第6章
魔物とエアルの騒動があった翌日、ライたちは旅支度を整えていた
『着替えに、財布に、武器よし、道具よし。完璧だな』
『そうね。完璧だわ』
『完璧だね!』
上から順に、ライ、ジュディス、リルハである
あの騒動ののち、3人は共に夕食をして、ひとしきり話したあと眠りについた。
逢ったばかりのはずの3人だが、不思議と話が盛り上がり、翌日旅立つことをしばらく忘れてしまっていたのだ
眠りについたのは深夜の1時を回っていたと記憶している
『そろそろいい時間だし出掛けるか』
ライがそういうと、ジュディスとリルハはしっかりと頷いた
船に乗りダングレストに向かうことになる
そこにいるフレンたちから状況を聞く必要があるからである
恐らくリョウたちもこちらに向かっているであろう。
何となくだがそんな気がしたのである
『ライお兄ちゃんどうしたの?』
リルハがライを不思議そうに見上げる。するとライはリルハの頭をひと撫でしてにこりと微笑んだ
『なんでもないよ。さぁ出発しよう』
『……?』
リルハは微笑みながら首をかしげたのだった
港は相変わらず賑やかで昨日の騒ぎが嘘のようである
ライは人数分のチケットを買い、それぞれに渡していく
『ありがとうライ』
『わぁーい!船だぁー♪』
リルハはよほど嬉しいのか、ぴょんぴょん跳ね回っていた
それを微笑ましく見守りながら、ライたちは定期船に乗り込んだ
客室はリルハとジュディスが同じで、ライのひとり部屋という至極当然の部屋割りである。
と、いうものの、ライは基本ひとりの方が都合がいいのである
何をするにしても、ライは一人でこなしてきたのでそれに慣れてしまった
恐らくこの事を知っているのは今のところ、かつて旅した仲間ぐらいであろう
そのことについて、親友からこっぴどく叱られたことははっきり覚えている
お前は何でも抱え込みすぎだと
そんなことないと、直ぐ様反論したが長く一緒にいると相手がどう思っているかなんてわかるようになると
その親友とは、しばらく逢っていないが元気にしているだろうかと時々思い出すのである
船内は綺麗に整備されており、人もちらほら見掛ける
全員いく場所は同じだろうが、やはりライは人込みが苦手なのか、軽くため息をついた
それにしても今回のエアルの件に関しても謎が多すぎる。
ライは懐からシャーレに入ったヘルメス式の魔導器を見る
このシャーレは特別製であり、全てのエネルギーを封じる特殊なガラスで出来ている。
とある魔法使いから貰ったものだ
ライはぼんやりそれを一瞥したのち、再びジャケットの裏についている内ポケットに仕舞う
その時だった。何かにぶつかってしまった
『って……』
『!すまない、ついボーッとしてて……』
やってしまった。
年は10代前半くらいだろうか、美しい黒髪を揺らした少女が目の前で尻餅をついていた
『あたしも考えごとしてて……すみませんでした』
黒髪の美しい少女は体を軽くはたきながら立つと、ライに詫びた。
『……大丈夫か?どこか怪我とかは……』
「いや……大丈夫です』
『ならいいんだが……」
『ほんとにすみませんでした。じゃあ人待たせてるんで、これで……』
彼女は頭を下げると、もと来た道を小走りに引き返した。走りながら、顔が赤かかった気がするが気の所為なのか
ふと彼女がいたところにライが視線を戻すと、そこには美しい色をした結晶が転がっていた
彼女の持ち物だろうか?そうなるとぶつかった拍子に落としたことになる
ライはそれを返そうと視線を巡らすが当たり前のようにそこには気配すらなかった
広い船内だ。行き先は同じだろうから、トリムについたら探してみればいいだろうと思い、ライは大切にその結晶をしまった
その頃女性陣の客室では、リルハがふかふかの布団に腰を下ろしていた
『お布団ふかふかだ♪ね、ジュディスお姉ちゃん!』
『ふふ。そうね。すごくゆっくり眠れそうだわ』
クッションの効いたふかふかの布団に腰を沈めたジュディスは気になることを聞いてみた
『ねぇリルハ。貴女の家族ってどんな方?』
『パパとママ?んーとね、すごく強くて、優しいよ。仲間からもすごく信頼されているの』
