうな目線でレイヴンを見た

『……………ここに来るまでに出逢ったんだよ。ロリセとリルハちゃん』

案の定、いきなりのレイヴンの女性好き発動にリルハはドン引きして、ライとエルリィの後ろに隠れていた

『……………………』

ロリセは無意識に愛銃に手をかけておおよそ人間を見る目とは思えない目で、レイヴンにその矛先を向けていた

『ひっ!なかなか過激なお嬢さんなのねロリセちゃんて……』
『いえ、貴方に個人的な恨みはないんですが、ちょっと嫌なこと思い出しちまって………』

ロリセがひとつ深呼吸をして、愛銃をまたしまったのを見計らい、エルリィが口を開いた

『ねぇレイヴンおじさん。ここにフレンとお父さんいないかな?いたら取り次いでほしいんだけど』
『お。エルリィ!久しぶりじゃないのー。またちょっと身長伸びた?で、フレンちゃんとガウスの旦那なら、ケーブ・モック大森林にまた魔物が出たとかで今そっちに行ってるわよ』

『だそうだよ、ライ。入れ違いみたいだね……』

リリルにレイヴンがエクスプロードで焼かれているのを後ろにライはため息をついてどうするかなと考えていたがその空気を破ったのはレイヴンだった

そして復活したレイヴンがライたちを見てにこりと胡散臭い笑みを浮かべた

『お宅らがここに来た理由は大体わかってるよ。今回のザーフィアスの件でしょ』
『さっすが、おっさんのくせに話が早いレイヴン様♪』
『もっと誉めちゃっていいのよ』

レイヴンの調子のよさに、ライ以外のメンバーは呆れと苦笑が入り混じったようななんとも言えない顔をしたのだった


散り散りになっている仲間たちをまず集めてライたちはギルドユニオンの本部にある大首領の私室に集まっていた

ドンが亡きあとこの部屋は大事な話がある時などに使われているようだ

『さてさて、みんな揃ったところで今回のザーフィアス襲撃の件について、集まった情報を洗いざらい晒しちゃいますかねー。みんなも気付いたことあったらじゃんじゃん聞かせてね。人払いはしといたから』

レイヴンが皆集まったことを確認したのを皮切りにドンのテーブルに置いてあった分厚い資料を持ってきた

『騎士団の情報量より多い。』

フヨウが集まっていた資料を見て、至極驚いた顔した。それはそうである。ユニオンと帝国だけの情報だけじゃなく、俺の協力者であるとある世界の情報通の連中にもそれとなく手を回しておいたからだ。

『ユニオンと帝国の情報網、あとこれライちゃん繋がりよね匿名の資料。期待出来るんじゃない?まず、今回のザーフィアスの襲撃とノールのエアル暴走の件の黒幕の特徴なんだが、その両方に同じ男の目撃情報があったのさ』

『……同じ男?』

リルハが首をかしげる

『そそ。特徴は左頬と首の左側の傷らしいよ』

『……左頬と首の左側に傷がある男………』

エルリィがゆっくり暗記するようにその特徴を復唱した
レイヴンは続ける

『……で、お前らも気付いたと思うけど、最近の魔物たちの中にはこの世界には存在しない魔物の種族もちらほらいたはずだ。見た目はよく似てっけど全く見たことのない種族がね』

それにはリタが答えた

『そうね。さっきそこで魔狩りの剣のナンにあったけど、数多くの魔物たちを狩ってきた彼女たちでも見たことのない魔物が増えたと聞いたわ。今出逢った奴らの情報をまとめてくれてる。』

次にエステルが

『魔狩りの剣は魔物を狩ることが生業ですから、まだ新しい魔物がいるかも知れないと言って、すぐに次の魔物退治の仕事に出てしまいましたけど……』

『そういうこと。魔物の件は魔狩りの奴らが言ってた通りだよ。魔物の件は連中とギルド、帝国騎士たちに任せとけば大丈夫っしょ。ただ、あちらさんも情報を欲しがっているから、何か気づいたことがあれば仲介者を通して提供してほしいってさ』
『あぁ。わかったよ』