リルハは枕を抱き抱え話す
『あとね、ナツさんに、ルーシィお姉ちゃんに、エルザ姐に、レビィに、ガジル兄ちゃんとか』
『ギルドのみんなが家族なのね。素敵だわ』
『うん。ここに来て何日かたつけど、みんな元気にしてるかな…………』
逢いたいな、と、小さく漏らしたリルハの頭をジュディスは優しく撫でる
するとリルハは少し笑み『大丈夫だよ』と苦笑した
『ねぇリルハ、甲板に出てみましょう?眺めが綺麗なのよ』
『!本当!?いきたい!』
リルハはパッと顔を輝かせる
『ならいきましょうか。今日は天気がすごくいいから』
『うん!』
そうして二人は仲良く客室を出ていった
船が出発して数時間後、時刻は昼過ぎにかかろうとしていた頃だった
ライは甲板に出て潮風に揺れる自身の前髪を鬱陶しそうに払いのけた
『伸びてきたな………そろそろ切り時か?』
『いっそ坊主にしちまえよ。風通しよくなるぜ』
『だが断る』
『冗談だよ』
そんな他愛ない会話をしていた時である
『あ!ライおにいちゃぁーん♪』
元気一杯の声が響いた方に視線を移すとそこにいたのは予想通りジュディスとリルハだった
『よ、二人とも!ご機嫌いかが?』
ライはにこりと微笑んだのち、軽く手を振ってみせる
『うん!すっごく気持ちいい!』
『ふふ。リルハってば、さっきからはしゃぎっぱなしなのよね』
ジュディスがそう言うと、リルハは顔を真っ赤に染め
『は、はしゃいでないよっ』
と、慌てて否定したのだった
『ははは………』
ライはそんなリルハを見て、苦笑した
そして、ライを見て思い出したかのようにジュディスが口を開く
『さっき廊下で知り合いに逢ったわ』
『そうなのか?』
ジュディスはにこりと微笑んだ
『?』
ライは訝しげに眉を潜めた。が、それは一瞬だった
『まぁいいけどさ…』
ライは再び海に視線を向けた
『そういえば、リルハが貴方に相談があるそうよ?』
『俺にか?』
『あ、うん。実はねライお兄ちゃん』
リルハは腰にあったキーケースから金色と銀色の鍵を取り出した
リルハがいつも大切そうに肌見放さず身に付けている美しい装飾の施された鍵である
『鍵、だよな。それがどうかしたのか?』
『これは星霊と呼ばれている存在を呼び出すために必要な鍵なの。"星,,の"霊,,と書いて星霊と読むの』
よく見れば鍵にはライたちも見知った紋様が入っていた
十二星座の紋様である
『要するに、異世界の存在を呼び出すために必要なアイテム……ってこったな。それがどうかしたのか?』
リルハは悲しそうに眉を寄せながらぽつりぽつりと話し始めた
リルハが持っている鍵は、異世界からの存在を呼び出す鍵らしい。
師匠である魔導師から受け継いだそうだ
リルハがこの世界に来てから、その鍵、星霊の鍵と呼ばれているそれは星霊界という亜空間から、星座に纏わる星霊たちを呼び出し、共に戦うことが出来る鍵と
『…つまり、この世界に来てから何度かその星霊たちを呼び出そうとしたけど反応どころか、門が開かなくなってしまったと』
リルハは悲しそうにうなずいた
『うん、何かこの世界との繋がりがないのかどうなのかわかんないけど、全く星霊のみんなを呼び出せなくなってしまって。』
それで色々と異世界のことに詳しい俺に聞きに来たらしい
それで、色々と世界を渡り歩いてる俺に白羽の矢が立ったということである
『そうだなぁ。この世界の法則にその星霊たちを呼び出せるような思念術なり術式なりな何とかすれば、何とかなりそうだけど』
『え、本当に!?』
リルハはパッと顔を輝かせた
『そそ。と、なると一回俺の世界に戻ることが必要になりそうだな。』
『ライお兄ちゃんの世界?』
元々俺は原界出身の人間だ。
その原界には2000年前に白化したもう一つの世界、結晶界という世界がある
思念術の技術が盛んであった繁栄の地
今ではそれも見る影はないが、その結晶界はそういった技術が盛んな惑星だった。
以前訪れたときに、街の機能は復活させていたのでまだ動く、と思う
『俺の世界にそういった技術が盛んだった惑星があってな。そこにいけば何とかなりそうだぜ』
『す、すごい!ありがとうライお兄ちゃん!』