レイヴンの言葉に、ライは肯定の意を示す

『エアル暴走の件だけど私とライがノールで魔物退治をしていた時に、結界魔導器があった場所に壊したはずのヘルメス式魔導器が魔核になって、辺りのエアルを刺激していたみたいだわ』

ジュディスだ

『やっぱり!ヘルメス式はエアルを大量に消費するからノールの異常に関してはそれしかないって思ってた』

リタがジュディスの言葉にそう返すと、リルハとロリセは首をかしげる

『あ。リルハとロリセはこの世界のこと、あまり知らないんですよね。後でまとめてお話しますね、この世界のこと』

エステルは二人にそう促した

『うん。ありがとうエステルお姉ちゃん』
『…ま、それでお願いしますね』
『話はまとまった?嬢ちゃんたち』

レイヴンが確認を取ると、エステルはうなずいた

『んで、その傷の男はテルカ・リュミレース全土に手配書が回ってる。遅かれ早かれ、情報は入ってくるんじゃない?』

レイヴンの後に続いたのはカロルだった

『それで、傷の男には大きなバックアップもついてるんじゃないか、ってヨーデル殿下とフレンが。この情報はザーフィアスに残ってる騎士たちや、一部の人にはフレンが書状を送ってくれたみたいだよ』
『フレンとヨーデルが……』

エステルは二人を信頼している。だから、今回の件に関して一番協力をしてほしい存在だったのだろう。ほっと安心した表情で胸を撫で下ろした

『そういえばリタたちがエフミドの丘で奇妙な現象を見たと聞いたのだけど』

ジュディスがリタに視線を移す

『そうなのよ。エフミドの丘でガットゥーゾが縄張りにしていた場所に、空間に裂け目が出来ていたの。物理的には有り得ない現象がね』
『そうだったのリタっち。その情報はまだ未確認だったわ。さすが天才魔導少女』

レイヴンの称賛に、リタは顔を赤く染めた

『ほ……誉めてもなにもでないわよおっさん』
『あら手厳しい……』

リョウたちがあのエフミドの丘で一戦交えた相手がいると聞いたが、ライはリタの得た情報に、少し眉を寄せた

『……どうしたんです?ライ』

エステルがそんなライを見て怪訝そうに声をかけた

『……空間に裂け目……ね。ブラックホールとかか?』
『あれは重力を持ってしまった天体がバランスを崩して重力崩壊を起こしてしまった結果よ。あの亀裂にそんなのは感じなかったし。少ししたらすぐに消えてなくなっちゃったし』

ライとリタの会話に、場にいる仲間たちは難しい顔をしている
ジュディスがそんな仲間たちを見かねて、口を開いた

『……亀裂に関してはまだ情報が少なすぎるわね』
『亀裂……かぁ………』

ロリセがふと思い出した風に言うと場にいる全員がロリセに顔を向けた

『……あんま信憑性ないかもしれないけど、あたしあの地震が起きて亀裂に飲み込まれたんですよ。で、目を覚ましたらいつの間にかデイドン砦にいたんだけど…………』

ロリセの告白にリタが目を見開いた

『…はぁ?それって……』

『まるで亀裂から落ちたことで惑星間を移動したような………、ってこと?』

エルリィが不思議そうに首をかしげた

『何言ってんのよエルリィ!普通にあり得ないでしょ……地面の亀裂から別の世界に来たとかそんな非科学的な……』

リタが眉間にシワを寄せて難しい顔をした。

そう、それぞれの世界にはそれぞれのその世界の技術というものがある。ライのソーマ技術然り、かつてこの世界にもあった魔導器技術、リルハの元いた世界の魔道士が覇権を握るための技術の世界。

などなど挙げればキリがないが、そのそれぞれの世界の特色とでも言うのだろうか。
とにかくその技術を合わせてみれば割と成功してしまうというソレはあるのである。

そんな風に話を展開していると、部屋のドアが勢いよく開け放たれる

『…お前たち大変だ!!』

ドアを開けた主は顔に大きな傷を残した金髪の男だった

『ハリー?どうしたよ』

レイヴンがハリーをいぶかしげに見る

『街の中に魔物が!!かなりの数だ!俺たちでは手に終えない!手伝ってくれ!』

ハリーの焦燥しきった声に、一同は息を呑んだ


『魔物はすべて殲滅よ!』

まだリタと同い年ぐらいの女の子が大の大人に指示を出している。彼女は魔狩りの剣のナン。

元【魔狩りの女帝】と恐れられたエルリィの母親のエミリアに憧れを抱く少女で、魔狩りの剣の幹部の一人だ。

そういえばティソンとボスのクリントがいないが、別件で出ているのかもしれない。

あの星喰みの一件では幾度か刃を交えたこともあるが、今では頼もしい存在である。

『怯むな!ダングレストは絶対に守るんだ!!』

ライたちがユニオンから出て、まず広場で目にしたのは次々に街の人々がそれぞれの武器を手に魔物たちに果敢に挑んでいく姿だった

『…ちょ!いくら結界がないからってこんな数が街にいるなんて普通じゃないよ!』


『カロル!アンタもこっちきて手伝いなさい!』

素直にカロルを頼るようになったナンに呼ばれ、カロルはナンと一緒に魔物へと向かっていった

『一体何がどうなってやがる!』

『…まさかこれも例の男の仕業なんでしょうか?』

ライとエステルが武器を手にして魔物たちを見る

『ぐだぐだ言ってないで!道作るから蹴散らすわよ!おっさん、リルハ!手伝って!』
『うん!任せてリタ姐!』
『人使い荒いねぇ相変わらず。まぁリタっちらしいケド』
『魔物ごと焼くわよおっさん!!』

リタとレイヴン、リルハが詠唱の態勢に入り、前衛の者は自身の獲物を手に陣形を作った

『狂気と強欲の水流、旋嵐のごとく逆巻く!【タイダルウェイブ】!!』
『鋭き風はさすらいし男の友、【エアスラスト】!!』
『【ウォータースライサー】!!』

リタとリルハの水、そしてレイヴンの風の魔術が魔物たちに襲いかかる

『ギャアァアァア』

魔物たちの断末魔が響き渡り、今の一撃で広場に通じる道が出来た

『いくよみんな!!』

フヨウの号令とともに、前衛とロリセは駆け出した

飛び込んできた彼らに気付いた魔物のいくらかがこちら側に標的を移す
どれもこの辺りに生息する魔物たちだ

『見たことない魔物の対処よりかはマシか?』

ライが愛銃を抜き放ち、襲ってきたカマキリのような魔物を小気味よく撃ち抜いた

『まぁマンティスは石化攻撃が厄介だけど気を付けてれば……もし石化してもエステルが回復してくれるからね!』

フヨウはそう言いつつ、空を飛んでいる魔物の対処を

『ええ!任せてください!スターストローク!!』

エステルも剣の心得があるので、衝撃波を飛ばしてマンティスを吹き飛ばした


『…任せてくださいってな…やれやれ、石化だけは勘弁だぜ!』

ライが2体目のマンティスに近寄られるも、そのマンティスをその足で吹き飛ばし、そのまま撃ち抜く。
割とアクロバティックな攻撃も得意な男は皮肉る

『このあたりの魔物だと、毒麻痺持ちは普通にいるから気を付けてね!!………はぁっ!!』

そうエルリィは元々身軽な体格を活かし、こちらに向けて泡を吐いてきた巨大な亀の魔物、トータスの一撃を交わし、その鍛え抜かれた足技で、硬い甲羅ごと粉砕して、トータスを絶命させた。

なかなかにスプラッタな光景なのは間違いはないのだが、これも致し方ないだろう。甲羅や爪の方は割と装備品などの素材にもなるのであとで専門家に剥がしてもらって有効利用させてもらえばいいだろう。