出逢ってから一番の笑顔で、リルハちゃんは微笑んだ
『あっ、でも、星霊魔法がしばらく使えないなら、水魔法と氷の造形魔法で頑張る必要があるね!』
『ははは。まぁ無理はするなよ?』
そう和やかに話していると、急に辺りの気配が瞬時に凍りついた。ジュディスがこの穏やかな時間に水を刺されたのが余程気に入らなかったのか、眉を顰めた
来たか。
実は船に乗り込んだ時から、この嫌な視線は俺もジュディスも感じてはいた。リルハちゃんが不安がらないように内緒にしていた
高まる魔力は俺の後ろから、俺の横にはリルハちゃん。一瞬炎が爆ぜる音がして巨大な爆炎が3連発。リルハちゃんの両肩を咄嗟に掴み、彼女に爆炎が当たらないように俺の方に引き寄せる
『ふにゅあぁああ!!?』
リルハちゃんは赤面しながら何とも可愛らしい声を上げた。
炎の思念術、バーンストライクである。
そのバーンストライクで甲板は無惨にも焼けていた。早く消化しなければとぼんやりとそんなことを考えていた
『……今のをかわすとは……さすがジルファーン卿。』
その一言を皮切りに、船のマストから複数の気配がジュディス目掛けて急接近してきた。
全体重をかけたその重い一撃を、ジュディスは愛槍を抜き放ち、すぐ様に受け止め、臨戦態勢に移行した
『…不意打ちなんて穏やかじゃないわね。少しびっくりしちゃったわ』
よく言うよ。敵の攻撃を軽々と受けていたのを俺は見たからな
『どうして私たちを………』
リルハはいきなりのことに戸惑いつつも、すぐに臨戦態勢をとった
するとライは一瞬リルハを一瞥したのち、すぐに前に向き直る
『さぁ?恨まれるようなことはやってないはずなんだがな。』
心当たりがないわけではないが、少なくとも、目の前の男たちにはライも全く覚えはなかったのだから
『ライフェン=ジルファーンに、ジュディス、リルハ=フルバスターを確認。これより殲滅行動に移る』
おいおい殲滅たぁ穏やかじゃねぇな
ライはそう思ったが、その言葉は口をついて出ることはなかった
『…………えっ!?殲滅!?』
リルハはそう言うが男たちは話そうとはしないようである
『答える必要はない、とでも言いたげね。なら………』
『ああ。こっちも武力行使しかねぇな』
『えぇえぇっ!!?』
ライとジュディスのやりとりに、あまり戦いを好まないのか、リルハは絶叫したのだった
『シャアァアァッ!』
奇怪な叫び声とともに、男たちは3人に飛び掛かってくる
『散れ!!』
ライの指示と同時に、リルハとジュディス、ライはバックステップで攻撃をかわす
男たちが放った武器は、船の甲板にめり込み、コンクリートにヒビが入った
リルハは一瞬だけびっくりしたが、今は驚いてる暇がないとわかったのか魔力の充填にかかる
『次はこっちからいくぜ!………落ちろ!!』
ライが放った銃での牽制は影に隠れていた短剣の男の肩と足を抉った
その隙を逃さず、ジュディスは前に駆け出し、鋭い突きを放つ
それは剣でいなされたが、予想通りだったらしく不敵な笑みを浮かべ
『今よ!リルハ!』
『…うん!水流斬破(ウォータースライサー)!!』
そこにリルハの水の刃が炸裂し、男たちを吹き飛ばしたのだった
『ぐあっ!』
蛙が潰れるような声音とともに、男たちは綺麗に甲板に叩きつけられ、その場は落ち着きを取り戻した
幸い、人がいなかったのは運が良かったとライは思う
『あっ!ご、ごめんなさい………』
思わず謝ってしまったリルハに苦笑しながら、ライは銃を戻し
ジュディスは男たちを手近にあった縄で縛り上げる
『ねぇライ。このおじさまたちどうするの?』
『そうだな。多分、警備の騎士がいるはずだから仕事熱心な方々に引き渡そうか』
ライは男たちの懐から全ての無線機を取りだし、電流を流し込みショートさせた
仲間を呼ばれたら面倒なので、それを避けるための処置である
リルハは男たちの服や所持品に描かれた紋章を見ている
『どうした?リルハちゃん』
『あ、うん。このおじさんたちがつけてる紋章、多分ギルドの紋章なんじゃないかなって』
リルハがいた世界では、ギルドに所属している者は身体や所持品の何処かにギルドの紋章を入れているらしい。
『でも、この紋章は見たことはないなって思ったの』
『剣を模した紋章、か…………』
ライは口許に自身の手を当てて考えを巡らせる。もしかしたら例の組織が関係しているのかもしれない
『調べてみる必要がありそうね』
ジュディスの言葉にライは相槌を打った
暫しの沈黙の後、甲板と船内に続く境目のドアが吹き飛ばされた
3人は新手かと思い、身構えるがその不安は次に聞こえた声に掻き消された
『ちょっと!やりすぎじゃない!?』
茶の髪を揺らして、少々機嫌が悪そうに、少女は隣にいた女性の頭を小突いた
『痛っ!?だって、もしかしたら彼らがいるんじゃないかと思って………』
短髪で眼鏡をかけた女性、端から見ればどう見ても男にしか見えないのだがその認識は間違っていることを俺は知っていた。
その茶の髪の少女に拳骨を食らった箇所をさすりながら言う
『二人とも、落ち着いてください。後で弁償しますからすみません!』
唖然としている警備兵に頭を下げる桃色の髪の少女を、警備兵が認識したのち、『エステリーゼ様!!?』と慌てていた。
当たり前である。彼女はこの世界の帝都ザーフィアスの副帝のエステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン
親しいものからはエステルと呼ばれている国のお偉いさんなのだ
『あーあ。派手にやっちゃったんだな………手伝いますよ。』
長い黒髪を揺らして、エステルに続いて警備兵に頭を下げる姿がもう2つあり、一瞬、下町の有名人の片割れであるユーリ・ローウェルと間違ったが明らかに声が女性だったのでその考えはあっさり却下されたが、もう片方の銀髪の少女は数日前に顔を合わせたばかりの娘である。
ライはあまりにも突然すぎる再会に、開いた口がふさがらないらしく、目を点にしていた。
ライはジュディスに視線を向ける。
すると当のジュディスはにこにこと笑みを浮かべるだけで、何も言うことはなかった
『ライ!ジュディス!無事だった!?』
銀髪の女性が、顔を上げてパッとその双貌を輝かせる。
長い黒髪の少女の方はライを見て、少々驚いたような表情を見せたが今のライが気付くはずもなかったが
『エルリィもいるのか。うん。エミリアさんとガウスさんから、見かけたらそのときはよろしく、って頼まれてたからまぁいいけどな。ぶっちゃけエルリィいるだけで前衛も援護もギルドに対するアプローチもすげぇ助かるし。有り難い同行者だよ。ガウスさんとエミリアさんには感謝だな。』
ギルドにアプローチをかける場合、五大ギルドの重鎮の両親の娘であるエルリィがいることでアドバンテージは割と高いのである。それだけで大助かりなのだ。
それを聞いたエルリィは
『お父さんからダングレストに来るならトリムは通り道だから、カウフマンさんに納品する商品をトリムの倉庫に先に届けておいたから、カウフマンさんに納品しておいてくれって言われちゃってさ。
とはいえ、荷物の件はついでなんだけどね。
私が来たのはフレンからの頼みで、リョウの面倒をみてやってくれって手紙にあったからだよ』
『━━━なるほどエルリィについては合点が行った。ユーリとフレンが外してる以上、リョウたちのストッパーはエルリィくらいだもんな?俺が言いたいのはリョウさんの方な?てめぇがいるってことはまたフレンに厄介ごと押し付けられた体だろ…………』
『なはは………バレた?』
そんなところだと思った。何やらリタが『あたしとこいつ(リョウ)を一緒にするなぁぁぁぁぁ』とか叫んでいたが、リタは珍しくロリセに抑えられており、それは完全にスルーして、成り行きを見守っているエステル、ロリセ、リルハ、ジュディスへライは視線を移し
『エステル、割と久しぶりだな。しばらく見ないうちに大所帯になったな。』と、声をかければ『お陰で久しぶりに楽しいです♪』と、微笑んでいた。
『リルハちゃんも突然騒がしくして悪いな。さっきは助かったよ。ありがとう』と、リルハへとお礼を言えば『そんなことないよ!役に立てたみたいでよかった!』そうニコリと青い髪を揺らして満面の笑みを浮かべた。