『りょーかいっす。それにしてもエルリィさん、見掛けによらず結構大胆な戦い方なんだな……あんな華奢な身体にどんだけの胆力と膂力あるんだよ……』

と、ロリセは感心しながらそう言っていた。

『エルリィはギルドユニオンの重鎮2人の娘さんですから。あの戦闘技術は2人に、主に【魔狩の女帝】と名高いお母様、エミリアさんに叩き込まれたんですって。あの人の逸話は今は亡きドンの次くらいに有名なんです。わたしも最初聞いたときは驚きました。』

エステルは、剣術と魔術を交互に使い分け敵を確実に屠っていく。近寄ってきた魔物には剣術で、遠くの魔物は光の魔術でそれはもう器用にだ。戦い慣れしている。本当に帝国の姫君とは思えないほどの踊るように舞う剣術と光属性を中心にしたそのスタイルは美しいの一言に尽きる。

そして彼女とうまいこと連携を繋いで、その隙をついて、ロリセも虫の魔物へと的に絞り込んだ

『……あぁなるほど。どーりで
あと、見えてるっての。……焼き尽くす!!』

ロリセが火炎を纏った銃弾を辺り一帯の魔物たちに同時に放つ。その銃弾は扇状に広がり、着弾と同時に魔物たちを焼き尽くした

『頼もしいわね、私も負けてられないわ。月光・烏!!』

ジュディスは後方に跳んで槍を投げ、爆発を起こして魔物を貫くと

『ジュディスちゃんかっくぃい~♪おっさんますます惚れちゃうわ♪』
『あら、ありがとう』
『ふざけてる場合!?』

レイヴンの称賛に素直に礼を言うジュディス、そんな二人に突っ込みを入れるリタは見慣れた光景であった

『それにしても、数が多すぎる……やはり誰かが扇動してるとしか思えねぇ……』

ライは敵を光の思念術、ホーリーランスで貫きながらぼやいた

「魔槍闇双撃!!まったく…このままじゃ消耗戦ね…」

フヨウはライと背中合わせになるような陣形で魔物と相対する

『…近くには…いるかな……頭潰した方が早くない?』

『俺達の足止めが目的か、それとも本気で殺しに来てるかのどっちかだろうな……』
『なんのためにだよ……まさかまたなにか良からぬことを……』

『ユーリがいたら明星二号で一気に吹き飛ばしてくれるんだけどなぁ。今何処で何してんだろう……』

カロルがそんなことをつい口にした

『…ま、あいつもあいつで何か考えがあって行動してるはずだぜ……』

『でもこれじゃあ、消耗戦よ!どうにかしなきゃ!結界ももう………』

リタが布で敵を吹き飛ばしながらバックステップで魔術を放ち、地中から溶岩を噴き上げさせ、魔物を消滅させる

『やるしかねぇってか!』

その時、巨大な地鳴りと共に地面が大きく割れる嫌な音がした
その地割れの奥深くから何か迫ってくるような音もした


────何か来る!! 