『……とりあえず船室戻るか』
『着替えに、財布に、武器よし、道具よし。完璧だな』
『そうね。完璧だわ』
『完璧だね!』
上から順に、ライ、ジュディス、リルハである
あの騒動ののち、3人は共に夕食をして、ひとしきり話したあと眠りについた。
逢ったばかりのはずの3人だが、不思議と話が盛り上がり、翌日旅立つことをしばらく忘れてしまっていたのだ
眠りについたのは深夜の1時を回っていたと記憶している
『そろそろいい時間だし出掛けるか』
ライがそういうと、ジュディスとリルハはしっかりと頷いた
船に乗りダングレストに向かうことになる
そこにいるフレンたちから状況を聞く必要があるからである
恐らくリョウたちもこちらに向かっているであろう。
何となくだがそんな気がしたのである
『ライお兄ちゃんどうしたの?』
リルハがライを不思議そうに見上げる。するとライはリルハの頭をひと撫でしてにこりと微笑んだ
『なんでもないよ。さぁ出発しよう』
『……?』
リルハは微笑みながら首をかしげたのだった
港は相変わらず賑やかで昨日の騒ぎが嘘のようである
ライは人数分のチケットを買い、それぞれに渡していく
『ありがとうライ』
『わぁーい!船だぁー♪』
リルハはよほど嬉しいのか、ぴょんぴょん跳ね回っていた
それを微笑ましく見守りながら、ライたちは定期船に乗り込んだ
客室はリルハとジュディスが同じで、ライのひとり部屋という至極当然の部屋割りである。
と、いうものの、ライは基本ひとりの方が都合がいいのである
何をするにしても、ライは一人でこなしてきたのでそれに慣れてしまった
恐らくこの事を知っているのは今のところ、かつて旅した仲間ぐらいであろう
そのことについて、親友からこっぴどく叱られたことははっきり覚えている
お前は何でも抱え込みすぎだと
そんなことないと、直ぐ様反論したが長く一緒にいると相手がどう思っているかなんてわかるようになると
その親友とは、しばらく逢っていないが元気にしているだろうかと時々思い出すのである
船内は綺麗に整備されており、人もちらほら見掛ける
全員いく場所は同じだろうが、やはりライは人込みが苦手なのか、軽くため息をついた
それにしても今回のエアルの件に関しても謎が多すぎる。
ライは懐からシャーレに入ったヘルメス式の魔導器を見る
このシャーレは特別製であり、全てのエネルギーを封じる特殊なガラスで出来ている。
とある魔法使いから貰ったものだ
ライはぼんやりそれを一瞥したのち、再びジャケットの裏についている内ポケットに仕舞う
その時だった。何かにぶつかってしまった
『って……』
『!すまない、ついボーッとしてて……』
やってしまった。
年は10代前半くらいだろうか、美しい黒髪を揺らした少女が目の前で尻餅をついていた
『あたしも考えごとしてて……すみませんでした』
黒髪の美しい少女は体を軽くはたきながら立つと、ライに詫びた。
『……大丈夫か?どこか怪我とかは……』
「いや……大丈夫です』
『ならいいんだが……」
『ほんとにすみませんでした。じゃあ人待たせてるんで、これで……』
彼女は頭を下げると、もと来た道を小走りに引き返した。走りながら、顔が赤かかった気がするが気の所為なのか
ふと彼女がいたところにライが視線を戻すと、そこには美しい色をした結晶が転がっていた
彼女の持ち物だろうか?そうなるとぶつかった拍子に落としたことになる
ライはそれを返そうと視線を巡らすが当たり前のようにそこには気配すらなかった
広い船内だ。行き先は同じだろうから、トリムについたら探してみればいいだろうと思い、ライは大切にその結晶をしまった
その頃女性陣の客室では、リルハがふかふかの布団に腰を下ろしていた
『お布団ふかふかだ♪ね、ジュディスお姉ちゃん!』
『ふふ。そうね。すごくゆっくり眠れそうだわ』
クッションの効いたふかふかの布団に腰を沈めたジュディスは気になることを聞いてみた
『ねぇリルハ。貴女の家族ってどんな方?』
『パパとママ?んーとね、すごく強くて、優しいよ。仲間からもすごく信頼されているの』
リルハは枕を抱き抱え話す
『あとね、ナツさんに、ルーシィお姉ちゃんに、エルザ姐に、レビィに、ガジル兄ちゃんとか』
『ギルドのみんなが家族なのね。素敵だわ』
『うん。ここに来て何日かたつけど、みんな元気にしてるかな…………』
逢いたいな、と、小さく漏らしたリルハの頭をジュディスは優しく撫でる
するとリルハは少し笑み『大丈夫だよ』と苦笑した
『ねぇリルハ、甲板に出てみましょう?眺めが綺麗なのよ』
『!本当!?いきたい!』
リルハはパッと顔を輝かせる
『ならいきましょうか。今日は天気がすごくいいから』
『うん!』
そうして二人は仲良く客室を出ていった
船が出発して数時間後、時刻は昼過ぎにかかろうとしていた頃だった
ライは甲板に出て潮風に揺れる自身の前髪を鬱陶しそうに払いのけた
『伸びてきたな………そろそろ切り時か?』
『いっそ坊主にしちまえよ。風通しよくなるぜ』
『だが断る』
『冗談だよ』
そんな他愛ない会話をしていた時である
『あ!ライおにいちゃぁーん♪』
元気一杯の声が響いた方に視線を移すとそこにいたのは予想通りジュディスとリルハだった
『よ、二人とも!ご機嫌いかが?』
ライはにこりと微笑んだのち、軽く手を振ってみせる
『うん!すっごく気持ちいい!』
『ふふ。リルハってば、さっきからはしゃぎっぱなしなのよね』
ジュディスがそう言うと、リルハは顔を真っ赤に染め
『は、はしゃいでないよっ』
と、慌てて否定したのだった
『ははは………』
ライはそんなリルハを見て、苦笑した
そして、ライを見て思い出したかのようにジュディスが口を開く
『さっき廊下で知り合いに逢ったわ』
『そうなのか?』
ジュディスはにこりと微笑んだ
『?』
ライは訝しげに眉を潜めた。が、それは一瞬だった
『まぁいいけどさ…』
ライは再び海に視線を向けた
『そういえば、リルハが貴方に相談があるそうよ?』
『俺にか?』
『あ、うん。実はねライお兄ちゃん』
リルハは腰にあったキーケースから金色と銀色の鍵を取り出した
リルハがいつも大切そうに肌見放さず身に付けている美しい装飾の施された鍵である
『鍵、だよな。それがどうかしたのか?』
『これは星霊と呼ばれている存在を呼び出すために必要な鍵なの。"星,,の"霊,,と書いて星霊と読むの』
よく見れば鍵にはライたちも見知った紋様が入っていた
十二星座の紋様である
『要するに、異世界の存在を呼び出すために必要なアイテム……ってこったな。それがどうかしたのか?』
リルハは悲しそうに眉を寄せながらぽつりぽつりと話し始めた
リルハが持っている鍵は、異世界からの存在を呼び出す鍵らしい。
師匠である魔導師から受け継いだそうだ
リルハがこの世界に来てから、その鍵、星霊の鍵と呼ばれているそれは星霊界という亜空間から、星座に纏わる星霊たちを呼び出し、共に戦うことが出来る鍵と
『…つまり、この世界に来てから何度かその星霊たちを呼び出そうとしたけど反応どころか、門が開かなくなってしまったと』
リルハは悲しそうにうなずいた
『うん、何かこの世界との繋がりがないのかどうなのかわかんないけど、全く星霊のみんなを呼び出せなくなってしまって。』
それで色々と異世界のことに詳しい俺に聞きに来たらしい
それで、色々と世界を渡り歩いてる俺に白羽の矢が立ったということである
『そうだなぁ。この世界の法則にその星霊たちを呼び出せるような思念術なり術式なりな何とかすれば、何とかなりそうだけど』
『え、本当に!?』
リルハはパッと顔を輝かせた
『そそ。と、なると一回俺の世界に戻ることが必要になりそうだな。』
『ライお兄ちゃんの世界?』
元々俺は原界出身の人間だ。
その原界には2000年前に白化したもう一つの世界、結晶界という世界がある
思念術の技術が盛んであった繁栄の地
今ではそれも見る影はないが、その結晶界はそういった技術が盛んな惑星だった。
以前訪れたときに、街の機能は復活させていたのでまだ動く、と思う
『俺の世界にそういった技術が盛んだった惑星があってな。そこにいけば何とかなりそうだぜ』
『す、すごい!ありがとうライお兄ちゃん!』