『やべぇ!!全員退避だ!!』

『えっ!なに、聞こえません!』

ライの全力の叫びに地割れ近くにいたエステルは振り返る

それと同時に巨大な影がエステルと周囲にいた民を覆い尽くした

『エステル、後ろ!!!』

リタの切羽詰まった叫びにエステルは巨大な影に振り返った

地割れから顔を覗かせていたのは、見たことのない巨大な芋虫のような魔物だった

しかしライはそれには見覚えがあった

ゼロムだ


見たことのない魔物と、その異様な容貌に、エステルは体が動かなかった

獲物を捉えたその芋虫、名前はサルビアという──
そいつは、エステルを喰らおうとその巨大な口を開いて襲いかかろうとした

『エステル!!』
『嬢ちゃん!!!』

リタとレイヴンの叫びなど露知らず、サルビアは彼女に狙いを定めた

たまらずフヨウはエステル向かって駆け出した

『まってフヨウ!!!』

エルリィが止めようとするがフヨウは構わなかった

『エステルーーーーーッ!!!』

フヨウはエステルに手を伸ばす。しかし、間に合わない

もうダメだとエステルは覚悟を決め、目をキツく閉じた

刹那
















『エステリーゼ様離れてください!!
───聖なる槍よ、敵を貫け!!!ホーリーランス!!!』

詠唱する声が聞こえ、エステルは咄嗟に飛び退いた。
直後、サルビアを中心に魔方陣が展開され、空中から真っ直ぐに四方八方から無数の光の槍が襲い掛かる

それはその巨体を見事に貫き、サルビアは断末魔を上げながら地響きを上げその場に倒れこんだ


フヨウ「ホント…私以上にいいとこ取りがうまいったらありゃしないじゃない…」

私は、安堵の息をはいたのは束の間、気が抜けたのか地面にへばってしまった。

『君が言えた義理かい?君が思ってる以上に君はいいとこ取りしてるよ?』

蒼空のマントを靡かせ、金色の美しい髪が黄昏に染まった空の中、風に揺れている。   
凛とした優しげであり、涼し気な笑みを浮かべている存在のそのあまりにも見慣れた立ち居振舞いに、エステルは思わず瞳に涙を溜めていた

『……フ……フレン………』

そう

現ザーフィアス帝国騎士団長

フレン・シーフォがそこにいた

『グアァアァアアッ』

間を入れず、ライたちの背後から魔物たちが襲いかかる

『やべっ!!』

ライは咄嗟に銃を構えようとするが、それより先に魔物たちは巨大な戦斧で凪ぎ払われた

『おいおい情ねぇじゃねぇか若いヤツらがよぉ!!そんなもんじゃねぇだろうが!!?』

リョウとライには聞き慣れた怒号だった

筋肉質の逞しい体が、魔物たちを凪ぎ払っていく

『ガウスさん!』
『お父さん!!おかえりなさい!!』
『……面目もありません……』

上からライ、エルリィ、フヨウである

『待ってたよガウスの旦那ぁあぁあ!!』

レイヴンが感極まった声を上げるが、ガウスは愛娘に出迎えられたのち、ニヒルな笑みを浮かべるだけであった

『やっと帰ってこれたと思ったらレイヴン、フヨウよぉ………』

ガウスの怒り心頭といった威圧感に、レイヴンとフヨウは思わず肩をビク付かせたがガウスは構わず続けた


『てめぇらがいながらなんだこのザマは!!もしや手ェ抜いてねぇだろうな、あぁ!!!?』

『おっさんが!?ないない!絶対ない!!あぁ……旦那に怒鳴られるとマジでドン思い出すわ………』

『確かに手間取ったわ。流石に私はこのおっさんと違って真面目にしてたわ』 

そう素直に謝るレイヴンとフヨウ。  

もはやカロルは硬直してしまっていた。

無理もない。五大ギルドの一角を担う魂の鉄槌のNo.2が目の前にいるのだから。

ガウスはドン・ホワイトホースがユニオンの大首領の座に座ったときからの親友であった。

魔狩り時代のエミリアや、もうすぐ成人間近の長女のエルリィと、妹のマルリアの二人を孫のようにかわいがってくれていたので、ドン・ホワイトホースが介錯されたところを目の前で見ていた。