出逢ってから一番の笑顔で、リルハちゃんは微笑んだ
『あっ、でも、星霊魔法がしばらく使えないなら、水魔法と氷の造形魔法で頑張る必要があるね!』
『ははは。まぁ無理はするなよ?』
そう和やかに話していると、急に辺りの気配が瞬時に凍りついた。ジュディスがこの穏やかな時間に水を刺されたのが余程気に入らなかったのか、眉を顰めた
来たか。
実は船に乗り込んだ時から、この嫌な視線は俺もジュディスも感じてはいた。リルハちゃんが不安がらないように内緒にしていた
高まる魔力は俺の後ろから、俺の横にはリルハちゃん。一瞬炎が爆ぜる音がして巨大な爆炎が3連発。リルハちゃんの両肩を咄嗟に掴み、彼女に爆炎が当たらないように俺の方に引き寄せる
『ふにゅあぁああ!!?』
リルハちゃんは赤面しながら何とも可愛らしい声を上げた。
炎の思念術、バーンストライクである。
そのバーンストライクで甲板は無惨にも焼けていた。早く消化しなければとぼんやりとそんなことを考えていた
『……今のをかわすとは……さすがジルファーン卿。』
その一言を皮切りに、船のマストから複数の気配がジュディス目掛けて急接近してきた。
全体重をかけたその重い一撃を、ジュディスは愛槍を抜き放ち、すぐ様に受け止め、臨戦態勢に移行した
『…不意打ちなんて穏やかじゃないわね。少しびっくりしちゃったわ』
よく言うよ。敵の攻撃を軽々と受けていたのを俺は見たからな
『どうして私たちを………』
リルハはいきなりのことに戸惑いつつも、すぐに臨戦態勢をとった
するとライは一瞬リルハを一瞥したのち、すぐに前に向き直る
『さぁ?恨まれるようなことはやってないはずなんだがな。』
心当たりがないわけではないが、少なくとも、目の前の男たちにはライも全く覚えはなかったのだから
『ライフェン=ジルファーンに、ジュディス、リルハ=フルバスターを確認。これより殲滅行動に移る』
おいおい殲滅たぁ穏やかじゃねぇな
ライはそう思ったが、その言葉は口をついて出ることはなかった
『…………えっ!?殲滅!?』
リルハはそう言うが男たちは話そうとはしないようである
『答える必要はない、とでも言いたげね。なら………』
『ああ。こっちも武力行使しかねぇな』
『えぇえぇっ!!?』
ライとジュディスのやりとりに、あまり戦いを好まないのか、リルハは絶叫したのだった
『シャアァアァッ!』
奇怪な叫び声とともに、男たちは3人に飛び掛かってくる
『散れ!!』
ライの指示と同時に、リルハとジュディス、ライはバックステップで攻撃をかわす
男たちが放った武器は、船の甲板にめり込み、コンクリートにヒビが入った
リルハは一瞬だけびっくりしたが、今は驚いてる暇がないとわかったのか魔力の充填にかかる
『次はこっちからいくぜ!………落ちろ!!』
ライが放った銃での牽制は影に隠れていた短剣の男の肩と足を抉った
その隙を逃さず、ジュディスは前に駆け出し、鋭い突きを放つ
それは剣でいなされたが、予想通りだったらしく不敵な笑みを浮かべ
『今よ!リルハ!』
『…うん!水流斬破(ウォータースライサー)!!』
そこにリルハの水の刃が炸裂し、男たちを吹き飛ばしたのだった
『ぐあっ!』
蛙が潰れるような声音とともに、男たちは綺麗に甲板に叩きつけられ、その場は落ち着きを取り戻した
幸い、人がいなかったのは運が良かったとライは思う
『あっ!ご、ごめんなさい………』
思わず謝ってしまったリルハに苦笑しながら、ライは銃を戻し
ジュディスは男たちを手近にあった縄で縛り上げる
『ねぇライ。このおじさまたちどうするの?』
『そうだな。多分、警備の騎士がいるはずだから仕事熱心な方々に引き渡そうか』
ライは男たちの懐から全ての無線機を取りだし、電流を流し込みショートさせた
仲間を呼ばれたら面倒なので、それを避けるための処置である
リルハは男たちの服や所持品に描かれた紋章を見ている
『どうした?リルハちゃん』
『あ、うん。このおじさんたちがつけてる紋章、多分ギルドの紋章なんじゃないかなって』
リルハがいた世界では、ギルドに所属している者は身体や所持品の何処かにギルドの紋章を入れているらしい。