その偉大なる存在を目の前で失った悲しみは計り知れなかっただろう。


『先輩!!大丈夫ですか!!朝霧八雲、ただいま戻りました!』

そういえばあまりにも影が薄すぎて忘れ去られているであろう彼もダングレストにいたというのを思い出したライだった

『いえーい。ミレイシアちゃんもいるぞ☆』

八雲の横から鮮やかな赤い髪を揺らした女性がVサインしながら顔を出した

『八雲、ミレイシアちゃんおっかえり〜』

その場にいる全員、あまりの彼らの影の薄さに今の今まで気付かなかった。

ライは気配を感じていたからなんとなく近くにいるだろうとは思っていたが一応紹介しておこう

彼の名前は朝霧八雲。ライの後輩であり、リョウよりも以前から付き合いがある一人だ。
そのあまりの影の薄さに、諜報活動を主に仕事としている男である

裏の世界では彼に得られぬ情報などないとも言われているが、八雲本人はライにしか従っていない

以前不運にも生き倒れていたのをライに拾われ、それからはライと行動を共にしている。

赤い髪のスーツの女性はミレイシア。珍しい自身を武器化出来る力を持つ種族の女性だ。

『えっと………誰?』

リルハが不思議そうに首をかしげた

『あぁ。こいつらは朝霧八雲とミレイシア。俺の仕事仲間だよ』

ライがそう答えるとフレンが愛刀を抜き放った

『詳しい話はあとだ!まずはこの
魔物たちを一掃する!!!』


ガウスとフレンの参戦のおかげで勢いづいた仲間たちとダングレストの住民たちは、再び勢いよくそれぞれの武器を振るい、一気に巻き返しつつあった

『面倒くせぇな。要はコイツらを吹き飛ばしちまえばいいんだろ』

ガウスが戦斧をドカリと突き刺して言った

『平たく言えばそうなんですけどね。一気に数が減れば………』

ライは銃のカートリッジを切り替えながら返す。するとそこまで言ったライは一度手を止め、ガウスを見やる

『やってくれるんですか』
『バカ言え。トドメ刺すのは若い衆の仕事だろ、オレはちぃとばかしその手伝いをするだけだ』

そう言うとガウスはその逞しい右拳を大きく振りかぶり

『爆砕拳!!!!』

オーラを纏った右拳がダングレストの石畳にめり込んだと同時に魔物の足元にひび割れが生じ、そこから炎が燃え広がり魔物たちは叫び声をあげながら焼き尽くされた

今ので大半の魔物は跡形もなく消え去ったようだ

そのお陰か、中央に聳えたっていた巨大なカマキリの魔物への道が開かれ、ライたちは顔を見合わせ、頷き合った

『エステル!前は私とフレンに任せて回復に集中して!』

エルリィがエステルにそう促すとエステルは

『わかりました!フレン、エルリィ、頼みます!』
『お任せください(任せなよ)!!』

エステルは、フレンと右手、エルリィの左手同士を両の手のひら同士をパシンと合わせたのち、入れ替わるようにして後衛へと下がった

前衛であるフレン、エルリィ、ジュディス、カロル、フヨウ、八雲、ミレイシアの5人は一気に前に駆け出す

まずはジュディスが先陣を切り、空高く飛び上がったがそれは囮である。

巨大マンティスはその巨大な鋭い鎌を大きく横に凪ぎ、前衛のフヨウとカロルを吹き飛ばした。

それを見たエルリィが、我先にとマンティスへと軸足の左はしっかり大地を踏みしめ、精神集中しながら狙いを定め、利き足の右脚には圧縮した獅子の波動を作る。

そしてその右脚を使って一気にそれを振り抜きマンティスへとぶつけた。【獅子戦吼】。格闘家ならまず初歩中の初歩で覚える奥義である。エルリィの場合は、その自慢の脚力でその獅子戦吼の速度は増加しているので、その獅子戦吼はダメージをもらってしまったフヨウとカロルを回復するエステルの詠唱時間を確保した。



『【命を照らす光よ、ここに来たれ。ハートレスサークル】!』

フヨウとカロルを中心に、癒しの魔方陣が広がる。ふたりの傷はみるみる消えていき、何もなかったかのように傷を癒した

『ありがとう、エステル!』
『助かったぁ……』

カロルとフヨウは体勢を立て直し、また武器を構え直す。

『あの巨大な鎌が厄介ね!』
『凍らせれるか、やってみるよ、リタ姐!』

リタの言葉にリルハは氷の造形魔法の構えをとる。

『よーし、いくよ!アイスメイク、ローザカーネ!!』

瞬間、リルハの手の中にうつくしい氷の鞭が現れた。

氷の造形魔法。これでますますライの考えは繋がって一つの答えを導き出すが今はそんなことはどうでもいい。

どうするにしてもとにかくはこの状況を打破しなければ話にならないのだから

リルハのその鞭はどんどんと長さと靱やかさを帯び

『えぇーーーいっ!!!』

気合いと共に、氷の鞭で冷気の渦を無数に作り出し、エルリィの作ってくれた隙を逃さず、リルハは巨大マンティス目掛けてそれを放つ。

すると見事に巨大マンティスは凍りつき、その巨躯が仇となり、動きを封じ込められてしまった。

体格が大きいので、動きが鈍いのが幸運だったのか、どうやら魔法に対する耐性は極端に弱いようである

『やるじゃねぇかリルハちゃん!』
『すごいです!』
『みんな!今だよ!!』

ライとエステルの称賛を素直に受けたリルハは嬉しそうだ。

『いきます!邪と交わりし、悪しき魂に清き聖断を!セイクリッドブレイム!!』

『派手にぶっ飛ばすわよ!!……万象為しえる根元たる力、太古に刻まれしその記憶、我が呼び声に応え、今ここに蘇れ!エンシェントカタストロフィ!!』

リタとエステルの最大の奥義が動きを封じられた巨大マンティスに大ダメージを与えていく

今のでその奥義を受けた敵は、ほぼ耐えきれずに消滅、巨大マンティスもダウンを奪われ、しばらくは動けないだろう



『これでおしまいにするよ!はぁあぁあ!!……光竜滅牙槍!!』


フレンの放った光の竜が敵を捉える。しばらく拮抗したのち、巨大マンティスはその一撃に貫かれ、氷の渦ごと光の龍に食い殺されたのち、派手に氷が割れる音が終わる頃にはその巨躯は粉々に凍りついたまま砕け、その場は静けさを取り戻した。

『俺ら出番なかったね』
『まぁ今回はフレンに譲っておこうよライ』

フレンは剣を血振りし、鞘に納刀するとリョウを振り返った

『……なに、かな。フレンさん』
『…少し話があるんだけど、いいかい?』

リョウはその一言に一瞬で凍り付いた

ライはその光景を黙って見守るしかなかった

『リョウ!あれほど、エステリーゼ様にばれないようにといったはずだ!』

『あんな目でお願いされて、エステルが僕らの話ちゃんと納得して引いたことある!?それにリタのとこ行くと言ったらついてきてリタのところでバレただろうし!』

『━━━━そうだとしてもちゃんと連絡くらいはしておいてくれ。』

『はい。すみませんでした…』

フレンのド正論で窘められたリョウは素直に謝罪したのだった

『そうだライ、君にも話があるんだ』

フレンはそんなフヨウ、基い、リョウに素直でよろしい、と嘆息したあと今度はライに視線を移す。

『俺ご指名?……何かあったか?』
『実は妙な噂を耳にしたんだ』

ライは愛銃を元に仕舞いつつフレンに視線を向けた

『ゾフェル氷刃海で人影を見たという噂があって』
『なるほど。でもあそこ、エアルクレーネと魔物しかいない場所だよな?』
『うん。確かにあそこは普段は人が通る所ではないからね。兵に調査に向かわせたところどうやら間違いはないようで………』

フレンはリルハの方を見やる
視線に気づいたリルハは不思議そうに、フレンを見上げた

『君と同じ紋章を身につけた、上半身裸の男性がいたそうだ』
『!?そ、その話詳しく教えてください!!』

リルハはフレンに駆け寄る。

『やはり君となにか関係が……名前を教えてもらってもいいかな?』

フレンはリルハに目線を合わせて優しく微笑んだ

『…リルハ!リルハ・フルバスターです!』

その話を聞いて、ライはある可能性を頭に過らせたのだった。
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