『でも、この紋章は見たことはないなって思ったの』
『剣を模した紋章、か…………』
ライは口許に自身の手を当てて考えを巡らせる。もしかしたら例の組織が関係しているのかもしれない
『調べてみる必要がありそうね』
ジュディスの言葉にライは相槌を打った
暫しの沈黙の後、甲板と船内に続く境目のドアが吹き飛ばされた
3人は新手かと思い、身構えるがその不安は次に聞こえた声に掻き消された
『ちょっと!やりすぎじゃない!?』
茶の髪を揺らして、少々機嫌が悪そうに、少女は隣にいた女性の頭を小突いた
『痛っ!?だって、もしかしたら彼らがいるんじゃないかと思って………』
短髪で眼鏡をかけた女性、端から見ればどう見ても男にしか見えないのだがその認識は間違っていることを俺は知っていた。
その茶の髪の少女に拳骨を食らった箇所をさすりながら言う
『二人とも、落ち着いてください。後で弁償しますからすみません!』
唖然としている警備兵に頭を下げる桃色の髪の少女を、警備兵が認識したのち、『エステリーゼ様!!?』と慌てていた。
当たり前である。彼女はこの世界の帝都ザーフィアスの副帝のエステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン
親しいものからはエステルと呼ばれている国のお偉いさんなのだ
『あーあ。派手にやっちゃったんだな………手伝いますよ。』
長い黒髪を揺らして、エステルに続いて警備兵に頭を下げる姿がもう2つあり、一瞬、下町の有名人の片割れであるユーリ・ローウェルと間違ったが明らかに声が女性だったのでその考えはあっさり却下されたが、もう片方の銀髪の少女は数日前に顔を合わせたばかりの娘である。
ライはあまりにも突然すぎる再会に、開いた口がふさがらないらしく、目を点にしていた。
ライはジュディスに視線を向ける。
すると当のジュディスはにこにこと笑みを浮かべるだけで、何も言うことはなかった
『ライ!ジュディス!無事だった!?』
銀髪の女性が、顔を上げてパッとその双貌を輝かせる。
長い黒髪の少女の方はライを見て、少々驚いたような表情を見せたが今のライが気付くはずもなかったが
『エルリィもいるのか。うん。エミリアさんとガウスさんから、見かけたらそのときはよろしく、って頼まれてたからまぁいいけどな。ぶっちゃけエルリィいるだけで前衛も援護もギルドに対するアプローチもすげぇ助かるし。有り難い同行者だよ。ガウスさんとエミリアさんには感謝だな。』
ギルドにアプローチをかける場合、五大ギルドの重鎮の両親の娘であるエルリィがいることでアドバンテージは割と高いのである。それだけで大助かりなのだ。
それを聞いたエルリィは
『お父さんからダングレストに来るならトリムは通り道だから、カウフマンさんに納品する商品をトリムの倉庫に先に届けておいたから、カウフマンさんに納品しておいてくれって言われちゃってさ。
とはいえ、荷物の件はついでなんだけどね。
私が来たのはフレンからの頼みで、リョウの面倒をみてやってくれって手紙にあったからだよ』
『━━━なるほどエルリィについては合点が行った。ユーリとフレンが外してる以上、リョウたちのストッパーはエルリィくらいだもんな?俺が言いたいのはリョウさんの方な?てめぇがいるってことはまたフレンに厄介ごと押し付けられた体だろ…………』
『なはは………バレた?』
そんなところだと思った。何やらリタが『あたしとこいつ(リョウ)を一緒にするなぁぁぁぁぁ』とか叫んでいたが、リタは珍しくロリセに抑えられており、それは完全にスルーして、成り行きを見守っているエステル、ロリセ、リルハ、ジュディスへライは視線を移し
『エステル、割と久しぶりだな。しばらく見ないうちに大所帯になったな。』と、声をかければ『お陰で久しぶりに楽しいです♪』と、微笑んでいた。
『リルハちゃんも突然騒がしくして悪いな。さっきは助かったよ。ありがとう』と、リルハへとお礼を言えば『そんなことないよ!役に立てたみたいでよかった!』そうニコリと青い髪を揺らして満面の笑みを浮かべた。
『……とりあえず船室戻るか』